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第4章 魔術学園奮闘編
第174話 情報革命の3要素とは?
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「言葉を写すんですか……手もペンも使わずに……」
できるか、それが? 無意識のうちにステファノはイドを探る。それは暗闇の中でレーダーを使うような精神の働きであった。
「そう。あくまでも仮説だ。今のところはね。さて、君は画像だけではわかりにくいということを言ったね?」
「はい。例えば雨の絵なのか、雪の絵なのか、みぞれの絵なのか、見ただけではわからないかもしれないと思って」
「ふふふ。だが、実物の雨を見れば雪と間違えることはないだろう?」
実物を見れば雨と雪を間違える者はいない。それを間違えるくらいなら、そもそも情報を伝えられないではないか?
ステファノが不審気な顔をすると、スールーはまた人差し指を立てた。
「心を柔軟にしてくれよ。僕が言っているのは『動いている画像』を念写したら良いんじゃないかってことさ」
「絵を動かすって……」
「だから心に柔らかさが必要なんだよ。いいかい? 絵は動かなくても良いんだ。まあ聞け。たとえば1枚絵を描いて、1秒後の姿の絵をもう1枚描いたとする。そうしたらこれは1秒間の動きを伝えることにならないか?」
動く絵ではなく、動きを記録した絵か。それなら可能かもしれない。根拠はないながらステファノにはそう思えた。
「1秒間隔では粗すぎるでしょうから、その間をどんどん細かくして行けば良いわけですね?」
ステファノはスールーの考えを先読みして言った。
「ど変態がいる」
「普通は『頭がおかしい』って言われるんだけどね」
どうやらサントスはステファノの反応を面白がっているようだ。サントスの反応こそ、かなり変わった性癖ではないかとステファノは思った。
「そして、そして、動く画像……正確に言うと『動きを伝える画像』は紙に念写する必要はない」
「では、どこに念写すると?」
「わからん!」
スールーは興奮して立ち上がった。
「わからんが、どこでも良いんだ! 壁に写しても良いぞ。窓に写しても良い。眼鏡に写したらどうだ? いっそのこと、目玉に写せば手っ取り早いぞ」
「頭の中に写した方がもっと早い」
なぜだかサントスの一言がステファノの背筋に戦慄を走らせた。
「そうなるとだ。な? 絵だけで終わらせる必要はないだろう? 声や音も写してやればよい」
「えっ? えっ? 音を絵にするってどういうことですか?」
「知らん! 音が見えても構わんし、音が聞こえる気になるだけでも良い。音の持つ情報が伝われば良いのだ」
スールーは人差し指を振り回す。言っていることが無茶苦茶だった。
だが……、ステファノはその言葉を否定できない。そのイメージを受け止めてしまった。
「そしてだな。こういうことをやる」
スールーはポケットから小さな封筒を取り出した。別のポケットからピンセットを出す。
慎重な手つきで封筒の蓋を持ち上げ、ピンセットの先で封筒の中から小さなものを摘まみ出した。
「息を止めて手を出せ。動かすなよ」
言われるままにステファノは右手のひらを差し出した。
窪んだ手の真ん中に、スールーはピンセットの先で摘まんだ白い物を置く。
「それは薄紙を畳んだものだ。このピンセットを使って広げてみろ」
魅入られたようにステファノはピンセットを受け取り、息を止めたまま慎重に手の上の紙片を広げる。
その姿をスールーとサントスは口元を手で覆い、目だけをギラギラさせて見ていた。
小さな紙片を震えるピンセットの先で広げてみると、それはわずか5ミリ四方の大きさであった。
そこには蚤のような大きさの文字が書かれていたが、小さすぎて肉眼では読み取れない。
サントスがポケットから取り出した虫眼鏡をそっと差し出した。
息を止めたままのステファノが虫眼鏡を覗くと、そこに書かれていた文字はこう読めた。
『あほが見ーるー、豚のケーツー』
「はあ? こんだけの手間を掛けて、何ですかこれは?」
「ぶはぁあー、はははは!」
「考えたのはスールー。書いたのは僕」
あまりの馬鹿々々しさにステファノは脱力した。傾いた手のひらから零れ落ちる小さな紙片。
「あっ! 馬鹿っ! 貴重な実験体が!」
「3日間の集大成」
2人は床に四つん這いになって落ちた紙片を探し始めた。
(ううー、風魔法を使いたい……。ぐぐぐ)
ステファノは拳を握り締めた。
「は、発見……。ピンセットを……。ヨシ! 確保したぞ!」
「おー。世界の危機は去った」
封筒をポケットに仕舞い、スールーは何事もなかったかのように席に戻った。
「というように、情報を圧縮することも大切である」
「ぎゅっとする」
「はあ」
