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ダリアとひまわりの花束を
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私とシリルさんが一緒に暮らしはじめてから、一緒に住む家を捜しはじめた。
条件として、たくさんの布と人形の材料を取り扱える場所。できる限り受注した人たちが買いに行きやすいように街道側。あとシリルさんの担当箇所からあまり離れない場所がいいと思ったものの、意外なことにシリルさんが首を振った。
「別に俺のことを考えなくってもいいぞ。赴任先は、騎士団に言えば変えられるからな」
「ええ……そんな簡単に言っちゃっていいんですかぁ……」
「結婚するとなったら、どの道、寮を出ないといけないからな。家に合わせることは普通だ。でないと急な呼び出しに対応できない」
「ああ……なるほど」
騎士団が普通に機能するためにも、普通に詰め所に入れるっていうのは絶対条件だから、そうなっちゃうのか。
でも家賃を考えたら、やっぱり王都の中心部に近ければ近いほど高いので、やっぱり困っちゃうと思っていたら。
意外なところで古屋が手に入ってしまった。
中心部の付近で、貴族が夜逃げしてしまったので、空きっぱなしの家を格安で売りに出されてしまったのだ。それをシリルさんが押さえてくれた。
「どうしてこんな中心部の家を、格安で売ってるんですか?」
「むしろ中心部では治安維持のために、なるべく早めに空き家を埋めるか取り壊すかっていうのは普通だ。空き家は放置しておいたら、盗賊や詐欺師が住み着く場合が多い。だから空き家が出たら真っ先に騎士団が押収した上で売りに出すんだ」
「ああ、なるほど……」
王都の、しかも王様たちのお膝元が犯罪の拠り所になってしまったら大変なんだろう。
私たちが引っ越しの準備をする中、シリルさんは私が日頃用意している人形のパーツを不思議そうな顔で見ていた。
「これ……本当に人形なんだな? 木にしか見えないが」
「ちゃんとニスを塗って、磨かないと人形にはなりませんよぉ」
「……動いてたら人にしか見えないが」
「そりゃそういう風につくっていますし」
「……不思議なもんだな」
小さなパーツは瓶に詰め、大きなパーツは壊れないように一旦ひと括りにして、布を巻いておく。服やパーツに使うものを箱の中に詰めていた。
商売道具を一生懸命詰めている中、シリルさんは私の私物のなさに絶句していた。
「……服の数は少ないし、私物が鍋と食材くらいしかないが?」
「そうですねえ。私、ずぅーっと人形つくってましたから、それ以外の趣味はあんまりありませんでした」
「いや、それは駄目じゃないのか!? そもそもエスターの服、俺が贈ったもの以外はほぼ黒しかないが!?」
「うーん、正装になるのが私の場合は魔女だって一発でわかるものですし、あとはローブ羽織ったらそのまんま正装になりますから。騎士が騎士団の正装を着るようなもので?」
「……なんだか、違わないか?」
シリルさんにガックリと肩を落とされる。
そうは言われてもなあ。私は荷物をまとめつつ、シリルさんに振り返る。
「そうは言われても。シリルさんがいなかったら、多分私、もっと黒い服しか持ってなかったと思います。そもそもあなたくらいですよ。私のこと褒めそやす人。似合わないと思ってた色の服、買ったりつくるほど私も暇じゃないですし」
「いい加減、季節が終わるから、そろそろ買いに行かないとな」
なにを買うんだろうなあと、私は呑気に思いながら、ひとまとめにした。
ドライハーブ類は一旦日常生活用品と一緒にまとめ、食材は食べられるものは全部食べてしまおう。
引っ越し先に向かうための馬車を予約してから、私たちはスペースの狭くなった場所でくっついて寝た。
こんな慌ただしい日は、そうなかなかないなあと思いながら。
****
私が元々借りていた人形屋は、一階の店舗部分以外は狭い二階部分に台所も寝所も押し込められていた。
そう考えたら、夜逃げした貴族邸は、郊外の貴族邸と比べたら狭いけれど、一階も広々としているし店の部分を差し引いてものびのびと暮らせそうだった。
夜逃げしたせいか、一部の家具は捨てられることなく放置されていたため、一部は古道具屋さんに引き取ってもらうにしても、使えそうなものはまたよく拭いてから使えそうなことも嬉しかった。
