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律動
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真壁は星の名前なぞ知らない。
彼には学がなく、周りにも取り立てて空を眺めるのが好きな知人がいなかった。
そもそも、今のご時世。空から降ってくるのはオーパーツであり、空が光ると同時にアラートが鳴る。空の光イコールアラートが染み込んでしまった現代において、空はすっかりとオーパーツと軍の独壇場となってしまった。
だから、夜までオーパーツ回収の任務に追われ、やっと本部に帰れることになったとき、長瀬が「今日は星が綺麗ですねえ」と言ったとき、「なに寝ぼけたこと言ってるんだ、この女」と本気で思ったのだ。
長瀬は星が好きらしく、宇宙防衛機構の滅多にない閑散期のときは、水穂と世間話する以外は早乙女になにかずっと聞いては勉強している。
「俺にはそれがいいもんかわからねえが」
「面白いですよ。あのよく光って見える星があるでしょう? ベガ・アルタイル・デネブ。繋げると夏の大三角形になるんですよ」
「……星と星を繋げてなんになるんだ?」
「たしかに、今のご時世だとあんまり意味がないかもしれませんけどね。でも、未だに地球人は太陽系から出ることができなくって、太陽系の外はどうなっているのか、誰も知らないんです。オーパーツだって外宇宙から来たのに、私たちはいったいどこからどうやってオーパーツが来たのか、未だに解明できてません。それって、ロマンだと思いませんか?」
普段口やかましい長瀬は、空や星の話になった途端、やけに饒舌になる。
真壁は鬱陶しいとは思うが、「黙れ」と思ったこともなく、彼女の話をバイクを走らせたながら黙って聞いていた。
長瀬は言葉を続ける。
「私が小学生だった頃は、まだ異能体とかオーパーツの弊害とかよくわかってなかったんで、林間学校に行ったらテントを張って星を見るってイベントがあったんですよ。あのとき、星をたくさん見て、たくさん星座を見つけて……」
星が光っている。この数日は熱帯夜がなりを潜め、バイクを走らせると夜風が心地いい。長瀬に腰にしがみつかれて昼間は暑くて鬱陶しかったが、今はそうでもない。
「どうしたら星をたくさん見ることができるようになれるかって調べてみたら、宇宙飛行士になるのが手っ取り早くないかって言われたんですね。まさか私が進路希望出している間に、オーパーツ災害の弊害でどんどん宇宙開発の法律が変わって、今だと民間以外ではほとんど募集がかからなくなるなんて思ってませんでしたし、折角宇宙関連の仕事に就けたのに、ずっとオーパーツ回収する仕事することになるなんて思ってませんでしたけど」
「そうか」
「アハハハハ……」
いきなり笑い出した長瀬に、真壁は怪訝な顔をした。振り返ることはできないが。
「笑うところがあったか?」
「いや。私がこの話をすると、真面目に聞いてくれるのは早乙女さんくらいだったんで。早乙女さんもものすごく変わってる方ですから。他の人に言ったら、ものすごく憐れみを込めて『夢は命を賭けてまで叶えようとするものじゃないよ』って言われてしまいますから。そう言われたら、なんだか楽になってしまったんですよ。ありがとうございます」
真壁はせいぜい故郷に帰りたいだけで、故郷に帰れたらどうしたいかとかは、考えたこともなかった。封鎖地区にいるはずの古馴染みたちの無事を確認したい、せめて放置されてるであろう住民たちを墓に入れてやりたい。それから先のことなんて考えていなかった。
長瀬の話は、真壁にはスケールが大き過ぎていまいちよくわからない。
外宇宙のロマンが自分の人生とどう関わりがあるのかが全く想像できないからだ。
だが。夢を見ることを窘められるのは、それはなにかが違うような気がした。
真壁は息を吐いた。
「真壁さん?」
「俺には正直、お前の話がなにひとつわからん」
「あー……すみません。天気よかったんではしゃぎ過ぎましたね」
「別に黙れとは言ってない。ただ、空を見てられるようになればいいと思った。それだけだ」
「……ありがとうございます」
他愛ない会話が過ぎて、長瀬が覚えているのかは真壁も知らない。
ただ、そのときのことを真壁はよく覚えていた。
夜風が気持ちよかったのか、全く知らない話に興味を持ったのか、はたまた、普段口うるさい女が数少なくしおらしかったと思ったのか、真壁本人もわかってない。
