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使命編-9

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その後朝食をとり、ジアン達の会議が終わり出立の時間となる


「いいか、これが最後だと思え!!」

「はいっ!!!」

「すべて終わらせて、早く帰るぞ!!」

「はいっ!!!」

「各自、隊長の指示に従い、全軍出立!!!」
犬属、うさぎ属、猫属と各自隊列を組んで進み始める



昨日あれだけ討伐したのにもかかわらず、洞窟に近づくにつれてわらわらと現れる魔獣
護衛魔獣は倒したからか、比較的楽に倒せる


兵隊たちの連携もなれてきて、初日の固い動きはもうない




「ジアン・・」

「ああ、聞いた」

馬に一緒にまたがりながら今朝の話をする

「リリー様とお前だけが感じれるようだから、なにかしら違和感を見つけたらすぐに報告してくれ」

「う・・ん・・」

「大丈夫だ。今日ですべて終わる」

「うん、早く帰りたいね」

「あぁ」
ぎゅっと後ろから抱きしめてくれる

もう今日はあとは戦場だ
あたしもしっかりとしないと

「本当は連れてきたくなかったが・・・、お前のおかげで予想以上だ。助かる」

「なにいってるの、無駄に湧き出る魔力を使えるんだから、こういう時に使わないでいつつかうのよ」

「マジで、ありがとう」

「ジアン、お願いだからケガしないでね」

ケガは直せるけど、癒が間に合わなかったり、一瞬でやられたらそんなん無理だよ

「あぁ・・・大丈夫だ。今日で全部終わらせる」






ジアンの言った通り、洞窟付近までの魔獣はさくさく倒していった

いったい何匹いるのだろうというくらいの数だ

こんなにいたの?
今までどうしていたの?
なんで急に街までくるようになったの?

疑問は尽きない


「各自展開!隊長に続き魔窟へ進め!」
グレゴリー様の合図で一斉に魔窟へ侵入していく

中はかなりの広さで、アリの巣のような枝分かれになっている

「三層目の奥の部屋だろう」

「ああ、どの通路から続いているかは不明だ、気を付けて進むように」

「見つけ次第合図を」

入ってすぐの大きな広い場所に陣をとり、あたしはそこで待機していることになった
けが人がでたらここで回復だ


隊長らがどんどん侵入していき、怪しいと思われる場所をグレゴリー様やガロたちが進んで向かう

途中で悲鳴や魔力による爆発音もある

けが人もどんどん運ばれてくるが、その都度すぐに直してあげる

切れた癒ストーンもすぐに封入する


「・・・すまぬ、マキア殿・・・」

「リリー様!?」

リリー様が、部下に抱えられながら穴の奥から戻ってきた

右腕がぶらりとなって顔半分から血が大量に流れている

「ちょ・・ちょっと待ってください」
すぐに回復する

「・・あぁ、助かった」

もう焦らずに回復するための魔力量もわかるようになってきた
が、やはりこういう状況になるとドキドキする

「さすがだな」

すぐに渡されたタオルで血をぬぐい、また洞窟深部へ入っていく

なんて強い人だろうか


部下の方も治してあげる

「ありがとうございます。リリー様がかばってくれて・・・」
では!とすぐにリリー様をおいかけて入っていった




頑張って



お願い・・



みんな無事でいて





祈る気持ちで待つことしかできない








キィィィィィイイイイイィィィ~~!!!!!!








耳が壊れるんじゃないかと思うほどの悲鳴が響き渡る


どこだ・・・!?
どの穴から聞こえてきたのか

その後各穴から出てきてみんな一か所の穴へ急いで向かっていく



その・・穴は・・



ジアンのいるろころだよ・・・



まじかよ・・
勘弁してくれよ


もう震えて立っていられない

手を組んで祈ったって無駄かもしれな

奇跡なんてないかもしれない



でも・・・お願い・・・


神様・・ジアンを守って・・・







何分立っただろうか
何時間にも思えるその時間はひどく不安になる

気が気ではなく、魔力が漏れ出ていたが、そんなことを気にしている場合でもない

次々に運ばれてくる兵士の中にジアンがいないことをほっとしてしまうあたしはひどいやつだろう

でも・・それでも・・

ジアンが一番なんだ


ジアンがいなくなったら

もう涙で何も見えなくなる



「マキア!!!!!」



ガロの声にはっと顔をあげる



ジ・・・アン・・・??
抱きかかえられ、血がしたたりおちているそれは

ジアンなの・・・??




「早く!!!おれは戻るから!!!」


手がプルプルとする

え・・どうしよう
どうするんだっけ

パニックになり、何もできない

「マキア!!」
肩を揺さぶられる

「・・・どうしよう・・ガロ・・・ジアンが・・・」

涙がポロポロと落ちて止まらない

「しっかりしろ!!早く回復すんだ!!」

そうなんだけど
出ないんだよ

どうやって出すかも
わからないの

「・・・マ・・・キ・・・・」

ジアンが血だらけの手をあたしの頬にあてる


「ぶ・・・じか・・・」

なにいってんの

ジアンが!!
ジアンがだめじゃん!!


