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エルヴィスタム遺跡での戦い
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コンスタンスは縛られたまま、ただ連行されていた。
石造りの遺跡は、どこもかしこも光が入れられている……これだけ明るいのは王城ですら滅多になく、魔科学により古代大戦時代に存在していた技術が使われているのだろうと察することができた。
それを見ていたら、やがて遺跡内でも拓けた場所に出た……まるで演劇の舞台上のような場所。唯一おかしいと思うのは、そこに敷かれた魔方陣とその魔方陣を取り囲む大量の管だろう。
「コンスタンスさん……あなたは古代兵器を召喚し、戦う術を持っていると聞き及んでおります。その古代兵器召喚の際に、莫大な魔力を消費していると」
「そのようですわね」
「あなたの膨大な魔力……それを吸収すれば、エルヴィスタム遺跡中に眠る全ての古代兵器が起動します……そうなれば、王都を転覆することも可能」
「……まさかと思いますが、遺跡発掘をしておられた宰相は、それに気が付いて、王都を乗っ取ろうとなさったのですか?」
「そのようですね。当然ながら、このような奇妙奇天烈な方法、誰もが反対しました……馬鹿馬鹿しい上に、魔力がもったいないと。今時マナの使い過ぎによる環境問題も叫ばれている中、合理的ではないと……ですが、宰相は『やってみたい』という狂気に駆られてしまいました」
コンスタンスはその言葉に思いっきり顔をしかめてしまった。
これを「この馬鹿たれ」と罵倒するのは一瞬でできるが。問題なのは「だってやってみたいんだもん」と思いついてしまった人というものの厄介さは、どれだけ合理性を説いても、技術的問題環境的問題を説いても、聞く耳を持たないのである。年を取るということは、自分の変化を受け止めることができなくなることを言う。自分を一度でも正しいと思ってしまったのなら、誰の話も聞いてはくれないのだ。
コンスタンスは縛られている腕のほうをチラッと見た。
高度な古代大戦の魔科学を使っている遺跡内に反して、彼女を縛るのは麻縄で、金属を使った手錠ですらない。
「……事情はわかりましたが、私は王都乗っ取りのお手伝いはできません」
「よろしいので? 王都には殿下もおられるんですよ?」
「……私は殿下をお慕いしておりますが、あなたのようなお方……いいえ、あなたをそのように使う方を許容するお方とは信じておりませんから」
「ほう……」
その言葉に、少しだけイクサルは感心したような声を上げた中。
とうとうコンスタンスは魔方陣の上に立たされた。彼女を置いて、そのままイクサルは去る。慌ててコンスタンスは魔方陣から飛び退こうとしたのも束の間、彼女をいきなり魔方陣が拘束魔法でもかけたかのように、膝を突かせてしまったのだ。
「うううううううううううう……!!」
悲鳴が上がる。いや、悲鳴を上げなかったら全てが奪われるという危機感があった。
それを眺めながら、イクサルは困った顔をしてコンスタンスを見た。
「困るのですよ、あなたがきちんと役割を果たしてくれないと。自分があの領地を継がなかったら、アンジェリカの身に危険が及んでいた……他のくだらない男に彼女を奪われるくらいならば、自分が彼女と一緒になりたいと思っただけなんです」
「……あなたにとって、それだけ……宰相は逆らえない方……なのですね……?」
魔方陣によく重力に必死に抵抗するコンスタンスは、息絶え絶えにイクサルに尋ねる。彼女の精神力に少しだけ驚愕したようにイクサルは目を見張りつつも、困った顔で髪を揺らした。
「……宰相は、たしかに考古学以外には全く興味もなかった御人です。ですからこそ、彼の人脈の数々を見たら、彼に逆らうのがおそろしくなるのです」
「……なるほど、あなたは、完全に宰相に心酔している訳ではないということですね……殿下が、あなたと心を通わせていた理由は理解しました……スタンダップ!」
