オーパーツ・ディストラクション─君が背負うもの─

石田空

文字の大きさ
21 / 25
昇華

しおりを挟む
 なんとか宇宙防衛機構の本部に到着した頃には、既にとっぷりと夜が更けていた。
 早乙女は「じゃあ報告書出してね」と言われてしまった長瀬は、がっくりしながら事務室で報告書を打ちに戻る中、真壁は「おい」と早乙女に声をかけた。

「今長瀬くんに報告書つくってもらってるけど。真壁くんからしてみて、今回の件で思うところがあったのかな?」
「……外宇宙人が長瀬を狙った。意味がわからん。あいつにオーパーツの欠片が突き刺さったが、それは刺さっただけで、あいつを乗っ取ることがなかった」
「あらまあ」
「外宇宙人の内のひとりが、長瀬を逃がしたが。あいつはもうちょっとで外宇宙人に解剖されるところだった」
「んー……仮説はいくつかあるけど、これあくまで今までの情報集積による仮説だし、今長瀬くんにつくってもらってる報告書によっては変わるけど、聞きたい?」
「あんたわかるのか、それ」
「これでもオーパーツ災害のときから、オーパーツについて研究してる第一人者だしねえ」

 早乙女はそう言いながら、真壁のほうを指差した。

「まず君の異能だけど。多分これ、普通に外宇宙人たちにとってもまずいもんじゃないの?」
「……そんなことはそいつも言っていた。終身刑がどうのこうの」
「なあるほど。じゃあますますそっちの仮説でいいのかな? オーパーツにはひとつひとつ人格がある。君みたいに適合してしまってオーパーツに詰められた人格に肉体を乗っ取られることのなかったのはいるみたいだけど、その人格がある場合、君に突き刺さったオーパーツを嫌う連中だっているんじゃないかな?」

 真壁は心底嫌そうな顔をしたが、早乙女は気に留めることもない。真壁は本気で嫌がった場合は「殺す」と言うが、黙るだけだと、怒り度合いはそこまで高くないからだ。
 早乙女は続ける。

「だから君に付き合いたくない。まあ、水穂くんに取り憑いてたオーパーツの欠片みたいに例外処置はあるみたいだけどね」
「俺が外宇宙人に嫌われるのはわかったが。で、長瀬がオーパーツに人格乗っ取られない理由は?」
「そこまで言ってもまだわからないぃ~? まあ、真壁くんの場合、その手のこと疎いから仕方ないか。これねえ……」

 そこまで言い、内容を告げると真壁は眉間に思いっきり皺を寄せた。もうちょっとで「殺す」と言いかけたが、それを口にするのも不快なのか、きつくきつく押し黙ってしまった。
 それに早乙女は「アハハ!」と笑う。

「まあ頑張ってくれたまえよ。僕ぁ、君ら面白いって思ってるからさあ」
「なにをだ」

 真壁が切って捨てている中、早乙女が「おっ」と言った。彼の手元のタッチパネルに、長瀬の報告書が宇宙防衛機構のサーバーに上がった旨の報告が入ったのだ。

「じゃあ報告書の精査をはじめるから。君はゆっくり休みたまえよ。作戦立案し次第、行動開始だからねえ」
「……わかってる」

 真壁はフンと鼻息を立てた。
 彼からしてみれば、元々は故郷に帰りたかっただけだ。その故郷の人々はあの状況でも存外逞しく生きていてくれたのはよかったが。同時に危険が孕んでいる。
 そもそも箱庭がなにかがわからない。龍脈に細工をされたら、地球規模で危険だとはわかっている。そんなもんをいくら国から受注されているとはいえど、いち民間企業に任せるものなのかとも疑問は沸くが。
 オーパーツで既にひどい目に遭っている人々がいる。そもそも彼の故郷の人間は共同墓地にすら入れてやれてない状況だ。せめて、亡くなっている人々にまともな眠りくらいはつかせてやりたかった。
 命を賭ける理由には足りなくとも、戦う理由には充分だった。

