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禁書室の殺人は禁術法が適用されるのか否か
黒魔法に関連する研究使用の禁止法案
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紅茶の匂いが漂っている。
労働の中でも、紅茶は飲まないといけない。紅茶は命の水であり、本来ならばスコーンを伴ってないといけない。お茶の時間は、どんな人間にも等しく与えられた権利である。
エイブラムは優雅にカップの水色を目で楽しんでから、それを傾けた。
脂で固めた栗色の髪、黒いスーツを着こなした彼には、貴族の気品が見えた。
ふっと唇をカップから離したとき。
「先生! 現実逃避しないでくださいよ! こちらの案件、ぜーんぜん目を通してないでしょう!?」
「だぁ~……!! わぁーってるよ! コンチクショウが!」
「まあ、下品!」
紅茶の匂いと一緒に、インクの匂いもまた漂っている。
ティーカップの下には、紙。紙。紙紙。紙。部署に寄せられた事件報告書が、エイブラムの執務室にも持ち込まれていた。
魔法執政館。基本的にこの国の魔法に関する事件は全て各地にあるこの館に持ち込まれ、有罪無罪が決まる。そしてそれらを裁くのが魔法執政官の仕事であった。
「いくらなんでも仕事が増え過ぎだろ。だから俺ぁ反対したんだよ。禁術法なんてくっだらねえ法案!」
「でもなんで法律ひとつ通っただけで、こんなに急に仕事が増えるんですかぁ。いくらなんでも増え過ぎですよぉ」
「そりゃ決まってんだろ」
エイブラムは助手のレイラが案件ごとに仕分けた紙束に一枚一枚目を通しつつ、俊敏に判子を押していく。
有罪。無罪。無罪。無罪。有罪……。
「人手が、足りないからだよ」
エイブラムはげんなりとした口調で言い放った。
黒魔法に関連する研究使用の禁止法案……通称:禁術法。
簡単に言ってしまうと黒魔法を禁じるというだけの法案であり、魔法の使えない一般人たちは訳がわからないまま、その法案が通過するのを新聞で読んでいた。
しかし現場は違う。
施行制定されてからというもの、魔法使いたちの界隈では混乱を招いていた。
まずどこからどこまでは黒魔法なのか、この定義が曖昧だったのである。魔法執政官の知識量により、黒魔法に制定されてしまう。
解呪師は呪術を使ったということで黒魔法認定されてしまい、禁術法違反で逮捕されたために、解呪を要する案件に関わる解呪師がいなくなってしまったなんてことはざらにある。自分の研究行使している魔法が、ある日いきなり黒魔法にされてしまい、使用どころか研究すらも差し止められてしまったら研究にならない。
そのせいで「やってられん」と思った魔法使いたちが、研究一式を携えていきなり行方をくらませてしまった。そのせいで、余計に現場が混乱していた。
魔法執政官だって魔法使いである。いなくなってしまったら、誰が現場の事件の裁定を行うというのか。
困り果てた魔法使いたちは、現場に魔法使いの家系でない人間たちも招き入れることにした。特に魔法執政官などは、魔法知識さえあれば魔法使いでなくてもかまわないため、なんとか人手を増やそうとしたのである。
だから魔法使い家系であるエイブラムと、一般人出身の執政官見習いのレイラというチームが誕生したのだ。
魔法学院に魔法知識だけで入学し、無事卒業してきたレイラは、ベテラン魔法執政官であるエイブラムと一緒に、日々の事件の裁定を行っている。
こうして紙で次々と裁定を決める判子を押している中。
「失礼します」
扉が叩かれた。
魔法執政官の執務室の扉が叩かれるときは、大概面倒臭い事件のときである。
エイブラムは心底嫌そうな顔をしたが、それにレイラが「先生!」と咎める声を上げる。渋々エイブラムは「入れ」と声をかけると「失礼します!」と扉が開いた。
手錠をかけられ、警備兵に連れてこられたのは、どう見ても魔法の素養のなさそうな一般人であった。亜麻色の髪を夜会巻きにまとめ、ワンピースに前掛けをしている女性。ただ手錠を嵌められてもなお、顔に手を当ててしくしくと泣いているのが目に止まった。
