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昇華
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オーパーツのロボットたちがザッザッと音を立てて移動してくる。それを見た途端に誠が消えた。
「一直線になるよう誘導して。一気に叩く」
その声を聞いて、蛍が「巧兄ちゃん、こっち!」と走りはじめた。
真壁はオーパーツのほうを見る。前に倒したときと同じく、面白みのない動きをしている。普段戦っている異形体のほうが、まだ戦うときにあれこれと考えているが、まるで誰かに決められたような動きしか、ロボットたちはしない。
「……ここまで読みやすい行動してるのは、俺たち馬鹿にされてんのか」
「知らないよ、いっつも数が多くって大変だからさ」
「そうか」
そう言いながら、真壁は水鉄砲のポーズを瓦礫の下に向けた。途端に粘液が射出され、そのまま瓦礫が崩れはじめる。ロボットたちはパタパタと移動してなんとか逃げようとするが、それには蛍が「じゃ・ま」と言いながら蹴り上げることで、動きが鈍くなる。
第一陣をひとまとめにしたところで、誠が「じゃあ、ちょっと離れてー」と軽いノリで言った。
誠が指笛を吹いた途端、ブオォォォォォォォォォォッとひどくけたたましい音が響いた。そして、それと同時に真壁が瓦礫の山に落としたロボットが、みるみる無残な音を立てて崩れていく。
音波。音波がオーパーツの活動経路をズタズタに壊し、そのまま自壊させてしまったのだ。
「よっし、終わり!」
「あぁあ……巧兄ちゃんが瓦礫溶かすほどの毒出すからさあ。結構呆気なく終わっちゃったよね」
「どのみち、時間稼ぎしないと、場所の特定できねえんだろ?」
「うん。帳が今見ててくれてるからさあ」
オーパーツのロボットを破壊しつつ、箱船のマークを誘導する。それでオーパーツ災害を箱船の上に起こして破壊させる。現状一番残りのオーパーツの処分にも向いている考え方だった。
このまま第二陣まで来るのを待つかと、一瞬気が緩んだ途端。
誠が指笛を吹いた。途端に音波で瓦礫が崩れる。
「ちょ……なに?」
蛍が抗議の声を上げる中、誠はヘラリと笑った。
「ごめんねえ、俺ちょっと耳いいからさあ……おたく何者?」
現れた、ツルリと光る光沢を持つ髪。白い甲冑のような服で身を包んでいる男の腰には、剣が提げられていた。
「……お前たちか。このところこそこそ嗅ぎ回っているネズミは」
「んー……アンタ外宇宙人?」
「お前たちにはそう呼ばれているようだな」
「……長瀬をさらった奴の仲間か」
「……お前はたしか、終身刑のか」
誠と蛍が思わず真壁を見る。
「えー……巧、なんか喧嘩しちゃいけない人とヤッちゃった? 喧嘩しちゃった?」
「巧兄ちゃんが終身刑で済む訳ないでしょ!? ちゃんと死刑になるまでヤレるから!」
「おい、馬鹿どもお前ら黙れ。俺じゃなくって、俺のオーパーツに入っている人格のほうだ」
「マジか。お前そんなんに取り込まれかけてたのかよ」
「うるせえ知らねえ」
幼馴染三人がグダグダ言っている中、無視して外宇宙人は腰に提げた剣を抜いた。その剣は日本刀にしては細く、フェンシングに使うような長いものだった。どうして外宇宙人が兵器を持たずに剣を下げているのかは知らないが。
「我が名はプラニーティス。お前たちを屠り、この星を無事に我が母星のように最適化するために来た。邪魔する輩は消えてもらう」
その口調は朗々としていて淀みがない。それに誠が「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「格好いいじゃん。母星のためって」
「いい訳ないでしょ。ボクたちの星、オーパーツのせいでガッタガッタなんだしさ」
「……お前のことは知らん。もう片方にはずいぶんと世話になったがな」
「そうか。俺は勝手に原住民に近付くのは禁じてたんだがな」
プラニーティスと名乗った外宇宙人は、途端に脚を大きく踏み入れて、剣でひとまず蛍を貫こうとするが。蛍はそれより早く自身を発火させた。途端に服は裂かれどこ、火になったおかげで彼を貫くことができなくなった。
