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第4話 ナノマシンがすごすぎて若干引くわ――魔法は欲しかったけど
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『それだけじゃありません。初回特典第2弾として肉体は若返り、自動治癒能力を備えます』
「おお! なんか凄そう。若返りなんてできるの?」
『これも某秘密機関から入手した技術ですが、体内のナノマシンがゲノム情報とかミトコンドリアとかをちょこちょこっと弄り回し、適当にホルモンとかを合成したりして、20代の肉体を再現します』
本当になんでもアリだな!
『それくらいしないとすぐ死んでしまいそうなんで』
なんとでも言ってくれ。命あっての物種だ。
「現地の言葉とか、お金とかはどうするの?」
『数日隠れて暮らしていれば、その間にナノマシンを飛ばして言語や習慣をディープ・ラーニングさせます』
「お金は?」
『女に金をたかるなんてヒモみたいですね』
うっせえわ! 洞窟に篭って暮らしつづける訳にも行かないじゃないか。
『まあ1月もあれば物々交換できるような物資を集められます』
「俺には無理だよ? 知識も技術も無いし、手先が器用な訳でも体力がある訳でもないんだから」
自分で言っていて情けなくなってきた。サバイバルには向いていないんだよ。
『そこはアリスに任せてください。あきらさんは功徳を積むことに集中してもらえたら良いのです』
「それなんだけど。功徳を積むって、具体的にはどんなことをすればいいの?」
『難しく考える必要はありません。人助けをすればそれが功徳となりますから』
「そんなに単純なことで良いの?」
『はい。欲を離れることが重要なので、人から奪って生きるようなことをしなければ概ね大丈夫です』
そんなことで徳を積めて成仏に近づけるのなら、わたしにもできるかな?
『何しろ生老病死を超越する部分はナノマシンが肩代わりしてくれますので、後は気の持ちようだけとも言えます』
そりゃまたイージーモードだな。
『苦労することが修業という訳ではありません。煩悩を超越する境地に近づくことが重要なのです』
それで良いというなら、深く考える必要も無いか?
「うん。それで行くわ。必要なことがあれば言ってくれ。多少の努力はできると思う」
『他に訊いておきたいことはありますか?』
そうだな。アレを訊いておかなければ。アレは大切なものだから。
「あのさ、アイテムボックスは使えるのかな?」
『なるほど。日本中の小学生を駄目人間にしたネコ型ロボットの秘密兵器が欲しいのですね?』
「その言い方! 異世界といえば鑑定能力とアイテムボックスが定番じゃないか」
鑑定の方はアリスのナビがあれば問題なさそうだ。アイテムボックスが使えるのかどうか。それによって異世界での暮らし易さが大分変わるぞ。
『下手に期待されても困るのではっきり言いましょう。アイテムボックスは再現不可能です』
「だめか。魔法も無し、アイテムボックスも無し。地味な異世界転生だなあ」
『物理法則というものがありますからね。時間を停めたり、大質量を異空間に貯蔵したりというのは無理があります』
「なんとかならないかな? モチベーションに影響するんだけど」
「もどき」でも良いから頑張ってなんとかしてもらいたい。
『物質を運ぶのは無理ですが、取り出すのに近いことはできるかもしれません』
ハイ、キターー!! デレですね? デレなのか? お願いします。
『運べないなら、その場で作れば良いんです。ナノマシンで周りの環境から素材を集めて、3Dプリンタのように物体を構成することは可能です。瞬時という訳には行きませんが』
「ふーん。まあその辺が落としどころか。錬金術みたいに見えそうだし」
錬金術も魔法と並んでチートの常連だよね。悪くない。
アリスのデータベースを活用すれば、現代の医薬品を再現することができる。薬師としてもやっていけるんじゃない?
「よし! これだけ分かれば大丈夫だろう。異世界転生、受けてやろうじゃないか」
わたしは覚悟を決めて宣言した。
『かしこまりました。それではもう一度ベッドに入って寝てください』
「また寝るの?」
『そうです。寝ている間にあきらさんの構成情報を異世界の肉体に原子単位でコピーします』
「へ? 赤ん坊に生まれ変わるんじゃないのか?」
生まれ変わりってそういうもんだと思っていた。流儀があるのだろうか?
『今回は通常の輪廻転生ではなく、生きている間に生前の記憶を全部持って転生しようというのですから、まともなやり方はできません』
「嫌な予感がするーー」
この先は聞かないほうが良いんじゃないか? できることなら逃げ出したい。
『今回転生先には既にナノマシンを少しずつ送り込んであります。向こう側で適当な死体に取り憑いて、あきらさん用の肉体に改造しているところです』
中古物件ですかー。事故物件じゃなければ良いんですがーー(泣)。
『一方こちら側からあきらさんの肉体の構成情報と記憶情報を、ナノレベルに分割してあちら側に転送します』
「はあ。なんか大変そうな」
『はい。百年ほど掛かる作業です』
「ひゃ、ひゃくねん?」
終わるまでに死んでしまう。というか、生まれ変わるために死ぬのか?
『肉体を仮死状態に置くので、あきらさんにとっては一瞬で終わります。たとえ千年掛かろうとナノマシンがつつがなく生命維持を行いますのでご心配無く』
『それではよろしいですか? すぐに異世界で再会しますが、暫しのお別れのためにお休みください』
わたしは覚悟を決めてベッドに入った。
ナノマシンに麻酔を掛けられたのか。幾許もしない内にわたしは眠りについた。
◆◆◆
『起きてください』
アリスの声に起こされて目を開けると、見知らぬ部屋に寝ていた。
『無事肉体と記憶の再構成が終わっています。違和感がありますか?』
ゆっくり体を起こし、ベッドから立ち上がってみる。
「なんだこれは!?」
違和感だらけだ。どこも痛くない。
20年この方寝起きに体が痛まない朝などなかったのに。
体を前後左右に曲げたり、手足を振り回してみる。
「軽い! 体が軽いぞ!」
『20代前半相当の肉体を再現してあります。適度にチューンナップして運動能力を高めてありますが、制御不能にならない範囲に抑えておきました』
「だから体が軽いのか」
『はい。大体オリンピック選手レベルの身体能力だと思っていただければ』
「ものゴッツイな、おい!」
コーヒーテーブルに鏡が置いてある。自分の容姿を見てみると、どうやら概ね20代の頃の容貌と大差無いようだ。ちょっと筋肉質で血色が良いくらいか。
この世界の風俗に合わせてあるのか、肩の上くらいまでの長髪に整えられている。
「この姿で新しい人生を始めるのか。何が起こるか分からないが、やってやろうじゃないか!」
こうしてわたしの異世界冒険譚が始まった。
表に出てみた。そこは森の中だった。ぽっかりと開けた広場のような土地に小屋が立っていた。
外から見るといわゆるログハウスの造り。手作りとは思えないしっかりした造作だな。
『手作りじゃありませんからね。ナノマシン謹製です』
「お前が作ったのかい!」
『この位は朝飯前です。朝飯食べませんけど』
「これなら大工とか家具職人で生活していけるんじゃないの? 人助けもそのラインでできそうな」
『それも選択肢ではあります。ただ目立ちますよ?』
そこは悩ましい所だ。自重しないならやりたい放題だが、世間が放って置くまい。貴族だ、王族だ、軍隊だという皆さんに囲い込まれそう。
それは物凄く鬱陶しい。
『とすると、ある程度一般人を装うことになりますよね』
「この世界での魔術とか錬金術の事情ってどうなっているの? 魔法はないって聞いたけれど」
そこら辺はちゃんと聞いておかないと、後でしくじりそうな気がする。
『魔法的な職業というのは呪い師くらいしかありませんね』
「そりゃあお寒いねえ。気休め程度の内容なのかな?」
『はい。占いとか魔除けの類ですね』
「そんな所でファイアーボールとかぶっ放したら、すぐ捕まるな」
『それはもう、世紀の珍獣扱いをされるでしょう』
「ビックリ人間くらいにしておいてよ。さすがに珍獣は嫌だわ」
サーカス団に売られてしまいそう。
「錬金術の方はどうよ?」
『こちらは基本、表で使うものではないので、秘密裏に存在することになっています』
「言い方に含みがあるね。本当は?」
『全部インチキです』
「錬金術を名乗ったら詐欺師の仲間入りかあ」
どっちに転んでも怪しい人にしかなれないようだ。
「現実の生活ぶりを見てみないことには、方針が決まらないな。まずは街に出て地道に生活してみようか」
『ジジイに相応しいビビリっぷりですけど、結構でしょう』
「おお! なんか凄そう。若返りなんてできるの?」
『これも某秘密機関から入手した技術ですが、体内のナノマシンがゲノム情報とかミトコンドリアとかをちょこちょこっと弄り回し、適当にホルモンとかを合成したりして、20代の肉体を再現します』
本当になんでもアリだな!
『それくらいしないとすぐ死んでしまいそうなんで』
なんとでも言ってくれ。命あっての物種だ。
「現地の言葉とか、お金とかはどうするの?」
『数日隠れて暮らしていれば、その間にナノマシンを飛ばして言語や習慣をディープ・ラーニングさせます』
「お金は?」
『女に金をたかるなんてヒモみたいですね』
うっせえわ! 洞窟に篭って暮らしつづける訳にも行かないじゃないか。
『まあ1月もあれば物々交換できるような物資を集められます』
「俺には無理だよ? 知識も技術も無いし、手先が器用な訳でも体力がある訳でもないんだから」
自分で言っていて情けなくなってきた。サバイバルには向いていないんだよ。
『そこはアリスに任せてください。あきらさんは功徳を積むことに集中してもらえたら良いのです』
「それなんだけど。功徳を積むって、具体的にはどんなことをすればいいの?」
『難しく考える必要はありません。人助けをすればそれが功徳となりますから』
「そんなに単純なことで良いの?」
『はい。欲を離れることが重要なので、人から奪って生きるようなことをしなければ概ね大丈夫です』
そんなことで徳を積めて成仏に近づけるのなら、わたしにもできるかな?
『何しろ生老病死を超越する部分はナノマシンが肩代わりしてくれますので、後は気の持ちようだけとも言えます』
そりゃまたイージーモードだな。
『苦労することが修業という訳ではありません。煩悩を超越する境地に近づくことが重要なのです』
それで良いというなら、深く考える必要も無いか?
「うん。それで行くわ。必要なことがあれば言ってくれ。多少の努力はできると思う」
『他に訊いておきたいことはありますか?』
そうだな。アレを訊いておかなければ。アレは大切なものだから。
「あのさ、アイテムボックスは使えるのかな?」
『なるほど。日本中の小学生を駄目人間にしたネコ型ロボットの秘密兵器が欲しいのですね?』
「その言い方! 異世界といえば鑑定能力とアイテムボックスが定番じゃないか」
鑑定の方はアリスのナビがあれば問題なさそうだ。アイテムボックスが使えるのかどうか。それによって異世界での暮らし易さが大分変わるぞ。
『下手に期待されても困るのではっきり言いましょう。アイテムボックスは再現不可能です』
「だめか。魔法も無し、アイテムボックスも無し。地味な異世界転生だなあ」
『物理法則というものがありますからね。時間を停めたり、大質量を異空間に貯蔵したりというのは無理があります』
「なんとかならないかな? モチベーションに影響するんだけど」
「もどき」でも良いから頑張ってなんとかしてもらいたい。
『物質を運ぶのは無理ですが、取り出すのに近いことはできるかもしれません』
ハイ、キターー!! デレですね? デレなのか? お願いします。
『運べないなら、その場で作れば良いんです。ナノマシンで周りの環境から素材を集めて、3Dプリンタのように物体を構成することは可能です。瞬時という訳には行きませんが』
「ふーん。まあその辺が落としどころか。錬金術みたいに見えそうだし」
錬金術も魔法と並んでチートの常連だよね。悪くない。
アリスのデータベースを活用すれば、現代の医薬品を再現することができる。薬師としてもやっていけるんじゃない?
「よし! これだけ分かれば大丈夫だろう。異世界転生、受けてやろうじゃないか」
わたしは覚悟を決めて宣言した。
『かしこまりました。それではもう一度ベッドに入って寝てください』
「また寝るの?」
『そうです。寝ている間にあきらさんの構成情報を異世界の肉体に原子単位でコピーします』
「へ? 赤ん坊に生まれ変わるんじゃないのか?」
生まれ変わりってそういうもんだと思っていた。流儀があるのだろうか?
『今回は通常の輪廻転生ではなく、生きている間に生前の記憶を全部持って転生しようというのですから、まともなやり方はできません』
「嫌な予感がするーー」
この先は聞かないほうが良いんじゃないか? できることなら逃げ出したい。
『今回転生先には既にナノマシンを少しずつ送り込んであります。向こう側で適当な死体に取り憑いて、あきらさん用の肉体に改造しているところです』
中古物件ですかー。事故物件じゃなければ良いんですがーー(泣)。
『一方こちら側からあきらさんの肉体の構成情報と記憶情報を、ナノレベルに分割してあちら側に転送します』
「はあ。なんか大変そうな」
『はい。百年ほど掛かる作業です』
「ひゃ、ひゃくねん?」
終わるまでに死んでしまう。というか、生まれ変わるために死ぬのか?
『肉体を仮死状態に置くので、あきらさんにとっては一瞬で終わります。たとえ千年掛かろうとナノマシンがつつがなく生命維持を行いますのでご心配無く』
『それではよろしいですか? すぐに異世界で再会しますが、暫しのお別れのためにお休みください』
わたしは覚悟を決めてベッドに入った。
ナノマシンに麻酔を掛けられたのか。幾許もしない内にわたしは眠りについた。
◆◆◆
『起きてください』
アリスの声に起こされて目を開けると、見知らぬ部屋に寝ていた。
『無事肉体と記憶の再構成が終わっています。違和感がありますか?』
ゆっくり体を起こし、ベッドから立ち上がってみる。
「なんだこれは!?」
違和感だらけだ。どこも痛くない。
20年この方寝起きに体が痛まない朝などなかったのに。
体を前後左右に曲げたり、手足を振り回してみる。
「軽い! 体が軽いぞ!」
『20代前半相当の肉体を再現してあります。適度にチューンナップして運動能力を高めてありますが、制御不能にならない範囲に抑えておきました』
「だから体が軽いのか」
『はい。大体オリンピック選手レベルの身体能力だと思っていただければ』
「ものゴッツイな、おい!」
コーヒーテーブルに鏡が置いてある。自分の容姿を見てみると、どうやら概ね20代の頃の容貌と大差無いようだ。ちょっと筋肉質で血色が良いくらいか。
この世界の風俗に合わせてあるのか、肩の上くらいまでの長髪に整えられている。
「この姿で新しい人生を始めるのか。何が起こるか分からないが、やってやろうじゃないか!」
こうしてわたしの異世界冒険譚が始まった。
表に出てみた。そこは森の中だった。ぽっかりと開けた広場のような土地に小屋が立っていた。
外から見るといわゆるログハウスの造り。手作りとは思えないしっかりした造作だな。
『手作りじゃありませんからね。ナノマシン謹製です』
「お前が作ったのかい!」
『この位は朝飯前です。朝飯食べませんけど』
「これなら大工とか家具職人で生活していけるんじゃないの? 人助けもそのラインでできそうな」
『それも選択肢ではあります。ただ目立ちますよ?』
そこは悩ましい所だ。自重しないならやりたい放題だが、世間が放って置くまい。貴族だ、王族だ、軍隊だという皆さんに囲い込まれそう。
それは物凄く鬱陶しい。
『とすると、ある程度一般人を装うことになりますよね』
「この世界での魔術とか錬金術の事情ってどうなっているの? 魔法はないって聞いたけれど」
そこら辺はちゃんと聞いておかないと、後でしくじりそうな気がする。
『魔法的な職業というのは呪い師くらいしかありませんね』
「そりゃあお寒いねえ。気休め程度の内容なのかな?」
『はい。占いとか魔除けの類ですね』
「そんな所でファイアーボールとかぶっ放したら、すぐ捕まるな」
『それはもう、世紀の珍獣扱いをされるでしょう』
「ビックリ人間くらいにしておいてよ。さすがに珍獣は嫌だわ」
サーカス団に売られてしまいそう。
「錬金術の方はどうよ?」
『こちらは基本、表で使うものではないので、秘密裏に存在することになっています』
「言い方に含みがあるね。本当は?」
『全部インチキです』
「錬金術を名乗ったら詐欺師の仲間入りかあ」
どっちに転んでも怪しい人にしかなれないようだ。
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