****

 翌朝。
 その日は宿泊室で寝ていた長瀬は、腰をグキグキさせながら、体操をしていた。
 朝に「おはようございます」といつの間に帰ってきたのか柏葉に挨拶され、それを返しつつ、真壁を探しに行く。
 真壁はトレーニングルームで相変わらず全身ライダースーツのままトレーニングをしていた。
 鉄棒を使っての腹筋運動。彼の流す汗は猛毒だが、その毒はライダースーツに染みて流れることはない。

「おはようございます」
「ん」
「今日は待機で、作戦立案し次第封鎖地区に移動って聞いたんですけど」
「らしいな」
「……真壁さんは、これ終わって、封鎖地区を解放された場合って、宇宙防衛機構を辞めてあちらに戻るんですか? 復興の手伝いとか、いろいろありますし……」

 あの外宇宙人関連に決着をつけたら、いい加減大河総理だってあの地区を腐らせる真似はしないだろう。そう思って長瀬が尋ねると、真壁は「はあ」と息を吐いた。

「なんですか」
「俺はここを辞める気はねえ」
「……どうしてですか?」
「あそこは誠なり蛍なりがいるから、大丈夫だろ。あそこの連中はお前が思ってるよりもずっと強い」
「私もそうとは思いますけど……」
「あそこから出て、故郷追われた連中がいる。そいつらがまたオーパーツに浸食されることを考えたら、俺はここにいたほうがいいだろ」
「……真壁さん、ときどきすごく優しいですね」
「はあ?」

 長瀬はときどきあまりに素っ頓狂なことを言うせいか、真壁の声は途端に低くなる。
 普通ならそこで腰が引けるが、既に長瀬はさんざん真壁の暴言に慣れてしまっているから、そこまで怯むことがない。

「いえ。真壁さん、態度はものすごく悪いですけど、一度助けると決めた人たちのことは守ってくれますので。それがとても嬉しいと思っただけです」
「……そこまで褒められるようなことはしてねえ」
「知ってます。私は、それがいいと思っただけです」

 そう言っている中、端末に連絡が入った。

【作戦立案完了しました。各エージェントは会議室に集まってください】

「行きましょうか」

 長瀬に促され、真壁は鉄棒から降りて会議室へと向かった。

****

「封鎖地区調査にて入った調査報告により、だいたいの敵の目的は掴めた。敵の親玉と呼ばれるものは、箱船と取って間違いない」
「……箱船、ですか? 箱船を守っている大河三兄弟の体を乗っ取っている外宇宙人ではなくて?」
「どちらかというと、彼ら三人は箱船という神を奉っている祭司と思ったほうがいい。そもそも彼らは地球人の体を乗っ取り、地球人の人格を学習した上でしゃべっているから、さも地球人っぽいと思われているだけで、彼らは好き嫌いも快不快も人間に近付いているだけで、思考自体は人間とは違うと思ったほうがいい」
「そうなんですか?」

 そもそも完全に深度5になり心身の浸食が完了してしまった外宇宙人に出会ったのは、真壁と長瀬くらいだ。早乙女は会ってないのに断言できるものなのか。
 納得のいかない長瀬の言葉に、早乙女は苦笑する。

「たしかに一度話をしている長瀬くんは違和感を覚えるかもしれないね。僕の意見に。だがね。彼らはたしかにオーパーツに人格データ、遺伝子データ、能力データを入れて、オーパーツの欠片に入れられたデータ自体は、完璧に外宇宙人だけれど、地球人の体に浸食をはじめた時点で、地球人のデータをどうしてもインストールしてしまっている。そのせいで、外宇宙人と地球人の倫理観や価値観の違いが丸わかりになってしまっているんだよ。たとえば水穂くんだけれどね。彼女は一度オーパーツに浸食を受け、深度4まで行って、危うく肉体を完全に掌握されるところだった。あのときの彼女としゃべっていたのは、長瀬くんと真壁くんだけれど。君たちはどう見た?」
「……あれを水穂さんとは思えなかったんですけど」
「そうか? 俺はあの購買の店員に限りなく近いと思ったが」

 長瀬は元々水穂とは数少ない職場の女友達という付き合いをしていたが、真壁はそうじゃない。真壁の場合は同じ職場で働いている長瀬以外に接点のない女だ。
 ふたりのちぐはぐな回答に、早乙女は「だろうね」と頷いた。

