58 / 694
第2章 魔術都市陰謀編
第58話 迷いを捨てる。
しおりを挟む
「考え事を始めると、人の気持ちを見失うことがあるようです。悪気はないんですが、元々情が薄いっていうか……。疑問の答えを出すことで頭が一杯になるというか」
人間の頭の中身を乱暴に分ければ、「論理的思考」と「情緒的思考」とに分かれる。「理」と「情」だ。
普通この2つは共存しており、外部の環境、本人の体調などによって表に出て来る思考は「理」と「情」の間を揺れ動く。
人によってこのバランスは異なり、「理」が表に立つ人と「情」に偏りがちな人とがいる。ステファノは前者であり、推理を働かせる時、極端に「理」に傾くのだ。
「そういうものかしら? 確かに、こうしている時は普通の男の子に見えるわね」
「当然ですよ。特別な取柄は何も無いんですから」
自分で言いながら、若干情けない思いをするステファノであった。
「ちょっと良いか?」
エリスが落ちついたのを見定めて、アランが口を挟んだ。
「これは万一に備えての質問なんだが……。ステファノ、毒の種類を絞り込むことはできないのか?」
手口の知れた暗殺行動であれば防ぎきることができるはずだが、万一手口を変えてきた場合、警備の網をすり抜けることがあるかもしれない。毒の種類を1つに絞り込めれば、確実に解毒剤で対処する事ができる。
「それについては残念ながら手掛かりがありません」
「そうか……。ではやはり3つのうち1つを選ばねばならぬのだな?」
「はい。前回使われたのは1番ですよね?」
肉に残った毒を分析し、使われた毒薬の成分は判明している。現にネルソンが調合した解毒剤は効果を顕した。
しかし、次も同じ毒を使ってくるかどうかはわからない。「無味無臭」の代表的な毒を選び出し、その解毒剤を準備しただけなのだ。
「毒の症状が出た場合、まず最も疑わしい1番の毒に対する解毒剤を飲ませる。1時間待っても効き目が表れない場合は2番の解毒剤。それでもダメな場合、3番の解毒剤を飲ませる。それがネルソンから指示された対処法だ」
2種類以上の解毒剤を同時に飲めば、薬同士が結びついて薬効を弱めてしまう。1番の解毒剤が「外れ」であった時の救命率は大幅に下がるだろうと心配された。
「わからぬものは仕方がない。前回と同じ毒が使われると信じて、1番の解毒剤を飲ませよう」
これ以上悩んでも堂々巡りになるだけだと見定めたアランは、話を打ち切るように結論を出した。毒を変えて来ることを疑おうとも、使われた実績がある1番の毒を除外する訳にはいかないのだ。
いざという時に迷って解毒剤の投与が遅れては何の意味もない。迷いを捨てるために、投与の順番を瓶に明記したのだった。
「解毒剤が効くかどうかは神のみぞ知る。最後の最後、我らにできるのは殿下の天運を信じることだけだ」
アランは、ネルソンの言葉を繰り返した。己の中の勇気を掻き立てるためにも、言葉にする必要があった。
屋敷内外の警備体制についてステファノがアランに教えてもらっている頃、正門にネルソン達が到着した。
「そういえば、『鉄壁』って何のことです?」
ステファノはソフィアの言葉を思い出して、エリスに聞いてみた。
「さあ? わたしには何のことか……?」
エリスには心当たりが無いようだった。
顔を見合わせたのは、2人の騎士だった。
「別に隠すようなことではないだろう。マルチェルの二つ名さ」
「うちのマルチェルさんですか?」
ステファノは目を丸くした。
「ああ。ネルソンはソフィア様の兄だ。元は貴族の出だということは知っているな? マルチェルはその頃ギルモア侯爵家に仕える護衛騎士だった。我々のようにな」
人間の頭の中身を乱暴に分ければ、「論理的思考」と「情緒的思考」とに分かれる。「理」と「情」だ。
普通この2つは共存しており、外部の環境、本人の体調などによって表に出て来る思考は「理」と「情」の間を揺れ動く。
人によってこのバランスは異なり、「理」が表に立つ人と「情」に偏りがちな人とがいる。ステファノは前者であり、推理を働かせる時、極端に「理」に傾くのだ。
「そういうものかしら? 確かに、こうしている時は普通の男の子に見えるわね」
「当然ですよ。特別な取柄は何も無いんですから」
自分で言いながら、若干情けない思いをするステファノであった。
「ちょっと良いか?」
エリスが落ちついたのを見定めて、アランが口を挟んだ。
「これは万一に備えての質問なんだが……。ステファノ、毒の種類を絞り込むことはできないのか?」
手口の知れた暗殺行動であれば防ぎきることができるはずだが、万一手口を変えてきた場合、警備の網をすり抜けることがあるかもしれない。毒の種類を1つに絞り込めれば、確実に解毒剤で対処する事ができる。
「それについては残念ながら手掛かりがありません」
「そうか……。ではやはり3つのうち1つを選ばねばならぬのだな?」
「はい。前回使われたのは1番ですよね?」
肉に残った毒を分析し、使われた毒薬の成分は判明している。現にネルソンが調合した解毒剤は効果を顕した。
しかし、次も同じ毒を使ってくるかどうかはわからない。「無味無臭」の代表的な毒を選び出し、その解毒剤を準備しただけなのだ。
「毒の症状が出た場合、まず最も疑わしい1番の毒に対する解毒剤を飲ませる。1時間待っても効き目が表れない場合は2番の解毒剤。それでもダメな場合、3番の解毒剤を飲ませる。それがネルソンから指示された対処法だ」
2種類以上の解毒剤を同時に飲めば、薬同士が結びついて薬効を弱めてしまう。1番の解毒剤が「外れ」であった時の救命率は大幅に下がるだろうと心配された。
「わからぬものは仕方がない。前回と同じ毒が使われると信じて、1番の解毒剤を飲ませよう」
これ以上悩んでも堂々巡りになるだけだと見定めたアランは、話を打ち切るように結論を出した。毒を変えて来ることを疑おうとも、使われた実績がある1番の毒を除外する訳にはいかないのだ。
いざという時に迷って解毒剤の投与が遅れては何の意味もない。迷いを捨てるために、投与の順番を瓶に明記したのだった。
「解毒剤が効くかどうかは神のみぞ知る。最後の最後、我らにできるのは殿下の天運を信じることだけだ」
アランは、ネルソンの言葉を繰り返した。己の中の勇気を掻き立てるためにも、言葉にする必要があった。
屋敷内外の警備体制についてステファノがアランに教えてもらっている頃、正門にネルソン達が到着した。
「そういえば、『鉄壁』って何のことです?」
ステファノはソフィアの言葉を思い出して、エリスに聞いてみた。
「さあ? わたしには何のことか……?」
エリスには心当たりが無いようだった。
顔を見合わせたのは、2人の騎士だった。
「別に隠すようなことではないだろう。マルチェルの二つ名さ」
「うちのマルチェルさんですか?」
ステファノは目を丸くした。
「ああ。ネルソンはソフィア様の兄だ。元は貴族の出だということは知っているな? マルチェルはその頃ギルモア侯爵家に仕える護衛騎士だった。我々のようにな」
11
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。
お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる