オーパーツ・ディストラクション─君が背負うもの─

石田空

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律動

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 長瀬の必死の訴えに、ドリフォーロスは目を伏せる。

「……教えてほしい情報とは、どのようなものでしょうか? ……ゲホッ」

 突然ドリフォーロスは背中を丸めて咳き込みはじめたのに、慌てて長瀬は背中をさすろうとするが、そもそも座敷牢に閉じ込められているのだから背中を撫でられる訳もない。

「大丈夫!? ……というより、なんで? たしか……外宇宙人は、地球人の体をオーパーツを通じて乗っ取ると聞いていたのに……」
「……僕たちの母星は、長い戦争が滅びました。だから皆で新たな故郷を求めて箱船に乗って母星から離れることになりましたが……食料は母星の住民分もある訳がありません。ですから、僕たちは鉱石に意思を移したんです」
「ああ、それがオーパーツ……欠片ひとつが、人ひとり分とは聞いていたけれど」
「はい。ようやく僕たちの故郷に近い惑星を発見しましたが、最初は惑星免疫により、適正化はできませんでした」

 この辺りは早乙女から聞いていた話と一致している。長瀬はスタンガンに手をかけたまま、ドリフォーロスから話の続きを聞いた。先程の呼吸困難のような咳から一転、彼の呼吸は落ち着いているように見えた。

「このままでは僕たちは故郷を得られないと判断し、箱船のシステムに任せて、最適化する人選をしたのです。その中で、僕たちは致命的なミスを冒しました。正確には箱船のプログラムですが……」
「……待って、その箱船っていうのは、あなたたちが乗ってきた宇宙船ってことでいいの?」
「違います。ですが、僕たちの意思を移し替えた鉱石を運んでいた船です。自動プログラムで生命が住める最適化環境に移動し、簡単に住めないと判断したら、その都度最適化行動を取ります」

 要は箱船は、文字通り彼らの故郷からの脱出船圏今までのテラフォーミングを行おうとしていた自動プログラムのことを指すらしい。
 そのことを長瀬は脳裏に刻み込みつつ、ドリフォーロスを観察した。
 兄ふたりと比べると、彼だけ異様に地球人と……というより、麟太郎本人と近いのは、なにか関係があるのか。長瀬がじっくりとドリフォーロスのことを観察している間に、話の続きが語られた。

「僕たちは鉱石化していますから、その間動くことも考えることもできません。どの惑星の人間も、肉体がないと考えることが不得手のようでして。ですから、僕たちが意思を持つには肉体が必要でした。箱船はその最適な地球人をピックアップして、射出していたんです」
「つまり、今までのオーパーツ災害やオーパーツ襲撃は、箱船の計算によるものだったと考えていい?」
「大体は。ただ、兄ふたりが肉体を手に入れてからは様子が変わりました。僕たちは、箱船が地球人の肉体を得ようとして、僕たちの同胞を異形体にしていることを、肉体を手に入れるまで知らなかったのです。彼らは……遺伝子を暴走させて、僕たちの母星人でも、地球人や地球生命体ですらないなにかに成り果てていました」

 その言葉に、長瀬は唇を噛んだ。
 彼女は既に、オーパーツが起こす事件を知っている。異形体になってしまった人たちは、真壁が異能者になり、ドリフォーロスたちの同胞の力を奪って得た毒がなかったら、全員殺されていた。元に戻す方法がなかったのだから。
 今も無理矢理遺伝子を外宇宙人に合うように弄られてしまっているんだ。中には程度が低くてすぐに退院できた者たちもいるが、そのほとんどは過酷なリハビリをしてからでなかったら病院から出ることもできないし、一度異形体になってしまった人々は、異形体として暴れ回った記憶が原因で体外は奇異の目で見られるため、転職や転校を余儀なくされている。
 彼らの人生を滅茶苦茶にしたという自覚が彼らにはないのだ。

(彼らは母星がなくなって、命からがら逃げてきたんだろうけど……地球人は人生計画から故郷まで壊され過ぎている……本当に悪気がないって……たちが悪過ぎる)

 そのことにギリッとしている中、ドリフォーロスはなおも背中を丸めて咳き込みはじめた。たまりかねて長瀬は叫んだ。

「もう、開けて! ちゃんと背中撫でてあげるから!」
「……っ、すみま、せ……ゲホッゲホッ!」

 ドリフォーロスは言われるがままに座敷牢の戸を外から開けると、長瀬は黙って座敷牢から出て、階段に座って彼の背中を撫ではじめた。
 彼は日本風の浴衣を着ていたが、その浴衣越しに背中をさすって愕然とする。

(この子……肉がない? 大河三兄弟の末っ子はあまりマスコミの前に出てこなかったし、慈善活動に勤しんでたのは、自分がもう余命幾ばくかもわからなかったんじゃ……なんでそんな体にこの子は取り憑いたの?)