「おそらくオーパーツの欠片の浸食を決めるのは、オーパーツの欠片に入力された各人格と身体データが限りなく近い人間なんだろうね。オーパーツは適合しない体を勝手に遺伝子操作して乗っ取ろうとするが、その遺伝子操作の際に、オーパーツは地球人を得体の知れない異形体に変えてしまうのは、おそらく外宇宙人にとっても想定外だ。あれだとテラフォーミングを進めることはできても、対話による外宇宙人同士の統治は難しい」
「想定外なのに……それでも無理矢理進めるのは……」

 柏葉が渋い顔をすると、長瀬が割り込む。

「……箱庭に乗ってやってきた外宇宙人たちは、既に母星が消滅していると聞いています。食糧問題で全員をそのまま乗せることができず、鉱石に生命データを全部コピーして乗せたと」
「要は彼ら、既に人間としては終わってるってことかい?」
「うん。地球人の概念だとそうなる。外宇宙人からしてみれば、データがある限りは死なないって考えなのかもしれないけどね。で、話を戻す。彼らは箱船による指令で、オーパーツを射出し、テラフォーミングを促そうとしていた。そして地球の龍脈に母星のデータを流し込んで、テラフォーミングを促進させようとしているのが、現状だ」
「……それが、封鎖地区。ですね?」
「うん。このまま行ったら、まず間違いなく地球人が住める環境ではなくなるから、箱船の破壊が最優先だ」
「あのう……それで封鎖地区の人たちがオーパーツの浸食に耐え切れたのは」
「これに関しては真壁くんやら入院している人たちからのデータ収集による推測だけれど。龍脈の関係だろうね。地球の活力の影響を受けているから、外宇宙人たちによるオーパーツ浸食に耐え切り、異能に目覚めるだけで済んだ。引っ越したりなんだったりして、龍脈の影響下から外れた場合は、どうしてもそれから外れるんだけれどね」

 どうも封鎖地区で今も外宇宙人たちに抵抗できているのは、彼らがオーパーツの人格浸食を逃れて異能だけ手に入れた結果らしい。この辺りも外宇宙人たちからは想定外だったのかは、さすがに長瀬もわからないが。

「で、箱船なんぞどうするんだ。あのオーパーツでできたロボットだって邪魔だし。そもそもあの外宇宙人たち、体が人間なだけでほぼ異能者と変わらんが。あいつらどうにかしながら箱船壊すのも、さすがに骨が折れる」
「うん。さすがに直接箱船を壊すのは無理があるからね。そのために封鎖地区の人たちには避難してほしいんだけどさあ」
「……あの、なにする気ですか?」
「あちらが第二次オーパーツ災害を起こそうとするならば、それを利用すればいい」

 だんだん、早乙女の立案したやばい計画の片鱗が見えてきた。

「箱船を第二次オーパーツ災害の震源地にして、破壊させればいい」

 なんでこと言ってくれるんだ、このクソマッドサイエンティスト。
 その場にいた全員が、心をひとつにしてそう思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜

上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■ おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。 母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。 今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。 そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。 母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。 とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください! ※フィクションです。 ※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。 皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです! 今後も精進してまいります!

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

下級武士の名の残し方 ~江戸時代の自分史 大友興廃記物語~

黒井丸
歴史・時代
~本作は『大友興廃記』という実在の軍記をもとに、書かれた内容をパズルのように史実に組みこんで作者の一生を創作した時代小説です~  武士の親族として伊勢 津藩に仕える杉谷宗重は武士の至上目的である『家名を残す』ために悩んでいた。  大名と違い、身分の不安定な下級武士ではいつ家が消えてもおかしくない。  そのため『平家物語』などの軍記を書く事で家の由緒を残そうとするがうまくいかない。  方と呼ばれる王道を書けば民衆は喜ぶが、虚飾で得た名声は却って名を汚す事になるだろう。  しかし、正しい事を書いても見向きもされない。  そこで、彼の旧主で豊後佐伯の領主だった佐伯權之助は一計を思いつく。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...