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第1章 少年立志編
第34話 ダニエル先輩。
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そこに座れと言われて、ステファノは背嚢を下ろし、狭い部屋の床に置かれた木箱に腰掛けた。ダニエルの方は、2段ベッドの1段目に腰掛けている。
「いい身分だな」
目も合わさず、ダニエルが吐き捨てるように言った。
「え?」
意味がわからず、ステファノは目を丸くした。
「4時に来いと言われただろう」
低い声でダニエルが続けた。
「俺はマルチェルさんに言われて、3時半からここでお前を待ってたんだ。今何時か言ってみろ」
「そろそろ4時半になるでしょうか?」
不機嫌の理由がわかり、居心地悪く感じながらもステファノは答えた。
「わかってるじゃねえか。時間を間違えた訳じゃねえんだな?」
初めてダニエルが上目遣いにステファノと目を合わせた。一重瞼の細い目は感情を読ませない。
「はい」
「だったら、最初に言うことがあるだろうが!」
言葉より先に、ダニエルはステファノを張り飛ばした。
「旦那様の肝入りだか何だか知らねえが、勘違いするなよ? てめえはここじゃ一番の新入りだ。一番先に仕事を始めて、一番最後に上がるのが決まりだ。4時に来いと言われたら、なぜ4時前に来ねえ?」
叩かれた左頬がじんじんと痛み始めた。
「すみませんでした。自分の要領が悪くて遅くなりました」
ステファノは言い訳をせず、素直に頭を下げた。尾行者の件をダニエルに打ち明ける訳にはいかない。
「ふん。鈍くせえ野郎だ。以後、気を付けろ!」
「ありがとうございます。これから気を付けます」
怯える、泣く、黙り込む、言い返す。ダニエルが予想した反応のどれともステファノのそれは異なった。
ねちねちといびってやる積りでいたのに、きれいに頭を下げられてしまってはやり様がない。
頬を張り飛ばされた直後に、「ありがとうございます」という奴がいるか? 何だこいつは?
ダニエルはやりにくさを感じていた。
「あれだ。本当なら店の営業は6時までだ。その後も仕事は続くんだ。俺はそれをわざわざ外れて、てめえのためにここにいたってことを忘れんな!」
無理矢理でもステファノへの怒りを掻き立てて、ダニエルはいかに迷惑を被ったかを言い立てた。実際は、早上がりをさせてもらって楽をしたのだが……。
「仕事の邪魔をしてしまって、すみませんでした」
1割でもこちらに非があるなら、四の五の言わずに謝った方が良い。小言を早めに逃れるために、ステファノが身に着けた知恵であった。
「まあよ、わかればいいんだ。俺はダニエルだ。店に来て4年目になる。俺の言うことは旦那様の言うことだと思えよ」
「ステファノです。歳は17になった所です。これからよろしくお願いします」
改めて頭を下げた。相部屋の先輩ということは、商会での教育係ということだろう。
ただで知識を分け与えてくれる人と思えば、素直に頭が下げられる。
「お、おう。あれだな、17か? 奉公を始めるには大分遅いな?」
「はい。実家で飯屋の手伝いをしてたもんで」
「飯屋だ? 何だ、そりゃ?」
ネルソン商会の取引先か何かから紹介されて来たのだろうと思っていたダニエルは、意表を突かれて素の表情で驚いた。
「旅の途中で盗賊に襲われて、旦那様に拾って頂きました」
「ああ? 何だ? 盗賊? どうして? えっ?」
「駅馬車強盗が2回出まして」
ステファノは悪乗りして付け加えた。
「強盗が2回って、どういうことだ? えっ? どうやって助かったんだ?」
すっかり小言のことを忘れて、ダニエルは話に引き込まれてしまった。
「偶然なんですけど、二つ名持ちが2人馬車に乗り合わせていたもんで」
こうなったらステファノのペースである。可愛い顔をしてダニエルを誑し込む。