「うちは一般事件は扱ってないけど?」
念のためエイブラムがそう警備兵に尋ねるが、警備兵は答える。
「いえ。今回の事件の供述書を読んでください」
「どれどれ……レイラ。読んでくれ」
「はいっ! 『ベラ・エイプリルさん25歳、イアン・エイプリルさん29歳を殺人容疑で逮捕……禁書を読むように促した罪により、殺人事件の容疑がかかっています』……禁書、ですか?」
「禁書なあ……ご苦労。警備兵さん。しばらく席を外してくれないか?」
「はっ! お願いします!」
警備兵が立ち去っていったのを見計らってから、エイブラムはレイラに促した。
「エイプリルさんにお茶を出してあげなさい」
「えっ?」
「いいから」
エイブラムはベラと向き合うと、できる限り穏やかな声を上げた。
「エイプリルさん。今回は災難でしたね。こちら、供述書によると、禁書が出てきて、それをご主人が読み上げたせいで、禁書の呪いが発動。ご主人は死亡と書いてありますが、この供述に間違いはございませんか?」
「……この件には、間違いはございません」
ベラは未だにしくしくと泣いている。それにおろおろとしながら、レイラはエイブラムの出がらしのお茶っ葉を捨て、新しいお茶っ葉で紅茶をカップに注ぎ入れると、「よろしかったらどうぞ」と彼女に出した。
手錠を嵌められていても、かろうじて両手でカップは掴めるようで、彼女は「ありがとうございます」と言いながら、紅茶をすすった。香り高い上に温かい味がじわじわと身に染み入り、あれだけ悲壮感漂っていた彼女も、落ち着いた様子だった。
「ですが……私は無実です。私は主人に禁書なんて読ませていませんし……そもそもあの本が禁書だなんて知りませんでした……」
「ほう……レイラくん。禁書のなにが駄目なのか、我々に教えてくれないか?」
いきなり話を振られ、レイラは慌ててメガネのシルバーフレームをゴツンと指で押し上げる。
「禁書は国が取り決めして、出版流通を禁止したものを差します! 内容自体は特に問題がないものの、読む人を選ぶものや、開いた途端に呪いが発動するものには、禁書指定がなされます!」
「うん。その通り。それの所持行使は、禁止されているか? されていないか?」
「基本的に、禁術法制定前に出版流通したものについては、禁術法適用外ですが……これらを禁書だと知った上で所持行使した場合については、魔法学院などの学問研究施設以外での所持行使は原則禁止となっています」
「だ、そうですが。エイプリルさん。先程もおっしゃっていましたが、本当に禁書については、ご存じなかったので?」
エイブラムに尋ねられ、ベラは小さく頷いた。
「私は……何度も何度も言いましたが、誰も信じてくれませんでした」
ベラは必死に声を上げる。
「私たちは、夫婦で古書店を営んでおりました。うちに持ち込まれる本の中には、たしかに禁書も入っておりましたが、私たちでは区別がつきませんでした……禁術法制定してからは、禁書の売買は禁止と出回っておりましたので、うちで所持していた禁書は、地元の魔法学院に内容確認の上、寄贈しておりましたから……」
「ふむ。なるほどなるほど。わかりました。裁定は後日お知らせしますから。レイラ、警備兵さんを呼んできなさい」
「は、はい……!」
こうして、ベラは警備兵に連れられて帰っていった。ベラは何度も何度もエイブラムのほうに振り返り「お願いします、本当に無実なんです……!」と言っていたのを、彼らは見送った。
扉が閉まったあと、エイブラムは「レイラ、俺にも茶」と言うので、レイラは「はあい」と紅茶を淹れはじめる。ちなみにこれはベラの出涸らしである。
その出涸らしの紅茶で喉を湿らせているエイブラムを眺めながら、レイラは尋ねた。
「あのう……魔法使いと違って一般人には禁書の区別は難しいです。普通に考えれば、これは考え過ぎの無実で妥当ではないかと思いますが」
「俺も本当ならばそうしたいところなんだがねえ……生命保険の話が出ているから、この辺りは慎重に進めないと前例ができちゃうんだよ」
「生命保険……ですか?」
唐突にそんな話が出てきて、思わずレイラは目を剥いた。
