8 / 25
原点
3
しおりを挟む
水穂だったはずの異形体が、レーザービームを撃ち放とうとした中、真壁は手袋を外して水鉄砲のように構えた。
「ヘルメットしとけ」
「は、はいっ!」
真壁に無愛想に言われ、慌てて長瀬はヘルメットを被る。
水鉄砲の構えで、真壁は水穂に粘液を噴出したら、彼女は気付いたらしく、ひょいと後方に飛んで避けた。
「チッ」
「あら? いい男」
異形体が真壁を目に留めると、うっとりとしたような声を上げる。日頃の水穂の言いそうなことをトレースしているのか、オーパーツに保存されている外宇宙人がそういう人格なのか、長瀬にも判断できなかった。
だがその声を聞いて、真壁はいつもの温度のない声で長瀬に尋ねる。
「おい、あいつ……」
「……水穂さんです。水穂さんが、深度4に……」
「購買員か……深度4は厳しいが……」
「水穂さん、元に戻れるでしょうか」
「わからん。やるだけやるが、無駄だったら線香上げとけ」
もしも長瀬がエージェントでなかったら「この不謹慎!」と軽蔑した声を上げていただろうが、既に長瀬は理不尽なパートナーの脱落に何度も立ち会っている上に、宮女に行って間に合わなかった浸食者たちにも遭遇している。
真壁が来た時点で、まだ助かる確率が少し上昇しただけなのだ。まだなんの解決にもなってはいない。
水穂だった異形体が馴れ馴れしく言う。
「まあ、この星にもったいない男ね。可愛がってあげる」
そう言いながら、再びレーダービームを撃ち放とうとsるうが、それより先に長瀬は手を抑えながら構えた。
抑えながら打ったことで、粘液が霧状に変わる。それと同時にレーダービームが撃たれたが、途端にもわんもわんと光が曲がる。
「あら? ちゃんと撃てないわ?」
「そりゃそうだ。毒霧だろうが、霧は霧だ」
「まあ……頭も切れるの。やっぱり素敵ね、あなたは」
「……石に発情する覚えはねえ」
「失礼しちゃうっ!」
彼女の甲殻で覆われた腕が、真壁を抱き締めようとしたとき。霧状の粘液を浴びた。途端にあれだけ硬質に覆われていたはずの皮膚がジュッと音を立てて蕩ける。
「なっ……これは……っ!」
「これは硫酸だ。俺の体液は全て毒だよ」
独特の異臭を放ちながら、辺りは毒でシューシューと音を立てて溶けていく。
オーパーツ全体に攻撃をする際、もっとも効果的だったのは、オーパーツの物質ごと穿つほどのレーダービームを放つか、硫酸以上の強酸や猛毒を使って溶かすかのいずれかだ。他の検証は未だに進んではいない。
それに水穂だった異形体が、やっと焦り声を上げた。
「あなた……私たちの仲間のはずでしょう? この星の人間に寄生し、乗っ取り、この星を我らの惑星と同じく住みよくするはずの……どうして、この星の人間の真似事をするの。だってあなたは……!」
「うるせえ。なんでもかんでも決めつけるな」
真壁は乱暴に言い放つと、異形体の首筋に毒を垂らした。途端に首筋に深く突き刺さったオーパーツが見えた。
(深度4ってことは、だいぶオーパーツに遺伝子組み替えられてるな……これを抜いても……)
抜いたら死ぬかもしれない。でも、抜かないことにはオーパーツを冷凍封印することすらできない。真壁は乱暴に、指先に力を込めた。粘液の毒が強く濃くなる。
異形体は、まるで地球人のような悲鳴を上げる。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ、ヤダァァァァァァァ!!」
「……うるせえ、そう叫んだガキが何人いたんだよ」
水穂に刺さっていたはずのオーパーツが自動的に抜け落ち、逃げ出そうとしたが、それより先に真壁がむんずと掴んだ。彼の汗が粘り、毒になってオーパーツを蕩かせていく。逃げようとしたオーパーツを無理矢理ロケットの中に突っ込むと、そのまま蓋をした。本部に戻ったらそのまま冷凍封印だ。
辺りは異臭塗れになり、水穂は倒れたままだ。どのみち、宇宙防衛機構の息のかかった病院でなければ、彼女の治療は困難な上、そもそも無理矢理遺伝子を組み換えられた体がどこまで元に戻るかが未知数だ。
真壁がせめてもと硬化した皮膚を取ってやると、かろうじて人間の肌を見せた部分はぐったりとしていた。
