オーパーツ・ディストラクション─君が背負うもの─

石田空

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 小型ロケットを持ち出した長瀬と真壁のほうに、蛍と誠もやってきた。

「ありゃあ、あの外宇宙人、長瀬ちゃんを的にして当てたの。巧、そういうのはさすがによくない」
「うるせえ。外さなきゃいいだろ」
「えっ、外れたらよかったのに」
「蛍ー、巧が取られたって拗ねるのはやめときな。嫉妬が可愛いのは小学生までだからな。で、帳の言ってた箱船の破壊だけど、どうするの?」

 相変わらず長瀬に対して辛辣な蛍に対し、誠はいなしつつ、髪を揺らした。それに長瀬は口を開く。

「あの、ロケット打ち上げるのに、おふたりも協力してもらえませんか? 宇宙だとちょっと法則が変わるんで、計算とかは早乙女さんや帳さんに頼みますけど」
「うん? ロケット打ち上げ?」
「なにすんの?」

 小型とはいえど、ロケットを打ち上げようなんて話、十数年単位で既に歴史の授業でしか聞かなくなった話だ。長瀬は続ける。

「真壁さんの毒を使って、箱船を破壊できないかと。宇宙だともろもろ成分変わるんでどうなるかわからないんですけど、多分外宇宙に存在している物質ならなんとかなるんじゃないかと」
「ええっと、それで俺らを使うっていうのは?」
「ですから、ロケット打ち上げます」

 長瀬の要領を得ない回答に、蛍はむくれ、誠は困り果てていたが。真壁は平然とした顔をしていた。

「単に宇宙に触りたいだけだろ、この女は」
「失礼なこと言いますね!? 趣味と実益兼ねてるって言ってくださいよ!」
「アハハハハハハ……ごめん、俺だと理屈さっぱりわかんないから、ひとまずは帳に繋いでみるわ」

 端末で帳と早乙女に連絡をすれば、それはそれはもう、帳は呆れ果てて、早乙女は爆笑していた。

【マジかよ……】
【アハハハハハハハハハ! いきなり昔の試作品ロケット持って行っていいですかとか言い出すから、長瀬くん第二次オーパーツ災害で犠牲になったらロケットと心中する気じゃないかと思ってたけど! まさか打ち上げたいとか言うなんてねえ!】
【……理屈としちゃわかるが、異能者三人でなんとかなるもんなのか?】
【まあ、打ち上げの計算さえ終わればね。それに今日中に箱船破壊しないことには、第二次オーパーツ災害は避けられないんだからさあ。やろうか】
【マジめんどい】

 文句を言いながらも、ふたりは急いで計算してくれた。
 長瀬はそれを元に真壁に毒の粘液をロケットの中に入れてもらう。

「これ、振動で爆発したりしないのか?」
「打ち上げるまでは大丈夫なはずです。中に振動は伝わらなくなっていますので。それじゃあ蛍くん、火種をください」
「ボク、ライターじゃないんだけどぉ」
「……すみません、どうして嫌われてるか未だによくわかってないんですけど、今は協力してください」
「まあ、いいけどさ」

 蛍が自身を発火させると、燃料に火を点ける。あとは誠は加速して、高く跳んだ。

「まさかさあ、音速で走れるようになったからって、ロケットのための踏み台になる人生は考えたことなかったわ」
「はい、頑張ってください!」

 音速で手順通りに走り、誠が手放したロケットは、早乙女と帳の計算による軌道に乗って、高く跳びはじめた。やがて。

【試作型ロケット、エンゲージポイントに到着】

「あそこでロケットの中身が抜け、箱船を破壊したら私たちの勝ちです」
「そうか」

 長瀬がやけに目をキラキラさせながら空を見上げているのを、真壁はちらりと見た。

「まあ、よかったんじゃねえのか」
「はい? なにか言いましたか真壁さん」
「別に」

 宙に打ち上がったロケット。今まで空はオーパーツに支配され、恐怖と畏怖のせいで誰もが破壊しようというところまで意識が飛ばなかった。
 でも今、小型ロケットが打ち上がり、そこに積んだ毒が爆発した。箱船が破壊されたかどうかは、現在衛星のカメラの確認待ちだが、やれることはやったのだ。

****

 やのつく自由業の家に、足を踏み入れた人を、ドリフォーロスはぐったりとソファに横たわりながら出迎えた。

「申し訳ございません、このような形で迎えることになってしまって」
「いえ、いいんですよ。今まで本当にありがとうございます」
「……僕は兄様たちを止めたかった。この星が母星のように崩壊するのを見たくなかった。本当にそれだけなんです。もう僕たちは、この星の皆さんの体を浸食してもなお、生きているのかどうかわからない存在になってしまいましたから」

 オーパーツの欠片が突き刺さることで、原住民の肉体を乗っ取り、自分たちに近い形になるよう無理矢理遺伝子を弄られる。それでもなお、元の自分だと言い切っていいのかは、ドリフォーロスは未だにわからなかった。
 空をロケットが打ち上がっていく。それを見ながらドリフォーロスは微笑んだ。

「これで箱船の破壊は成ると思いますが……それは僕たちが乗っていた箱船がなくなっただけ。第二第三の箱船が現れると思いますが」
「まあ、それはそれで、我々も対処しましょう……最期に言い残したいことは?」
「……この肉体をくださった方とは、浸食の際の少しお話しました。この肉体の方は息絶え絶えで、明日を拝めぬ方でした……この体のお父様に伝えてください。『この星のことをどうぞよろしくお願いします』と」

 銃を突きつけられてもなお、彼は美しく笑みを浮かべた。引き金は引かれた。消音銃は音が鳴らなかった。

「……たしかに総理にお伝えしておきます」

 今の総理を守らなかったら最後、オーパーツ関連の情報を求めて企業間戦争やら政争やらが活発になり、オーパーツの情報やら、異形体になってしまった人々の身体データを好き勝手に使われかねない。
 今の大河総理以外で、まともにオーパーツ対策に乗り出さなかった以上、国の安寧のためには彼の次世代が育つまでは大河総理でいてくれないと困る。
 そのために、大河三兄弟の肉体を乗っ取った外宇宙人は全員始末せねばならず、彼らの遺体を回収した後、彼らの肉体に残ったオーパーツも全て厳重管理しなければいけなかった。
 死んだ彼の体から音を立てて抜け落ちたオーパーツをロケットに詰めた柏葉は、この情報を国と早乙女にあげなければいけなかった。
 さすがにこの話は、現場でずっと戦っている長瀬や真壁には伝えられない話だった。

「よっと」

 すぐにドリフォーロスの遺体を遺体袋に詰めたあと、ここで戦っているはずの真壁たちに見つかる前に封鎖地区から出なければいけない。大河三兄弟の遺体は全て、極秘裏に火葬しなければいけないのだ。
 汚れ仕事をするのは、自分ひとりでいい。

****

 やっと本部に戻ってきた真壁と長瀬。

「長瀬さん!」

 手を振ってきたのは、ずっとリハビリをしていた水穂だった。既に購買部の制服に着替え終えている。思わず長瀬は駆け寄る。

「水穂さん、無事退院おめでとうございます! あの、復職は……」
「うん、そのつもり。どっちみち再就職するの骨折れるだろうから、ここで働くつもりですから」

 オーパーツで異形体になった人間は、基本的には差別対象にしてはいけないと法律でも定められてはいるものの、それでも人間は目の前で異形体になって暴れ回った人に対してなかなか前の目で見ることができない。
 その点宇宙防衛機構は、そもそもオーパーツ対策のために国から仕事を受注して作業しているため、この手の差別は一切なかった。水穂もそう考えるのは自然であった。

「よかったです……」
「でも私入院してる間、長瀬さんなんかいいことありました? ものすっごくニコニコしてて。まさか、真壁さんと」
「一緒にロケット飛ばしてきたんですよ! 小型ですけど! 異能者の方々に手伝ってもらったとはいえど。いやあ、楽しかったぁ!」

 相変わらずの恋愛脳の水穂に対して、長瀬は宇宙への繋がりがまた取り戻せそうなことに、うずうずとしていた。
 そのふたりのやり取りを見ながら、真壁は早乙女のほうに行った。

「終わった。報告書は長瀬がやるだろ」
「お疲れ。まあ、ひと段落はしたけど、第二次オーパーツ災害が阻止できたってだけだしねえ」
「……まだ外宇宙人の襲撃はあるのか」
「うん。箱船の大きさを換算しても、いくらオーパーツの欠片ひとつひとつに人格をインストールして、その塊がオーパーツになっているとしても、あの大きさでは惑星ひとつ分の人口を運ぶのは無理だ。だから、第二第三の箱船が来ると思ったほうがいい」
「そうかよ」
「まあ、封鎖地区はどの道、国を挙げて守らないといけないだろうさ。あそこを襲撃されたらなにもかもおしまいだっていうのは、今回の件でやっとわかったことなんだからさ。だから君も、故郷と行き来できるようになるだろ。それはめでたいことなんじゃない?」
「……ふん」

 早乙女からパウチのゼリー栄養剤を渡され、それを真壁はちうと飲んだ。そして長瀬のほうをちらりと見た。
 ずっと疑問だった長瀬にはなぜかオーパーツの浸食を受けない理由。なんてことはない。彼女は真壁との距離感が近い。任務上のパートナーというのもあるが、物理的に。
 真壁に浸食したオーパーツは、彼らの星の終身刑を受けるような人間のものだったがために、オーパーツに入力された人格だとしても、それに拒否反応を起こしたんだろうというのが早乙女の推測だった。

「……なんだ、オーパーツどもに俺と長瀬はどう思われてると?」
「男女の関係には思われてないだろうけどね。バディだとは思われてるんだろうさ」

 その言葉に、真壁は本当に嫌そうな顔をした。
 そこで視線に気付いた長瀬が振り返った。

「あれ、真壁さん。睨まなくってもちゃんと報告書は出しますよ」
「わかってる。そんなことは心配してない」
「じゃあなんですか」
「……いや。またロケットが飛ばせたらいいと思っただけだ。俺にはあれのなにがいいのかさっぱりわからんが、お前がやりたいんだったらいいと」

 そう言った途端、長瀬は少し目を丸くしたあと、細めてにっこりと笑った。

「はい」

 真壁は長瀬の言っていることも、彼女の夢の壮大さもさっぱりとわからなかったが、いつか彼女が言っていた星空を取り戻したいという意味が、少しだけ理解できたような気がした。
 それを喜ぶ人の横顔は、とてもいい。
 真壁は生まれも育ちもどこか根の張ってない人間であり、今日を生きるのに精いっぱいで、明日の話、ましてや夢のことなんていまいちピンと来なかったが。
 堂々と夢物語を語る長瀬の夢は、嫌いではなかった。

 既に非日常が日常になっている。
 空からはいつオーパーツが降るかわからないし、それに脅える生活が続いている。
 それでも、宇宙防衛機構は着実に理解者と仲間を増やして、次の任務へと向かっている。
 いつか星空を綺麗だと言って見上げる豊かさを取り戻す、その日まで。

<了>
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