ただ漠然と「この女に星空を取り戻したい」と、明日の飯の種以外のことをまともに考えたことのなかった彼に、初めて違う夢が湧き上がった、それだけだった。
****
バイクが走っている。既に交通法違反のスピードだが、そもそも封鎖地区に交番はない。
真壁が走ったのは、帳が割り出した彼の情報網だと特定できない場所。そこまで走ると、この地区に昔いた地主の家が見えてくる……上がいなくなったのか、オーパーツ災害を機に引っ越したのか、この土地に長年住んでいた真壁もよくは知らない……。
そこでブレーキをかけ、このまま正面突破するか、裏口から侵入するか迷っていたら、こちらに走ってくるのが見えた。
長瀬は日頃着ているジャケットはなく、そのまま走り出してきたのだ。
「おい」
「真壁さん! 走ってください! まだ見つかってませんけど、私見つかったら解剖されます!」
「……なにやらかした?」
「失礼な、なにもしてませんよ。私があちらにとって珍しいから、解剖して検証しようとしてたみたいですけど、嫌なので逃げます!」
「そうかよ……」
そのままバイクを走らせる。今は晩秋。彼女がしがみついていてもそこまで鬱陶しく思うこともない。
「なにがあった?」
「外宇宙人の目的を聞いてました」
「……親切に教えてくれるもんなのか?」
「あの中に、ひとり元の体の子と対話をして、話をしていた子がいましたから」
「ジャケットないのはそのせいか?」
「……あの子虚弱体質みたいだったんで、逃がしてくれたお礼にあげました」
長瀬の変な人のよさに、真壁は脱力する。
「後で誠経由で帳に連絡入れとけ。あれだ、この場所絞り出してくれたのは」
「お礼なにがいいですかね、必要な物資のほうがいいのか、食料のほうがいいのか」
「寒くなるなら燃料だろ」
「ああ!」
やけに機嫌がよさそうな長瀬の話を聞きながら、真壁はバイクを走らせた。先程の交通法違反のスピードではなく、長瀬が「いくら国営だからって警察にしょっ引かれたらコトですよ!」と怒鳴ることもない。
長瀬は端末で「長瀬、無事に脱出できました。これから帰還します」と連絡をすると、向こうから連絡があった。
【長瀬くん、無事脱出おめでとう。一応だけど、話の概要教えて】
「ここでですか?」
【帳くんみたいに勝手にハッキング仕掛けられると困るしね。うちの本部を戦場にされるとものすっごく困る】
「……わかりました」
長瀬の仕入れてきた情報は、宇宙防衛機構としても重要なものだったらしく、端末越しに周りがざわついているのが真壁にもわかった。
やがて早乙女が【うん、わかった】と声を上げる。
【今までここまで引っこ抜けることできなかったのにねえ……数は力だ。あと本当にまずいね】
「箱船の対処……ですか?」
【そうそう。あれをそのまま使われるのは、はっきり言ってまずい。第二のオーパーツ災害をどうにかできる気力も資源も、地球上にはないよ。だから箱船を潰すのは最優先事項だ】
「でも……今まで私たちは箱船の存在を知りませんでしたけど、それをどうやって……」
【そのためにずっと柏葉くんにお使い頼んでたしねえ。あとは、柏葉くんが帰ってきてから、作戦決行かなあ】
「……わかりました?」
長瀬は困りながらも、一旦通信を切った。
「そういえば、柏葉さん私たちと一緒に封鎖地区に行ってからどこに出かけたんですか?」
「知らん。誠たちのところにもいなかった」
「あの人が早乙女さんから受けてた仕事って……」
柏葉の仕事がなにかはわからないが、ひとまずは彼の合流を待つしかないのだろう。
****
柏葉が宇宙防衛機構にいる理由。
警察からの出向は本当。警察と宇宙防衛機構の橋渡しも本当。彼の元の所属が警備部は半分本当で半分嘘。彼は警備部から引き抜かれている。公安に。
かつて宇宙機構と呼ばれていた民間組織に国が権限を与えるというのは、国でも反対意見が多かったが、警察や軍が外宇宙からの対処をするには、専門知識も対処法もなかった。宇宙開発を目指す民間組織にはそれらの知識はあったが、戦闘手段がなかった。
結果として、宇宙防衛機構に出向の際、国家を揺るがすと判断した情報は即座に上に上げるために、柏葉は送られたのだが。
彼の本当の所属はそこの変人科学者に気付かれてしまった。彼はただ変人なだけでなく、元々は神童として渡英するほどの実力を持っている人間だ。