「うっぷ……んもう、なにすんのさ!」
「この中で一番弱いのはお前と思っただけだ。お前を狙えば、お前の兄ふたりの行動が直線的になり、読みやすくなると」
「んもう! 外宇宙人って性格悪いのしかいないの!? そもそもこのふたりがボクになにかあったらって、すぐ助けてくれるようなお人好しじゃないし! むしろスパルタ過ぎて、その中で生き残ってるボクはもっと褒められてもいいと思うんだけど!?」
「そりゃそうだろ」
「うん。蛍頑張れ頑張れ。お兄さんたち応援してるから」
「ひっど!?」
適当な軽口をしつつ、真壁はプラニーティスの剣先から目を離さなかった。
(蛍の火でも焦げることがないか……あれ、物質としては地球上のものか? こいつらが有名人の肉体を奪った外宇宙人だということはわかるが)
剣の出先がわかれば、それで毒を用意できる。真壁の毒は早乙女曰く自由に操れるものらしい。
「出せる量や出す成分は君のコントロール次第で自由にできるよ。血液、唾液、汗、体液……それで分けてもいいし、君がもうちょっと勉強して毒を操ればいい。外宇宙人と対峙する場合も、その辺りはあんまり考えなくていい」
「どういう意味だ?」
「外宇宙人は地球人の体を浸食した上で行動しているから、基本的に細胞とかもろもろのルールは異形体よりもよっぽど緩い。あれだね、外宇宙人も多分非合理的なんだと思うよ。どう考えたって異形体のほうが地球人には脅威に見えるし、テラフォーミングだって異形体を何人も出したほうが早く済んだけれど、それを彼らはしなかった」
「……だから、端的に話せ」
「外宇宙人は太陽系外から箱船に乗ってやってきたけど、その頃から今まで、肉体がなかったのが不便で仕方がなかったんだろうさ。だから地球に来てテラフォーミングと同時に地球人への寄生を開始した……。彼らは力こそ人間を遙かに凌雅しているけど、感性は地球人とほとんどなにも変わらないよ」
つまりは、毒は効く。肉体の方が。問題は剣のほうだ。
オーパーツのロボットは、表面コーティングが地球外の鉱石でできており、真壁でも溶かすのは難しく、足場のほうを溶かして誠の音波で破壊したほうが早かった。
このプラニーティスの持つ剣の場合はどうだろうか。
「よそ見か? 原住民はすぐに神経を散らすな」
「……うるせえ」
剣の切っ先が今度は鋭く真壁に飛んできた。なんとか肉眼で見えたが、それでも真壁のライダースーツが少し切れる。
「巧兄ちゃん!」
「……というかさあ。こいつ。ロボットや異形体より踏み出し速くない? 肉体スペック、本当に地球人だよなあ……」
誠の指摘の通り。プラニーティスの剣捌きは明らかに地球にも存在するフェンシングなのだが。彼の踏み込みはかろうじて致命傷を外したものの正確なのだ。
(こいつ……この間の白い男は能力頼りでよくわからなかったが……こいつはシンプルに強い)
プラニーティスの刃は、まるで真壁の体液の毒を検分するかのように、狙い定めた部分を見る。その都度彼の血が流れる。
「……終身刑のあれh、体液が毒になったが。これだけだと毒の成分がわかりにくいな。先程瓦礫を壊したのは、おそらくは硝酸。硝酸で地球上の物質に穴を空けてロボットを落として壊したのだろうが」
「……はっ、うちの科学者みたいな真似しやがる。人の髪の毛から爪垢まで、皆検分された」
あからさまに蛍が怒って抗議の声を上げそうなのを、誠が首根っこ引っ掴んで止める。
プラニーティスは興味深げに真壁を見ていた。真壁は自分の血が流れた場所を見ている。
「……俺の毒は、俺の意思で成分を変えるらしい」
「……厄介な能力だな」
「蛍。火ぃ貸せ」
「火? どうして……あっ!」
わかった途端に、蛍は人体発火をさせた。それに誠は目を見張る。
「あんまりこの辺り木っ端微塵にしないでよ。今、帳の連絡届かなくなったら困るの俺ら」
「知るか。なんとかしろと言っとけ」
「横暴ー、知ってた。うんすごく知ってた」
真壁は傍若無人な物言いをしながら、ただ獰猛に笑った。今この場にはいない長瀬もあまり見たことがない、ただ一緒に暮らして一緒に商売をしていたふたりには見慣れている顔だ。
この土地はルールも価値観も曖昧だ。義理人情が21世紀を過ぎてもなお生き残っている中、旧時代的な暴力も理不尽も息している場所だ。だからこそ、理不尽に楯突くために戦うことがあった。
