51 / 694
第2章 魔術都市陰謀編
第51話 春花の術。
しおりを挟む
「自分も聞きかじりで詳しくは説明できませんが、およそ物には固相、液相、気相という3つの相があるそうです。相とは物の状態を言います」
「もう少しわかりやすく説明できませんか?」
ソフィアはステファノの言葉に真実を語る者の揺るぎなさを感じた。わからないなりにきちんと説明を聞こうと、姿勢を改めた。
「はい。水を例に取りましょう。水は同じものでありながら、氷、水、蒸気という3つの形を持っています。これが水の3相です」
「ああ。それを相と言うのですか? それが毒とどう関わりますか?」
「毒も3相を持ちます」
「水だけではないのですね。だとしたらどうなります?」
「固相、液相では難しいことが、気相であれば可能になるのです」
「毒を蒸気のようにする?」
ソフィアはステファノの目指す場所の一端を捉えたようだ。
「はい。気相であれば、毒を魔術で運ぶことが可能になります」
「そのような術があるのですか?」
「春花の術という暗殺術があるそうです」
「春花?」
「風上から眠り薬の粉を撒き、敵を眠らせる術だそうです」
「まさか、そのような術が……」
「良くできた作り話だそうです」
「えっ? 作り話?」
あると言っては無いと言う。ステファノはふざけているのか?
「余程近くに寄らなければ薬の効き目は無い上に、自分も薬を吸う危険が大きすぎるそうです」
そもそもそんなに近づけるならば、刃物で刺せば良い。石をぶつけてやっても良い。
「ですが、魔術が絡めば話が変わって来ます」
わかり掛けたと思ったステファノの狙いを、ソフィアはまた見失っていた。
「どうなるのですか?」
「粉は固体を細かくしたものですが、それでも遠くまで運ぶのは難しい。風に載せても途中で落ちてしまいます。気相であればほとんど重さを気にする必要がありません。空気より軽いこともあるそうです」
「空気よりも軽い……」
ステファノが次々と持ち出す概念は、ソフィアの世界には無かった物であった。ソフィアは新しい考えに必死に食らいつく。
「気相にした毒を風魔術で食肉倉庫まで飛ばしたのだと思います」
「そんなの無理よ! 蒸気のような物なら余計に散ってしまうじゃない! あっ?」
思わず口を挟んでしまったエリスは、慌てて自分の口を押えた。
「構いませんよ。私の疑問も同じです。あなたも探索に同行したのですから、思うことがあったら仰いなさい」
ソフィアはエリスの無作法を咎めなかった。
「風魔術は普通『空気』に掛けるものです」
ステファノもエリスの異論を気にせず、話を続けた。
「空気に魔術を掛ける……?」
「風を起こすとは空気を動かすことなのです」
ソフィアの疑問に根気よくステファノは答える。ここを大切にしないと、ゴールには辿りつけないのだ。
「風魔術で粉を飛ばすのは、息を吹き掛けるのと同じことです」
粉自体を直接動かすことはできないのだ。
「2メートル半先の的に当てることは至難の業でしょう」
見て来たようにステファノは言う。実際に見て来たのだ、想像の目で。
「気相にしたら何が変わるのですか?」
大切な質問をソフィアがする。しっかりした人だなと、ステファノはこんな際であっても感心した。
「気相になった毒薬は、それ自体が風魔術の対象になるんです」
「そんなことが……」
ソフィアは脳天を殴られたような衝撃を受けた。実際に少しよろけたので、エリスが心配して手を差し伸べようとしたくらいだ。
大丈夫ですと、ソフィアはエリスを身振りで押し止めた。
熱を加えて蒸発した毒薬を、風魔術で飛ばすだと? できるのか? できるかもしれない。
「でも、2メートル半先の的に当てられるの?」
ステファノの言葉をそのまま掴まえて、エリスは問い糺した。
「もう少しわかりやすく説明できませんか?」
ソフィアはステファノの言葉に真実を語る者の揺るぎなさを感じた。わからないなりにきちんと説明を聞こうと、姿勢を改めた。
「はい。水を例に取りましょう。水は同じものでありながら、氷、水、蒸気という3つの形を持っています。これが水の3相です」
「ああ。それを相と言うのですか? それが毒とどう関わりますか?」
「毒も3相を持ちます」
「水だけではないのですね。だとしたらどうなります?」
「固相、液相では難しいことが、気相であれば可能になるのです」
「毒を蒸気のようにする?」
ソフィアはステファノの目指す場所の一端を捉えたようだ。
「はい。気相であれば、毒を魔術で運ぶことが可能になります」
「そのような術があるのですか?」
「春花の術という暗殺術があるそうです」
「春花?」
「風上から眠り薬の粉を撒き、敵を眠らせる術だそうです」
「まさか、そのような術が……」
「良くできた作り話だそうです」
「えっ? 作り話?」
あると言っては無いと言う。ステファノはふざけているのか?
「余程近くに寄らなければ薬の効き目は無い上に、自分も薬を吸う危険が大きすぎるそうです」
そもそもそんなに近づけるならば、刃物で刺せば良い。石をぶつけてやっても良い。
「ですが、魔術が絡めば話が変わって来ます」
わかり掛けたと思ったステファノの狙いを、ソフィアはまた見失っていた。
「どうなるのですか?」
「粉は固体を細かくしたものですが、それでも遠くまで運ぶのは難しい。風に載せても途中で落ちてしまいます。気相であればほとんど重さを気にする必要がありません。空気より軽いこともあるそうです」
「空気よりも軽い……」
ステファノが次々と持ち出す概念は、ソフィアの世界には無かった物であった。ソフィアは新しい考えに必死に食らいつく。
「気相にした毒を風魔術で食肉倉庫まで飛ばしたのだと思います」
「そんなの無理よ! 蒸気のような物なら余計に散ってしまうじゃない! あっ?」
思わず口を挟んでしまったエリスは、慌てて自分の口を押えた。
「構いませんよ。私の疑問も同じです。あなたも探索に同行したのですから、思うことがあったら仰いなさい」
ソフィアはエリスの無作法を咎めなかった。
「風魔術は普通『空気』に掛けるものです」
ステファノもエリスの異論を気にせず、話を続けた。
「空気に魔術を掛ける……?」
「風を起こすとは空気を動かすことなのです」
ソフィアの疑問に根気よくステファノは答える。ここを大切にしないと、ゴールには辿りつけないのだ。
「風魔術で粉を飛ばすのは、息を吹き掛けるのと同じことです」
粉自体を直接動かすことはできないのだ。
「2メートル半先の的に当てることは至難の業でしょう」
見て来たようにステファノは言う。実際に見て来たのだ、想像の目で。
「気相にしたら何が変わるのですか?」
大切な質問をソフィアがする。しっかりした人だなと、ステファノはこんな際であっても感心した。
「気相になった毒薬は、それ自体が風魔術の対象になるんです」
「そんなことが……」
ソフィアは脳天を殴られたような衝撃を受けた。実際に少しよろけたので、エリスが心配して手を差し伸べようとしたくらいだ。
大丈夫ですと、ソフィアはエリスを身振りで押し止めた。
熱を加えて蒸発した毒薬を、風魔術で飛ばすだと? できるのか? できるかもしれない。
「でも、2メートル半先の的に当てられるの?」
ステファノの言葉をそのまま掴まえて、エリスは問い糺した。
10
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる