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昇華
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長瀬はワゴンから人々を降ろしていた。
封鎖地区の残っていた人々を避難させた先は、仮設住宅であった。この予算を宇宙防衛機構はどれだけ搾り取らせたかわからない。
大河三兄弟の件やマスコミの完封、あそこで行われようとしている第二次オーパーツ災害の被害を最小限の抑える任務などがなかったら、これだけの予算を民間企業が使えることはなかった。
「申し訳ありません。もっとアパートとか用意できたらよかったんですが……」
「いいよ、いきなり封鎖地区からやってきたと言ったら、皆びっくりしちゃうだろう?」
「……すみません」
「あの子たちが頑張ってくれてんだから、多分数年以内には戻れるさね。あの子たちに負けないよう私たちも頑張らないといけないね」
そう蛍や誠、あそこで残ってデータのやりくりをしてくれている帳のことを思い、あそこで戦っているだろう真壁のことを長瀬は思った。
「そうですね……」
なんとか荷物の出し入れを終えつつ、長瀬は元来た道をワゴンで走りはじめた。
(真壁さんたち……戦況はどうなってるんだろう)
ワゴンにはパウチの食料やら最低限の傷の手当てのできる医療パック、そしてなにかあった際の真壁の服の替えがある。
戦闘が終わってもやり残しはたくさんある。その手伝いのため、長瀬はただ脇目も振らずに走っていた。
****
いきなり現れた男……長瀬曰くガラクシアスと呼ばれる外宇宙人……は怒りに燃えたまま、光速移動を繰り広げていた。
(あれか……水穂の異能の上位互換か)
光の速さで動かれれば、いくらニトログリセンを撒こうが爆発に巻き込むことができず、毒霧で異形体にも効く猛毒を撒いても臓腑にまで届かない。そもそもある程度絞った場所でやらなかったら、蛍や誠を巻き込むのだ。
誠は音でかろうじてガラクシアスの動きを読み、音波で動きを止めようとするが、それがどういう理屈かガラクシアスには届かない。オーパーツのロボットを破壊できる程度の性能だというのに。
「どうなってんのさ。誠兄ちゃんの音波、全然効いてないじゃん」
「……おかしいんだよなあ」
誠は手でラッパの形をつくりながら、見えない速度で走るガラクシアスに狙いを定めて音波を送る。が、寸での差で躱されてしまう。
「下手糞か」
「ちげえよっ……頼れるのは音だけだから、音だけで絞ってるんだけどさ。どうも見えてるものと音が出てる場所がずれてるっぽくって、ぜんっぜん当たらないわ」
「音と視覚がずれてる?」
「それどういうこと?」
「……あれかな、光の屈折かな。あいつ光使いみたいだし」
「ああ……」
本当ならば真壁なら、相手の動きを封じるのに、抵抗なく毒霧を使う。今使ってないのは、ふたりを巻き込むからに他ならない上、ガラクシアスを活かさなかったら、箱船を壊す算段が立たないというのがある。
「殺すのが無理、でもそのまんま見えない敵を相手取ってるのもめんどい。どうするか、か」
「そういえばさあ、帳ぃー、結局箱船の場所、割り出し終了したの?」
蛍は自分だと対処不可能だとさっさと判断し、兄貴分ふたりにガラクシアスのことは押しつけて、端末の向こう側の帳に尋ねた。
帳は異能を使ってこちらを見ているのか、げんなりとした声を上げた。
【お前切り替え早過ぎ】
「ボクの人体発火だと、光速移動する人なんか対処できないし。だから箱船の特定のほうがありだと思ったんだけど。どう?」
【お前……箱船は、地図をそっちの端末に送る。そっちに向かっていけばいい。そこに外宇宙人いるのか?】
「いるみたい……ボクだと見えないけど、誠兄ちゃんが音で聞こえてるってさ」
「そうか。ならそこに誘導しろ。どのみちこれ以上ここをオーパーツで無理矢理弄られたら、マジで地球自体持たないからな」
既に時間制限がついている。
端末に転送された地図を誠に見せると、誠は「おう」と笑った。
「あのヤのつく自由業の敷地の上のほうな訳ね」
「……前に長瀬連れ戻しに行った際、あんなもん見えなかったぞ」