私の荷物だけでなく、シリルさんが寮を引き払って持ってきた荷物を入れても、部屋数があるからなんとかなりそうだった。
私が掃除と片付けを同時にしながらせっせと運んでいる中、シリルさんは王都中心部の屋台まで買い物に行っている。台所の掃除や魔法石の取り付けができないと、シリルさんだと火を熾せないようにできていたため、食事を買いに行ってもらっている。私がいつも使えたらいいけれど、私が忙しいと魔力切れ起こしているからなあと、魔法石を台所の近くに置いておくことにした。
手持ちの荷物はほぼ店のためのものだったし、私物はほぼ片付け終わってしまった。
店舗の展示をどうしようかなと、窓際に見える場所に、人形を組み立てて服を着せてから飾ろうとしていたところで、ドアが開いた。
「エスター」
「ああ、お帰りなさいシリルさん……あら?」
私はシリルさんが屋台で買ってきたケーキと一緒に持ってきたものに目を留めた。
真っ赤なダリアの花と、小ぶりのひまわりがあしらわれた花束だった。いきなりそれを差し出されて、私は困った顔をする。
「あ、あのう?」
「……エスターは、服が汚れるのは嫌がるし、人形が汚れるのも嫌がるから、花を贈るタイミングがなかった。しかし、そろそろ季節も終わるし、そろそろ買わないと、また来年まで贈ることもできないと思った。俺は贈ると言っていたが」
「あ、ああ……!」
そういえば、言っていたような気がする。ダリアとひまわりの花は、本来だったら派手過ぎて暑苦しくなりそうなのに、緑の茎が瑞々しい色をしているおかげで、一緒に並んでいても派手になり過ぎずちょうどいい。
花瓶はうちにはないけれど、お酒を入れていた瓶があったので、それを洗って活けることにした。
「ありがとうございます……綺麗ですね」
「そうか、よかった」
「でも……シリルさん本当にどうしたんですか? まとまった休みの期間中に結婚したいと押しかけて来たと思ったら、引っ越しも花束も、ずっと慌ただしくて」
花を店のカウンターに並べながら私が不思議がって言うと、シリルさんは耳まで真っ赤にしながら、口を開く。
「……すまん。俺は言葉が足りないとは言われる」
「というか、いつも足りないじゃないですか」
「……勝手に向こうから人がやって来るせいで、上手く口説いたことがない」
「あー……」
そういえば、お義母様もそのあたりをずいぶんと心配されていた。
シリルさんはシリルさんで、顔だけは王子様みたいだから、勝手に持ち上げられまくるものの、理想通りに振る舞えないせいで、縁談もすぐ破談になると。
この人が口が悪くなってしまったのも、それが先に来たからだと。私からしてみれば、最初こそさんざんお口の悪い人だとは思ったものの、今はこの人なりに意地になっていただけなんだなあと理解している。
そう思っていたから、最近のシリルさんの突飛過ぎる行動は、本当にどうしたのと心配になっていたのだけれど。
私が続きを促すと、シリルさんは髪を引っ掻きながら口を開いた。
「……口が下手だから、態度で示すしかないと思っていたが。まさか魔女界隈では、言葉にしないと口説いたことにならないと、知らなかったんだ」
「まあ……あれ。結局うちの店にずっと通っていたのは、つまりはそういうことだったんですか?」
「それは……実家に連れて行ったときに、話をしたと思っていたが」
「……私、まさかそんなに早めから口説かれていたとは、全然思ってませんでした」
「結婚前にそれを言うか」
そう言いながら、シリルさんは背中に腕を回してきた。元々身長差があるため、すっぽりとシリルさんに覆われているような感覚に陥る。
背中に腕を回そうにも回りそうもなく、仕方がないから裾を掴んでいたら、軽く頬にキスをされる。
「……いい加減に、お前が魅力のある人だと自覚してくれ」
「私、シリルさんに試し行動なんて取ってませんよ……ただ、好かれる自信がないだけですから。ただ、シリルさんのことが好きなだけですよ」
そう伝えた途端、シリルさんはビクリッと肩を跳ねさせた。
「……頼むから、あまり煽るな」
「煽ってませんってば。本当の本当に、そう思っているだけですからぁ……」
引っ越し後の片付けに、屋台のケーキも花も放置して、ただ抱き合っているのは新婚の特権だということにしておく。
婚前恋愛禁止条例。
元々が貴族の婚約破棄騒動が原因で怒った国が発動した、少々問題のある条例。相変わらず撤廃される気配はないし、人形師はそれのあおりを受けて迷惑をこうむっているけれど、ちょっとだけ奇跡が起こった。
