オーパーツ・ディストラクション─君が背負うもの─

石田空

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昇華

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 今の時間帯は学生の登下校の時間帯とも、会社員の出勤時刻ともずれている。道路は閑散として、ただアスファルトに朝日の照り返しがつるりと光っている。
 柏葉はまたしても別行動の中、真壁と長瀬は走っていた。真壁がバイクを走らせている横を、長瀬はワゴン車で併走していた。

「わかってんな、作戦は」
「はい。まずは封鎖地区の住民の移動。そして、大河三兄弟を誘き出して真壁さんたちが戦うんですね」
「どのみち、第二次オーパーツ災害を引き起こさないとならねえってのは面倒だが」
「……箱船に全エネルギーをぶつけないといけないんですもんね」

 早乙女曰く、オーパーツのロボットがなにかと封鎖地区を移動しているのは、マークを付けるためだという。

「つまり、マークの位置を箱船に移動させればいいんでしょうけど、肝心の箱船が……」
「今、早乙女と帳で推定箇所を索敵していると。この間外宇宙人のアジトが見つかった、そのおかげでだいぶ絞れたらしい」
「なら、大丈夫なんですね」

 そうこう言っている間に、封鎖地区が見えてきた。
 今まであれだけ元気にしていた人々が第二次オーパーツ災害が来るということで、避難の荷物をまとめているのが痛々しかった。

「皆さん、大変お待たせしました。どうぞ乗ってください!」
「ああ、すまんねえ。ここ、また戻ってこられるよね」

 いつかおにぎりをごちそうしてくれた主婦は不安げに封鎖地区を振り返って見ていた。
 長瀬視点では、三年前に無茶苦茶になり廃墟になった場所にかろうじてしがみついて生きている人々だが、彼らにとっては離れがたい場所な上、この20世紀の面影を残す場所でのコミュニティーが存在していた。避難をするということは、彼らにそのコミュニティーを捨てろと促さなければいけないことと同義と、背筋を正さなければいけなかった。
 必要最低限の荷物を詰め、長瀬は住民たちが皆ワゴンに乗ったのを確認してから、真壁を見た。

「それでは、皆さんを避難地区にまでお送りします。真壁さんは」
「そろそろ誠も蛍も来るだろ。お前もさっさと行け」
「はい……お気を付けて」
「ああ」

 長瀬は「皆さんそれでは出発します!」とできる限り明るい声を上げながら、車を発車させた。長瀬はあくまで後方支援係であり、戦闘には全くなんの役にも立たない。だが彼らが戦闘に集中できるようにやらなければならないことが多過ぎる。長瀬は急いで走りはじめた。
 真壁は真壁でやることがあるのだから。

****

 長瀬の運転は正確で、できる限り封鎖地区から離れないといけないとわかっていても、交通法を反するほどのスピードは出していない。
 そんな彼女がワゴンで住民たちを避難させるのを真壁が見送っていたら、ひょこっと瓦礫から蛍が出てきた。早乙女からもらったジャージは燃え落ちてないところからして、蛍の異能と相性がよかったのだろう。

「なあに黄昏れてるの、巧兄ちゃん?」
「うるせえ、誰が黄昏れてんだ」
「あの女そこまで気にしなくっても。多分死なないんじゃない?」
「うるせえ」

 蛍との適当が過ぎるやり取りを繰り広げていたら、誠が「アハハ」と笑いながら寄ってきた。

「まあ、うちの住民ほとんどが異能者だけど、力そこまである訳でもねえしなあ。巧が来てくれてよかった」
「……ん」
「まっ、ちゃんと巧を帰してあげないと駄目でしょうねえ」
「だからなに言ってんだ、お前ら」
「ツンデレってね、あんまりツンデレだとただの天邪鬼になるからさあ」

 そうぐだぐだと言っているときだった。
 ガタンガタンガタンガタンと大きく音を立てて瓦礫が揺れた。瓦礫の山をパサパサと崩しながら行進してくるのは、オーパーツで動くロボットだった。