今は異能が増えただけ。やることはなにも変わらない。
蛍は火を使って、そのまま真壁が散らした血液に火花を降らせていった。途端に、ぐずついたにおいを放ちはじめる。
「おい、これは……まさか……っ」
「ニトログリセン。誠。俺連れてけ」
「へいへい、わかってますよ! 爆薬で敵ごとぶっぱしようなんて、なに考えてるの!」
誠は真壁を肩に背負い、蛍もまたそれに続く。
音速で逃げた先で、大きな火柱と爆発、シューシューとぐずついた黒煙が昇っていくのを眺めた。
「あれで死んだのかね、あいつは」
「わからん。プラニーティスとかいうやつは死んだかもしれねえが、あとひとりいる」
「……まだあの無茶苦茶強いのいるの?」
「あいつ能力としてはお前に似てた」
「えー……勘弁して、俺と同じような異能と戦うなんて無理無理無理無理」
「誠兄ちゃんヘタれたことばっかり言ってさあ。でさ、帳から連絡は?」
【お前らもうちょっと大人しく戦えねえのか。火柱出す戦いなんざ初めて見たわ】
言っている間に、心底呆れた声を上げる帳の声が端末に入ってきた。
「よおっす。俺ら無実。原因巧」
「うるせえ。燃やしたのは蛍だろ」
「ニトログリセンに火を点けたら爆発するに決まってんじゃん」
【……ダイナマイトかよ。馬鹿じゃねえのか。それはさておいて。先程早乙女と話して、だいたいの箱船の位置は特定できた。問題はそこにオーパーツのロボットを集める方法だが】
「させる訳ないじゃないですか」
その場の温度が5度ほど下がったような声が響いた。
真壁は視線を移すと、あの白い甲冑のような出で立ちをした長い髪の男が立っていた。前に病院の前で会ったときは、ニヤニヤとした笑みを貼り付けていたはずなのに、今は怒りを露わにしている。
「あなた方は我々の同胞をこれ以上手にかけて……死にたいようですね?」
「……知るかよ。お前らの理屈なんざ」
さも自分のほうが不幸だ、復讐は我にあり。その手の連中とは真壁はいくらでも会ったしやり合っても来た。
自分のしてきたことを全部棚上げするその神経を、真壁は憎んでいた。
「お前らは殺す。箱船も破壊する。それだけだ」
「だからそれの破壊方法今聞いてるところでしょ!?」
誠の声は無視された。
「一直線になるよう誘導して。一気に叩く」
その声を聞いて、蛍が「巧兄ちゃん、こっち!」と走りはじめた。
真壁はオーパーツのほうを見る。前に倒したときと同じく、面白みのない動きをしている。普段戦っている異形体のほうが、まだ戦うときにあれこれと考えているが、まるで誰かに決められたような動きしか、ロボットたちはしない。
「……ここまで読みやすい行動してるのは、俺たち馬鹿にされてんのか」
「知らないよ、いっつも数が多くって大変だからさ」
「そうか」
そう言いながら、真壁は水鉄砲のポーズを瓦礫の下に向けた。途端に粘液が射出され、そのまま瓦礫が崩れはじめる。ロボットたちはパタパタと移動してなんとか逃げようとするが、それには蛍が「じゃ・ま」と言いながら蹴り上げることで、動きが鈍くなる。
第一陣をひとまとめにしたところで、誠が「じゃあ、ちょっと離れてー」と軽いノリで言った。
誠が指笛を吹いた途端、ブオォォォォォォォォォォッとひどくけたたましい音が響いた。そして、それと同時に真壁が瓦礫の山に落としたロボットが、みるみる無残な音を立てて崩れていく。
音波。音波がオーパーツの活動経路をズタズタに壊し、そのまま自壊させてしまったのだ。
「よっし、終わり!」
「あぁあ……巧兄ちゃんが瓦礫溶かすほどの毒出すからさあ。結構呆気なく終わっちゃったよね」
「どのみち、時間稼ぎしないと、場所の特定できねえんだろ?」
「うん。帳が今見ててくれてるからさあ」
オーパーツのロボットを破壊しつつ、箱船のマークを誘導する。それでオーパーツ災害を箱船の上に起こして破壊させる。現状一番残りのオーパーツの処分にも向いている考え方だった。
このまま第二陣まで来るのを待つかと、一瞬気が緩んだ途端。
誠が指笛を吹いた。途端に音波で瓦礫が崩れる。
「ちょ……なに?」
蛍が抗議の声を上げる中、誠はヘラリと笑った。
