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人属編-21

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「ぐは~~よく寝た!!」

気持ちい~ホテルのベットは極上だな~
ジアンは隣でスピースピーと寝ている

一緒に寝るようになってからわかったけど、ジアンの尻尾のさわりこちがいいんだよね~
すんごい滑らか

フォックスファーのような・・・

いつもズボンの中だし、みれるのはこういう時くらい
貴重~

さわさわ

さわさわ

「・・・・おい」
やべ

おきた

「くすっぐたい・・・」
寝ぼけながら尻尾で手をペチっとされる

「へへへ、やわらかい~」

「・・・」



「ああ・・・休みも終わりか~」
ジアンがごろごろしている

新婚旅行も終わりだ
いろいろあったけど、猫地区もうさぎ地区も楽しかった



昨日の農園のあとはすぐに着替えてドレスを取り扱っている衣装屋さんへ行った
もう・・すごかった

レッドカーペットが敷き詰められて、ああ、高額な店だ・・ってわかる場所
マダムのような人が一人一人について、採寸から注文をとっていた


全身のサイズを測られて色からはじまり、デザインに、生地の種類に
最後はもう豪華なソファで寝ていた

ジアンが全部注文してくれていたなw

サーモンピンクのきれいなドレスを注文して、
ジアンは軍服のような服をベースにしたもので、
カフスボタンと胸元にいれるハンカチをサーモンピンクにしてお揃いにした

かっこいいな

なんか衣装っていうと、フリフリな感じをイメージしていたけど、そうでもないのかな?
中世のブラウスがフリフリいっぱいついて、スパッツみたいなもの着てってイメージ

女の人もこれでもかとおなか縛り上げて胸強調するのかと思ったら全然しないし
よかったよかったあれきつそうだったしね

そのあとは付属の宝石も買うとか言い出し

隣の宝石屋さんへいって
またお揃いがどうのこうの~って言いだして

「せっかくのパーティだぞ」って気合入れていた
あたしよりジアンが張り切っていたわな


逆じゃね?





「ジアン~朝ごはんは~??」

「・・・俺いいかな~」

「じゃぁいってくるよ~」

「・・・やっぱ行く」
なんだかんだべったりなんだよね


ラウンジへ行って、軽く食べられるものとコフェアを注文した



「何をいってるんだ!!ちがうだろ!!」

怒鳴り声が響き渡った

「・・びっくりした~」
何事だ?と思って振り返ったらおじさんがさわいでいる

「・・・わけありません」
ペコペコとボーイさんが頭をさげている

「責任者を呼んで来い!!」
そんな大きな声出さなくてもいいのに・・・

「・・・人属か」
ジアンが食べながらため息をついている

「人属?」よく見れば獣人の耳がない
顔を真っ赤にしてカリカリしている

「どうしたんだろうね」

「・・・さぁな。かまうな。食べたら行くぞ」

「・・・うん」

前にDULCISに来てくれたおじいさんは、
お土産を買いに来たんだ~って行ってニコニコして終始穏やかだったのに

ああいう人も・・まぁいるよね

「・・ざけるな!!」
ガッ!!っと大きな音がした

殴ったのか、ボーイさんがテーブルに倒れてこめかみを抑えている

「・・ひど!」
みんな遠巻きに見ているだけで何もしない

ひっそり息をひそめて嵐を過ぎるのを待つかのように

「・・だめだ。マキア、おとなしくしるんだ」

「だって!」

立ち上がって駆け寄ろうと思ったのに、手首をつかまれ座らされた

「まったく!!どこもかしこも獣くさい!こんなの食えるか!」

バシャっとコフェアをボーイの頭にかけている

カーっ!っとなる

「マキア!」
だって・・なにあれ・・なんで誰も助けないの!?

「いくぞ!!」
満足したのか、暴言を吐きながらお供を伴ってラウンジを出て行った



ジアンの腕を振り切りボーイさんのところへ行く

「大丈夫ですか?!」

テーブルにぶつかった衝撃で切れたこめかみから血が出ている
すぐに癒の魔力を流し込む

「は、はい。大丈夫です。申し訳ございません。
すぐに片づけますので、ぜひごゆっくりしていってくださいませ」

痛みに耐えながら、それでも仕事を全うしようとしている
そんなこと・・している場合じゃないじゃん

ホテルの人たち集まり始め、片付けをしている

「大変失礼いたしました」

責任者の人がラウンジ前で頭を下げている

「は~人属は横暴すぎるな」
「あの人、昨日武器屋でも同じようなことしてましたね」
「こっちがいい迷惑だ」

あちこちで聞こえてくる声から常にある出来事だとわかる
とりあえず収まるまで待つかって感じなんだろう


「マキア!」
ジアンが駆け寄ってくる

「・・・大丈夫か?」

「・・・うん」

「使ったのか?」
魔力のことだろう

「・・・うん、でも少しだけ。完全に消えると怪しまれるから、
9割くらい治して傷はそのままにしておいた」

血が出ているのに傷が消えていたら怪しまれるからね


もう食べる気分もなくなり部屋へ戻る

お土産を片づけたり、出発の準備をするがさっきの光景が目に焼き付いて離れない

「なんだよ獣臭いって・・・」

「マキア、獣人と人属の関係は難しいんだ」

いろいろと決まりがあるのはわかっている

人属が獣人属を隷属として扱っていた時代の名残もあり、
まだ見下している人も多いのもわかっている

獣人属が人属の隷属から解放される条件として様々な制約を設けられた

その中に『獣人属は決して人属を傷つけてはならない』ってある

解放されて、獣人属が自由になった後も制約の改定はたびたび修正が行われたが、
この制約があるから人属の横暴さはなくならない

その制約は人属より力がつよい獣人属に対しての牽制があったんだろうが、
今では人属の暴力の免罪符変わりだ

もちろんいい人属もいるだろう

が、一部のそういう人属のせいで全体がそうみられることも致し方ない

「今の人属は話のわかる人も多い。制約の改定の話も出ている」

「だから・・」ってジアンがうなだれる
わかっているジアンのせいじゃなし、どうすることもできない

「ごめん、ジアン。あたしいつもすぐカッとなっちゃって」

「しってる。沸点低いよな」

「なっ!!」

おでこを合わせて笑いあう

「ジアン達が人属といい話し合いができるって信じている」




コンコン


部屋のドアがノックされた

「あの、・・・イーグル様、お客様です」
??誰だろう

「待ってて、あたし出てくる」
ドアをカチャリと開ければ、困った顔のボーイさんがいた

「あ・・・あの、「どけ!」」
ボーイさんが横へ吹き飛んだ

「お前か!?さっき魔力を使ったのは??!」
ぐいっと顔が近づいてきた

え・・・・

なになになに?
目の前に立たれて見下ろされる


恐怖で足がすくむ

声がでない

動悸がすごい

「・・・アン・・」ジアン助けて


「これはいいのを見つけた!」

さっきラウンジでボーイさんを殴った人属じゃないよね
また違う人属だ

太っちょで脂ぎった顔に帽子をかぶって
前世にいた上司に似ている

「お客様、こちらの方は・・「うるさい!お前には話とらん!!」」

ボーイさんが、割って入ろうとしているがまったく助けにならない
人属絶対なのだろう

腕をつかまれ、引っ張り出される

「・・・った!」

「お前さっき下で魔力つかっただろう!?もしかして癒の魔力ではないのか?!」
なになに・・みられてたの?

「これはこれは!まだ若いならたくさんとれそうだな」

ねちねちした視線が全身をみてくる
鳥肌が立つ

「マキア!」
ジアンに引っ張られ、後ろに隠される

「なんだ!!お前は!!」
人属の前に立ち、あたしをみえないようにしてくれる

「初めまして、私は犬属領主ジアン・イーグルです。妻に何か御用でしょうか」

丁寧な言葉遣いだが、聞いたことがない低い声だ

「妻・・っち、番か。面倒だな」
聞こえるってわかっていていっているんだ

「よし、50万ルビーでどうだ?」

「・・・なにがでしょうか」

「その子だ。その子を50万ルビーで買おう」
やっす!あたしそんな値段なの?

