へっぽこ人形師は完全無欠な彼氏が欲しい

石田空

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理想の王子様をつくる

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 貴族令嬢のために、理想の王子様の人形をつくったことは、いくらでもある。シリル型人形をつくったのだって、シリルさんをモデルにだったし。
 でも、実在の王子様にそっくりでなおかつ絶対に人形に見えるものをつくらなきゃいけないというので、ラフ画を今までで一番描いた。
 もしかしてラモーナ様の無茶ぶりはベアトリス様のさらなる無茶ぶりのための予行練習だったのではないかというくらい、私は迷いながら線を引き、描いた。
 OKが出たのは、一冊まるまるスケッチブックを没にした末、やっと許可が降りた。
 私がゼイゼイ息を切らしている中、ベアトリス様がにこにことしている。

「素敵ですわ。さすが騎士団で噂の人形師様。それでは、よろしくお願いしますね」
「はい、ありがとうございます……あのう」

 これ以上話をしたら不敬罪になるんだろうか。でも今依頼を受注したところだから、人形つくり終わるまでは首は無事だと思う。
 私の問いに、ベアトリス様は目をぱちくりとする。

「まあ……わたくしでよろしければ」
「私はずっと王都の端っこで商売をしていましたが……騎士団で有名だったんですか、私?」
「そうですわねえ」

 ベアトリス様はニコニコと笑った。

「王立学園で、騎士団の方に惹かれているものの、爵位の問題でどうにもならなかった方は多いですわ。せめて人形と恋愛ごっこをしたいと願った際、その要望をかなえてくださる人形師は稀少なんですよ」

 そう言うのに、私は「あー」と頭を抱えた。
 ……ラモーナ様、あなた試験石扱いされてますよ。ラモーナ様は幸せな結婚できたからいいのかもしれないけれど。
 私は「それでは、頑張りますね」と挨拶をしてから、店に戻ると、一旦気を鎮めるために、水差しの水を飲んだ。
 頭がシャッキリしたところで、発注書を貼り、ラフ画を広げると人形のパーツを磨きはじめた。
 他の人形だって手を抜いている訳ではないけれど、これはシリルさんとの出会いのきっかけになった人形づくりで得た依頼なのだから、絶対に失敗できない。私は丁寧に磨ぎあげた。

****

 プロム用人形のために、それぞれの服を仕立てる。
 買ってきた布を、それぞれ組み立てたパーツに合わせながら、布の色合いを決める。
 王子様に似合う色ということで、私はスノーホワイトの色の布を選び、それでドレスコートを仕立てることにした。
 隣国の国花はマーガレットであり、それを白い刺繍糸で入れる。これで、光加減で布地に国花が浮かび上がるようになる。
 それをカタカタミシンをかけていたところで、どたどたと足音が響いてきた。さすがに預かっている依頼が依頼なため、カウンター越しに見守るだけにとどまった。

「エスター」
「いらっしゃいませ。なんかもう、すごい依頼いただきました。これ、シリルさんのせいですか?」
「というより、俺そっくりな人形をつくったお前のせいだろうが」
「アハハハハハハ……私が断れると思いますか?」
「全く思わんが。その衣装は」

 私がミシンをかけている布に目を留めるのに、私は頷いた。

「そうですよ、これがベアトリス様の依頼です」
「いつもよりも細工が細かくないか? そこまで無茶ぶりを……」
「というかですねえ、国際問題にならないよう、ものすっごく美形でありながら、本人に似てないラインっていう依頼、私も初めて受けましたし、今途方に暮れているところですよ」
「むっ……そおまで難しい依頼だったか?」
「そうでーす」
「……それは、すまない」

 そう言いながら、シリルさんはしょげた。
 この人のおかげで仕事が増えたものの、こんな顔をされてしまったら、これ以上どうこう言えない。
 私はミシンをかけ終えてから、一旦ハンガーに縫いかけのジャケットをかけながら言う。

「怒っているんじゃないんですよ。ただ、難しいというだけで」
「なら、断るのか?」
「やらなきゃいけない仕事を断るほど、私も落ちぶれてはいません。ただシリルさん、私がこれだけのプレッシャーの中仕事しなきゃいけなくなったんですから、責任は取ってくださいよ」
「責任」
「パブでご飯をおごるとかです……私ひとりじゃなかなか行けませんから」

 途端にシリルさんは視線を逸らした。なんで。

「……わかった、善処する。ああ、少し出る。また戻る」
「なんですか? シリルさん別にうちでなんか買わないでしょうが」
「だから待ってろ」

 またこの人もいい加減なこと言っているなあ。
 私は首を捻りながら、一旦縫ったジャケットに、ストーブで温めたアイロンで型を付けている。ジャケットの型を付けたら、またもう一度縫ってジャケットを丈夫にしていく作業だ。
 袖ぐりを固めに縫い、飾りボタンを縫っていく。更に刺繍を施して袖ぐりをさらに丈夫にしていく作業をしている中。シリルさんが本当に戻ってきた……なんか甘い匂いを漂わせて。

「はい?」
「そろそろ焼けるから買ってきた」
「焼けたって……いい匂いですね?」
「パブでお茶の時間限定に出るアップルクランブだ」
「わあ……!」

 出来立て熱々のクランブをたっぷりとかけた蜜がけリンゴ。それをくるんと生地に巻かれて差し出された。それをひと口食べると、クランブがホロッと崩れ、リンゴの甘味と酸味も合わさって、ものすっごくおいしい。

「おいしいです……! ありがとうございます……!」
「そうか。仕事頑張れよ」
「はいっ」

 私がムシャムシャ食べている中、シリルさんは自分用に買ってきたらしいジンジャーエールを飲んでいた。
 この人とまた一緒にパブに行きたい。そう思ったら、やる気が満ちてきて、夜の自律稼働の歯車に魔力を込めるのも、翌朝の人形たちの顔の化粧も、苦ではなくなった。
 髪の毛をセットし、髪型を脂を塗りつけながら合わせる。それぞれ歯車を付け、パーツを組み立て、服を着せたとき。

「……よし」

 流れる栗色の髪。通った鼻筋。玉虫色の瞳。どこからどう見ても綺麗だけれど、人形にしか見えない美しい青年型恋人人形が歓声した。
 あとはこの人形を納品すれば……。
 私はそうのんびり考えていた。
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