その奇跡をいろんな人に広げることが、人形師の仕事だと、今はそう思っている。
<了>
条件として、たくさんの布と人形の材料を取り扱える場所。できる限り受注した人たちが買いに行きやすいように街道側。あとシリルさんの担当箇所からあまり離れない場所がいいと思ったものの、意外なことにシリルさんが首を振った。
「別に俺のことを考えなくってもいいぞ。赴任先は、騎士団に言えば変えられるからな」
「ええ……そんな簡単に言っちゃっていいんですかぁ……」
「結婚するとなったら、どの道、寮を出ないといけないからな。家に合わせることは普通だ。でないと急な呼び出しに対応できない」
「ああ……なるほど」
騎士団が普通に機能するためにも、普通に詰め所に入れるっていうのは絶対条件だから、そうなっちゃうのか。
でも家賃を考えたら、やっぱり王都の中心部に近ければ近いほど高いので、やっぱり困っちゃうと思っていたら。
意外なところで古屋が手に入ってしまった。
中心部の付近で、貴族が夜逃げしてしまったので、空きっぱなしの家を格安で売りに出されてしまったのだ。それをシリルさんが押さえてくれた。
「どうしてこんな中心部の家を、格安で売ってるんですか?」
「むしろ中心部では治安維持のために、なるべく早めに空き家を埋めるか取り壊すかっていうのは普通だ。空き家は放置しておいたら、盗賊や詐欺師が住み着く場合が多い。だから空き家が出たら真っ先に騎士団が押収した上で売りに出すんだ」
「ああ、なるほど……」
王都の、しかも王様たちのお膝元が犯罪の拠り所になってしまったら大変なんだろう。
私たちが引っ越しの準備をする中、シリルさんは私が日頃用意している人形のパーツを不思議そうな顔で見ていた。
「これ……本当に人形なんだな? 木にしか見えないが」
「ちゃんとニスを塗って、磨かないと人形にはなりませんよぉ」
「……動いてたら人にしか見えないが」
「そりゃそういう風につくっていますし」
「……不思議なもんだな」
小さなパーツは瓶に詰め、大きなパーツは壊れないように一旦ひと括りにして、布を巻いておく。服やパーツに使うものを箱の中に詰めていた。
商売道具を一生懸命詰めている中、シリルさんは私の私物のなさに絶句していた。
「……服の数は少ないし、私物が鍋と食材くらいしかないが?」
「そうですねえ。私、ずぅーっと人形つくってましたから、それ以外の趣味はあんまりありませんでした」
「いや、それは駄目じゃないのか!? そもそもエスターの服、俺が贈ったもの以外はほぼ黒しかないが!?」
「うーん、正装になるのが私の場合は魔女だって一発でわかるものですし、あとはローブ羽織ったらそのまんま正装になりますから。騎士が騎士団の正装を着るようなもので?」
「……なんだか、違わないか?」
シリルさんにガックリと肩を落とされる。
そうは言われてもなあ。私は荷物をまとめつつ、シリルさんに振り返る。
「そうは言われても。シリルさんがいなかったら、多分私、もっと黒い服しか持ってなかったと思います。そもそもあなたくらいですよ。私のこと褒めそやす人。似合わないと思ってた色の服、買ったりつくるほど私も暇じゃないですし」
「いい加減、季節が終わるから、そろそろ買いに行かないとな」
なにを買うんだろうなあと、私は呑気に思いながら、ひとまとめにした。
ドライハーブ類は一旦日常生活用品と一緒にまとめ、食材は食べられるものは全部食べてしまおう。
引っ越し先に向かうための馬車を予約してから、私たちはスペースの狭くなった場所でくっついて寝た。
こんな慌ただしい日は、そうなかなかないなあと思いながら。
****
私が元々借りていた人形屋は、一階の店舗部分以外は狭い二階部分に台所も寝所も押し込められていた。
そう考えたら、夜逃げした貴族邸は、郊外の貴族邸と比べたら狭いけれど、一階も広々としているし店の部分を差し引いてものびのびと暮らせそうだった。
夜逃げしたせいか、一部の家具は捨てられることなく放置されていたため、一部は古道具屋さんに引き取ってもらうにしても、使えそうなものはまたよく拭いてから使えそうなことも嬉しかった。
私の荷物だけでなく、シリルさんが寮を引き払って持ってきた荷物を入れても、部屋数があるからなんとかなりそうだった。
私が掃除と片付けを同時にしながらせっせと運んでいる中、シリルさんは王都中心部の屋台まで買い物に行っている。台所の掃除や魔法石の取り付けができないと、シリルさんだと火を熾せないようにできていたため、食事を買いに行ってもらっている。私がいつも使えたらいいけれど、私が忙しいと魔力切れ起こしているからなあと、魔法石を台所の近くに置いておくことにした。
手持ちの荷物はほぼ店のためのものだったし、私物はほぼ片付け終わってしまった。
店舗の展示をどうしようかなと、窓際に見える場所に、人形を組み立てて服を着せてから飾ろうとしていたところで、ドアが開いた。
「エスター」
「ああ、お帰りなさいシリルさん……あら?」
私はシリルさんが屋台で買ってきたケーキと一緒に持ってきたものに目を留めた。
真っ赤なダリアの花と、小ぶりのひまわりがあしらわれた花束だった。いきなりそれを差し出されて、私は困った顔をする。
「あ、あのう?」
「……エスターは、服が汚れるのは嫌がるし、人形が汚れるのも嫌がるから、花を贈るタイミングがなかった。しかし、そろそろ季節も終わるし、そろそろ買わないと、また来年まで贈ることもできないと思った。俺は贈ると言っていたが」
「あ、ああ……!」
そういえば、言っていたような気がする。ダリアとひまわりの花は、本来だったら派手過ぎて暑苦しくなりそうなのに、緑の茎が瑞々しい色をしているおかげで、一緒に並んでいても派手になり過ぎずちょうどいい。
花瓶はうちにはないけれど、お酒を入れていた瓶があったので、それを洗って活けることにした。
「ありがとうございます……綺麗ですね」
「そうか、よかった」
「でも……シリルさん本当にどうしたんですか? まとまった休みの期間中に結婚したいと押しかけて来たと思ったら、引っ越しも花束も、ずっと慌ただしくて」
花を店のカウンターに並べながら私が不思議がって言うと、シリルさんは耳まで真っ赤にしながら、口を開く。
「……すまん。俺は言葉が足りないとは言われる」
「というか、いつも足りないじゃないですか」
「……勝手に向こうから人がやって来るせいで、上手く口説いたことがない」
「あー……」
そういえば、お義母様もそのあたりをずいぶんと心配されていた。
シリルさんはシリルさんで、顔だけは王子様みたいだから、勝手に持ち上げられまくるものの、理想通りに振る舞えないせいで、縁談もすぐ破談になると。
この人が口が悪くなってしまったのも、それが先に来たからだと。私からしてみれば、最初こそさんざんお口の悪い人だとは思ったものの、今はこの人なりに意地になっていただけなんだなあと理解している。
そう思っていたから、最近のシリルさんの突飛過ぎる行動は、本当にどうしたのと心配になっていたのだけれど。
私が続きを促すと、シリルさんは髪を引っ掻きながら口を開いた。
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「まあ……あれ。結局うちの店にずっと通っていたのは、つまりはそういうことだったんですか?」
「それは……実家に連れて行ったときに、話をしたと思っていたが」
「……私、まさかそんなに早めから口説かれていたとは、全然思ってませんでした」
「結婚前にそれを言うか」
そう言いながら、シリルさんは背中に腕を回してきた。元々身長差があるため、すっぽりとシリルさんに覆われているような感覚に陥る。
背中に腕を回そうにも回りそうもなく、仕方がないから裾を掴んでいたら、軽く頬にキスをされる。
「……いい加減に、お前が魅力のある人だと自覚してくれ」
「私、シリルさんに試し行動なんて取ってませんよ……ただ、好かれる自信がないだけですから。ただ、シリルさんのことが好きなだけですよ」
そう伝えた途端、シリルさんはビクリッと肩を跳ねさせた。
「……頼むから、あまり煽るな」
「煽ってませんってば。本当の本当に、そう思っているだけですからぁ……」
引っ越し後の片付けに、屋台のケーキも花も放置して、ただ抱き合っているのは新婚の特権だということにしておく。
婚前恋愛禁止条例。
元々が貴族の婚約破棄騒動が原因で怒った国が発動した、少々問題のある条例。相変わらず撤廃される気配はないし、人形師はそれのあおりを受けて迷惑をこうむっているけれど、ちょっとだけ奇跡が起こった。
その奇跡をいろんな人に広げることが、人形師の仕事だと、今はそう思っている。
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