「そっ、エイプリルさんは、ご主人に生命保険をかけていた……それも禁書適用のね。彼女
がもし有罪だった場合は、殺人罪に加えて禁術法違反罪で罪がいきなり重くなるけれど、もし無罪だった場合は彼女にご主人にかけた生命保険が降りる。禁書適用なのは、元々エイプリル夫妻が古書店を営んでいた関係なんだろうけれど、ここを慎重に考えないと、前例ができて模倣犯ができてしまうんだよ」
「ああ……」
古書店に禁書が持ち込まれた関係で、一般人が被害を追うケースはそこそこある。もう少し魔法使いが多かった時代ならば、どの町にも呪い避けの小屋が設けられ、禁書の開示などもそこで行うことで犠牲ができるだけ出ないようにされていたのだが、今はそういう時代でもないのだ。
だからこそ禁術法なんて法案を通したのだろうが、ガバガバ過ぎるのだから、禁書で人を殺しても罪に問えないなんて前例をつくる訳にはいかない。
彼女は十中八九白だろうが、十中十白というところまで確定させなければ、法律の穴を通って保険金殺人事件が横行してしまう。
ただでさえ禁術法が原因で、魔法執政官は難癖を付けては罪をでっち上げてくると、魔法使いたちからすっかりと嫌われてしまっているのだから、これ以上こちらも仕事がやりにくくなっては困るのだ。
エイブラムは壁のハンガーに掛けてあるローブに袖を通した。魔法執政官を表すエバーグリーンは叡智の色が宿っている。
「とりあえずは、聞き込みに行こうか。レイラ、君もさっさとローブを着る」
「あ、はい……!」
レイラも慌てて自身のローブを着た。まだ見習いの彼女は若々しいスプリンググリーンのローブを羽織る。
「でも……魔法執政官って事件が解決してから、外に出るもんじゃないんですか? どうしていつも現場に行くんですかぁ……」
「君だってこの夏まで魔法学院にいただろうが。魔法は知識だけ得るのと、目で見るのだったら大違いなんだよ。特に黒魔法って該当されているものの大半は、勝手に行動したり、勝手に発動する。紙の上だけで有罪無罪を決められると本気で信じているのは、国のお偉方だけだよ。さあ、行くぞ」
「は、はいぃ……!」
こうして、ふたりは現場調査に出かけることとなった。
目的はエイプリル夫妻の住まう町だ。
労働の中でも、紅茶は飲まないといけない。紅茶は命の水であり、本来ならばスコーンを伴ってないといけない。お茶の時間は、どんな人間にも等しく与えられた権利である。
エイブラムは優雅にカップの水色を目で楽しんでから、それを傾けた。
脂で固めた栗色の髪、黒いスーツを着こなした彼には、貴族の気品が見えた。
ふっと唇をカップから離したとき。
「先生! 現実逃避しないでくださいよ! こちらの案件、ぜーんぜん目を通してないでしょう!?」
「だぁ~……!! わぁーってるよ! コンチクショウが!」
「まあ、下品!」
紅茶の匂いと一緒に、インクの匂いもまた漂っている。
ティーカップの下には、紙。紙。紙紙。紙。部署に寄せられた事件報告書が、エイブラムの執務室にも持ち込まれていた。
魔法執政館。基本的にこの国の魔法に関する事件は全て各地にあるこの館に持ち込まれ、有罪無罪が決まる。そしてそれらを裁くのが魔法執政官の仕事であった。
「いくらなんでも仕事が増え過ぎだろ。だから俺ぁ反対したんだよ。禁術法なんてくっだらねえ法案!」
「でもなんで法律ひとつ通っただけで、こんなに急に仕事が増えるんですかぁ。いくらなんでも増え過ぎですよぉ」
「そりゃ決まってんだろ」
エイブラムは助手のレイラが案件ごとに仕分けた紙束に一枚一枚目を通しつつ、俊敏に判子を押していく。
有罪。無罪。無罪。無罪。有罪……。
「人手が、足りないからだよ」
エイブラムはげんなりとした口調で言い放った。
黒魔法に関連する研究使用の禁止法案……通称:禁術法。
簡単に言ってしまうと黒魔法を禁じるというだけの法案であり、魔法の使えない一般人たちは訳がわからないまま、その法案が通過するのを新聞で読んでいた。
しかし現場は違う。
施行制定されてからというもの、魔法使いたちの界隈では混乱を招いていた。
まずどこからどこまでは黒魔法なのか、この定義が曖昧だったのである。魔法執政官の知識量により、黒魔法に制定されてしまう。
