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使命編-13

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「・・・・グレゴリー・ケイシラ 風の中で永遠に」

エルデ様の声が響く




そうか・・・

グレゴリー様の魔力は風だったな




グレゴリー様のお葬式には全地区から多くの人が訪れた
みんな突然のことで、気持ちに整理がつかないようだ




何度泣いたか

それでも涙が溢れ出る



いっそ大雨ならそんな涙も隠れるのに



こんな日まで・・・いい天気だ

笑うと周りの空気が一気に晴れ渡る
グレゴリー様の笑顔のように


ガハハハと大きな口を開けて
心配するなと言ってくれるあのグレゴリー様はとても心強くて


ムキっと太くなる腕を振り上げ、女王魔獣にとどめをさしたグレゴリー様の姿は忘れない

ジアンのお義父さんと同じくらいの年齢のはずなのに
第一線でいつも活躍している


でも奥さんにはデレデレで



そんな奥さんも、気丈な顔をして一番前で参列しているけど
目が真っ赤だ




なぜこんなことに・・・








リンクが急いで知らせてくれた日

グレゴリー様の死を伝えられた日

急いで確認のために連絡をとったジアン



「あいつだ・・・」


ジアンの奥歯がギリギリと音を立てて通話ストーンを握りつぶしそうになっている

「・・・あいつ・・・?」
だれ?グレゴリー様は恨みを買うようなことはしない

怨恨ではないはずだ

「・・・呪のやつ」

グレゴリー様に呪の魔術をかけて殺したと連絡をうけ
ジアンとあたしはそのまま猫地区へ急いだ




事情を聴くためにグレゴリー様と二人きりになったと看守が言っていた

小一時間ほどして戻ってきたグレゴリー様の様子がおかしく、そのあとすぐに倒れたと


すぐに治癒師を呼んだが、どこにも傷はなく
死後に心臓部分だけが紫色に変色していたそうだ



今にも「寝ておったわい!」と耳に響く大きな声で笑ってきそうな顔で

ずっと寝ている

グレゴリー様・・・





「まだ・・まだ早いだろ・・・」

シューマン様がグレゴリー様に花を手向けながら話しかけている
仲が良かったらしい

二人で前線で魔獣討伐へも行ったとジアンが言っていた

シューマン様が領主を引退してからも、まだ後継が育っていないという理由でグレゴリー様は第一線でバリバリと活躍していたが、シューマン様はジアンに譲りミッシェル様の病気の静養に付き合って郊外へ出た