「・・・」
ジアンがめっちゃ怒ってるよ~

「何をおっしゃっているのかわかりかねます」

「では100万でどうだ?!」

「妻は売り物ではありませんので、お引き取りください」

「っ!調子に乗りやがって」
ぎろりとにらまれた

「・・っひ」
こわいよ何この人

「どちら様かご存じありませんが、このことは報告させていただきます。
現在人属と獣人属との間で人身売買は重罪です」

「わかった500万でどうだ?!」
話聞いていないのかよ・・

ジアンから魔力が出た
圧がすごい

人属のおじさんじりじりと後退している

「ひぃ!お前!犬の分際でわしに魔力を使うのか!?」

「さて、何のことでしょうか。私は妻を守るためのシールドを張っただけですが」

「っこの!!!」
顔が真っ赤になって額に血管がういている

「それ以上なにかするのであれば、アンドレア様へ直接お話いたしますがよろしいでしょうか?」

「アンドレア・・・っち、駄犬が・・覚えてろ」

そのままずかずかと戻っていった

「マキア、大丈夫か?」

「・・・へ」

あまりにも強烈でぽかんとしちゃったよ

「腕!あと残ってるじゃないか」
ああ・・つかまれたところか

こんなんすぐ治るけど

「はぁ・・・衝撃的な・・・人属だったね」

「大変申し訳ありません!!昨日から人属の御一行様がいらしておりまして」
ボーイさんがペコペコと頭をさげている

「先ほどラウンジで奥様が魔力を使ったのをご覧になったようで、案内しろと・・・」

ジアンがじろってみてきた「だから使うなっていっただろ」って目をしている
ああ・・ごめん・・あやまるしかないわな

まさかこんなことになるなんて
怖かった

どきどきしていてまだ足が震えている

「あの、本日お帰りということでしたが、
こちらの部屋はまだ滞在可能ですので、ごゆっくりお休みください」

本当に大変申し訳ございませんと何度も頭を下げて戻っていった



部屋に戻るが、何をしていたのか忘れてしまった

「おいで」
ジアンに呼ばれて一緒にソファに座る

「大丈夫か?」

「うん。平気」
ちょっとまだ指先が震えている

あんなに強引に連れていかれそうになるとは思わなかった

震えて抵抗もできなかった

ジアンがいなかったら
誰もいない場所だったら

考えるとものすごく怖くなった

大丈夫大丈夫ってなんかどこかで思っていたけど、あの感情を目の当たりにしたら体が硬直してしまった

足が動かなかったし、声も出なかった
ジアンがぎゅっと手を握ってくれる

「もう少し休んでから帰ろう。明日でもいいし落ち着くまで」

「・・・ううん、早く帰りたい」

もうここにはいたくない
人属がまだ外にいるんでしょ?

会いたくないし、早く自分の家に戻りたい

「わかった。帰ろうか」
よしよしと頭をなでて引き寄せてくれる

はぁ~一気に力が抜けた
ジアンにぎゅーっとした

「よかったジアンいてくれて。ありがとう」

「ん」




そそくさと帰る準備をして、ボーイさんを呼んで部屋の中で全部手続きをした

送ってもらう荷物の手続きをして、帰りに馬車を呼んでもらって
裏の方から出してもらった

「本当にこの度は申し訳ございませんでした」
支配人さんやボーイさんが並んで頭を下げてくる

「いえ、もう大丈夫ですよ。帰るまで大変でしょうが、頑張ってくださいね」

「私共は慣れておりますので大丈夫でございます」
よく泊まりに来るのだろう

「あのような人属の方たちばかりではないのです。とてもいい方もおります」

うん、知っている
だから余計やるせないよね

一概に人属だからってひとくくりにできないよね

「どうぞお気をつけおかえりくださいませ。この度はありがとうございました」

深々とお礼をされ、私たちは馬車に乗った

カーテンをしめて、うさぎ地区を出るまでジアンにくっついていた
最後の最後でいやな出来事だったな・・・



はぁ


そのままがたがたと揺れる馬車で寝てしまった

ジアンの隣は安心して寝られた




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