「ごめんねえ、俺ちょっと耳いいからさあ……おたく何者?」
現れた、ツルリと光る光沢を持つ髪。白い甲冑のような服で身を包んでいる男の腰には、剣が提げられていた。
「……お前たちか。このところこそこそ嗅ぎ回っているネズミは」
「んー……アンタ外宇宙人?」
「お前たちにはそう呼ばれているようだな」
「……長瀬をさらった奴の仲間か」
「……お前はたしか、終身刑のか」
誠と蛍が思わず真壁を見る。
「えー……巧、なんか喧嘩しちゃいけない人とヤッちゃった? 喧嘩しちゃった?」
「巧兄ちゃんが終身刑で済む訳ないでしょ!? ちゃんと死刑になるまでヤレるから!」
「おい、馬鹿どもお前ら黙れ。俺じゃなくって、俺のオーパーツに入っている人格のほうだ」
「マジか。お前そんなんに取り込まれかけてたのかよ」
「うるせえ知らねえ」
幼馴染三人がグダグダ言っている中、無視して外宇宙人は腰に提げた剣を抜いた。その剣は日本刀にしては細く、フェンシングに使うような長いものだった。どうして外宇宙人が兵器を持たずに剣を下げているのかは知らないが。
「我が名はプラニーティス。お前たちを屠り、この星を無事に我が母星のように最適化するために来た。邪魔する輩は消えてもらう」
その口調は朗々としていて淀みがない。それに誠が「ヒュウ」と口笛を吹いた。
「格好いいじゃん。母星のためって」
「いい訳ないでしょ。ボクたちの星、オーパーツのせいでガッタガッタなんだしさ」
「……お前のことは知らん。もう片方にはずいぶんと世話になったがな」
「そうか。俺は勝手に原住民に近付くのは禁じてたんだがな」
プラニーティスと名乗った外宇宙人は、途端に脚を大きく踏み入れて、剣でひとまず蛍を貫こうとするが。蛍はそれより早く自身を発火させた。途端に服は裂かれどこ、火になったおかげで彼を貫くことができなくなった。
「うっぷ……んもう、なにすんのさ!」
「この中で一番弱いのはお前と思っただけだ。お前を狙えば、お前の兄ふたりの行動が直線的になり、読みやすくなると」
「んもう! 外宇宙人って性格悪いのしかいないの!? そもそもこのふたりがボクになにかあったらって、すぐ助けてくれるようなお人好しじゃないし! むしろスパルタ過ぎて、その中で生き残ってるボクはもっと褒められてもいいと思うんだけど!?」
「そりゃそうだろ」
「うん。蛍頑張れ頑張れ。お兄さんたち応援してるから」
「ひっど!?」
適当な軽口をしつつ、真壁はプラニーティスの剣先から目を離さなかった。
(蛍の火でも焦げることがないか……あれ、物質としては地球上のものか? こいつらが有名人の肉体を奪った外宇宙人だということはわかるが)
剣の出先がわかれば、それで毒を用意できる。真壁の毒は早乙女曰く自由に操れるものらしい。
「出せる量や出す成分は君のコントロール次第で自由にできるよ。血液、唾液、汗、体液……それで分けてもいいし、君がもうちょっと勉強して毒を操ればいい。外宇宙人と対峙する場合も、その辺りはあんまり考えなくていい」
「どういう意味だ?」
「外宇宙人は地球人の体を浸食した上で行動しているから、基本的に細胞とかもろもろのルールは異形体よりもよっぽど緩い。あれだね、外宇宙人も多分非合理的なんだと思うよ。どう考えたって異形体のほうが地球人には脅威に見えるし、テラフォーミングだって異形体を何人も出したほうが早く済んだけれど、それを彼らはしなかった」
「……だから、端的に話せ」
「外宇宙人は太陽系外から箱船に乗ってやってきたけど、その頃から今まで、肉体がなかったのが不便で仕方がなかったんだろうさ。だから地球に来てテラフォーミングと同時に地球人への寄生を開始した……。彼らは力こそ人間を遙かに凌雅しているけど、感性は地球人とほとんどなにも変わらないよ」
つまりは、毒は効く。肉体の方が。問題は剣のほうだ。
オーパーツのロボットは、表面コーティングが地球外の鉱石でできており、真壁でも溶かすのは難しく、足場のほうを溶かして誠の音波で破壊したほうが早かった。
このプラニーティスの持つ剣の場合はどうだろうか。
「よそ見か? 原住民はすぐに神経を散らすな」
「……うるせえ」
剣の切っ先が今度は鋭く真壁に飛んできた。なんとか肉眼で見えたが、それでも真壁のライダースーツが少し切れる。