「君が公安だっていうの、やっぱりうちの子たちには言わないほうがいいかな?」
「……自分を脅したってなにも出ませんよ。というよりよくわかりましたね?」
「別に? ただ柏葉くんは情報漏洩対策が万全だなあと思っただけ。もちろんSPだから護衛が仕事なのはわかっているけど、それにしたって君、護衛対象の護衛が最優先なのに、ここまで徹底してるかなと思ってさ」
「……それで、自分の正体を突き止めてどうしたいんですか」
「うん。単刀直入に言うけどさ、うちに攻撃仕掛けられてるよね? 大河総理の政敵から。あれなんとかしてくれないと、こっちとしても困るからさあ」
あまりにも事もなげに言い出した早乙女の発言に、柏葉が頬をヒクリとさせた。
「……そりゃ知ってますけど」
「君がこちらの情報を売っているとは思わないけどさ。大河総理は任期満了まで在任してくれないとこちらも困る。オーパーツに対してまともに理解を示して、うちに予算や人手を出してくれた総理なんて、あの人くらいだからさあ。そいつら、外宇宙人に情報漏洩している疑いがあるからさ」
「……それ、自分に言ってしまっていい話なんですか?」
「だって君、現政権側の人間だろう? 公安がこちらをわざわざマークしている以上、大河総理を嵌めて追い出そうとは考えないはずだし、うちがいないとオーパーツに対処できないはずだし」
「……自分にさせたいのは?」
「単刀直入に言って、政敵を追い払ってほしい。真壁くんが来てくれてからこっち、うちもやっとまともに人間でもオーパーツの対処ができそうな技術が開発できそうなんだよ。それの邪魔をされたら困る」
それに柏葉の中は揺れ動いた。
「……わかりましたよ。はい」
だから大河三兄弟の体を奪った外宇宙人たちに接触している人間を見つけ出す必要があった。そしてそれは、簡単に見つかった。
「困りますよ、うちの政権脅かすような真似をされては」
「……犬が。権力を持つ人間にはすぐ尻尾を振って」
「犬だとよく言われますけどね。俺は国の犬なんです。総理の犬でも、宇宙防衛機構の犬でも、ましてや公安の犬でもありませんよ」
日頃宇宙防衛機構で飄々としている姿はどこにもいない。
ただ常に天秤をかけ、どちらが国益になるかを考えるだけの、犬を名乗るはかりがここに存在しているだけだ。
彼には学がなく、周りにも取り立てて空を眺めるのが好きな知人がいなかった。
そもそも、今のご時世。空から降ってくるのはオーパーツであり、空が光ると同時にアラートが鳴る。空の光イコールアラートが染み込んでしまった現代において、空はすっかりとオーパーツと軍の独壇場となってしまった。
だから、夜までオーパーツ回収の任務に追われ、やっと本部に帰れることになったとき、長瀬が「今日は星が綺麗ですねえ」と言ったとき、「なに寝ぼけたこと言ってるんだ、この女」と本気で思ったのだ。
長瀬は星が好きらしく、宇宙防衛機構の滅多にない閑散期のときは、水穂と世間話する以外は早乙女になにかずっと聞いては勉強している。
「俺にはそれがいいもんかわからねえが」
「面白いですよ。あのよく光って見える星があるでしょう? ベガ・アルタイル・デネブ。繋げると夏の大三角形になるんですよ」
「……星と星を繋げてなんになるんだ?」
「たしかに、今のご時世だとあんまり意味がないかもしれませんけどね。でも、未だに地球人は太陽系から出ることができなくって、太陽系の外はどうなっているのか、誰も知らないんです。オーパーツだって外宇宙から来たのに、私たちはいったいどこからどうやってオーパーツが来たのか、未だに解明できてません。それって、ロマンだと思いませんか?」
普段口やかましい長瀬は、空や星の話になった途端、やけに饒舌になる。
真壁は鬱陶しいとは思うが、「黙れ」と思ったこともなく、彼女の話をバイクを走らせたながら黙って聞いていた。
長瀬は言葉を続ける。
「私が小学生だった頃は、まだ異能体とかオーパーツの弊害とかよくわかってなかったんで、林間学校に行ったらテントを張って星を見るってイベントがあったんですよ。あのとき、星をたくさん見て、たくさん星座を見つけて……」
星が光っている。この数日は熱帯夜がなりを潜め、バイクを走らせると夜風が心地いい。長瀬に腰にしがみつかれて昼間は暑くて鬱陶しかったが、今はそうでもない。
「どうしたら星をたくさん見ることができるようになれるかって調べてみたら、宇宙飛行士になるのが手っ取り早くないかって言われたんですね。まさか私が進路希望出している間に、オーパーツ災害の弊害でどんどん宇宙開発の法律が変わって、今だと民間以外ではほとんど募集がかからなくなるなんて思ってませんでしたし、折角宇宙関連の仕事に就けたのに、ずっとオーパーツ回収する仕事することになるなんて思ってませんでしたけど」
「そうか」
「アハハハハ……」
いきなり笑い出した長瀬に、真壁は怪訝な顔をした。振り返ることはできないが。
「笑うところがあったか?」
「いや。私がこの話をすると、真面目に聞いてくれるのは早乙女さんくらいだったんで。早乙女さんもものすごく変わってる方ですから。他の人に言ったら、ものすごく憐れみを込めて『夢は命を賭けてまで叶えようとするものじゃないよ』って言われてしまいますから。そう言われたら、なんだか楽になってしまったんですよ。ありがとうございます」
真壁はせいぜい故郷に帰りたいだけで、故郷に帰れたらどうしたいかとかは、考えたこともなかった。封鎖地区にいるはずの古馴染みたちの無事を確認したい、せめて放置されてるであろう住民たちを墓に入れてやりたい。それから先のことなんて考えていなかった。
長瀬の話は、真壁にはスケールが大き過ぎていまいちよくわからない。
外宇宙のロマンが自分の人生とどう関わりがあるのかが全く想像できないからだ。
だが。夢を見ることを窘められるのは、それはなにかが違うような気がした。
真壁は息を吐いた。
「真壁さん?」
「俺には正直、お前の話がなにひとつわからん」
「あー……すみません。天気よかったんではしゃぎ過ぎましたね」
「別に黙れとは言ってない。ただ、空を見てられるようになればいいと思った。それだけだ」
「……ありがとうございます」
他愛ない会話が過ぎて、長瀬が覚えているのかは真壁も知らない。
ただ、そのときのことを真壁はよく覚えていた。
夜風が気持ちよかったのか、全く知らない話に興味を持ったのか、はたまた、普段口うるさい女が数少なくしおらしかったと思ったのか、真壁本人もわかってない。
ただ漠然と「この女に星空を取り戻したい」と、明日の飯の種以外のことをまともに考えたことのなかった彼に、初めて違う夢が湧き上がった、それだけだった。
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バイクが走っている。既に交通法違反のスピードだが、そもそも封鎖地区に交番はない。
真壁が走ったのは、帳が割り出した彼の情報網だと特定できない場所。そこまで走ると、この地区に昔いた地主の家が見えてくる……上がいなくなったのか、オーパーツ災害を機に引っ越したのか、この土地に長年住んでいた真壁もよくは知らない……。
そこでブレーキをかけ、このまま正面突破するか、裏口から侵入するか迷っていたら、こちらに走ってくるのが見えた。
長瀬は日頃着ているジャケットはなく、そのまま走り出してきたのだ。
「おい」
「真壁さん! 走ってください! まだ見つかってませんけど、私見つかったら解剖されます!」
「……なにやらかした?」
「失礼な、なにもしてませんよ。私があちらにとって珍しいから、解剖して検証しようとしてたみたいですけど、嫌なので逃げます!」
「そうかよ……」
そのままバイクを走らせる。今は晩秋。彼女がしがみついていてもそこまで鬱陶しく思うこともない。
「なにがあった?」
「外宇宙人の目的を聞いてました」
「……親切に教えてくれるもんなのか?」
「あの中に、ひとり元の体の子と対話をして、話をしていた子がいましたから」
「ジャケットないのはそのせいか?」
「……あの子虚弱体質みたいだったんで、逃がしてくれたお礼にあげました」
長瀬の変な人のよさに、真壁は脱力する。
「後で誠経由で帳に連絡入れとけ。あれだ、この場所絞り出してくれたのは」
「お礼なにがいいですかね、必要な物資のほうがいいのか、食料のほうがいいのか」
「寒くなるなら燃料だろ」
「ああ!」
やけに機嫌がよさそうな長瀬の話を聞きながら、真壁はバイクを走らせた。先程の交通法違反のスピードではなく、長瀬が「いくら国営だからって警察にしょっ引かれたらコトですよ!」と怒鳴ることもない。
長瀬は端末で「長瀬、無事に脱出できました。これから帰還します」と連絡をすると、向こうから連絡があった。
【長瀬くん、無事脱出おめでとう。一応だけど、話の概要教えて】
「ここでですか?」