一緒にいた治癒師の子たちが一生懸命魔力をいれているが溢れ出る血はとまらない

だんだん顔色も悪くなってきている
魔力切れになる手前なんだ


「マキア、思い出せ。魔力のコントロール何年やったと思うんだ」
ガロが頭をポンポンとなでてくれる

あぁ・・そうだ・・しっかりしなきゃ・・・


「・・・はぁ」
深呼吸をして気を引き締める


「・・ごめん!」

すぐに両手をジアンへ向け、回復する
黄色い光を発し、体中の傷がスゥっと消えていく

「ごめんね、もう大丈夫だから休んでて」

治癒師の子たちに声をかけて、その場から離す

「もういいな!!たのむぜ!!」
ガロがダッシュで穴へ戻っていく




「ジアン!!聞こえる!?」

「・・・あ・・あぁ」
傷は治したが血を失いすぎている

すぐに回復をするが、時間がかかるだろう


ずっと安定するまでジアンに回復魔法を使っていた

それでも運ばれてくる兵隊たちもたくさんいる
それはそれで回復をする





地鳴りとともに天井からパラパラと誇りと小石が落ちてくる



ドゴォオオオン!!!



大きな音とともに、地鳴りが近づいてくる




ドスゥンン・・・!!!!




ガロが戻った穴から赤く光る二つの光が見える


「・・・っひぃ」
治癒師の女の子がしりもちをつき、あとずさりをしてる



なに?あれは・・・



松明に照らされてできたのは、護衛魔獣が3匹くらい合体したかのような大きさの魔獣

頭に大きな角をつけ、体は真っ赤だが筋肉質なその腕の周りは緑色で血がついている




その血は・・・誰の血・・・?




怖いはずだが、怖さよりも怒りが勝った

鼻息をあらくし、もう突進してくる

「あ・・・あ・・」と治癒師の女の子は体をまるめて縮こまっている


「ふざけんな」


これでもかというくらいの強力なシールドを展開した

バチン!!!!と大きな音を立てて魔獣の突進を防ぐ



「おまえなんかに破らせない」


厚く硬くはる

バリン!バリン!!とシールドを壊そうとしているが、その都度その部分だけを補修する


癒の魔力を抜いて衝撃派だけ・・・

リリー様が水の形を変えて尖らせた氷を攻撃魔法にしていたように
魔力だけの形態を変える

想像するだけですぐに形にできるようになったのも訓練のたまものだ

何本ものロングスピアをイメージし、魔獣へ放つ

面積の大きい体はいい的だ
どこにでもあたる

「ギャァァァアァ!!!!」

グサグサと槍が体中にささり血を流す

盛大な悲鳴を上げたが、まったく倒れない




これが女王か




「マキア!!!」
ガロが駆けつけてきた


「リリー行くぞ!!」

「承知した!!!」

グレゴリー様が魔獣の足を切りにかかる

意識がそちらへ向いた瞬間、また何本かのロングスピアを作る

リリー様の魔法で体全体を凍らせるが、数秒で内側から破壊させられる
その一瞬のすきでガロが魔獣の顔元までとびかかり、切りにかかる

「届かない!!!」
ガロが叫ぶ


その間をねらい、ロングスピアを打ち込む

バシュバシュっと首や肩にささり苦しそうにもがく魔獣



「マキア・・・?」



ジアン!?
下を見るとジアンが目をあけている

「お前・・・なにやってんの・・・」

「ジアン!!!大丈夫!?」
すぐに手を貸してあげる

「ああ・・盛大にやられたよ」
また目頭が熱くなる

「・・ひっく・・ひっく・・心配したんだから・・・やめてよ・・もう・・・」




ドカン!!!




見ればガロが壁に吹き飛ばされていた
壁がめりこんでいる


「・・っち、つえーんだよあいつ」
ジアンがふらふらしながら立ち上がる

「まだ!だめ!!すごい血が出てたんだから!!」

「ああ、だいぶ回復した。ありがとうな」

そういうことじゃなくて・・・

「最後まで頼ってわりぃんだけど・・・」
こしょこしょっと耳打ちしてくる


「・・うん!!わかった!!」



「リリー様ー--!!!」
リリー様に向かって叫ぶジアン

こくりとうなずくリリー様をみてから、ジアンは炎を出し魔獣へ放出する

「・・・っく」
ジアン苦しそう

結構な魔力を使ってきたから、体力も魔力ももう限界なはずだ

炎の中で狂い叫ぶ魔獣の声が響き渡る

叫びながらあちこちに攻撃をするから兵士も手が付けられない

そこへ頭部を狙いロングスピアをうちこむ

一本は目にはいり、さらに叫び声がひどくなる


暴れまわる魔獣がドゴォォォンと横に倒れた瞬間を見てリリー様が切り込みにかかる





「魔獣は角の間が弱点だ」




ジアンの耳打ちされた通りだ

そのあたりへの攻撃をすると異常な反応をする


魔獣の弱点を的確に狙い、リリー様の剣がつきささる
断末魔をあげ耳がこわれるほどの悲鳴は終わりの予感しかしない


ガロが前足を切断し、態勢を制を崩したところへ

「最後だ!!!」

グレゴリー様がさらに頭部の後ろから突き刺す



大きな音をたて、巨体が洞窟内に倒れる
魔獣はピクリともしなくなった


砂埃がおちつくころにようやく勝利を確信する


兵士たちの歓声が上がる





ようやく??
終わった??

緊張感が途切れ、ほっとした






「そいつだ!!!とらえよ!!!」





リリー様の声が響き渡る
え?なに!!?

急に張り詰めた空気になにがあったのか理解するのに時間がかかる
みんな歓喜ムードだったから固まっている

反応したのがジアン

ジアンを見ればもっていた短剣を投げていた


外へ向かう出口のところで足に刺さって倒れている人がいる

・・・?
だれだ

「とらえておけ」
リリー様の命令で連行されている

「朝言っていたやつだ」

ジアンがまだ理解に追いつかないあたしに説明をしてくれた



「あ・・・」



あのよどんだ空気を生んだ人?




ちらりと目があう



にやりと口元だけが笑っていた
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