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使命編-14

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「ちょっと・・・待ってください・・・どういう・・ことですか??」


混乱する


なんでエドガーが??
そういう人だっけ??


マキアの中の記憶を辿っても・・・ただただ特筆するような人ではない





エドガーは・・・10歳のころマキアの父、ジョーンズ・リゾーレストが決めてきた婚約者だった


同じ伯爵家同士、つり合いが取れるって言っていたけど
実際は早くあたしを厄介払いしたい、継母のミション・リゾーレストが無理やりまとめてきた話だった

「マキア、今日あなたの婚約者がいらっしゃいます。こちらに着替えてお出迎えしなさい」

寝耳に水の状態だった

でも、エドガーが来る時には、部屋から出してもらえるし、暖かい料理も食べられた
お風呂に入れてもらったり、着心地のいいお洋服も与えられる

例えサナのおさがりでも、うれしかった


「初めまして、マキア嬢。エドガー・ライセンと申します」

紳士の礼をされ、お姫様のような扱いをしてくれるエドガーに若干戸惑いもあったけど
普段されない優しい扱いにマキアはコロリだった


顔も悪くない

優しくて紳士的だ

若干思い込みが激しく、たまに獣人属を批判すると止まらなくなったりもしていた


ああだ、こうだと熱弁する彼は、マキアの知らないことをたくさん知っていた
博識なんだな・・・と感心し聞き入っていた覚えがある




「今はまだ婚約だけど、いずれ・・成人したら結婚しよう」

小さな庭園の中でそう言ってくれた時には、涙がでた


それは、エドガーと一緒に入れるということよりも・・・
この地獄のような毎日から解放されると思ったからだ


もちろん嫌いではなかった
ただ、愛されて育たなかったマキアには、深く信じることも愛することもできなかった





「マキア?今日はサナちゃんはいないの??」

数年するとエドガーの関心はあたしではなく、妹のサナに移っていった

誰が見てもかわいらしく育っているサナは、甘え上手だった
自分をかわいくみせる見せ方を幼いながらにすでに理解していた

「はい、今日はお母さまとお出かけのようです」

「・・・そうか」


もともと知識も趣味もないマキアには引き出しは多くない

だんだん話すこともなくなり、一緒に庭園を散歩したり、昼食をとったり
それも頻度が減っていった

さらに、一緒にいてもサナの話が多くなった



そう・・多分あの頃にはもう



「お姉さまぁ、今日はエドガー様いらっしゃらないのぉ?」

「・・・お昼に一緒にランチをする予定なの・・」

「まぁ、じゃぁあたくしもご一緒してよろしいでしょう?」

すでに決定事項なんだろう
ダメなんて言えない

「・・・えぇ、エドガー様も喜ぶわ・・」

「フフフ!この刺繍したハンカチ!プレゼントできるわ!!」



あたしは・・・刺繍もできない
特技なんて・・・何もない





それからはエドガー様がいらっしゃると連絡がくると風邪を装ってお断りをしたりもした

しかし、部屋の窓から外をのぞくと、サナとエドガー様が並んで歩いている姿を何度も見た

あたしに会いに来るのは・・・ただの建前か・・・



ふと冷めた感じになった

まぁそんなものかと
また期待してしまった

いつもだ
期待した分裏切られるとショックが大きいのに






祝われない13歳の誕生日を一週間過ぎたあたりに父に呼び出された

エドガーがくるっていうのに、もう着替えすらさせてくれない


「マキア、お前の婚約者のエドガー君だがな、サナに譲りなさい」

目の前で腕を組んでべたべたしている二人を前に、父から婚約者を譲れと言われる

「・・・はい」

「お姉さまぁ、ありがとう!!あたしぃ幸せになるわ!!」

あまったるい香水をプンプンさせながら、エドガーと顔を合わせている

「これで結婚できるな」とエドガーも喜んでいる




謝罪くらい・・・あってもいいんじゃないの・・・?







それからは・・・
あたしは転化をさせられて、また会ったのはこの間の人属での結婚式の時のはず







「なぜ・・・彼が?」

「グレゴリー殿の調書に記載されていた内容だ」

グレゴリー様、最後に取り調べをしたって言っていた
その・・・内容?

「名前は名乗っている。転化をしてきたというから、裏をとったら、ちゃんと転化部にも記録が残っていた」

「・・・転化したの・・?」
なぜ?わざわざ


「転化理由・・は?」

「書いていない」

なになになに・・・

いったい何なの
怖いんだけど!



あの目、エドガーの目か

でも・・・知っている容貌とはだいぶ変わっていた
茶髪の短髪で、晴れやかな青年って感じだったけど

黒髪で・・・ねっとりとした視線
知っていたよね?あたしだって

「しかし、転化による報奨金はエドガーの実家であるライセン家が受取となっている」

しん・・と静まり返る

「・・・もう少し調べる。様子を見るが・・・ジアン、絶対にマキア殿から目を離すなよ」

「はい。もちろんです」


リリー様はジアンに書類を渡して戻っていった


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