急激にやる気がなくなったステファノであった。
「ゴホン。ちょっとスールー・ジョークが混ざったが、今のも重要な実験なのだぞ? さっきの文章は全部で14文字あった」
「はい」
「それを5ミリ×5ミリの紙片に書き込んだわけだ。普通に書けば、5センチ×5センチくらいだろう」
「そうかもしれませんね」
ステファノの冷たい反応にやりにくそうなサントスであったが、ここは重要なポイントなので顔を引き締めて腹に力を入れた。
「すなわち! 10倍×10倍の用紙を使うことになり、100倍の紙面を使うことになる!」
つまり、あの下らないメモは「情報を100分の1サイズに圧縮する」見本であった。
「伝達するスピード、伝達できるボリュームが不変であれば、圧縮技術によって情報伝達効率を飛躍的に向上することができる!」
「ふうむ……。なるほど」
ようやくステファノは冷静に「実験」の意味するところを評価できるようになった。確かに、通常の文字を描くのと同じ時間で圧縮文書が作成できるのであれば、伝達効率を向上する事が出来るだろう。
「だけど……、すべて『可能性』ですよね。それを実現する技術は存在しないんでしょう?」
「その通りだ」
「そこだけ問題」
「いや、そこだけって、それが大変なんでしょうに」
「その通りだ」
「ゆえに大発明」
2人はあくまでもマイペースであった。
「ここまではいいね。それじゃあ新メンバーのステファノのために、情報革命の定理を整理して上げよう!」
「いや、まだメンバーじゃありませんけど」
「『仮』だよ『仮』。いちいち『(仮)』とつけるのも面倒だろう? なし崩しにしにくいし」
「下心満載」
自分がしっかりしていれば良いことなので、ステファノはいちいち2人の言うことを訂正するのを諦めた。
「情報革命の根本は、①情報記録密度の向上、②情報複製速度の向上、③情報伝達速度の向上の3要素によって為される!」
「以上!」
「はい。一旦そういうことだと飲み込みました」
整理してみれば、考えそのものは難しいことではない。実現するのが困難だと言うだけのことである。
「ここからが『センス』の問題だ」
「天才と凡人の差」
2人の話は実行手段の方向へと進んだ。
「凡人は思うだろう。優秀な魔術師がいればできるかもしれないと」
「念写の話はそもそも魔術師ありきでしょうに?」
「魔術師が行った例があると言うだけだ」
「魔術がないとできないとは言っていない」
「言ってない」
できるのだろうかと、ステファノは考えてみる。魔術にできることを魔術を使わずに。
それは話が逆な気もする。初級魔術とは道具を使えばできることを、「道具なしでできる術」ではなかったか?
「道具があればできる?」
ステファノはスールーたちが追い掛ける筋道の一端が見えるような気がした。
「3つの内の1つだ」
「何が3つなんですか?」
「答えは3つある。君の考えはそのうちの1つだ」
相変わらず自信たっぷりに見えるスールーであった。
「その1、魔術師にやらせる。特殊な術を使えるように訓練する必要があるが、潤沢な資金と潤沢な時間があれば可能だと思う」
「その2、魔術を道具に込める。決まった術を再現できる魔術道具があれば、魔術師がいなくても魔術の効果を得られる可能性がある」
「その3、まったく魔術を使わずに結果だけを再現する。困難な道だが、成功の暁には最も大きな効果を上げられる」
お得意の右手の指は、薬指まで立てられていた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第175話 情報革命への3つのアプローチ。」
「3つめのアプローチがあるんじゃないでしょうか?」
「折衷案か? というか、途中経過では自然とそうなってしまうだろう。技術が足りない部分を魔術で補ってもらうことになるだろうな」
「ふうむ。全体像としては『折衷案』構造、つまりつぎはぎ型になるだろうと。パーツを見た時に、できるところは純粋技術で作り上げ、どうしてもできない部分を純粋魔術で補うと。そんな感じでしょうか?」
「うん。それで合っている。君の役割は……」
「純粋魔術部分の開発・運用と、折衷案での技術開発支援ということですか?」
「う、うん。一言で言えばそういうことだ」
……
◆お楽しみに。
できるか、それが? 無意識のうちにステファノはイドを探る。それは暗闇の中でレーダーを使うような精神の働きであった。
「そう。あくまでも仮説だ。今のところはね。さて、君は画像だけではわかりにくいということを言ったね?」
「はい。例えば雨の絵なのか、雪の絵なのか、みぞれの絵なのか、見ただけではわからないかもしれないと思って」
「ふふふ。だが、実物の雨を見れば雪と間違えることはないだろう?」
実物を見れば雨と雪を間違える者はいない。それを間違えるくらいなら、そもそも情報を伝えられないではないか?
