飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
337 / 694
第4章 魔術学園奮闘編

第337話 虹の王よ、来りて身を守れ! 蛇の巣!

しおりを挟む
「そのままアカデミーを卒業するつもりで、すべてを3月の研究報告会でぶち上げます」

 言葉は勇ましいものだったが、ステファノの様子は静かだった。興奮も、葛藤も、怒りもなかった。

「そうか。それはまたせわしないな」
「たかだか3カ月のことですから」
「3カ月も続く苦労だと考えるか、3カ月経てば終わる騒ぎと考えるかだな」
「もう少しゆっくり勉強してみたかったし、魔術の訓練も続けたかったですね」

 ステファノは老人のような諦観を見せて、微笑んだ。

「どちらもここでしかできないということはない。続けたら良いさ」
「そうですね」

 そう言いながら、2人ともそれは同じものではないと知っていた。
 アカデミーここでの日々は2度と戻らない。青葉の香りを載せた風はここでしか流れないのだ。

「口より手を動かしましょう。魔法を試させてください」
「魔法か。わざわざそう言うなら複合魔術マルチプルとは違うのだな? 良いだろう。5番、飯屋流魔法。撃って良し」

 ステファノは5番ブースに入ると、ヘルメスの杖を上段に構えた。

「我ステファノの名において命ずる。虹の王ナーガよ、来りて身を守れ! 蛇の巣!」

 宣言と共に、標的を目掛けて杖を振り下ろす。風を切る音と共に、標的の足元に六芒星の魔術円が現れた。

「むっ! 出るな? 虹の王ナーガ!」

 ドリーが察知した瞬間、魔術円の中心が光り、7つの頭を持つ大蛇が召喚された。7つの頭はそれぞれ光る蛇となって走り出て、標的に絡まり消えていった。
 いつのまにか虹の王ナーガも魔術円の中に姿を消してしまった。

 後に残ったのは傷1つない標的と、足元で光り続ける魔術円だけであった。

「これは……術の効果が続いているのか? どういう術だ?」

 ドリーの目には魔力の存在が見えていながら、属性の色が見えなかった。

「試した方が早いでしょう。ドリーさん、ダガーかナイフを持っていますか?」
「護身用のダガーならある」
「それを標的に向かって投げて見てください」
「何だと?」

 ステファノのやることである。わけがわからないのはいつものことだと割り切って、ドリーはブーツに隠した短いダガーを抜き取り、無言の気合とともに標的目掛けて投げ打った。

 殺傷力のある勢いで、ダガーは20メートルの距離を狂いも見せずに標的へと飛んだ。

「馬鹿な!」

 標的の胸に刺さる寸前、ダガーは大きく軌道を変えて標的からそれていった。まるで強い風にあおられたような。

「風など吹いていないぞ!」

 ドリーの驚きをよそに、ステファノは冷静だった。

「次は、火魔術をお願いします。続いてすべての属性を」
「くっ! 行くぞ。火球!」

 右手に短杖ワンドを持ち替えたドリーは、魔力も練らずに火球を飛ばした。手加減なし。その勢いは、優に殺傷力を持つものであった。

「当たらんのか?」

 標的に届く寸前、ドリーの火球は地面から立ち上がった氷の壁に阻まれて消えた。
 火球を飲み込むと、崩れるように氷の壁は大地に戻る。

「水球! ……雷電!」

 ドリーは水球を連発し、その直後に雷魔術雷電を放った。
 近接魔術である雷電は水球から水球へ、4発の水球を縫うように飛び移り、標的に迫った。

 しかし――。

 今度は足元から水の壁が立ち上がり、雷電と水球を吸い込んで消えた。

「うぬっ。風刃、鎌鼬かまいたち!」

 目に見えぬ風の刃が標的に迫る。標的の手前で空気が歪み、大鎌の形になって標的を襲った。
 土魔術を重ね掛けし、空気の刃を鉄の質量にして加速したのだ。

 魔術円が光り、真っ白な炎が地面から立ち昇り壁になった。大鎌は急激に勢いを失い、炎に触れると蒸発するように飲み込まれた。
 白炎も役割を終えると、地面に戻って消える。

「どうなっている? これでどうだ! 光龍こうりゅうの息吹!」

 ドリーが突き出す短杖の先から、一条の白光が宙を走った。ドリーが自ら編み出した秘術、パルスレーザーであった。
 ドリーが持つ術の中で最速であり、かつ細すぎて軌道が目に見えない。必殺の奥の手であった。

「何だと?」

 レーザー光は目標手前で曲がり・・・、魔術円の中へと吸い込まれた。ドリーのギフト蛇の目は、放物線を描いて地面に突き刺さるレーザーの軌跡を捉えていた。

「一体これは何の術だ? とっておきの秘術まで無効化されただと?」

 さすがのドリーも結果を見て青ざめていた。

「蛇の巣とは虹の王ナーガによる防御陣です。仕掛けられた術を属性に応じて無効化する手順を組み込みました」

 ステファノは言葉をかみ砕くように、今見せた術について説明した。
 この術はヨシズミに与えられた課題に対する、ステファノなりの回答であった。

「すべての術を無効化するだと?」
「俺は虹の王ナーガの本質、そのあり様についてずっと考えてきました。虹の王ナーガは俺とイデア界の間に存在する代理人です。個別の因果を求める代わりに、俺は1つの結果そのもの・・・・・・を求めました」

 すべての危害から身を守れ、と。

「刃や矢が身に迫れば、虹の王ナーガは土魔術でそらします。魔術が迫れば打ち消し、吸収します」
「だが、誰が判断しているのだ? 虹の王ナーガとはお前の術ではないのか?」
「魔力は1つ。励起した性質が変わるだけです。虹の王ナーガが考える必要はありません。ただ、身に迫る脅威を消し去るだけです」

 術を消し去るだけなら終焉の紫である「陰気」をぶつければ済む。しかし、それでは術を向けられるたびに防御しなければならない。防御が遅れればダメージを受けるし、万一意識を失っていれば防げない。

 蛇の巣であれば、一度掛ければ術者の介入は必要ない。虹の王ナーガはいつまでも外部からの危害を防ぎ続けるのだ。

「ふうー。身の毛もよだつ恐ろしい術だな。すべての魔術師が絶望するぞ」
「ただの防御ですからね。逃げるための術です」
「これまでで一番お前らしい術かもしれん。『最強の弱者』というわけだな」

「俺は弱者の道を貫きたいと思います」

 ステファノの言葉に迷いはなかった。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第338話 食材を入れる金庫でも作りましょうか。」

「ステファノ、3月の報告会では蛇の巣これも発表するつもりか?」
「そのつもりです。あわよくば、俺を狙うような連中に対する抑止力になれば」

 あらゆる術、物理攻撃を無効化する守りを有することを知れば、手を出すことを控えるだろう。
 普通の相手であれば。

「毒殺を仕掛けて来る奴がいるかもしれんな……」
「ええ。そこまでやられると、魔術ではどうにもなりません」

 毒避けの魔術などないし、おとぎ話のような「万能薬」も存在しない。ステファノも毒には無防備であった。

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...