唐突にたおやかだった声を荒げるコンスタンスに、イクサルはぎょっとする。
途端にコンスタンスの腕から魔方陣が出たと思ったら、その魔方陣から太い腕が出たのだ。その腕が、ガッツリと彼女の体を抱えた。
「な……なにをやったのですか!?」
「白亜の守護神そのものを召喚しては、この遺跡が壊れてしまいますから、腕だけ召喚しました。これで、私を魔方陣で拘束することは不可能です」
実際に。コンスタンスの魔方陣から出ている白亜の守護神の腕は、拘束魔法の描かれた魔方陣の重力に全く負けずにコンスタンスを抱えているのだ。
コンスタンスは小さく言う。
「白亜の守護神、逃げますよ。遺跡には近衛騎士団がいます……死なせてはいけませんが、手加減できる相手でもありません。参りますよ」
コンスタンスの命令に、白亜の守護神の腕はハンドサインをすると、そのまま彼女を抱えて飛びはじめた。イクサルは一瞬唖然としたものの、すぐに魔科学の装置を発動させる。
「コンスタンスが逃げた! 白亜の守護神の腕だけを召喚! 腕だけだが戦闘力はあり、魔法が通じない! 近衛騎士団は至急彼女を追跡の上、拘束するように!」
イクサルは脳裏にアンジェリカの顔を浮かべた。
コンスタンスのような落ち着いた立ち振る舞いは一切しないが、コロコロと表情を変える愉快な子。父親の領主の座を剥奪され、彼女は万が一にでも売り飛ばされてしまうようならばと、自らあの土地の婿に立候補したのだ。
ここで宰相を敵に回したくはなかった。だからこそ、どれだけ善良だろうが、どれだけ召喚術を駆使して逃げおおせようとしようが、彼女を逃がす訳にはいかなかったのである。
****
ドナシアンに誘導され、三人はエルヴィスタム遺跡へと進んでいた。
クロは相変わらず不機嫌で、それでアンジェリカはおろおろしていたが、ベルンはそれを意に返さずドナシアンに尋ねる。
「それで、姫様を連れ去った目的は?」
「どうもねえ、この国の宰相。遺跡発掘の際に魔科学に傾倒してしまったみたいで。古代大戦の魔科学再現を国王に提案したところ、蹴られたらしいのさ」
ドナシアンの言葉に、クロとベルンは「あー……」と納得した。アンジェリカだけはわかってない顔をする。
「あのう……古代大戦の魔科学再現の、なにがそこまで駄目だったんでしょうか?」
「さっきアンジェリカも言った通り、既に古代大戦のときに使われたゴーレムに使われる鉱石のほとんどは発掘できない。ミスリルもオリハルコンも既に貴重品だ。もうひとつ……古代大戦時に使われていた莫大な魔法のせいで、この世界からだいぶマナが消耗してしまっている。これ以上使っては、この世界の存在自体が維持できなくなる」
全ての物質はマナから生まれている。それは農村の青空教室ですら教えられるような内容だ。それにアンジェリカは「ああ……」と納得する。
「つまりは……その魔科学を再現させるのを中断しないと……」
「今はまだ、外国にまで話が進んでいないからお家騒動までで落ち着いているが、このまま続行されたら世界規模で迷惑がかかる」
「……私の婚約者、そんなことを従う人だったんでしょうか?」
アンジェリカがしょんぼりとする。
ベルンがなんと言って慰めるかと考えている中、クロが彼女の背中をバシバシと叩く。
「保身に走るくだらない男に引っかからなくってよかったんですよ!」
「そ、そうかもしれませんね!」
「ハハハハハ、クロエは相変わらずお子様だね? 人間、義や任務、使命感だけで生きられる訳ではないんだよ?」
ドナシアンにあっさりといなされ、クロは肩を怒らせる。
「そんなつもりは、ありませんけどっ!?」
「ハハハハハ、本当にクロエと来たら」
「で、話を戻すとして、うちの姫様が誘拐された理由だけれど」
話が飛びそうになるのを、どうにかベルンが軌道修正すると、ドナシアンは「ああ」と言った。
「姫様は召喚術に長けているからね。彼女の保有魔力を使って、遺跡を起動させるつもりだろう」
「……遺跡を起動? 遺跡に眠っている魔科学の兵器を起動じゃなくって?」