やがて、ヘルメットを被った長瀬がやってくる。
「真壁さん、これは……」
「深度4でだいぶ宇宙人に改造されている。勝手にオーパーツが抜け出さなかったら完全に体を乗っ取られていたが、改造された体がどこまで元に戻るかわからねえ。すぐ病院に入れてやれ」
「はい! あの、真壁さんは……」
だんだん霧も晴れ、異臭も落ち着いてくる。
真壁は手袋を引っ張り出すと、それを嵌め直す。
「……勝手な憶測で同情したら殺す」
「すみません。同情しているつもりはないんですが」
真壁はチラッと端末を確認し「深度2の方がまだ残ってるな、あと任せる」と、そちらのオーパーツ回収に行ってしまった。
長瀬は溜息をつくと、先に救急車を呼び、次に地下シェルターを回って保険の話を聞いて回るべく、ひとまずヘルメットを外すと走りはじめた。
真壁巧。元々彼は、オーパーツを浴びて異形体になるはずだったが、深度5になってもなお人格が乗っ取られることがなく、異形体になることも、外宇宙人に人格を乗っ取られることもなかった適合者。
彼のような適合者は1%の確率で現れるらしい。100人にひとりはいると考えればわかりやすいが、100人もの人間が一度にオーパーツに浸食された例がほぼ見当たらないため、観測したくてもできないというのがある。
その、観測すべき場所が封鎖地区なのだが。その封鎖地区の観測も、ほぼできていない。
****
「二カ所同時オーパーツ襲撃事件。解決できておめでとう!」
「……ありがとうございます」
さっさと真壁は冷凍保存用のロケットを引き渡して自室に戻ってしまった中、長瀬は書類作成のために本部に戻ってきていた。
あまりにもテンションの高い早乙女に、長瀬はげんなりとしている。
「いやあ……それにしても、まさか適合者がふたり目、しかも身内から現れるとはねえ!」」
「いや……水穂さん適合者じゃないじゃないですか。いきなり遺伝子いじくられて。今入院しているのに、エージェントなんてさせられる訳ないでしょ」
「でも、彼女体を弄られて家に帰れるのかい? なにかの拍子にビーム撃っちゃうのに?」
「……決めるのは早乙女さんじゃないです。水穂さんです」
なにがなんでもエージェントに水穂を購買部から引き抜こうとしている早乙女を、長瀬は必死に止めていた。あんな死にやすい場所に気安い仲の彼女を巻き込みたくない。ただでさえ女友達の少ない職場なのだから、女友達がいなくなるリスクは避けたかった。
それを柏葉は「んー……」と聞いていた。
「でも、早乙女さんは前々から適合者以外の戦闘員エージェントのパワードスーツ開発中でしょう? あれがちゃんと完成すれば、長瀬さんももうちょっと安全にエージェント活動できるし、自分ももうちょっと積極的に前線に出られるんだけど」
「うん。真壁くんのおかげでだいぶ進んでるからねえ、開発。彼の体液からオーパーツに関する弱点やら浸食率やら深度の抑制やらいろいろ調べられてるしね」
早乙女の軽い口調で、長瀬はなんとも言えない顔になった。
真壁はオーパーツに浸食されたことにより、適合者になった。軍備もない人間が生身で異形体と立ち向かえるのは、彼自身がオーパーツにより遺伝子調整を受けた末に、人間よりも丈夫になったからだ。
だからと言って、彼におんぶに抱っこでもいられない。
真壁はオーパーツに浸食され、体液が全て毒に変わってしまったことにより、彼は日常のありとあらゆることができなくなってしまった。食事をすれば、彼の唾液で人が死ぬ。風呂に入れば、彼の少量の体液でも人が死ぬ。彼が出す体液は、なにも硫酸だけではない。時には青酸カリのような、少量でもあっという間に死に至る毒すら排出するのだから。そして彼は恋人との営みをすれば、相手が死ぬ。
真壁は人間としての営みを、一切合切奪われてしまっているのだ。
だから彼は、この本部の居住区以外で住むことができず、ここで用意された宇宙食のパウチのみを食し、毒に適応したシャワールームでしかシャワーを浴びることができない。
(そんな飼われないと生きていけないって人のような真似、私は勧めることができない……)