ステファノが不審気な顔をすると、スールーはまた人差し指を立てた。
「心を柔軟にしてくれよ。僕が言っているのは『動いている画像』を念写したら良いんじゃないかってことさ」
「絵を動かすって……」
「だから心に柔らかさが必要なんだよ。いいかい? 絵は動かなくても良いんだ。まあ聞け。たとえば1枚絵を描いて、1秒後の姿の絵をもう1枚描いたとする。そうしたらこれは1秒間の動きを伝えることにならないか?」
動く絵ではなく、動きを記録した絵か。それなら可能かもしれない。根拠はないながらステファノにはそう思えた。
「1秒間隔では粗すぎるでしょうから、その間をどんどん細かくして行けば良いわけですね?」
ステファノはスールーの考えを先読みして言った。
「ど変態がいる」
「普通は『頭がおかしい』って言われるんだけどね」
どうやらサントスはステファノの反応を面白がっているようだ。サントスの反応こそ、かなり変わった性癖ではないかとステファノは思った。
「そして、そして、動く画像……正確に言うと『動きを伝える画像』は紙に念写する必要はない」
「では、どこに念写すると?」
「わからん!」
スールーは興奮して立ち上がった。
「わからんが、どこでも良いんだ! 壁に写しても良いぞ。窓に写しても良い。眼鏡に写したらどうだ? いっそのこと、目玉に写せば手っ取り早いぞ」
「頭の中に写した方がもっと早い」
なぜだかサントスの一言がステファノの背筋に戦慄を走らせた。
「そうなるとだ。な? 絵だけで終わらせる必要はないだろう? 声や音も写してやればよい」
「えっ? えっ? 音を絵にするってどういうことですか?」
「知らん! 音が見えても構わんし、音が聞こえる気になるだけでも良い。音の持つ情報が伝われば良いのだ」
スールーは人差し指を振り回す。言っていることが無茶苦茶だった。
だが……、ステファノはその言葉を否定できない。そのイメージを受け止めてしまった。
「そしてだな。こういうことをやる」
スールーはポケットから小さな封筒を取り出した。別のポケットからピンセットを出す。
慎重な手つきで封筒の蓋を持ち上げ、ピンセットの先で封筒の中から小さなものを摘まみ出した。
「息を止めて手を出せ。動かすなよ」
言われるままにステファノは右手のひらを差し出した。
窪んだ手の真ん中に、スールーはピンセットの先で摘まんだ白い物を置く。
「それは薄紙を畳んだものだ。このピンセットを使って広げてみろ」
魅入られたようにステファノはピンセットを受け取り、息を止めたまま慎重に手の上の紙片を広げる。
その姿をスールーとサントスは口元を手で覆い、目だけをギラギラさせて見ていた。
小さな紙片を震えるピンセットの先で広げてみると、それはわずか5ミリ四方の大きさであった。
そこには蚤のような大きさの文字が書かれていたが、小さすぎて肉眼では読み取れない。
サントスがポケットから取り出した虫眼鏡をそっと差し出した。
息を止めたままのステファノが虫眼鏡を覗くと、そこに書かれていた文字はこう読めた。
『あほが見ーるー、豚のケーツー』
「はあ? こんだけの手間を掛けて、何ですかこれは?」
「ぶはぁあー、はははは!」
「考えたのはスールー。書いたのは僕」
あまりの馬鹿々々しさにステファノは脱力した。傾いた手のひらから零れ落ちる小さな紙片。
「あっ! 馬鹿っ! 貴重な実験体が!」
「3日間の集大成」
2人は床に四つん這いになって落ちた紙片を探し始めた。
(ううー、風魔法を使いたい……。ぐぐぐ)
ステファノは拳を握り締めた。
「は、発見……。ピンセットを……。ヨシ! 確保したぞ!」
「おー。世界の危機は去った」
封筒をポケットに仕舞い、スールーは何事もなかったかのように席に戻った。
「というように、情報を圧縮することも大切である」
「ぎゅっとする」
「はあ」
急激にやる気がなくなったステファノであった。
「ゴホン。ちょっとスールー・ジョークが混ざったが、今のも重要な実験なのだぞ? さっきの文章は全部で14文字あった」
「はい」
「それを5ミリ×5ミリの紙片に書き込んだわけだ。普通に書けば、5センチ×5センチくらいだろう」
「そうかもしれませんね」
ステファノの冷たい反応にやりにくそうなサントスであったが、ここは重要なポイントなので顔を引き締めて腹に力を入れた。
「すなわち! 10倍×10倍の用紙を使うことになり、100倍の紙面を使うことになる!」
つまり、あの下らないメモは「情報を100分の1サイズに圧縮する」見本であった。
「伝達するスピード、伝達できるボリュームが不変であれば、圧縮技術によって情報伝達効率を飛躍的に向上することができる!」
「ふうむ……。なるほど」
ようやくステファノは冷静に「実験」の意味するところを評価できるようになった。確かに、通常の文字を描くのと同じ時間で圧縮文書が作成できるのであれば、伝達効率を向上する事が出来るだろう。
「だけど……、すべて『可能性』ですよね。それを実現する技術は存在しないんでしょう?」
「その通りだ」
「そこだけ問題」
「いや、そこだけって、それが大変なんでしょうに」
「その通りだ」
「ゆえに大発明」
2人はあくまでもマイペースであった。
「ここまではいいね。それじゃあ新メンバーのステファノのために、情報革命の定理を整理して上げよう!」
「いや、まだメンバーじゃありませんけど」
「『仮』だよ『仮』。いちいち『(仮)』とつけるのも面倒だろう? なし崩しにしにくいし」
「下心満載」
自分がしっかりしていれば良いことなので、ステファノはいちいち2人の言うことを訂正するのを諦めた。
「情報革命の根本は、①情報記録密度の向上、②情報複製速度の向上、③情報伝達速度の向上の3要素によって為される!」
「以上!」
「はい。一旦そういうことだと飲み込みました」
整理してみれば、考えそのものは難しいことではない。実現するのが困難だと言うだけのことである。
「ここからが『センス』の問題だ」
「天才と凡人の差」
2人の話は実行手段の方向へと進んだ。
「凡人は思うだろう。優秀な魔術師がいればできるかもしれないと」
「念写の話はそもそも魔術師ありきでしょうに?」
「魔術師が行った例があると言うだけだ」
「魔術がないとできないとは言っていない」
「言ってない」
できるのだろうかと、ステファノは考えてみる。魔術にできることを魔術を使わずに。
それは話が逆な気もする。初級魔術とは道具を使えばできることを、「道具なしでできる術」ではなかったか?
「道具があればできる?」
ステファノはスールーたちが追い掛ける筋道の一端が見えるような気がした。
「3つの内の1つだ」
「何が3つなんですか?」
「答えは3つある。君の考えはそのうちの1つだ」
相変わらず自信たっぷりに見えるスールーであった。
「その1、魔術師にやらせる。特殊な術を使えるように訓練する必要があるが、潤沢な資金と潤沢な時間があれば可能だと思う」
「その2、魔術を道具に込める。決まった術を再現できる魔術道具があれば、魔術師がいなくても魔術の効果を得られる可能性がある」
「その3、まったく魔術を使わずに結果だけを再現する。困難な道だが、成功の暁には最も大きな効果を上げられる」
お得意の右手の指は、薬指まで立てられていた。
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ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第175話 情報革命への3つのアプローチ。」
「3つめのアプローチがあるんじゃないでしょうか?」
「折衷案か? というか、途中経過では自然とそうなってしまうだろう。技術が足りない部分を魔術で補ってもらうことになるだろうな」
「ふうむ。全体像としては『折衷案』構造、つまりつぎはぎ型になるだろうと。パーツを見た時に、できるところは純粋技術で作り上げ、どうしてもできない部分を純粋魔術で補うと。そんな感じでしょうか?」
「うん。それで合っている。君の役割は……」
「純粋魔術部分の開発・運用と、折衷案での技術開発支援ということですか?」
「う、うん。一言で言えばそういうことだ」
……
◆お楽しみに。
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