「おや、言っていなかったっけ? エルヴィスタム遺跡自体が、古代兵器そのものなのだけれど」
「うちの国の遺跡、そんなにヤバイものだったんですか!?」
アンジェリカの悲鳴に、クロもベルンも思わずドナシアンを凝視すると、ドナシアンは肩を竦めた。
「さすがに俺に言われてもねえ。昔の人がなにを考えていたかは、わからないから」
「というか、遺跡レベルの大きさの古代兵器を起動するまで魔力を搾り取られたら、うちの姫様死んでしまうじゃないですか! ベルン、アンジェリカ、行きますよ! 姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クロは我先にと走り出してしまった。姫様ラブ、である。それに思わずベルンとドナシアンは顔を見合わせた。ベルンは黙ってアンジェリカを「失礼、担ぐよ」と彼女を樽抱きにし、ドナシアンに先行させながら走りはじめた。
「でも……姫様だったら、あそこで暴れて遺跡破壊しそうだけれども……あれ破壊して大丈夫なものかい? 国際問題とかにならないかい?」
「遺跡自体は魔力をどれだけ込めたら起動するのか、そもそも魔力回路がそのまま全部残っているのかまでは、こちらもさすがに調べられなかったからね。こればかりは行ってみないとわからない」
「あのう……前から薄々思ってましたけど……コンスタンスさんたちって、ぶっちゃけなんなんでしょうか?」
そもそもコンスタンスは嫁ぐ前に面倒なことに巻き込まれてしまった身だが、クロとベルンは彼女の護衛だし、ドナシアンに至っては友好国だったはずの国が様子がおかしいからと出された密偵である。
それをこの国の住民であるアンジェリカに伝えていいものか。ふたりはそこまでを目と目を合わせて考えてから、ベルンは口を開いた。
「お節介焼きの姫様のお付き、だね」
「ハハハハハ、姫様はそれはもう、お人好しの困った人を放ってはおけないからこそ、こうやって誘拐された訳だから」
「は、はあ……コンスタンスさん、ご無事だといいんですけど」
「それはまあ、クロがなんとかするだろうさ」
「うん、クロエが」
「はあ……」
アンジェリカ視点では意味不明な集団だが、悪意がないとわかってもらえれば、それで充分だった。
石造りの遺跡は、どこもかしこも光が入れられている……これだけ明るいのは王城ですら滅多になく、魔科学により古代大戦時代に存在していた技術が使われているのだろうと察することができた。
それを見ていたら、やがて遺跡内でも拓けた場所に出た……まるで演劇の舞台上のような場所。唯一おかしいと思うのは、そこに敷かれた魔方陣とその魔方陣を取り囲む大量の管だろう。
「コンスタンスさん……あなたは古代兵器を召喚し、戦う術を持っていると聞き及んでおります。その古代兵器召喚の際に、莫大な魔力を消費していると」
「そのようですわね」
「あなたの膨大な魔力……それを吸収すれば、エルヴィスタム遺跡中に眠る全ての古代兵器が起動します……そうなれば、王都を転覆することも可能」
「……まさかと思いますが、遺跡発掘をしておられた宰相は、それに気が付いて、王都を乗っ取ろうとなさったのですか?」
「そのようですね。当然ながら、このような奇妙奇天烈な方法、誰もが反対しました……馬鹿馬鹿しい上に、魔力がもったいないと。今時マナの使い過ぎによる環境問題も叫ばれている中、合理的ではないと……ですが、宰相は『やってみたい』という狂気に駆られてしまいました」
コンスタンスはその言葉に思いっきり顔をしかめてしまった。
これを「この馬鹿たれ」と罵倒するのは一瞬でできるが。問題なのは「だってやってみたいんだもん」と思いついてしまった人というものの厄介さは、どれだけ合理性を説いても、技術的問題環境的問題を説いても、聞く耳を持たないのである。年を取るということは、自分の変化を受け止めることができなくなることを言う。自分を一度でも正しいと思ってしまったのなら、誰の話も聞いてはくれないのだ。
コンスタンスは縛られている腕のほうをチラッと見た。
高度な古代大戦の魔科学を使っている遺跡内に反して、彼女を縛るのは麻縄で、金属を使った手錠ですらない。