真壁には「同情したら殺す」ときつく言い含められているため、本人に言う気は全くないが。それでも水穂にこんな生き方をさせたいとは思えなかった。
長瀬の歯がゆい表情に、柏葉は困った顔で首を傾げた。
「長瀬さんがあんまり落ち込む話でもないと思うよ。自分たちはオーパーツが降ってくる日常しか生きることができないし、誰だって彼みたいになる可能性はある。水穂さんがそうなるかならないかはお医者様によるから、今度お見舞いに行こう。もしかしたら、治療が上手くいって、適合者からは外れるかもしれないんだしさ」
「……そう、だといいんですけど。すみません、柏葉さんを困らせてしまって」
「いや、いいよ。でも、あれはどうしてそんな君に寄り添ってあげないんだ。さっさとオーパーツ引き渡して自室に篭もってさ」
柏葉視点では、だいぶ真壁は傍若無人な男に見えるだろうし、長瀬も緩くはそう思っているが。それでも長瀬は真壁を嫌いになることはない。
「真壁さん、あれで手加減してくれてましたから。あの人、成人男性に対してはそこまで優しくないですけど、女子供が浸食されたとき、だいたい命は助かる方向で行動してますから。この間の高校生の子も、もうそろそろ治療が終わるはずなんです」
「学校襲撃のオーパーツの、ねえ……」
長瀬は「そういえば」とふと気付いた。
(彼女も、閉鎖地区出身だったような……)
それは彼女を病院に入れる際の手続きをする際、長瀬が確認取ったことだった。書類仕事は基本的に長瀬がほとんど全てやっているから、パートナーの真壁には聞かれてない限りは答えてないが。
(真壁さん知ってたっけ)
そのことを彼女は思いながら、その日の書類を必死に片付けることになったのだ。
「ヘルメットしとけ」
「は、はいっ!」
真壁に無愛想に言われ、慌てて長瀬はヘルメットを被る。
水鉄砲の構えで、真壁は水穂に粘液を噴出したら、彼女は気付いたらしく、ひょいと後方に飛んで避けた。
「チッ」
「あら? いい男」
異形体が真壁を目に留めると、うっとりとしたような声を上げる。日頃の水穂の言いそうなことをトレースしているのか、オーパーツに保存されている外宇宙人がそういう人格なのか、長瀬にも判断できなかった。
だがその声を聞いて、真壁はいつもの温度のない声で長瀬に尋ねる。
「おい、あいつ……」
「……水穂さんです。水穂さんが、深度4に……」
「購買員か……深度4は厳しいが……」
「水穂さん、元に戻れるでしょうか」
「わからん。やるだけやるが、無駄だったら線香上げとけ」
もしも長瀬がエージェントでなかったら「この不謹慎!」と軽蔑した声を上げていただろうが、既に長瀬は理不尽なパートナーの脱落に何度も立ち会っている上に、宮女に行って間に合わなかった浸食者たちにも遭遇している。
真壁が来た時点で、まだ助かる確率が少し上昇しただけなのだ。まだなんの解決にもなってはいない。
水穂だった異形体が馴れ馴れしく言う。
「まあ、この星にもったいない男ね。可愛がってあげる」
そう言いながら、再びレーダービームを撃ち放とうとsるうが、それより先に長瀬は手を抑えながら構えた。
抑えながら打ったことで、粘液が霧状に変わる。それと同時にレーダービームが撃たれたが、途端にもわんもわんと光が曲がる。
「あら? ちゃんと撃てないわ?」
「そりゃそうだ。毒霧だろうが、霧は霧だ」
「まあ……頭も切れるの。やっぱり素敵ね、あなたは」
「……石に発情する覚えはねえ」
「失礼しちゃうっ!」
彼女の甲殻で覆われた腕が、真壁を抱き締めようとしたとき。霧状の粘液を浴びた。途端にあれだけ硬質に覆われていたはずの皮膚がジュッと音を立てて蕩ける。
「なっ……これは……っ!」
「これは硫酸だ。俺の体液は全て毒だよ」
独特の異臭を放ちながら、辺りは毒でシューシューと音を立てて溶けていく。
オーパーツ全体に攻撃をする際、もっとも効果的だったのは、オーパーツの物質ごと穿つほどのレーダービームを放つか、硫酸以上の強酸や猛毒を使って溶かすかのいずれかだ。他の検証は未だに進んではいない。
それに水穂だった異形体が、やっと焦り声を上げた。
「あなた……私たちの仲間のはずでしょう? この星の人間に寄生し、乗っ取り、この星を我らの惑星と同じく住みよくするはずの……どうして、この星の人間の真似事をするの。だってあなたは……!」
「うるせえ。なんでもかんでも決めつけるな」
真壁は乱暴に言い放つと、異形体の首筋に毒を垂らした。途端に首筋に深く突き刺さったオーパーツが見えた。
(深度4ってことは、だいぶオーパーツに遺伝子組み替えられてるな……これを抜いても……)
抜いたら死ぬかもしれない。でも、抜かないことにはオーパーツを冷凍封印することすらできない。真壁は乱暴に、指先に力を込めた。粘液の毒が強く濃くなる。
異形体は、まるで地球人のような悲鳴を上げる。
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダ、ヤダァァァァァァァ!!」
「……うるせえ、そう叫んだガキが何人いたんだよ」
水穂に刺さっていたはずのオーパーツが自動的に抜け落ち、逃げ出そうとしたが、それより先に真壁がむんずと掴んだ。彼の汗が粘り、毒になってオーパーツを蕩かせていく。逃げようとしたオーパーツを無理矢理ロケットの中に突っ込むと、そのまま蓋をした。本部に戻ったらそのまま冷凍封印だ。
辺りは異臭塗れになり、水穂は倒れたままだ。どのみち、宇宙防衛機構の息のかかった病院でなければ、彼女の治療は困難な上、そもそも無理矢理遺伝子を組み換えられた体がどこまで元に戻るかが未知数だ。
真壁がせめてもと硬化した皮膚を取ってやると、かろうじて人間の肌を見せた部分はぐったりとしていた。
やがて、ヘルメットを被った長瀬がやってくる。
「真壁さん、これは……」
「深度4でだいぶ宇宙人に改造されている。勝手にオーパーツが抜け出さなかったら完全に体を乗っ取られていたが、改造された体がどこまで元に戻るかわからねえ。すぐ病院に入れてやれ」
「はい! あの、真壁さんは……」
だんだん霧も晴れ、異臭も落ち着いてくる。
真壁は手袋を引っ張り出すと、それを嵌め直す。
「……勝手な憶測で同情したら殺す」
「すみません。同情しているつもりはないんですが」
真壁はチラッと端末を確認し「深度2の方がまだ残ってるな、あと任せる」と、そちらのオーパーツ回収に行ってしまった。
長瀬は溜息をつくと、先に救急車を呼び、次に地下シェルターを回って保険の話を聞いて回るべく、ひとまずヘルメットを外すと走りはじめた。
真壁巧。元々彼は、オーパーツを浴びて異形体になるはずだったが、深度5になってもなお人格が乗っ取られることがなく、異形体になることも、外宇宙人に人格を乗っ取られることもなかった適合者。
彼のような適合者は1%の確率で現れるらしい。100人にひとりはいると考えればわかりやすいが、100人もの人間が一度にオーパーツに浸食された例がほぼ見当たらないため、観測したくてもできないというのがある。
その、観測すべき場所が封鎖地区なのだが。その封鎖地区の観測も、ほぼできていない。
****
「二カ所同時オーパーツ襲撃事件。解決できておめでとう!」
「……ありがとうございます」
さっさと真壁は冷凍保存用のロケットを引き渡して自室に戻ってしまった中、長瀬は書類作成のために本部に戻ってきていた。
あまりにもテンションの高い早乙女に、長瀬はげんなりとしている。
「いやあ……それにしても、まさか適合者がふたり目、しかも身内から現れるとはねえ!」」
「いや……水穂さん適合者じゃないじゃないですか。いきなり遺伝子いじくられて。今入院しているのに、エージェントなんてさせられる訳ないでしょ」
「でも、彼女体を弄られて家に帰れるのかい? なにかの拍子にビーム撃っちゃうのに?」
「……決めるのは早乙女さんじゃないです。水穂さんです」
なにがなんでもエージェントに水穂を購買部から引き抜こうとしている早乙女を、長瀬は必死に止めていた。あんな死にやすい場所に気安い仲の彼女を巻き込みたくない。ただでさえ女友達の少ない職場なのだから、女友達がいなくなるリスクは避けたかった。
それを柏葉は「んー……」と聞いていた。
「でも、早乙女さんは前々から適合者以外の戦闘員エージェントのパワードスーツ開発中でしょう? あれがちゃんと完成すれば、長瀬さんももうちょっと安全にエージェント活動できるし、自分ももうちょっと積極的に前線に出られるんだけど」