【帳くんみたいに勝手にハッキング仕掛けられると困るしね。うちの本部を戦場にされるとものすっごく困る】
「……わかりました」
長瀬の仕入れてきた情報は、宇宙防衛機構としても重要なものだったらしく、端末越しに周りがざわついているのが真壁にもわかった。
やがて早乙女が【うん、わかった】と声を上げる。
【今までここまで引っこ抜けることできなかったのにねえ……数は力だ。あと本当にまずいね】
「箱船の対処……ですか?」
【そうそう。あれをそのまま使われるのは、はっきり言ってまずい。第二のオーパーツ災害をどうにかできる気力も資源も、地球上にはないよ。だから箱船を潰すのは最優先事項だ】
「でも……今まで私たちは箱船の存在を知りませんでしたけど、それをどうやって……」
【そのためにずっと柏葉くんにお使い頼んでたしねえ。あとは、柏葉くんが帰ってきてから、作戦決行かなあ】
「……わかりました?」
長瀬は困りながらも、一旦通信を切った。
「そういえば、柏葉さん私たちと一緒に封鎖地区に行ってからどこに出かけたんですか?」
「知らん。誠たちのところにもいなかった」
「あの人が早乙女さんから受けてた仕事って……」
柏葉の仕事がなにかはわからないが、ひとまずは彼の合流を待つしかないのだろう。
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柏葉が宇宙防衛機構にいる理由。
警察からの出向は本当。警察と宇宙防衛機構の橋渡しも本当。彼の元の所属が警備部は半分本当で半分嘘。彼は警備部から引き抜かれている。公安に。
かつて宇宙機構と呼ばれていた民間組織に国が権限を与えるというのは、国でも反対意見が多かったが、警察や軍が外宇宙からの対処をするには、専門知識も対処法もなかった。宇宙開発を目指す民間組織にはそれらの知識はあったが、戦闘手段がなかった。
結果として、宇宙防衛機構に出向の際、国家を揺るがすと判断した情報は即座に上に上げるために、柏葉は送られたのだが。
彼の本当の所属はそこの変人科学者に気付かれてしまった。彼はただ変人なだけでなく、元々は神童として渡英するほどの実力を持っている人間だ。
「君が公安だっていうの、やっぱりうちの子たちには言わないほうがいいかな?」
「……自分を脅したってなにも出ませんよ。というよりよくわかりましたね?」
「別に? ただ柏葉くんは情報漏洩対策が万全だなあと思っただけ。もちろんSPだから護衛が仕事なのはわかっているけど、それにしたって君、護衛対象の護衛が最優先なのに、ここまで徹底してるかなと思ってさ」
「……それで、自分の正体を突き止めてどうしたいんですか」
「うん。単刀直入に言うけどさ、うちに攻撃仕掛けられてるよね? 大河総理の政敵から。あれなんとかしてくれないと、こっちとしても困るからさあ」
あまりにも事もなげに言い出した早乙女の発言に、柏葉が頬をヒクリとさせた。
「……そりゃ知ってますけど」
「君がこちらの情報を売っているとは思わないけどさ。大河総理は任期満了まで在任してくれないとこちらも困る。オーパーツに対してまともに理解を示して、うちに予算や人手を出してくれた総理なんて、あの人くらいだからさあ。そいつら、外宇宙人に情報漏洩している疑いがあるからさ」
「……それ、自分に言ってしまっていい話なんですか?」
「だって君、現政権側の人間だろう? 公安がこちらをわざわざマークしている以上、大河総理を嵌めて追い出そうとは考えないはずだし、うちがいないとオーパーツに対処できないはずだし」
「……自分にさせたいのは?」
「単刀直入に言って、政敵を追い払ってほしい。真壁くんが来てくれてからこっち、うちもやっとまともに人間でもオーパーツの対処ができそうな技術が開発できそうなんだよ。それの邪魔をされたら困る」
それに柏葉の中は揺れ動いた。
「……わかりましたよ。はい」
だから大河三兄弟の体を奪った外宇宙人たちに接触している人間を見つけ出す必要があった。そしてそれは、簡単に見つかった。
「困りますよ、うちの政権脅かすような真似をされては」
「……犬が。権力を持つ人間にはすぐ尻尾を振って」
「犬だとよく言われますけどね。俺は国の犬なんです。総理の犬でも、宇宙防衛機構の犬でも、ましてや公安の犬でもありませんよ」
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