解呪師は呪術を使ったということで黒魔法認定されてしまい、禁術法違反で逮捕されたために、解呪を要する案件に関わる解呪師がいなくなってしまったなんてことはざらにある。自分の研究行使している魔法が、ある日いきなり黒魔法にされてしまい、使用どころか研究すらも差し止められてしまったら研究にならない。
そのせいで「やってられん」と思った魔法使いたちが、研究一式を携えていきなり行方をくらませてしまった。そのせいで、余計に現場が混乱していた。
魔法執政官だって魔法使いである。いなくなってしまったら、誰が現場の事件の裁定を行うというのか。
困り果てた魔法使いたちは、現場に魔法使いの家系でない人間たちも招き入れることにした。特に魔法執政官などは、魔法知識さえあれば魔法使いでなくてもかまわないため、なんとか人手を増やそうとしたのである。
だから魔法使い家系であるエイブラムと、一般人出身の執政官見習いのレイラというチームが誕生したのだ。
魔法学院に魔法知識だけで入学し、無事卒業してきたレイラは、ベテラン魔法執政官であるエイブラムと一緒に、日々の事件の裁定を行っている。
こうして紙で次々と裁定を決める判子を押している中。
「失礼します」
扉が叩かれた。
魔法執政官の執務室の扉が叩かれるときは、大概面倒臭い事件のときである。
エイブラムは心底嫌そうな顔をしたが、それにレイラが「先生!」と咎める声を上げる。渋々エイブラムは「入れ」と声をかけると「失礼します!」と扉が開いた。
手錠をかけられ、警備兵に連れてこられたのは、どう見ても魔法の素養のなさそうな一般人であった。亜麻色の髪を夜会巻きにまとめ、ワンピースに前掛けをしている女性。ただ手錠を嵌められてもなお、顔に手を当ててしくしくと泣いているのが目に止まった。
「うちは一般事件は扱ってないけど?」
念のためエイブラムがそう警備兵に尋ねるが、警備兵は答える。
「いえ。今回の事件の供述書を読んでください」
「どれどれ……レイラ。読んでくれ」
「はいっ! 『ベラ・エイプリルさん25歳、イアン・エイプリルさん29歳を殺人容疑で逮捕……禁書を読むように促した罪により、殺人事件の容疑がかかっています』……禁書、ですか?」
「禁書なあ……ご苦労。警備兵さん。しばらく席を外してくれないか?」
「はっ! お願いします!」
警備兵が立ち去っていったのを見計らってから、エイブラムはレイラに促した。
「エイプリルさんにお茶を出してあげなさい」
「えっ?」
「いいから」
エイブラムはベラと向き合うと、できる限り穏やかな声を上げた。
「エイプリルさん。今回は災難でしたね。こちら、供述書によると、禁書が出てきて、それをご主人が読み上げたせいで、禁書の呪いが発動。ご主人は死亡と書いてありますが、この供述に間違いはございませんか?」
「……この件には、間違いはございません」
ベラは未だにしくしくと泣いている。それにおろおろとしながら、レイラはエイブラムの出がらしのお茶っ葉を捨て、新しいお茶っ葉で紅茶をカップに注ぎ入れると、「よろしかったらどうぞ」と彼女に出した。
手錠を嵌められていても、かろうじて両手でカップは掴めるようで、彼女は「ありがとうございます」と言いながら、紅茶をすすった。香り高い上に温かい味がじわじわと身に染み入り、あれだけ悲壮感漂っていた彼女も、落ち着いた様子だった。
「ですが……私は無実です。私は主人に禁書なんて読ませていませんし……そもそもあの本が禁書だなんて知りませんでした……」
「ほう……レイラくん。禁書のなにが駄目なのか、我々に教えてくれないか?」
いきなり話を振られ、レイラは慌ててメガネのシルバーフレームをゴツンと指で押し上げる。
「禁書は国が取り決めして、出版流通を禁止したものを差します! 内容自体は特に問題がないものの、読む人を選ぶものや、開いた途端に呪いが発動するものには、禁書指定がなされます!」
「うん。その通り。それの所持行使は、禁止されているか? されていないか?」