「一緒に、酒を飲む約束はどうした・・・」





リリー様もいつもの戦闘服ではなく、黒の落ち着いたワンピースを着ている

「お前の剣は・・いつも重くて・・馬鹿力だったな」

隣でバレッタさんがわんわんと泣いている

「グレゴリー殿、歴代の中で秀逸な剣術を持ち、いい領主だった。・・・あとは任せろ」

リリー様の敬礼は今まで見た中で一番きれいだった
ワンピースに敬礼が似合うなんて・・・リリー様くらいだろう



順に献花していく



ガロはもう涙も鼻水もたれまくって顔がぐちゃぐちゃだ

「・・俺に・・俺の剣はまだまだだからって・・・もっと鍛えてやるっていったじゃんか・・・」

ひっくひっくと声をあげて泣いている

「なんだよ!まだ一度も勝ってないのに!勝ち逃げかよ!」


「グレゴリー様は・・花より剣だよな・・」ってあの大剣を隣に一緒に寝かせた


昔から剣の筋がよかったガロはリリー様やグレゴリー様に散々鍛えられていたらしい

あの二人は化け物だっていつも言っていた

魔力でこそグレゴリー様には勝っていたが、純粋な剣術で言えばグレゴリー様が一番だろう

「そっちに行ったら・・・俺が勝つからな。まだまだ強くなる!俺は!」







多くの参列者が絶え間なく献花に訪れる
彼の人望を表している


「火は三日三晩ともし続ける。彼の魂が風と共に流れるまで」

葬儀を取り計らってくれたエルデ様が、今日はここまでと夕刻に切り上げた

近くのホテルに戻り休憩をとる
一日中ぼーっとしていた感じだ

何が何だかまだ整理がつかない

どうしてこうなったのか



「ジアン・・」

「あぁ」
ジアンも同じ気持ちなのだろう

コンコンとノックされた
ドアを開けるとリンクが大量の本を抱えて立っていた

「・・資料」

元気がない

人属へ行ったときもグレゴリー様とすごい仲良かったもんね
親子のようにくっついて歩いていた

失ったものは大きい

「手分けして調べよう」

呪の魔力について、何か少しでもと調べることにした

パラパラとみても、記載の少なさに驚く
ジアンの火や風、水、地の魔力の記述は多い

次いで癒の魔力

別名光の魔力とも呼ばれ、希少魔力となっている
聞いた通りの内容が乗っている

そしてほとんど説明がない呪の魔力

記述するほど呪の魔力持ちが現われていないのだろう

「これが・・・父さんたちが言っていた年の魔獣大量発生した時だ」

資料と呪の魔力持ちが存在していた年を比較している
その魔力持ちは成人し800ほどの魔力数値が出たとかいてある

「そのあとどうなったの?」

「22歳で・・なくなっている」


それとともに魔獣討伐件数も減っている
やはり呪の魔力持ちが存在していると魔獣の発生件数が上がるのだろう




コンコン

ドアがノックされた
「はい」カチャリと開けるとシェイクとガロが立っていた

ガロはもう目の周りが腫れまくっている

「お手伝いに来ました。コフェアもお持ちしましたよ」


みんなで一息つく

「それで、その人が捕まったんですね」
シェイクとリンクに討伐の時の話をする

「うん。なんか、志願兵に紛れていたみたい」


暗くなるな
この話題

いつも明るいリンクもニヘラともしない

食べているのかな?なんか顔色も悪しい


その後はみんなで呪の魔術師の発生と魔獣の関係

呪の魔術による被害なんか・・とりあえず記載が少なすぎて探すのも一苦労だ


「なんか・・・この呪の魔力持ちの人って・・・みんな亡くなるの早くない・・?」

ふと気づいた
事故死もいたが、全員が5年も生きていない

17歳の成人で魔力が出るから、21歳、22歳くらい
早い

「・・・本当ですね」

「こいつら、特に何かしているわけじゃないな。普通の生活をしているぞ」
ガロの中ではすでに呪の魔力持ちが悪という位置づけになっていたようで、こいつら呼ばわりだ

「呪の魔力持ちが必ずしも悪さをするわけではないですよ。ガロ」
シェイクに窘められている

「呪の魔力があっても1000にも満たない魔力じゃ特に何もできないよな」

「・・・5000だ」
ジアンがぼそっと言う

うん。そうだ・・・あいつの魔力数値高かったはずだ
「リリー様言っていた。その人・・・5000前後はあるって・・・」


静まり返る

呪の魔力持ちでそんな数値を出した記録がない

今回のグレゴリー様の件に何か関係があるのか







コンコン

「リリー様」
部屋のドアをあけるとリリー様が立っていた

すでに着替えていつも通り動きやすいパンツスタイルになっている

「マキア殿、話がある」





別室で話を聞く

「エドガー・ライセンという人物は知っているな」

・・・?

どこかで聞いたことがある様な
一緒にいるジアンと顔を見合わせるが思い出せない


「エドガー・ライセン・・・・エドガー・・・エドガー・・・!!」

エドガーって確か(くそ)サナの婚約者じゃなかった?


「もしかして・・人属の」

「そうだ」

リリー様の顔が険しい

「彼は・・妹の婚約者だったはず」

「そうだ」

??

何の話??

「リリー様、エドガーがどうしたんですか?」









「彼だよ。犯人は。グレゴリー殿を殺した犯人だ」





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