「……事情はわかりましたが、私は王都乗っ取りのお手伝いはできません」
「よろしいので? 王都には殿下もおられるんですよ?」
「……私は殿下をお慕いしておりますが、あなたのようなお方……いいえ、あなたをそのように使う方を許容するお方とは信じておりませんから」
「ほう……」
その言葉に、少しだけイクサルは感心したような声を上げた中。
とうとうコンスタンスは魔方陣の上に立たされた。彼女を置いて、そのままイクサルは去る。慌ててコンスタンスは魔方陣から飛び退こうとしたのも束の間、彼女をいきなり魔方陣が拘束魔法でもかけたかのように、膝を突かせてしまったのだ。
「うううううううううううう……!!」
悲鳴が上がる。いや、悲鳴を上げなかったら全てが奪われるという危機感があった。
それを眺めながら、イクサルは困った顔をしてコンスタンスを見た。
「困るのですよ、あなたがきちんと役割を果たしてくれないと。自分があの領地を継がなかったら、アンジェリカの身に危険が及んでいた……他のくだらない男に彼女を奪われるくらいならば、自分が彼女と一緒になりたいと思っただけなんです」
「……あなたにとって、それだけ……宰相は逆らえない方……なのですね……?」
魔方陣によく重力に必死に抵抗するコンスタンスは、息絶え絶えにイクサルに尋ねる。彼女の精神力に少しだけ驚愕したようにイクサルは目を見張りつつも、困った顔で髪を揺らした。
「……宰相は、たしかに考古学以外には全く興味もなかった御人です。ですからこそ、彼の人脈の数々を見たら、彼に逆らうのがおそろしくなるのです」
「……なるほど、あなたは、完全に宰相に心酔している訳ではないということですね……殿下が、あなたと心を通わせていた理由は理解しました……スタンダップ!」
唐突にたおやかだった声を荒げるコンスタンスに、イクサルはぎょっとする。
途端にコンスタンスの腕から魔方陣が出たと思ったら、その魔方陣から太い腕が出たのだ。その腕が、ガッツリと彼女の体を抱えた。
「な……なにをやったのですか!?」
「白亜の守護神そのものを召喚しては、この遺跡が壊れてしまいますから、腕だけ召喚しました。これで、私を魔方陣で拘束することは不可能です」
実際に。コンスタンスの魔方陣から出ている白亜の守護神の腕は、拘束魔法の描かれた魔方陣の重力に全く負けずにコンスタンスを抱えているのだ。
コンスタンスは小さく言う。
「白亜の守護神、逃げますよ。遺跡には近衛騎士団がいます……死なせてはいけませんが、手加減できる相手でもありません。参りますよ」
コンスタンスの命令に、白亜の守護神の腕はハンドサインをすると、そのまま彼女を抱えて飛びはじめた。イクサルは一瞬唖然としたものの、すぐに魔科学の装置を発動させる。
「コンスタンスが逃げた! 白亜の守護神の腕だけを召喚! 腕だけだが戦闘力はあり、魔法が通じない! 近衛騎士団は至急彼女を追跡の上、拘束するように!」
イクサルは脳裏にアンジェリカの顔を浮かべた。
コンスタンスのような落ち着いた立ち振る舞いは一切しないが、コロコロと表情を変える愉快な子。父親の領主の座を剥奪され、彼女は万が一にでも売り飛ばされてしまうようならばと、自らあの土地の婿に立候補したのだ。
ここで宰相を敵に回したくはなかった。だからこそ、どれだけ善良だろうが、どれだけ召喚術を駆使して逃げおおせようとしようが、彼女を逃がす訳にはいかなかったのである。
****
ドナシアンに誘導され、三人はエルヴィスタム遺跡へと進んでいた。
クロは相変わらず不機嫌で、それでアンジェリカはおろおろしていたが、ベルンはそれを意に返さずドナシアンに尋ねる。
「それで、姫様を連れ去った目的は?」
「どうもねえ、この国の宰相。遺跡発掘の際に魔科学に傾倒してしまったみたいで。古代大戦の魔科学再現を国王に提案したところ、蹴られたらしいのさ」
ドナシアンの言葉に、クロとベルンは「あー……」と納得した。アンジェリカだけはわかってない顔をする。