「基本的に、禁術法制定前に出版流通したものについては、禁術法適用外ですが……これらを禁書だと知った上で所持行使した場合については、魔法学院などの学問研究施設以外での所持行使は原則禁止となっています」
「だ、そうですが。エイプリルさん。先程もおっしゃっていましたが、本当に禁書については、ご存じなかったので?」
エイブラムに尋ねられ、ベラは小さく頷いた。
「私は……何度も何度も言いましたが、誰も信じてくれませんでした」
ベラは必死に声を上げる。
「私たちは、夫婦で古書店を営んでおりました。うちに持ち込まれる本の中には、たしかに禁書も入っておりましたが、私たちでは区別がつきませんでした……禁術法制定してからは、禁書の売買は禁止と出回っておりましたので、うちで所持していた禁書は、地元の魔法学院に内容確認の上、寄贈しておりましたから……」
「ふむ。なるほどなるほど。わかりました。裁定は後日お知らせしますから。レイラ、警備兵さんを呼んできなさい」
「は、はい……!」
こうして、ベラは警備兵に連れられて帰っていった。ベラは何度も何度もエイブラムのほうに振り返り「お願いします、本当に無実なんです……!」と言っていたのを、彼らは見送った。
扉が閉まったあと、エイブラムは「レイラ、俺にも茶」と言うので、レイラは「はあい」と紅茶を淹れはじめる。ちなみにこれはベラの出涸らしである。
その出涸らしの紅茶で喉を湿らせているエイブラムを眺めながら、レイラは尋ねた。
「あのう……魔法使いと違って一般人には禁書の区別は難しいです。普通に考えれば、これは考え過ぎの無実で妥当ではないかと思いますが」
「俺も本当ならばそうしたいところなんだがねえ……生命保険の話が出ているから、この辺りは慎重に進めないと前例ができちゃうんだよ」
「生命保険……ですか?」
唐突にそんな話が出てきて、思わずレイラは目を剥いた。
「そっ、エイプリルさんは、ご主人に生命保険をかけていた……それも禁書適用のね。彼女
がもし有罪だった場合は、殺人罪に加えて禁術法違反罪で罪がいきなり重くなるけれど、もし無罪だった場合は彼女にご主人にかけた生命保険が降りる。禁書適用なのは、元々エイプリル夫妻が古書店を営んでいた関係なんだろうけれど、ここを慎重に考えないと、前例ができて模倣犯ができてしまうんだよ」
「ああ……」
古書店に禁書が持ち込まれた関係で、一般人が被害を追うケースはそこそこある。もう少し魔法使いが多かった時代ならば、どの町にも呪い避けの小屋が設けられ、禁書の開示などもそこで行うことで犠牲ができるだけ出ないようにされていたのだが、今はそういう時代でもないのだ。
だからこそ禁術法なんて法案を通したのだろうが、ガバガバ過ぎるのだから、禁書で人を殺しても罪に問えないなんて前例をつくる訳にはいかない。
彼女は十中八九白だろうが、十中十白というところまで確定させなければ、法律の穴を通って保険金殺人事件が横行してしまう。
ただでさえ禁術法が原因で、魔法執政官は難癖を付けては罪をでっち上げてくると、魔法使いたちからすっかりと嫌われてしまっているのだから、これ以上こちらも仕事がやりにくくなっては困るのだ。
エイブラムは壁のハンガーに掛けてあるローブに袖を通した。魔法執政官を表すエバーグリーンは叡智の色が宿っている。
「とりあえずは、聞き込みに行こうか。レイラ、君もさっさとローブを着る」
「あ、はい……!」
レイラも慌てて自身のローブを着た。まだ見習いの彼女は若々しいスプリンググリーンのローブを羽織る。
「でも……魔法執政官って事件が解決してから、外に出るもんじゃないんですか? どうしていつも現場に行くんですかぁ……」
「君だってこの夏まで魔法学院にいただろうが。魔法は知識だけ得るのと、目で見るのだったら大違いなんだよ。特に黒魔法って該当されているものの大半は、勝手に行動したり、勝手に発動する。紙の上だけで有罪無罪を決められると本気で信じているのは、国のお偉方だけだよ。さあ、行くぞ」
「は、はいぃ……!」
こうして、ふたりは現場調査に出かけることとなった。
目的はエイプリル夫妻の住まう町だ。
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