飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
350 / 694
第4章 魔術学園奮闘編

第350話 読めるのに、意味がわからない。

しおりを挟む
(さてと、あの本に書かれていたことを試してみよう)

 ステファノは試しに書き込んでいた文章を抹消すると、あらためてヘルメスの杖を魔示板マジボードに向けた。

(ヘルプ)

 思念を送ると、黒板に一連の文字が浮かび上がった。

魔示板マジボードのヘルプ>
【____】[検索]

(これは……、調べたい言葉を「【____】」の中に入れるのだろうなあ。「遠距離」)

<候補ページ>
 ・「ペアリング機器が遠距離にある場合」
 ・「遠距離にある表示具ディスプレイを利用したい場合」

「何のことだ、こりゃ?」

 横で見ていたマードックは唐突に表れた表示の意味がわからず、素っ頓狂な声を上げた。
 説明を始めると長くなりそうなので、気がとがめながらもステファノはマードックを無視して調査を続けた。

(まずは……「ペアリング機器が遠距離にある場合」)

<ペアリング機器が遠距離にある場合のペアリングのやり方>
 1:ペアリングしたい機器を網目ネットワークにつなぐ。
 2:ペアリング機器の住所アドレスを記録しておく。
 3:「ペアリング機器の追加」を選択。
 4:接続したいペアリング機器の住所アドレスを登録する。

(こういうことか……。「解読不能」って文字が読めないってことじゃなくて、書かれていることの意味がわからないってことなんだ)

 ステファノは教室の机といすを持って来て、黒板に向かって座った。自分のノートを机に広げて、黒板に表示された内容を記録する。
 映像記憶フォトグラフィック・メモリーで記憶することもできるが、意味を理解していない文章の記憶は劣化する可能性がある。迂遠うえんでもノートを取りながら調査を進めた方が良いと、ステファノは判断した。

「マードックさん、ちょっと時間がかかりそうです。そこら辺の椅子に座ってお楽にしてください」
「そうか。じゃあ、そうさせてもらおう」

(こういうときは、焦らずに1つ1つの単語を調べて行けば良いんだったな。幸い検索ができる)

 ステファノは「戻る」を選択した。

(「網目ネットワーク」を検索)

 調べるたびに増えて行く未知の単語を丹念に記録しながら、ステファノは検索を繰り返した。
 もやもやとした入り組んだ模様の中から意味のある絵柄が浮かび上がるように、ステファノの中に少しずつ「理解」が生まれつつあった。

(「網目ネットワーク」とは世界中に広がるものなのか?)

(「継ぎ目リンク」とは「住所アドレス」につけた名前のようなもの?)

(「引いて落とすドラグ&ドロップ」って何だ?)
 
 ステファノのペンは1時間動き続けた。

 ◆◆◆

「あれはアーティファクトに共通する標準言語なんでしょうか?」
「わたしに聞かれてもな……」

 魔示板マジボードの調査を切り上げたステファノは、マードックに別れを告げてドリーの元を訪れていた。

「すいません。ちょっと興奮してしまって」
「お前が興奮するというのも、珍しいことだな」
「あの感じは、何と言うか……まったく新しい世界が目の前に現れたような感じなんですよね」

 まだ興奮冷めやらぬという風情でステファノは自分の体験をドリーに語った。

「ふうん。さっぱりわからんな」
「ええ~!」

 ややこしい説明を聞いて、ドリーは早々に理解を諦めた。

「まるで外国語を聞いているようだ。いや、言葉はこの国のものに間違いないが使い方のおかしい言葉がちょくちょく出て来る。まるで符丁・・のようだ」
符丁ふちょうですか……。確かにそんな感じですね」

 所によってはわざとわかりにくく書いているのではないかと思うような個所もあった。外国語のようだというドリーの言葉は、ステファノにとっても実感を伴っていた。

 同じ言葉を使いながら「現代社会ここ」とは違う世界。それとも違う時代・・
 そんなところに迷い込んだかのような気持ちにさせる不可思議な違和感があった。

(師匠にとってはこの世界がそんな場所なのだろうか?)

 ステファノは「迷い人」であるというヨシズミ師のことを思い起こしていた。

(ディミトリーさんは途中で解読を諦めたんだろうな)

 読めるけれども理解ができない。そのもどかしさに耐えられなくなったのだろう。普通に考えれば、所詮「ただの黒板」なのだ。
 特別な労力をかけるに値するとは思えなかったのだろう。

 一方、ステファノは魔示板マジボードが「通信機」に化けるのではないかと期待している。そうなると、モチベーションがまったく変わって来るのだ。

(俺は一介の素人だしね。失敗しようと、徒労に終わろうと大したことじゃない)

 マルチェルが言っていた。失敗とは「成功しなかった」というだけのことだと。
 ステファノには失敗で傷つくような「実績」も「名声」もありはしないのだった。

「今日の調査で大分情報が集まったので、冬休みの間にじっくり検討してみます」
「ふん。考え事をするには冬の休みは良い時間だな」

 家に閉じこもっていることが苦にならない。内省や思索には持ってこいの季節であった。

「しかし、そう言うからには見込み・・・があるのだな?」

 ドリーはステファノを値踏みするように目を細めた。

「はい、おそらくは。行けると思います」

 ステファノにしては珍しく、はっきりと言い切った。

「3月の研究報告会は大騒ぎになりそうだな。楽しみにさせてもらおう」

 ドリーはそう言って、微笑んだ。

「騒ぎはできれば避けたいですね。魔示板マジボード通信は秘匿案件としてエントリーしますよ」
「それはそうか。間違いなく軍事機密扱いになるな」

 実用化への道筋がつくとすれば、何ポイント与えても評価が追いつかないであろう。
 この1件だけでステファノに卒業資格を与えても良いくらいのものであった。

「それもこれも情報革命研究会という出会いがあればこそか」
「そうですね。スールーさんとサントスさんに感謝しています」
達成者アチーバーとやらの実在、いよいよ信じざるを得んな」

 ドリーの本心であった。今やステファノが達成者アチーバーの代表格であることを疑っていなかった。

「出会う人たちを一方的に利用しているつもりはないんですが……」

 ステファノは気まずそうに言う。

「そういうことではあるまい。実り多き縁を結ぶということではないか」

 ドリーは言葉を変えた。

「ああ。それは良い表現ですね。それならば俺は幸多きえにしを求めましょう」
「そうだ。望みというものは、はっきりと形にすると現実になりやすいらしいぞ」

 ちょっと考え込んだステファノは顔を明るくして答えた。

「だったら、まずはクリードさんです。クリードさんとドリーさんに親父の料理を腹いっぱい食べてもらいます。それが俺の望みです」

 ドリーは眩しそうな顔をした。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第351話 今回は化身を使ってみました。」

「さて、今日は何を試す?」

 話が一段したところで、ドリーはステファノに水を向けた。今年はこれで「撃ち納め」となる。
 昼間は名残を惜しむ学生たちで第1・・の方は混雑したらしい。

 第2試射場こっちに来る生徒は絶対数が少ないので大騒ぎということはなかった。それでもいつもよりは多めの人出で賑わっていたのだ。

「そうですね。ちょっと試してみたいことがあります」

 ステファノは術の内容をはっきりと告げなかった。

「新しい術か? お前の術は突拍子もないものばかりだからな。暴発しないように気をつけてくれよ」

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

処理中です...