「二つ名持ちだと? 2人? 本物か? 見たのか、お前?」
どうやらダニエルはそういう話に目がないらしい。目を輝かせて身を乗り出して来た。
「いい身分だな」
目も合わさず、ダニエルが吐き捨てるように言った。
「え?」
意味がわからず、ステファノは目を丸くした。
「4時に来いと言われただろう」
低い声でダニエルが続けた。
「俺はマルチェルさんに言われて、3時半からここでお前を待ってたんだ。今何時か言ってみろ」
「そろそろ4時半になるでしょうか?」
不機嫌の理由がわかり、居心地悪く感じながらもステファノは答えた。
「わかってるじゃねえか。時間を間違えた訳じゃねえんだな?」
初めてダニエルが上目遣いにステファノと目を合わせた。一重瞼の細い目は感情を読ませない。
「はい」
「だったら、最初に言うことがあるだろうが!」
言葉より先に、ダニエルはステファノを張り飛ばした。
「旦那様の肝入りだか何だか知らねえが、勘違いするなよ? てめえはここじゃ一番の新入りだ。一番先に仕事を始めて、一番最後に上がるのが決まりだ。4時に来いと言われたら、なぜ4時前に来ねえ?」
叩かれた左頬がじんじんと痛み始めた。
「すみませんでした。自分の要領が悪くて遅くなりました」
ステファノは言い訳をせず、素直に頭を下げた。尾行者の件をダニエルに打ち明ける訳にはいかない。
「ふん。鈍くせえ野郎だ。以後、気を付けろ!」
「ありがとうございます。これから気を付けます」
怯える、泣く、黙り込む、言い返す。ダニエルが予想した反応のどれともステファノのそれは異なった。
ねちねちといびってやる積りでいたのに、きれいに頭を下げられてしまってはやり様がない。
頬を張り飛ばされた直後に、「ありがとうございます」という奴がいるか? 何だこいつは?
ダニエルはやりにくさを感じていた。
「あれだ。本当なら店の営業は6時までだ。その後も仕事は続くんだ。俺はそれをわざわざ外れて、てめえのためにここにいたってことを忘れんな!」
無理矢理でもステファノへの怒りを掻き立てて、ダニエルはいかに迷惑を被ったかを言い立てた。実際は、早上がりをさせてもらって楽をしたのだが……。
「仕事の邪魔をしてしまって、すみませんでした」
1割でもこちらに非があるなら、四の五の言わずに謝った方が良い。小言を早めに逃れるために、ステファノが身に着けた知恵であった。
「まあよ、わかればいいんだ。俺はダニエルだ。店に来て4年目になる。俺の言うことは旦那様の言うことだと思えよ」
「ステファノです。歳は17になった所です。これからよろしくお願いします」
改めて頭を下げた。相部屋の先輩ということは、商会での教育係ということだろう。
ただで知識を分け与えてくれる人と思えば、素直に頭が下げられる。
「お、おう。あれだな、17か? 奉公を始めるには大分遅いな?」
「はい。実家で飯屋の手伝いをしてたもんで」
「飯屋だ? 何だ、そりゃ?」
ネルソン商会の取引先か何かから紹介されて来たのだろうと思っていたダニエルは、意表を突かれて素の表情で驚いた。
「旅の途中で盗賊に襲われて、旦那様に拾って頂きました」
「ああ? 何だ? 盗賊? どうして? えっ?」
「駅馬車強盗が2回出まして」
ステファノは悪乗りして付け加えた。
「強盗が2回って、どういうことだ? えっ? どうやって助かったんだ?」
すっかり小言のことを忘れて、ダニエルは話に引き込まれてしまった。
「偶然なんですけど、二つ名持ちが2人馬車に乗り合わせていたもんで」
こうなったらステファノのペースである。可愛い顔をしてダニエルを誑し込む。
「二つ名持ちだと? 2人? 本物か? 見たのか、お前?」
どうやらダニエルはそういう話に目がないらしい。目を輝かせて身を乗り出して来た。
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