愛が重いなんて聞いてない

音羽 藍

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薄氷上のダンス

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「……それで冒険してから、療養していたと。」
「内緒よ?ようやくユリウスが普通に戻ったのだから。」

学園の冬休み前の学園の集まりが終わって、足りない単位が無いか確認する為に職員室から聞いて、足りていたらしく胸を撫で下ろした。
その後ミレディさんと職員室から戻った所で出会い、話しながら教室へと戻ってきている。

まだ詳しくあの話の続きはユリウスと話せていない。
あの後、ユリウスは風邪をひいていたし、一応山場は越せたので安心した。

ユリウスも元気になり、色目を使われて床に誘われかけたが、私は単位が足りなくなるわと学園に戻る事を断固として念を押し、来れたのだ。

無事にこのまま取得する事ができれば、卒業は行けそうなのが嬉しい。

ユリウスは留年しても良いのにと怠惰何様な事を言ったが、本心ではないとは思う。
彼自身も予定が詰まっているので、留年したらとても周りから責められそうなのでさすがに………


「それでその石ってどうされますの?王都の細工職人に渡されますの?」
「うーん……それが、悩んでいまして。さっき言っていたビーチの領主である夫妻の所にもう一度見せに行こうと思ってはいるのですけど、ユリウスが許してくれなさそうで……」
「許すはずがないだろ……危ない目に遭ったばかりだというのに。」
「ユ、ユリウス」

廊下の曲がり角からユリウスが現れて、私の腰を掴み、ひょいと軽く引き寄せられる。

「シア……諦めてくれよ。」
「あら、殿下。そんな貴重な石を手に入れたのに、放置は勿体無いですわ。」
「ですよね、ミレディ。」
「……ユリウスもそろそろ許してやれ。お前が同伴なら良いだろ。」
「だがな……」

二人に説得されて、渋っていたユリウスは私の腰を触りながら悩んでいる。

私は彼の服を掴み、上目遣いで見上げる。

「ユリウスお願い。一緒に行ってくれる?」

私はダメ押しにユリウスに寄りかかり、ユリウスの頬を撫でて、恥ずかしいがこれでもかと言う様に己を使った。

あぁ……

なにか自分の心のなにかが、抗議している気がしてるが無視だ。


使えるものは使う。

恥ずかしさは後で死ぬけど放置である。

「シア………後でやめてと言っても止まらないからな?」

こっそりと耳打ちされた言葉に、ギグッと身体を揺らして、離れようとしたがそれを見越してユリウスにホールドされた。

ユリウスの方を見ると貴公子の様に爽やかな堂々とした気品のある微笑みを浮かべた。

「シアの頼みなら断れないな。」
「……絶対コイツ録でも無い事考えているな。」


少し怒っているのか、それともなにか彼に火をつける様な事をしてしまったか……

私は内心慣れない事をする時は、匙加減が難しいのだと学んだ。

ユリウスを怒らせてしまった。

「シア……」
「ん、どうしたの?」

私はなんでも無いよと言って微笑んだ。
ユリウスはジッと私を見て、どうしたと言いたげである。

これは私がしたい事を突き通した事で、起こった事であるし、ユリウスは悪くは無い。

それに、まだ深い話が出来ていない。
あの石をどうにかできたらその時に話そうかな。

彼に唆されていつも論点をずらされてしまうので、知りたい事は知らずにいる。

あの子に会うのもきっと、彼に阻まれてしまう気がする。

左手を握ってきたユリウスの手は冷たく、ため息をついて悩んでいる私を見る青い瞳にその時は気が付かなかった。









「ユリウス、あの昼間の事だけど……」
「ん?あぁ、明日はシアは用事があると聞いているから……俺の予定も合わせて数日後になりそうだな……天気次第の所もあるが、赤月が来る前に行けるといいが。」
「あら、もうそんな時期?」
「そうだが……知らせを見ていなかったか?」

ユリウスは机の上の端にあった手紙を見せてくれた。

確かに……予想の日付が発表されている。

「……色々忙しくて見ていなかったわ。それにユリウス、体調はもう大丈夫?」
「この通り元気だよ。だから学園にも行ったが……どうした?シア」
「ううん、病み上がりって疲れると思ったから、元気なら良かったわ。」
「あぁ、少しいつもよりかは疲れているな。明日の鍛錬は短くしておこうと思っていた所だが……シアなんでそんなに離れてる?」

私はユリウスの向かい側のソファーに座り、お茶を飲んでいたが、それをユリウスはなにか不満だったらしく、ムッとして隣の席をぽんぽんと叩いた。

「……もうこっちに座ったから良いわ。それに偶には正面に座りたいの。」
「……なんでだ?」
「秘密よ。」

私はふふっと笑って、目の前で不満だという表情をしているユリウスを眺めながらお茶を飲んだ。

好きな人を正面からこうして眺めるのも良い、もちろん間近で愛されながらいるのも至福だけど。

イケメンは不満そうな表情をしているのも、様になるのだと他人事の様に思いながら、残り少しのお茶を口に含む。

夜着に包まれたすらりとした足や鍛えられた上半身の筋肉質な身体を眺める。

ほくそ笑む私をユリウスは見てから、なにか妥協したのか長い息を吐いて、それから口元を上げてジッと見つめてきた。

少しチラチラと不穏な目線を私の胸や太ももに向けられて、視姦されている様な熱い視線に身体をもぞもぞとする。

今日はまだ月の障りがあるし、温かい格好をしているのだが、どこか不穏である。

……私が眺めていたのをやり返された訳だが、彼の情欲を感じさせる熱い眼差しに私はじわじわと頬に熱が上がる。

「……そろそろ私寝るわ、おやすみなさい」
「シア……なにか言いたい事はあるか?」
「いえ、今のところは良いわ。明日も早いし……」
「なら……良いが、俺もそろそろ寝よう」

うんと頷き、寝室の方へ歩き二人が寝室中へ入り扉を閉めると、ひょいといつの間に背後へ歩み寄っていた彼に抱えられてしまった。

「ちょっとっ」
「シアを抱きしめたくなっただけだ。体調の事はわかっている。無理はさせない。」
「なら……いいのだけど。」

ベッドまで足早に抱えられて、ぽすっと軽く優しく置かれた。

私は髪を纏めていた紐を取り、サイドテーブルに置くと、腰を抱えられて引き寄せられ、ユリウスの腕の中へ誘われる。

番の匂いがふんわりと漂い、じわじわと私は安堵共に、うずうずと太ももを擦りつけそうになり慌てて、足先までピンと伸ばした。

「どうした?シア、いつもより緊張しているが。」
「そんな事ないわ、ほら寝ましょ」
「シア、俺の方を見てよ。」
「ぇ……」

耳の端を舐められて、ピクッと揺れた身体は正直である。

「それにシア、俺に言わないといけない事があるだろう?」
「そ、そんな事ないわ。あるけど、長い話になるし、今度にするわ。」

私は青い瞳を見ようとしたが、うつらうつらと貧血気味なのもあって、疲れと彼の匂いに釣られて、微睡みが来る。

「そうか……わかった。君の体調の良い時で良いが……」
「おや……みな……い」

私はゆらゆらと青い瞳が心配そうに見ているのを最後に、頭を撫でてくれる感覚がした後、微睡みに落ちた。



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