「うん。真壁くんのおかげでだいぶ進んでるからねえ、開発。彼の体液からオーパーツに関する弱点やら浸食率やら深度の抑制やらいろいろ調べられてるしね」
早乙女の軽い口調で、長瀬はなんとも言えない顔になった。
真壁はオーパーツに浸食されたことにより、適合者になった。軍備もない人間が生身で異形体と立ち向かえるのは、彼自身がオーパーツにより遺伝子調整を受けた末に、人間よりも丈夫になったからだ。
だからと言って、彼におんぶに抱っこでもいられない。
真壁はオーパーツに浸食され、体液が全て毒に変わってしまったことにより、彼は日常のありとあらゆることができなくなってしまった。食事をすれば、彼の唾液で人が死ぬ。風呂に入れば、彼の少量の体液でも人が死ぬ。彼が出す体液は、なにも硫酸だけではない。時には青酸カリのような、少量でもあっという間に死に至る毒すら排出するのだから。そして彼は恋人との営みをすれば、相手が死ぬ。
真壁は人間としての営みを、一切合切奪われてしまっているのだ。
だから彼は、この本部の居住区以外で住むことができず、ここで用意された宇宙食のパウチのみを食し、毒に適応したシャワールームでしかシャワーを浴びることができない。
(そんな飼われないと生きていけないって人のような真似、私は勧めることができない……)
真壁には「同情したら殺す」ときつく言い含められているため、本人に言う気は全くないが。それでも水穂にこんな生き方をさせたいとは思えなかった。
長瀬の歯がゆい表情に、柏葉は困った顔で首を傾げた。
「長瀬さんがあんまり落ち込む話でもないと思うよ。自分たちはオーパーツが降ってくる日常しか生きることができないし、誰だって彼みたいになる可能性はある。水穂さんがそうなるかならないかはお医者様によるから、今度お見舞いに行こう。もしかしたら、治療が上手くいって、適合者からは外れるかもしれないんだしさ」
「……そう、だといいんですけど。すみません、柏葉さんを困らせてしまって」
「いや、いいよ。でも、あれはどうしてそんな君に寄り添ってあげないんだ。さっさとオーパーツ引き渡して自室に篭もってさ」
柏葉視点では、だいぶ真壁は傍若無人な男に見えるだろうし、長瀬も緩くはそう思っているが。それでも長瀬は真壁を嫌いになることはない。
「真壁さん、あれで手加減してくれてましたから。あの人、成人男性に対してはそこまで優しくないですけど、女子供が浸食されたとき、だいたい命は助かる方向で行動してますから。この間の高校生の子も、もうそろそろ治療が終わるはずなんです」
「学校襲撃のオーパーツの、ねえ……」
長瀬は「そういえば」とふと気付いた。
(彼女も、閉鎖地区出身だったような……)
それは彼女を病院に入れる際の手続きをする際、長瀬が確認取ったことだった。書類仕事は基本的に長瀬がほとんど全てやっているから、パートナーの真壁には聞かれてない限りは答えてないが。
(真壁さん知ってたっけ)
そのことを彼女は思いながら、その日の書類を必死に片付けることになったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
下級武士の名の残し方 ~江戸時代の自分史 大友興廃記物語~
黒井丸
歴史・時代
~本作は『大友興廃記』という実在の軍記をもとに、書かれた内容をパズルのように史実に組みこんで作者の一生を創作した時代小説です~
武士の親族として伊勢 津藩に仕える杉谷宗重は武士の至上目的である『家名を残す』ために悩んでいた。
大名と違い、身分の不安定な下級武士ではいつ家が消えてもおかしくない。
そのため『平家物語』などの軍記を書く事で家の由緒を残そうとするがうまくいかない。
方と呼ばれる王道を書けば民衆は喜ぶが、虚飾で得た名声は却って名を汚す事になるだろう。
しかし、正しい事を書いても見向きもされない。
そこで、彼の旧主で豊後佐伯の領主だった佐伯權之助は一計を思いつく。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる