26 / 694
第1章 少年立志編
第26話 賢者は聞く。
しおりを挟む
「何だお前ら? もう仲良くなったのか?」
コッシュは怪訝そうな顔をして、二人を見比べた。
「仲良くだなんて、そんな……」
プリシラは顔を赤くした。ステファノの方は平気な顔である。この程度のハラスメントで驚いているようでは、飯屋で酔っ払いの相手はできない。
「先輩になる人にいろいろ話を聞かせて貰いました」
「お、おう。そうか……。そうだ、プリシラ。ステファノはしばらくうちで働くことになるからな」
普通にされると揶揄い甲斐がないものである。コッシュはお預けを食ったような気持ちだった。
「え? 一緒に働くんですか?」
プリシラは改めてステファノの顔をまじまじと見た。
「何の仕事を任されるかわからないけど、商会にお世話になることになっているんだ」
ステファノはプリシラに右手を差し出した。
「よろしく、先輩」
「よ、よろしく」
プリシラはさらに顔を赤くして、ステファノの手を握った。
「お前……、大物だな」
「え? 何がですか?」
コッシュの方がたじたじであった。
「それよりあれだ。親父が話したいそうだ。奥へ付いて来てくれ」
「そうですか。じゃあ、プリシラ。また後で」
ステファノはプリシラの手を離すと、小さく会釈をしてコッシュに向き直った。
「コッシュさん、ご案内をお願いします」
奥への廊下は曲がりくねって長かった。表から見た時にはわからなかったが、商会の建物は思いの外大きく、複雑な構造をしていた。
「餓鬼の頃は何度も迷子になったもんだぜ」
なぜか鼻に皺を寄せてコッシュが言った。
「なるほど。そういう造りなんですね」
ステファノは一人納得した。
大店の商家や貴族の館などでは刺客や盗賊から財産や住人の身を守るため、通路をわざと複雑にし、部外者を迷わせるようにすることがあった。ここもそうなのだなと、ステファノは思ったのだ。
「古い屋敷ってのは厄介なもんだぜ」
ステファノの思いに気づかず、コッシュは苦い口調で想い出に蓋をした。その顔をステファノは無言で覗き見た。
コッシュはネルソンの実子ではない。後添えで入った母親に連れられてネルソンの養子となったのだ。
ステファノの目から見れば、コッシュにはネルソンとは違う言葉の訛りがうっすらと残っており、容貌骨格も血の繋がりを否定していた。
他所から来たコッシュが幼い頃迷子になるのは、盗賊除けを施した商館であれば当然のこと。そうステファノは受け入れていたのだった。
「君は目が良い。目と口はなるべく離しておきたまえ」
学者様のドイルはステファノを諭して言ったものだった。
「気付いたことがあっても、すべてを語るのは良くない。人には悟られたくないことがあり、わかっていても言われたくないことがあります」
例えば、悪い癖。思い出したくない過去。肉体の特徴。そういう物は見えていても見えない振りをしてやる物だという。
「愚者は語り、賢者は聞く。それを忘れないように」
僕は愚者の代表だったからねと、ドイルは自分の頭を叩いた。
コッシュの過去に何があろうと、それは彼1人の物であってステファノが立ち入る必要はなかった。
ステファノはただ黙ってコッシュの後ろを歩いた。
やがて、大きなドアの前に立つと、コッシュは一呼吸おいてノックした。
「お通り下さい」
ドアを開けた執事に招き入れられる形で、コッシュとステファノは部屋に入った。
「どうぞこちらへ」
広い部屋は執務室なのであろう。奥の窓際に大きなデスクが置いてある。部屋の主、ネルソンはデスクを背に部屋の入り口近くの応接セットに腰を下ろしていた。
「掛けたまえ」
今日の所はまだ客であるステファノは、コーヒーテーブルを挟んでネルソンの正面に腰を下ろした。コッシュは2人の中間、横手のソファに腰掛ける。
「どうだね? うちの店は?」
ネルソンはその質問から会話を始めた。