「多分人工衛星のところにあるんじゃないの、箱船は」
「……マジであの女の管轄だろ、それは」
その手の知識に疎い真壁は心底嫌そうな顔をしたあと、バイクに跨がった。
「えー、巧。俺お前ひとりくらいなら担げるけど?」
「いらん。そのクソガキ担いどけ」
「誠兄ちゃん、巧兄ちゃんは血まみれだから、誠兄ちゃんを毒でやっちゃうかもって心配してんだよ。誠兄ちゃんの場合はどうだろね?」
「んー……音の異能はもらってむっちゃうるさいけど、肉体スペックは頑丈くらいだしい? 外宇宙産の毒はどこまで通じるかわかんね」
三人はグダグダ言いながらも、見えないガラクシアスを誘導するように走りはじめた。
バラバラに走ったほうが都合がいい。真壁はバイクを片腕で動かしながら、自身の傷口を強く押さえる。毒霧が発生するが、それと同時に毒霧を蒸発させるようにレーザービームが射出sれた。それに真壁はまた顔をしかめる。
「……やっぱり水穂の上位互換じゃねえか」
既にリハビリに入っている入院中の彼女を思い、彼女と戦っておいてよかったと思う真壁。ガラクシアスは光のスピードで走りながらも、執拗に真壁だけを狙った。
「見えるほうが好みか」
「……見えることがなんですか。見えなくても、貴様を殺していました」
「あのプラニーティスとか言う男が死んだこと、そんなに嫌だったか」
「……っ、黙りなさいっ!!」
真壁は嫌そうな顔で見えない男について考えた。
彼らにも同胞を殺されたら悲しむ感情がある。同胞が死んで悲しむ心がある。でもそれは地球に住む人類には一切向いていない。彼らは肉体を失い、地球人の肉体を浸食して自分たちの元の肉体に近付けない限りは、鉱石のまんましゃべることも意思疎通することもできない。
そもそも真壁は、ここで起こった悲劇のせいで、故郷に帰ることが三年間も叶わなかったというのに。
悲しさに飲まれた彼らは、自分たち以外にその感情を向けない。
地球人のように地球人らしい感情を持つ彼らは、やはり排除しなくてはいけなかった。
やがて、長瀬が逃げおおせてきたやのつく自由業の邸宅が見えてきた。その上に箱船があり、そこからオーパーツが射出されるらしいが。それをどうにかして破壊しないといけなかった。
(見えないのは……オーパーツ災害が降ってきてからじゃないと予測すらできないからで、ステルス機能がある、とか前に早乙女が言っていたか)
自分の毒では、ガラクシアスを滅することはできない。だが、第二次オーパーツ災害を阻止するために、オーパーツ災害の場所を箱船に向けなければいけなかった。
(自壊される……あれ自壊できんのか? 俺のニトログリセンは……そもそも見えないところまで飛ばすのは無理だろ。そもそも人工衛星にまで到達するとなったらそれこそ宇宙までいかないと駄目で……)
真壁はガラクシアスをどうにか毒霧で牽制しつつも、どうしたもんかと考えていた。誠と蛍が見えないが、先程からずっと音波攻撃自体はガラクシアスに向けられている。音速で走って見えないだけで、いるはずだ。
そこまで考えあぐねていたところで、こちらに向かって走ってくる車があった。
「真壁さん!」
ワゴンからひょっこりと顔を覗かせる長瀬に、真壁は心底嫌な顔をした。
「もうちょっと遅れて来い」
「すみません」
「……今はよくやった」
「え?」
既にガラクシアスは、真壁の弱点として長瀬を覚えている。
つまりは、視界だけではどこにいるかわからない、狙いがどこか定まりにくい場合でも、長瀬を人質に取ろうと動くはずだ。
だから真壁は自身の粘液を迷うことなく、彼女の乗るワゴン目がけて撃ち放った。途端に今まで見えなかったはずのガラクシアスが崩れ落ちた。
長瀬は落ちたガラクシアスを茫然と見ている。
「いい的だった」
「私、囮ですか!?」
「まだなんも片付いてないのに来る方が悪い」
「ひどい! 一応端末で早乙女さんから状況は確認しておりますけど! 箱船の場所は特定できたんですね!?」
「だが、さすがに宇宙なんてどうするんだ。こいつらだって箱船からオーパーツで射出して出てきたんだろうに、あそこを破壊するのは」
「できるかできないかで言ったら、なんとかできます!」
長瀬はワゴンからひとつ小さなサイズのものを持ってきた。