「巧兄ちゃん!」
「……というかさあ。こいつ。ロボットや異形体より踏み出し速くない? 肉体スペック、本当に地球人だよなあ……」
誠の指摘の通り。プラニーティスの剣捌きは明らかに地球にも存在するフェンシングなのだが。彼の踏み込みはかろうじて致命傷を外したものの正確なのだ。
(こいつ……この間の白い男は能力頼りでよくわからなかったが……こいつはシンプルに強い)
プラニーティスの刃は、まるで真壁の体液の毒を検分するかのように、狙い定めた部分を見る。その都度彼の血が流れる。
「……終身刑のあれh、体液が毒になったが。これだけだと毒の成分がわかりにくいな。先程瓦礫を壊したのは、おそらくは硝酸。硝酸で地球上の物質に穴を空けてロボットを落として壊したのだろうが」
「……はっ、うちの科学者みたいな真似しやがる。人の髪の毛から爪垢まで、皆検分された」
あからさまに蛍が怒って抗議の声を上げそうなのを、誠が首根っこ引っ掴んで止める。
プラニーティスは興味深げに真壁を見ていた。真壁は自分の血が流れた場所を見ている。
「……俺の毒は、俺の意思で成分を変えるらしい」
「……厄介な能力だな」
「蛍。火ぃ貸せ」
「火? どうして……あっ!」
わかった途端に、蛍は人体発火をさせた。それに誠は目を見張る。
「あんまりこの辺り木っ端微塵にしないでよ。今、帳の連絡届かなくなったら困るの俺ら」
「知るか。なんとかしろと言っとけ」
「横暴ー、知ってた。うんすごく知ってた」
真壁は傍若無人な物言いをしながら、ただ獰猛に笑った。今この場にはいない長瀬もあまり見たことがない、ただ一緒に暮らして一緒に商売をしていたふたりには見慣れている顔だ。
この土地はルールも価値観も曖昧だ。義理人情が21世紀を過ぎてもなお生き残っている中、旧時代的な暴力も理不尽も息している場所だ。だからこそ、理不尽に楯突くために戦うことがあった。
今は異能が増えただけ。やることはなにも変わらない。
蛍は火を使って、そのまま真壁が散らした血液に火花を降らせていった。途端に、ぐずついたにおいを放ちはじめる。
「おい、これは……まさか……っ」
「ニトログリセン。誠。俺連れてけ」
「へいへい、わかってますよ! 爆薬で敵ごとぶっぱしようなんて、なに考えてるの!」
誠は真壁を肩に背負い、蛍もまたそれに続く。
音速で逃げた先で、大きな火柱と爆発、シューシューとぐずついた黒煙が昇っていくのを眺めた。
「あれで死んだのかね、あいつは」
「わからん。プラニーティスとかいうやつは死んだかもしれねえが、あとひとりいる」
「……まだあの無茶苦茶強いのいるの?」
「あいつ能力としてはお前に似てた」
「えー……勘弁して、俺と同じような異能と戦うなんて無理無理無理無理」
「誠兄ちゃんヘタれたことばっかり言ってさあ。でさ、帳から連絡は?」
【お前らもうちょっと大人しく戦えねえのか。火柱出す戦いなんざ初めて見たわ】
言っている間に、心底呆れた声を上げる帳の声が端末に入ってきた。
「よおっす。俺ら無実。原因巧」
「うるせえ。燃やしたのは蛍だろ」
「ニトログリセンに火を点けたら爆発するに決まってんじゃん」
【……ダイナマイトかよ。馬鹿じゃねえのか。それはさておいて。先程早乙女と話して、だいたいの箱船の位置は特定できた。問題はそこにオーパーツのロボットを集める方法だが】
「させる訳ないじゃないですか」
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真壁は視線を移すと、あの白い甲冑のような出で立ちをした長い髪の男が立っていた。前に病院の前で会ったときは、ニヤニヤとした笑みを貼り付けていたはずなのに、今は怒りを露わにしている。
「あなた方は我々の同胞をこれ以上手にかけて……死にたいようですね?」
「……知るかよ。お前らの理屈なんざ」
さも自分のほうが不幸だ、復讐は我にあり。その手の連中とは真壁はいくらでも会ったしやり合っても来た。
自分のしてきたことを全部棚上げするその神経を、真壁は憎んでいた。
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