「……オーパーツの欠片には人格が存在するのに、あれどうやって動いてんだ? 外宇宙人か?」
「んー、なんでも帳曰く逆だってさ」
「逆?」
「元々エネルギー源とか動力源に使ってたのが、その星の鉱石で、今俺たちが便宜上オーパーツと言ってるやつ。で、外宇宙の住民を全員退去させるとなったら、その鉱石くらいしかデータ化した人類をアップロードできるものがなかったって」
「じゃあ、あれは普通に壊してりゃいいか」
「なに言ってんのさ。この間は普通に壊してたじゃん」

 蛍は誠の説明にも、真壁の独り言にも興味はなさそうに、全員を燃やした。たちまち瓦礫はシュウシュうと焦げ臭いにおいを放つ。それに身を任せ、真壁は手袋を外した。一方誠は足を大きく一歩踏むと、そのまま見えなくなった。音速で移動しているのだろう。
 それぞれが、オーパーツのロボットを破壊しはじめたのだ。

****

「どうして原住民を逃がしたんですか?」
「この星が綺麗だったからです」
「ドリフォーロス、それでは説明になってませんよ」

 やのつく自由業の邸宅で、相変わらず臥せっているドリフォーロスは、当然ながら兄ふたりに折角捕らえた貴重な終身刑の猛毒に耐えうる原住民を取り逃がしたことで、怒られていた。
 もっとも、ドリフォーロスはこの星で適合した肉体があまりにも虚弱体質だったために、原住民を逃がしたのと同時に臥せってしまい、仕置きらしい仕置きをすることも困難だった。
 箱船で肉体を失ってから長いこと旅を続けてきたのだ、その中でわざわざ弟を殺す意味も彼らにはなかった。
 プラニーティスは目を細めた。

「原住民に絆されたのか?」
「……この星のデータは、母星で閲覧していましたから。綺麗な星でした。僕たちがこのままだと住めないのは残念ですが」
「住みよい最適化を今している最中でしょう? 原住民に何度も抵抗を重ねられましたが、マーキングが終わりそうなんです。これであとは箱船を起動すれば、この星の最適化は完了します。この星が我々のものになるんです。この弱々しいあなたの体だって、最適化されるでしょう」
「……それはどうなんでしょうね、ガラクシアス兄様」

 ドリフォーロスは天井を見上げた。
 箱船では、温度を感じることもなく、時間経過を肌にすることもなかった。
 虚無。データ化すれば永遠に生き長らえることができるとかつては言われていたが、彼らの母星の技術をもってしても、ハードの限界を超えることは不可能であった。
 データをコピーして新たなハードに移し替えても、少しずつ元のデータは削られていく。コピーされていったデータが見えない形で少しずつ欠落していくように、どれだけ生きたいと願っても、永遠に生きることは不可能なのだ。
 彼らの母星も、ハードの限界を迎えたがために滅びの道を進んだ。今、地球と呼ばれる惑星を彼らの母星のように最適化したところで、どれだけ持つのかがわからない。
 兄たちに「弱い」と一笑に付された肉体を得たことで、ドリフォーロスは気付いてしまった。自分たちは鉱石に全データを移し替えた時点で既に一度死に、地球の原住民の肉体を得たところで、自分が死んだという事実は替えられないということに。

「僕たちはきっと……この星からいずれ弾かれて消えてしまいます。憎まれてそのまま忘れられてしまうより、違う方法で永遠を生きたいと思っただけなんです」
「体が虚弱になると哲学に走るのか?」

 ガラクシアスはロマンティストだが、プラニーティスは徹底した現実主義だった。
 今残っている鉱石に全データを移し替えた人々のための肉体も住む場所も、この星が最適化されない限り意味がないから、この星を奪うことに全く躊躇はない。彼はこの中でロマンもへったくれもなく、「この星の原住民の体を全部奪えば終わる話では」と本気で思っている。
 その辺りを知っているドリフォーロスはにっこりと笑った。虚弱な原住民の体では、もう笑っているとか顔を歪めているのかがわからなくなってしまっていたが。

「いいえ……事実です。この星の人たちに嫌われたら忘れられてしまうと、僕たちの旅がなかったことにされてしまうと、それだけがどうしようもなく怖いんです」
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