「それ……」
「うち、元々宇宙船開発のための組織ですから」
人は乗れないが、物だったら運べそうなサイズのロケットを長瀬は持っていた。
封鎖地区の残っていた人々を避難させた先は、仮設住宅であった。この予算を宇宙防衛機構はどれだけ搾り取らせたかわからない。
大河三兄弟の件やマスコミの完封、あそこで行われようとしている第二次オーパーツ災害の被害を最小限の抑える任務などがなかったら、これだけの予算を民間企業が使えることはなかった。
「申し訳ありません。もっとアパートとか用意できたらよかったんですが……」
「いいよ、いきなり封鎖地区からやってきたと言ったら、皆びっくりしちゃうだろう?」
「……すみません」
「あの子たちが頑張ってくれてんだから、多分数年以内には戻れるさね。あの子たちに負けないよう私たちも頑張らないといけないね」
そう蛍や誠、あそこで残ってデータのやりくりをしてくれている帳のことを思い、あそこで戦っているだろう真壁のことを長瀬は思った。
「そうですね……」
なんとか荷物の出し入れを終えつつ、長瀬は元来た道をワゴンで走りはじめた。
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ワゴンにはパウチの食料やら最低限の傷の手当てのできる医療パック、そしてなにかあった際の真壁の服の替えがある。
戦闘が終わってもやり残しはたくさんある。その手伝いのため、長瀬はただ脇目も振らずに走っていた。
****
いきなり現れた男……長瀬曰くガラクシアスと呼ばれる外宇宙人……は怒りに燃えたまま、光速移動を繰り広げていた。
(あれか……水穂の異能の上位互換か)
光の速さで動かれれば、いくらニトログリセンを撒こうが爆発に巻き込むことができず、毒霧で異形体にも効く猛毒を撒いても臓腑にまで届かない。そもそもある程度絞った場所でやらなかったら、蛍や誠を巻き込むのだ。
誠は音でかろうじてガラクシアスの動きを読み、音波で動きを止めようとするが、それがどういう理屈かガラクシアスには届かない。オーパーツのロボットを破壊できる程度の性能だというのに。
「どうなってんのさ。誠兄ちゃんの音波、全然効いてないじゃん」
「……おかしいんだよなあ」
誠は手でラッパの形をつくりながら、見えない速度で走るガラクシアスに狙いを定めて音波を送る。が、寸での差で躱されてしまう。
「下手糞か」
「ちげえよっ……頼れるのは音だけだから、音だけで絞ってるんだけどさ。どうも見えてるものと音が出てる場所がずれてるっぽくって、ぜんっぜん当たらないわ」
「音と視覚がずれてる?」
「それどういうこと?」
「……あれかな、光の屈折かな。あいつ光使いみたいだし」
「ああ……」
本当ならば真壁なら、相手の動きを封じるのに、抵抗なく毒霧を使う。今使ってないのは、ふたりを巻き込むからに他ならない上、ガラクシアスを活かさなかったら、箱船を壊す算段が立たないというのがある。
「殺すのが無理、でもそのまんま見えない敵を相手取ってるのもめんどい。どうするか、か」
「そういえばさあ、帳ぃー、結局箱船の場所、割り出し終了したの?」
蛍は自分だと対処不可能だとさっさと判断し、兄貴分ふたりにガラクシアスのことは押しつけて、端末の向こう側の帳に尋ねた。
帳は異能を使ってこちらを見ているのか、げんなりとした声を上げた。
【お前切り替え早過ぎ】
「ボクの人体発火だと、光速移動する人なんか対処できないし。だから箱船の特定のほうがありだと思ったんだけど。どう?」
【お前……箱船は、地図をそっちの端末に送る。そっちに向かっていけばいい。そこに外宇宙人いるのか?】
「いるみたい……ボクだと見えないけど、誠兄ちゃんが音で聞こえてるってさ」
「そうか。ならそこに誘導しろ。どのみちこれ以上ここをオーパーツで無理矢理弄られたら、マジで地球自体持たないからな」
既に時間制限がついている。
端末に転送された地図を誠に見せると、誠は「おう」と笑った。
「あのヤのつく自由業の敷地の上のほうな訳ね」
「……前に長瀬連れ戻しに行った際、あんなもん見えなかったぞ」
「多分人工衛星のところにあるんじゃないの、箱船は」