「あのう……古代大戦の魔科学再現の、なにがそこまで駄目だったんでしょうか?」
「さっきアンジェリカも言った通り、既に古代大戦のときに使われたゴーレムに使われる鉱石のほとんどは発掘できない。ミスリルもオリハルコンも既に貴重品だ。もうひとつ……古代大戦時に使われていた莫大な魔法のせいで、この世界からだいぶマナが消耗してしまっている。これ以上使っては、この世界の存在自体が維持できなくなる」
全ての物質はマナから生まれている。それは農村の青空教室ですら教えられるような内容だ。それにアンジェリカは「ああ……」と納得する。
「つまりは……その魔科学を再現させるのを中断しないと……」
「今はまだ、外国にまで話が進んでいないからお家騒動までで落ち着いているが、このまま続行されたら世界規模で迷惑がかかる」
「……私の婚約者、そんなことを従う人だったんでしょうか?」
アンジェリカがしょんぼりとする。
ベルンがなんと言って慰めるかと考えている中、クロが彼女の背中をバシバシと叩く。
「保身に走るくだらない男に引っかからなくってよかったんですよ!」
「そ、そうかもしれませんね!」
「ハハハハハ、クロエは相変わらずお子様だね? 人間、義や任務、使命感だけで生きられる訳ではないんだよ?」
ドナシアンにあっさりといなされ、クロは肩を怒らせる。
「そんなつもりは、ありませんけどっ!?」
「ハハハハハ、本当にクロエと来たら」
「で、話を戻すとして、うちの姫様が誘拐された理由だけれど」
話が飛びそうになるのを、どうにかベルンが軌道修正すると、ドナシアンは「ああ」と言った。
「姫様は召喚術に長けているからね。彼女の保有魔力を使って、遺跡を起動させるつもりだろう」
「……遺跡を起動? 遺跡に眠っている魔科学の兵器を起動じゃなくって?」
「おや、言っていなかったっけ? エルヴィスタム遺跡自体が、古代兵器そのものなのだけれど」
「うちの国の遺跡、そんなにヤバイものだったんですか!?」
アンジェリカの悲鳴に、クロもベルンも思わずドナシアンを凝視すると、ドナシアンは肩を竦めた。
「さすがに俺に言われてもねえ。昔の人がなにを考えていたかは、わからないから」
「というか、遺跡レベルの大きさの古代兵器を起動するまで魔力を搾り取られたら、うちの姫様死んでしまうじゃないですか! ベルン、アンジェリカ、行きますよ! 姫様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クロは我先にと走り出してしまった。姫様ラブ、である。それに思わずベルンとドナシアンは顔を見合わせた。ベルンは黙ってアンジェリカを「失礼、担ぐよ」と彼女を樽抱きにし、ドナシアンに先行させながら走りはじめた。
「でも……姫様だったら、あそこで暴れて遺跡破壊しそうだけれども……あれ破壊して大丈夫なものかい? 国際問題とかにならないかい?」
「遺跡自体は魔力をどれだけ込めたら起動するのか、そもそも魔力回路がそのまま全部残っているのかまでは、こちらもさすがに調べられなかったからね。こればかりは行ってみないとわからない」
「あのう……前から薄々思ってましたけど……コンスタンスさんたちって、ぶっちゃけなんなんでしょうか?」
そもそもコンスタンスは嫁ぐ前に面倒なことに巻き込まれてしまった身だが、クロとベルンは彼女の護衛だし、ドナシアンに至っては友好国だったはずの国が様子がおかしいからと出された密偵である。
それをこの国の住民であるアンジェリカに伝えていいものか。ふたりはそこまでを目と目を合わせて考えてから、ベルンは口を開いた。
「お節介焼きの姫様のお付き、だね」
「ハハハハハ、姫様はそれはもう、お人好しの困った人を放ってはおけないからこそ、こうやって誘拐された訳だから」
「は、はあ……コンスタンスさん、ご無事だといいんですけど」
「それはまあ、クロがなんとかするだろうさ」
「うん、クロエが」
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