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第5話 さあ行こう、夢の世界へ! つって、金が無いから金策からスタートかよっ!
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初めての街までは自転車で30分程の道程だった。アリスがサクッと合成してくれたものだ。
「どうせなら自動車か自家用機の方が良かったんじゃない?」
『ジジイの健康を考えた結果です。こっちの方が省エネですし』
「この体は体力があるから、サイクリングも楽しいけどね」
人に会いそうな時は自転車を叢に隠して、休憩している振りをしてやり過ごした。アリスが周囲の状況をリアルタイムでチェックしているので、警戒は万全である。
『万一人に見つかっても記憶を消すとか、抹殺するとか、やりようはありますが』
「穏便な方向で頼む! 自転車最高!」
『ちなみに記憶を消す時は海馬ごとごっそり破壊します』
「やめて! 想像しちゃうから!」
なるべく波風を立てないように生きて行こう。
街の手前で自転車は消し、徒歩で城門に向かった。エルムというこの街は城郭都市というやつで、ぐるりと高い壁に囲まれている。
門番が2人立っていたが、扉は開けられていて通行も自由だった。
『何事もなかったね』
街中で声を出すのも変なので、頭の中でアリスに語り掛けた。
『平時ですからね。徒党を組んで武装していなければ、止められたりしませんよ』
『身分証もチェックされなかったし』
『ワープロはおろかタイプライターさえ存在しない世界ですからね。身分証なんてありません』
『思ったより自由なんだね。暮らしやすそうじゃん』
少し先行きが明るくなった気がする。
『じゃあ、宿でも取りに行きましょうか?』
ねぐらが決まらないと何も始まらない。時間もそろそろ夕方に差し掛かってきた。
『お金が無いけど大丈夫?』
『部屋の空きと宿賃を聞いた上で、金策をしましょう。当ては有ります』
「いらっしゃ~い!」
宿の女中が高い声で呼び掛ける。
「今日一晩空きはあるかな?」
「お一人ですね? 静かな部屋が空いてますよ。素泊まりで50マリで~す。」
『大体5千円ですね』
既に相場をチェック済みのアリスが注釈してくれた。
『無難な宿賃だと思いますよ』
一晩泊まって気に入らなければ他の宿に移れば良い。ここにしようか。
「分かった。ちょっと用事を済ませてから戻ってくるよ」
「お待ちしてま~す」
女中の声に送られて、もう一度表に出た。
『商店街に行ってみましょう』
『商店街って聞くと、アーケードでもありそうに聞こえるね』
『商店が集まったエリアですよ。質屋か古物商を探しましょう』
『手持ちの物を売って金にするんだったね』
2、3か所で聞き回ってみると、古物商の所在が判明した。窓に格子が入ったそれらしい店構えだった。
店主はしわだらけの老婦人で、鋭い目つきをしていた。
「何の用だい?」
「買取を頼みたいんだが――」
「品物を見せてみな」
予め渡されていたソレを背嚢から出して、カウンターに並べた。
「ふん。ありきたりの装身具に銀食器か?」
どちらもこの世界の素材を集めて、ナノマシンが合成した物だ。
「品質はまあまあだね」
天秤計りで目方を調べ、虫眼鏡で外見を確かめながら店主は言った。
目立ちすぎないよう、並の品質でわざわざ作り出してあるのだ。
「これだけはルビーが入ってるね。粒が小さいけど傷はない」
運良く地表近くの土壌で見つかったものだった。さすがのナノマシンたちも地中深くまでは探査できない。
「400マリで引き取るよ」
「えーと……。じゃあそれで」
わたしが躊躇ったのは脳内でアリスに相談していた時間だ。悪い値段ではなかったらしい。
「盗品でなければ引き取ってやる。これからも何かあったら来な」
わたしのことを信用したのか、店主がそう言った。
「またその内お願いします」
と言って、わたしは店を後にした。
『400マリじゃあまり使いでがないね』
『2、3日食い繋ぐ分の生活費ですから。1か所で大金を得ては疑いを招きますし』
確かに窃盗と間違えられては敵わない。私の見た目――年格好と身なり――で貴重品を売り歩けば、一発で盗品を疑われる。
『あれくらいなら、手持ちの品を処分しに来たと思える範囲ということか』
『目立てば盗賊やギャングに狙われるだけですから。領主や代官に見込まれても面倒ですし』
『それは分かるけど、人助けをするにしても生活が出来ていなけりゃまともに動けないよ? ある程度の元手を稼がなきゃ』
『まずは支度を整えましょう』
次に出かけたのは道具屋だった。
「欲しい物があるなら言ってみろ」
店主は中年の無愛想な男だった。
「ハンティング・ナイフを1丁、スコップとつるはし、どちらも軽めのもの。それからふるいとパンニング皿」
店主がわたしをじろりと見てきた。
「にいちゃん、砂金採りに行く気かい?」
「うん。上手く見つかれば良い稼ぎになるって聞いたもんで」
「フン。見つけられればな」
「難しいのかい?」
「馬鹿でもできるさ。滅多に砂金なぞ採れんがね」
簡単に砂金が採れるなら誰も苦労しない。滅多に採れないから高い値がつくのだ。
それから、ランタンに油、小さなフライパンに金属食器。毛布にキャンバス布など野営道具を買い込んだ。
「ふむ。野営の心得はあるようだの。そのくらい揃えれば、とりあえず良かろう」
会計はおまけで150マリにしてもらった。
他の店を周って衣類と靴、食料品を買い漁ると、背嚢がパンパンになった。
『反対に懐の方は軽くなったけどね』
財布の残りは150マリほど。宿代を払えば100マリしか残らない。
『貧乏は辛いね。明日から頑張らなくちゃ』
『頑張るフリくらいは見せませんとね』
『何だよ、フリって。ちゃんと働くよ』
若返った、というよりチューンナップされたこの体なら、1日中でも肉体労働を続けられそうだ。
『砂金採りは運次第なので採れない時は何日も採れません。それではあきらさんが干上がってしまうので、今回は神の手を使います』
『神の手って?』
『分かりやすく言うと奥の手です。あからさまに言うとズルをします』
『身も蓋もないな。どうするの?』
『砂金採りのエリアに行って、川砂に含まれる微量の金成分から金の粒を合成します』
『そのものズバリ、錬金術ですな!』
ナノマシンの能力で、大抵の物は構成できるのだが、組成が全く異なる物から変成するのは時間が掛かるらしい。組成が近い物や微量の現物を集めて合成するのが簡単で、早いのだそうだ。
物質としてのダイヤモンドなど宝石類も合成できるのだが、宝石は輝いてこそ価値がある。そのためには地中深くの超高圧と超高温が欠かせない。組成だけ同じにしても屑ダイヤにしかならないのだ。
『とにかく明日は砂金採りだー!』
一晩明けて朝。夜明けと共に宿を引き払った。背嚢一つの身軽な出立。とは言ってもスコップやらパンニング皿やらが嵩張る上に、キャンバス布や毛布を丸めて縛り付けてある。
「自分で言うのも何だが、夜逃げ感あるよね」
『大丈夫。お似合いですよ』
「いや、似合うのかい!」
確かにほぼスッカラカンだけど。強く生きなきゃ。
懐の金は、100マリを切った。痺れるね。
『昨夜酒場で砂金採りエリアの情報は集めましたから、のんびり行ってみましょう』
情報収集に関してはアリスの面目躍如である。ナノマシンを飛ばしてそこら中の会話を盗聴できるのだから。壁に耳あり、障子にアリス。
「北の山麓、山の中腹だつたね」
『昨夜のうちにプローブを飛ばしてあります』
プローブというのはナノマシンを寄生させた虫や鳥のことである。ナノマシン自体は小さすぎて、そのままでは役に立たない。手っ取り早く生き物に寄生して、その能力を利用するのだ。
『アリス印特製の通信機能付きですから、リアルタイムで実況生中継できます』
「伝書鳩どころの騒ぎじゃないね。通信ビジネスで食っていけるんじゃない?」
『テイマーのフリはできると思います』
そうか。テイマーの売り物は自分の力じゃないもんね。割といいかも?
『それはそうと街から離れたことですし、乗り物でも出しましょうか?』
「うーん。今のところ急ぐ必要もないし、歩きでいいよ」
景色を楽しむ余裕もあるしね。馬でもテイムできたら乗ることにしよう。若いって素晴らしい。
北の山麓までは4時間ほどの道程だった。
「どうせなら自動車か自家用機の方が良かったんじゃない?」
『ジジイの健康を考えた結果です。こっちの方が省エネですし』
「この体は体力があるから、サイクリングも楽しいけどね」
人に会いそうな時は自転車を叢に隠して、休憩している振りをしてやり過ごした。アリスが周囲の状況をリアルタイムでチェックしているので、警戒は万全である。
『万一人に見つかっても記憶を消すとか、抹殺するとか、やりようはありますが』
「穏便な方向で頼む! 自転車最高!」
『ちなみに記憶を消す時は海馬ごとごっそり破壊します』
「やめて! 想像しちゃうから!」
なるべく波風を立てないように生きて行こう。
街の手前で自転車は消し、徒歩で城門に向かった。エルムというこの街は城郭都市というやつで、ぐるりと高い壁に囲まれている。
門番が2人立っていたが、扉は開けられていて通行も自由だった。
『何事もなかったね』
街中で声を出すのも変なので、頭の中でアリスに語り掛けた。
『平時ですからね。徒党を組んで武装していなければ、止められたりしませんよ』
『身分証もチェックされなかったし』
『ワープロはおろかタイプライターさえ存在しない世界ですからね。身分証なんてありません』
『思ったより自由なんだね。暮らしやすそうじゃん』
少し先行きが明るくなった気がする。
『じゃあ、宿でも取りに行きましょうか?』
ねぐらが決まらないと何も始まらない。時間もそろそろ夕方に差し掛かってきた。
『お金が無いけど大丈夫?』
『部屋の空きと宿賃を聞いた上で、金策をしましょう。当ては有ります』
「いらっしゃ~い!」
宿の女中が高い声で呼び掛ける。
「今日一晩空きはあるかな?」
「お一人ですね? 静かな部屋が空いてますよ。素泊まりで50マリで~す。」
『大体5千円ですね』
既に相場をチェック済みのアリスが注釈してくれた。
『無難な宿賃だと思いますよ』
一晩泊まって気に入らなければ他の宿に移れば良い。ここにしようか。
「分かった。ちょっと用事を済ませてから戻ってくるよ」
「お待ちしてま~す」
女中の声に送られて、もう一度表に出た。
『商店街に行ってみましょう』
『商店街って聞くと、アーケードでもありそうに聞こえるね』
『商店が集まったエリアですよ。質屋か古物商を探しましょう』
『手持ちの物を売って金にするんだったね』
2、3か所で聞き回ってみると、古物商の所在が判明した。窓に格子が入ったそれらしい店構えだった。
店主はしわだらけの老婦人で、鋭い目つきをしていた。
「何の用だい?」
「買取を頼みたいんだが――」
「品物を見せてみな」
予め渡されていたソレを背嚢から出して、カウンターに並べた。
「ふん。ありきたりの装身具に銀食器か?」
どちらもこの世界の素材を集めて、ナノマシンが合成した物だ。
「品質はまあまあだね」
天秤計りで目方を調べ、虫眼鏡で外見を確かめながら店主は言った。
目立ちすぎないよう、並の品質でわざわざ作り出してあるのだ。
「これだけはルビーが入ってるね。粒が小さいけど傷はない」
運良く地表近くの土壌で見つかったものだった。さすがのナノマシンたちも地中深くまでは探査できない。
「400マリで引き取るよ」
「えーと……。じゃあそれで」
わたしが躊躇ったのは脳内でアリスに相談していた時間だ。悪い値段ではなかったらしい。
「盗品でなければ引き取ってやる。これからも何かあったら来な」
わたしのことを信用したのか、店主がそう言った。
「またその内お願いします」
と言って、わたしは店を後にした。
『400マリじゃあまり使いでがないね』
『2、3日食い繋ぐ分の生活費ですから。1か所で大金を得ては疑いを招きますし』
確かに窃盗と間違えられては敵わない。私の見た目――年格好と身なり――で貴重品を売り歩けば、一発で盗品を疑われる。
『あれくらいなら、手持ちの品を処分しに来たと思える範囲ということか』
『目立てば盗賊やギャングに狙われるだけですから。領主や代官に見込まれても面倒ですし』
『それは分かるけど、人助けをするにしても生活が出来ていなけりゃまともに動けないよ? ある程度の元手を稼がなきゃ』
『まずは支度を整えましょう』
次に出かけたのは道具屋だった。
「欲しい物があるなら言ってみろ」
店主は中年の無愛想な男だった。
「ハンティング・ナイフを1丁、スコップとつるはし、どちらも軽めのもの。それからふるいとパンニング皿」
店主がわたしをじろりと見てきた。
「にいちゃん、砂金採りに行く気かい?」
「うん。上手く見つかれば良い稼ぎになるって聞いたもんで」
「フン。見つけられればな」
「難しいのかい?」
「馬鹿でもできるさ。滅多に砂金なぞ採れんがね」
簡単に砂金が採れるなら誰も苦労しない。滅多に採れないから高い値がつくのだ。
それから、ランタンに油、小さなフライパンに金属食器。毛布にキャンバス布など野営道具を買い込んだ。
「ふむ。野営の心得はあるようだの。そのくらい揃えれば、とりあえず良かろう」
会計はおまけで150マリにしてもらった。
他の店を周って衣類と靴、食料品を買い漁ると、背嚢がパンパンになった。
『反対に懐の方は軽くなったけどね』
財布の残りは150マリほど。宿代を払えば100マリしか残らない。
『貧乏は辛いね。明日から頑張らなくちゃ』
『頑張るフリくらいは見せませんとね』
『何だよ、フリって。ちゃんと働くよ』
若返った、というよりチューンナップされたこの体なら、1日中でも肉体労働を続けられそうだ。
『砂金採りは運次第なので採れない時は何日も採れません。それではあきらさんが干上がってしまうので、今回は神の手を使います』
『神の手って?』
『分かりやすく言うと奥の手です。あからさまに言うとズルをします』
『身も蓋もないな。どうするの?』
『砂金採りのエリアに行って、川砂に含まれる微量の金成分から金の粒を合成します』
『そのものズバリ、錬金術ですな!』
ナノマシンの能力で、大抵の物は構成できるのだが、組成が全く異なる物から変成するのは時間が掛かるらしい。組成が近い物や微量の現物を集めて合成するのが簡単で、早いのだそうだ。
物質としてのダイヤモンドなど宝石類も合成できるのだが、宝石は輝いてこそ価値がある。そのためには地中深くの超高圧と超高温が欠かせない。組成だけ同じにしても屑ダイヤにしかならないのだ。
『とにかく明日は砂金採りだー!』
一晩明けて朝。夜明けと共に宿を引き払った。背嚢一つの身軽な出立。とは言ってもスコップやらパンニング皿やらが嵩張る上に、キャンバス布や毛布を丸めて縛り付けてある。
「自分で言うのも何だが、夜逃げ感あるよね」
『大丈夫。お似合いですよ』
「いや、似合うのかい!」
確かにほぼスッカラカンだけど。強く生きなきゃ。
懐の金は、100マリを切った。痺れるね。
『昨夜酒場で砂金採りエリアの情報は集めましたから、のんびり行ってみましょう』
情報収集に関してはアリスの面目躍如である。ナノマシンを飛ばしてそこら中の会話を盗聴できるのだから。壁に耳あり、障子にアリス。
「北の山麓、山の中腹だつたね」
『昨夜のうちにプローブを飛ばしてあります』
プローブというのはナノマシンを寄生させた虫や鳥のことである。ナノマシン自体は小さすぎて、そのままでは役に立たない。手っ取り早く生き物に寄生して、その能力を利用するのだ。
『アリス印特製の通信機能付きですから、リアルタイムで実況生中継できます』
「伝書鳩どころの騒ぎじゃないね。通信ビジネスで食っていけるんじゃない?」
『テイマーのフリはできると思います』
そうか。テイマーの売り物は自分の力じゃないもんね。割といいかも?
『それはそうと街から離れたことですし、乗り物でも出しましょうか?』
「うーん。今のところ急ぐ必要もないし、歩きでいいよ」
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