「……ありがとうございます。背中さすられるのって気持ちいいですね」
「……あなたのお兄さんたちはしたことがないの? 地球で薄着でうろうろしているのは普通に体に悪いんだけど」
「僕たちの母星は、温度の概念があまりありませんでしたから……体が弱いっていうのも、わかりませんでした……でも、彼と話をして、少しわかりました」
「彼って……」
「肉体の持ち主と僕は、鉱石の欠片を通じて、少し話をしましたから」
「……っ!」

 それは水穂も少しだけ話していたような気がする。オーパーツの中の外宇宙人と地球人は、欠片を通じて対話できるときと、できないときとある。
 長瀬はゴクリと唾を飲み込みつつ、彼の話に耳を傾けた。

「彼は、僕に体を明け渡す際も、『苦しいから、替わってほしい』と言っていました。僕はこの体の遺伝子を弄ることはできませんでした。僕に最適化されている体だから、弄れば僕に合わなくなる……でも、弄らなかったから、僕が彼に替わって彼の病気を引き受けたんです」
「……だからあなたは、地球人とほとんど見た目が変わらなかったのね」
「これで満足しましたか?」
「……箱船は、なにをしようとしているの? ここは龍脈……地球のエネルギーが流れている場所だって聞いた。ここをあなたたちに弄られたら才悟、地球は大変なことになると」」
「……箱船は何度も何度も計算し、僕たち以外の同胞を得ようと躍起になりましたが、途中で終身刑者に阻害され、僕たちの計画が瓦解しかかっていると聞きました。彼の毒は、僕たち同胞を殺してしまうから」

(真壁さんだよね、多分……彼が引き当てた異能、とんでもないものだったんだ……)

「ですから」

 ドリフォーロスは答えた。

「この星にもう一度、大量に鉱石を降らせます。ここにマーキングして、母星からのエネルギーを元に」
「……ちょっと待って。それって、三十年前のオーパーツ災害の再来を起こすって、そう言っているの?」
「おーぱーつさいが……ああ、三十年前に発案した箱船による最適化行動ですね。はい、そのようなことを兄様たちはおっしゃっていましたが……僕は、それには反対です」

 意外だと思い、思わず長瀬は彼を見る。ドリフォーロスは弱々しく笑った。

「僕はこの星、母星みたいに穴ぼこだらけにするのが最適化とは思えないんです。空が青くて、雨が降って、透明な川がある……綺麗な場所だと思います。人が溶けるような酸性雨ではないし、晴れても空が黄ばんでないのは美しいです」

 そうしみじみとドリフォーロスが言っていた。
 それに長瀬は言葉を詰まらせる。彼は正直、あの兄ふたりを考えたらあまりにも善良な上、地球にも理解を示してくれている。だが。
 あの兄ふたりが違う。彼らは長瀬のことを地球人とは思っていない。自分たちが所有する星に先に住んでいた原住民扱いだ。そもそも、彼らの話はだいぶ入手できたものの、肝心のどうして長瀬にはオーパーツが浸食できないのか、なんの納得のできる説明がないのだ。

「……ここから出して。私、帰りたい」
「どうぞ」
「……あなた、お兄さんたちから怒られない?」
「僕はもう一度故郷を失っています。二度も故郷を失うくらいだったら、この星で骨を埋めたいんです。苦しんで先に旅立ってしまった彼の分も」

 今までSNSでは、一度も麟太郎が病弱だったという話は流れていない。だがそもそも遺伝子を弄ることができるドリフォーロスが弄れなかったのだから、よっぽどのことだろう。
 長瀬はドリフォーロスに頭を下げる。

「ごめんなさい、ありがとう」
「どうか、よき旅を」

 それはどういう意味だろうと思いながら、長瀬はあの怖い兄ふたりに見つからないよう、必死に逃げはじめた。

****

「はあ……巧がそんな顔できたんだ。はあ、はあ」
「うるせえ誠。とやかく言うな」

 長瀬を無理矢理連れさらわれた真壁は、そのまま旧知の隠れ家に飛び込んだと思ったら「いいから長瀬を探せ」と命令したのだった。横暴以外の何者でもない。
 帳は七面倒くさそうな顔をしながらも、各地の回線から情報を抜きはじめた。

「外宇宙人に体を完全に乗りパクされた連中がいるとしたら、封鎖地区以外ねえんだが」
「その根拠は」
「ひとつ。オーパーツでできたロボットが出てくるのは封鎖地区だけ。ひとつ。俺の異能が使えない場所があるのもここだけ。最後のひとつ、あの女がさらわれたのは、あちらも同胞が欲しいのにそれを阻害する力を持ってるあの女を脅威に思ったから。おそらくあちらは強い力を持っていても、人手自体は足りない」

 帳の説明を真壁はわからないという顔をしていた。隣では蛍も誠も「わからない」という顔をしているのに、帳は「あーあーあーあー」と癖毛を引っ掻く。

「わからねえなら何故聞いた!?」
「あいつがどこ行ったか知りたかっただけだ」
「ノロケかよ!」
「そんなんじゃねえ。ただ」

 真壁は帳がキーボードを叩く音を聞きながら、なにが映っているのかいまいちわからないモニターを仰いでいた。

「あの女に星空を返してやりたいだけだ」
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