飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
494 / 694
第4章 魔術学園奮闘編

第494話 ジローが頑張ってくれるほど、面白くなる。

しおりを挟む
「竜巻のを狙ったのさ」

 したり顔でトーマが言う。

「竜巻の中心は比較的静かだからな。あれだけ風が濃くなれば、空気の流れが目に見える」

 風雪崩かぜなだれは続いていた。地面まで届いた鎌首を伸ばすように、竜巻は標的を飲み込んだ。

 ひょう

 またも風を切り裂き、新たな矢が飛んで行く。
 風陣を雪崩に変えて攻撃に使用したため、ハンナの標的はむき出しになっていた。何の抵抗もなく、ジェニーの矢が標的に突き立った。

 ガリガリと風雪崩がジェニーの標的を切り刻んだところで、試合時間が終了した。勝負は判定に委ねられる。
 慎重なダメージ評価の結果、勝者はジェニーとなった。

「最後の2矢が効いたようだね」
「そういうことだな。あの距離での矢は致命的ということだな」

 ハンナの攻撃手段が乏しいことが災いした。時間がかかり、防御を犠牲にした風雪崩以外に攻撃方法があれば、逆転可能だったかもしれない。

「武器であろうと魔術だろうと、射程、威力、命中率と攻撃速度。その4つが大切ということだねえ」

 しみじみとスールーが感想を述べた。

「本来は、それに接近戦が加わるけどな」

 トーマが指摘する。
 たとえば、マルチェルなら敵の攻撃をすべて叩き落とし、潜り抜けて直接打撃を加えることができる。

 今回の試技会ルールでは認められていない戦い方であったが。

「攻撃力をそうやって測るまでもなく、次の試合ではステファノがジローを圧倒するだろうね」

 門外漢のスールーでも、ステファノの攻撃力が規格外れであることはわかる。

「後は防御力だな。どうやって力の差を見せつけるか」

 トーマが腕を組んで競技場を見下ろした。魔術師の端くれとして、ステファノが魔法でどれだけのことができるのか、純粋に興味があった。

「ジローが頑張ってくれるほど、面白くなる」

 サントスはいつも通り猫背の背中を丸めて、前髪の陰で細い目を更に細くする。
 彼は勝負の行方には関心がない。興味の対象は、魔法や魔道具の応用可能性だ。ステファノが繰り出す技に、明日の世界を動かすヒントが隠されているかもしれない。

「簡単に負けるなよ、ジロー」

 情革研の3人はステファノの勝利を確信しながら、ジローの健闘を心の底で願っていた。

 ◆◆◆

 ジローは冷静だった。

 魔術の腕前ではステファノに遠く及ばない。マランツとの稽古でそのことを思い知った。
 マランツは彼の手が届かない高みにいたが、それさえもステファノの実力には届かないと言う。

 それを師匠が教えてくれた。

 ジローに勝機があるとすれば、師匠が残した「虎の眼」だけだ。ステファノがその存在を知らないアーティファクトなら、彼の精神を威圧し、ジローにチャンスを与えてくれるかもしれない。

 いかにして「虎の眼」を生かすか? それがジローにとって、作戦の要だった。

(チャンスは一瞬。ステファノの虚を突き、隙を作ったところを一気に叩く!)

 ジローが意識を保ったまま「虎の眼」を制御できるのは、5秒からせいぜい10秒。その間に、勝負を決めなければならない。
 それ以上長くアーティファクトを使うことを、兄弟子ヨハンセンはジローに対して禁じた。

「先生の言葉とお前の様子を見て来てわかった。『虎の眼』とは脳の働きを暴走させる麻薬のようなものだ」

 使用した結果、他人の精神に圧力をかけられるようになる。だが、その代償として使用者の脳に大きな負担がかかるのだった。

「使い過ぎれば脳に疲労がたまる。やがて障害が生じ、ついには廃人となる。使えるのは1日5秒だと思いなさい」

 劇薬のようなアーティファクトを、マランツは長年にわたって使い続けた。今回もジローを鍛えるために連日使用を重ねていた。
 魔視脳の破壊だけで済んだのは、途方もない幸運だったのだ。廃人になっていてもおかしくない。

「先生は身をもって『虎の眼』の恐ろしさを教えてくださった。お前は自分の体を大切にしなさい」

 ヨハンセンの言葉をジローは忘れていない。

(勝負は最後の10秒だ。そこにすべてを賭ける!)

 ジローは防護服の袖口から突き出た右手、その人差し指に「虎の眼」を嵌めた。

 ◆◆◆

(ジローは随分腕を上げたみたいだ)

 ステファノは防護服の上から道着の帯を巻き、墨縄「みずち」と小物入れをぶら下げた。
 大工のような職人に見えなくもない。

 今回も邪魔になるヘルメスの杖は置いて来た。

師匠ヨシズミみたいに手を使わずに杖を操れれば、台車を押しながらでも使えるんだけど)

 ヨシズミの「式神使いドローンマスター」は、道具を体の延長のように自在に動かすことができる。ステファノには、まだ・・そこまではできない。

 たとえばヘルメスの杖を飛ばすことはできるだろう。だが、一直線に飛ぶだけだ。
 ヨシズミのように、手を触れずに動き回らせることはできない。

 ステファノのイド制御は幅広く、ヨシズミのそれは狭く深い・・。その代わり、ステファノはアバターに「目的」を与え、独立して働かせることができる。細かい制御を必要としない作業であれば、それで十分だった。

 アバターには「実体」がないため、その働き方は魔力やイドを使うものとなるが。

 守りながら攻める。アバターを使えば、2面作戦を実行できるはずであった。

 ◆◆◆

「両者、前へ!」

 審判に促され、ジローとステファノは開始線に立った。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第495話 標的を撃て、雷丸!」

「2人とも落ち着いているね」
「実力では多分トップだからな」

 スールーに応えるトーマは、開始線に立つ2人からイドの動きを読み取ろうとしていた。ギフト「天降甘露」に意識を集中しようとすると、額の中心に軽いうずきを感じる。

「2人とも、まだ手の内を隠してる」

 サントスも「バラ色の未来」で2人を観ていた。こちらは両眼さえも前髪に隠れているので、何を見ているのかはたからはわからないのだが。
 
 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

処理中です...