「……マジであの女の管轄だろ、それは」
その手の知識に疎い真壁は心底嫌そうな顔をしたあと、バイクに跨がった。
「えー、巧。俺お前ひとりくらいなら担げるけど?」
「いらん。そのクソガキ担いどけ」
「誠兄ちゃん、巧兄ちゃんは血まみれだから、誠兄ちゃんを毒でやっちゃうかもって心配してんだよ。誠兄ちゃんの場合はどうだろね?」
「んー……音の異能はもらってむっちゃうるさいけど、肉体スペックは頑丈くらいだしい? 外宇宙産の毒はどこまで通じるかわかんね」
三人はグダグダ言いながらも、見えないガラクシアスを誘導するように走りはじめた。
バラバラに走ったほうが都合がいい。真壁はバイクを片腕で動かしながら、自身の傷口を強く押さえる。毒霧が発生するが、それと同時に毒霧を蒸発させるようにレーザービームが射出sれた。それに真壁はまた顔をしかめる。
「……やっぱり水穂の上位互換じゃねえか」
既にリハビリに入っている入院中の彼女を思い、彼女と戦っておいてよかったと思う真壁。ガラクシアスは光のスピードで走りながらも、執拗に真壁だけを狙った。
「見えるほうが好みか」
「……見えることがなんですか。見えなくても、貴様を殺していました」
「あのプラニーティスとか言う男が死んだこと、そんなに嫌だったか」
「……っ、黙りなさいっ!!」
真壁は嫌そうな顔で見えない男について考えた。
彼らにも同胞を殺されたら悲しむ感情がある。同胞が死んで悲しむ心がある。でもそれは地球に住む人類には一切向いていない。彼らは肉体を失い、地球人の肉体を浸食して自分たちの元の肉体に近付けない限りは、鉱石のまんましゃべることも意思疎通することもできない。
そもそも真壁は、ここで起こった悲劇のせいで、故郷に帰ることが三年間も叶わなかったというのに。
悲しさに飲まれた彼らは、自分たち以外にその感情を向けない。
地球人のように地球人らしい感情を持つ彼らは、やはり排除しなくてはいけなかった。
やがて、長瀬が逃げおおせてきたやのつく自由業の邸宅が見えてきた。その上に箱船があり、そこからオーパーツが射出されるらしいが。それをどうにかして破壊しないといけなかった。
(見えないのは……オーパーツ災害が降ってきてからじゃないと予測すらできないからで、ステルス機能がある、とか前に早乙女が言っていたか)
自分の毒では、ガラクシアスを滅することはできない。だが、第二次オーパーツ災害を阻止するために、オーパーツ災害の場所を箱船に向けなければいけなかった。
(自壊される……あれ自壊できんのか? 俺のニトログリセンは……そもそも見えないところまで飛ばすのは無理だろ。そもそも人工衛星にまで到達するとなったらそれこそ宇宙までいかないと駄目で……)
真壁はガラクシアスをどうにか毒霧で牽制しつつも、どうしたもんかと考えていた。誠と蛍が見えないが、先程からずっと音波攻撃自体はガラクシアスに向けられている。音速で走って見えないだけで、いるはずだ。
そこまで考えあぐねていたところで、こちらに向かって走ってくる車があった。
「真壁さん!」
ワゴンからひょっこりと顔を覗かせる長瀬に、真壁は心底嫌な顔をした。
「もうちょっと遅れて来い」
「すみません」
「……今はよくやった」
「え?」
既にガラクシアスは、真壁の弱点として長瀬を覚えている。
つまりは、視界だけではどこにいるかわからない、狙いがどこか定まりにくい場合でも、長瀬を人質に取ろうと動くはずだ。
だから真壁は自身の粘液を迷うことなく、彼女の乗るワゴン目がけて撃ち放った。途端に今まで見えなかったはずのガラクシアスが崩れ落ちた。
長瀬は落ちたガラクシアスを茫然と見ている。
「いい的だった」
「私、囮ですか!?」
「まだなんも片付いてないのに来る方が悪い」
「ひどい! 一応端末で早乙女さんから状況は確認しておりますけど! 箱船の場所は特定できたんですね!?」
「だが、さすがに宇宙なんてどうするんだ。こいつらだって箱船からオーパーツで射出して出てきたんだろうに、あそこを破壊するのは」
「できるかできないかで言ったら、なんとかできます!」
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