コッシュは怪訝そうな顔をして、二人を見比べた。
「仲良くだなんて、そんな……」
プリシラは顔を赤くした。ステファノの方は平気な顔である。この程度のハラスメントで驚いているようでは、飯屋で酔っ払いの相手はできない。
「先輩になる人にいろいろ話を聞かせて貰いました」
「お、おう。そうか……。そうだ、プリシラ。ステファノはしばらくうちで働くことになるからな」
普通にされると揶揄い甲斐がないものである。コッシュはお預けを食ったような気持ちだった。
「え? 一緒に働くんですか?」
プリシラは改めてステファノの顔をまじまじと見た。
「何の仕事を任されるかわからないけど、商会にお世話になることになっているんだ」
ステファノはプリシラに右手を差し出した。
「よろしく、先輩」
「よ、よろしく」
プリシラはさらに顔を赤くして、ステファノの手を握った。
「お前……、大物だな」
「え? 何がですか?」
コッシュの方がたじたじであった。
「それよりあれだ。親父が話したいそうだ。奥へ付いて来てくれ」
「そうですか。じゃあ、プリシラ。また後で」
ステファノはプリシラの手を離すと、小さく会釈をしてコッシュに向き直った。
「コッシュさん、ご案内をお願いします」
奥への廊下は曲がりくねって長かった。表から見た時にはわからなかったが、商会の建物は思いの外大きく、複雑な構造をしていた。
「餓鬼の頃は何度も迷子になったもんだぜ」
なぜか鼻に皺を寄せてコッシュが言った。
「なるほど。そういう造りなんですね」
ステファノは一人納得した。
大店の商家や貴族の館などでは刺客や盗賊から財産や住人の身を守るため、通路をわざと複雑にし、部外者を迷わせるようにすることがあった。ここもそうなのだなと、ステファノは思ったのだ。
「古い屋敷ってのは厄介なもんだぜ」
ステファノの思いに気づかず、コッシュは苦い口調で想い出に蓋をした。その顔をステファノは無言で覗き見た。
コッシュはネルソンの実子ではない。後添えで入った母親に連れられてネルソンの養子となったのだ。
ステファノの目から見れば、コッシュにはネルソンとは違う言葉の訛りがうっすらと残っており、容貌骨格も血の繋がりを否定していた。
他所から来たコッシュが幼い頃迷子になるのは、盗賊除けを施した商館であれば当然のこと。そうステファノは受け入れていたのだった。
「君は目が良い。目と口はなるべく離しておきたまえ」
学者様のドイルはステファノを諭して言ったものだった。
「気付いたことがあっても、すべてを語るのは良くない。人には悟られたくないことがあり、わかっていても言われたくないことがあります」
例えば、悪い癖。思い出したくない過去。肉体の特徴。そういう物は見えていても見えない振りをしてやる物だという。
「愚者は語り、賢者は聞く。それを忘れないように」
僕は愚者の代表だったからねと、ドイルは自分の頭を叩いた。
コッシュの過去に何があろうと、それは彼1人の物であってステファノが立ち入る必要はなかった。
ステファノはただ黙ってコッシュの後ろを歩いた。
やがて、大きなドアの前に立つと、コッシュは一呼吸おいてノックした。
「お通り下さい」
ドアを開けた執事に招き入れられる形で、コッシュとステファノは部屋に入った。
「どうぞこちらへ」
広い部屋は執務室なのであろう。奥の窓際に大きなデスクが置いてある。部屋の主、ネルソンはデスクを背に部屋の入り口近くの応接セットに腰を下ろしていた。
「掛けたまえ」
今日の所はまだ客であるステファノは、コーヒーテーブルを挟んでネルソンの正面に腰を下ろした。コッシュは2人の中間、横手のソファに腰掛ける。
「どうだね? うちの店は?」
ネルソンはその質問から会話を始めた。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる