飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
528 / 694
第5章 ルネッサンス攻防編

第528話 ……お前には似合いの武器になるかもしれない。

しおりを挟む
 翌日、朝の日課の後、ステファノはネオン師と共に試射場にいた。

「まずは遠的えんてきに慣れてもらう。投法は左右の『中天』で行う」

 飛距離、威力、命中精度を全て満足させられるのは、「中天」以外になかった。

「使う石も大きくなる。いきなり全力で投げると肩を壊すぞ。5割の力から始めなさい」

 ネオン師が示したのは拳大の石だった。
 確かにこれを思い切り投げたら筋肉を痛めそうだと、ステファノは思った。

「隠密性は考えなくていい。体全体を使って大きな動きで投げろ。腕だけに頼ってはいけない」

 そう言うと、ネオンは自ら一石を投じて見せた。
 半身の姿勢から片足を上げ、体を捻りながら足を大きく前方に踏み出し、腰から肩、腕、手首に回転を伝え、石を飛ばしていた。

「右手でも左手でも投げられるようにする。すなわち体は左右均等に鍛えなければならない」

 ネオン師はあえて力を抑え、山なりに石を飛ばした。それでも石は40メートル先の標的を捉えた。

「状況によってはあえて山なりに投げる場合もある。途中に障害物がある場合などだな」

 高く投げ上げた石を頭上から落として、物陰に隠れた敵を倒す技もあると、ネオン師は言った。

「お前も山なりの投法から始めると良い」

 そう言い残して、彼女は狩りに出かけて行った。

 ◆◆◆

 1人になり、ステファノは台の上に転がる石を眺めた。

(先生は拳大の石を投げていた。俺もそうすべきか?)

 右手に石を取り、握り具合を確かめる。

(俺の手は先生の手より小さい。石の大きさは自分の手に合わせた方が良いな)

 石が大きすぎると、握りが甘くなる。十分な力が伝えられないし、狙いもぶれるだろう。

 ぽんぽんと、軽く手から放り上げて石の重みを測った。

(うーん。思ったより重いな。これは体に負担がかかりそうだ)

 ステファノは初伝の教えを思い出した。

(思い切り投げる必要はないんだ。徐々に体を慣らせばいい)

 右手の石と台上の石を見比べ、ステファノは大きさが半分の石に持ち替えた。

(うん。これなら無理せずに投げられる)

 左半身から「右中天うちゅうてん」の型で石を投じた。ゆったりと山なりに飛んだ礫は遠的の右側を通過した。

(最初はこれで良い。右左5本ずつ交互に練習するか)

 10投を1セットに、ステファノは練習を繰り返した。1セット毎にインターバルを取り、石を拾い集める。
 ネオン師のアドバイスに従い、ステファノは日常生活でも左手を使うように心掛けていた。

 慣れない動作には違和感が伴う。それは動きの無駄、筋肉の緊張につながり、肉体と精神の疲労をもたらす。
 重労働の負荷とはまた違うきつさがあった。

 それでも繰り返せば慣れてくる。10日の修業でステファノは左手をかなりうまく使えるようになっていた。

 礫を当てることにこだわり過ぎると、特に左手の場合、手の動きに頼ってしまう。そうではなく、体全体を使ってゆったりと大きく動くことを、ステファノは心掛けた。

 不思議なもので手の器用さに頼らないことで、投擲はかえって安定するのだった。

(これは当たる)

 やがて石が指先を離れる瞬間、どこに飛んで行くかが予想できるようになってきた。投擲のフォームが徐々に安定したせいだろう。無理に当てには行かず、一定の形で投げる。
 形と飛ぶ先が安定すれば、後々狙いを調整するだけで良いはずだ。

 ステファノは3日で遠的の型を安定させ、4日めからは礫の大きさと速度を上げて行った。ネオン師は朝夕にステファノの型を検分し、時折手直しをさせた。

 連日の稽古で筋力も増し、10日めにはかなりの速さで礫を飛ばせるようになっていた。

「よし。遠的の型も定まったな。いよいよ明日からは道具の使い方を教えよう」
「道具を使った投石ですか?」
「そうだ。……お前には似合いの武器になるかもしれない」

 ネオン師は意味ありげにほほ笑んだ。

 ◆◆◆

 翌日の朝稽古は「投石器」の紹介から始まった。

「これが『投石ひも』だ。当流では簡単に『スリング』と呼んでいる」
「これを使うんですか?」

 ネオン師が懐から取り出したのは、全長1メートル程の紐の中央に革製の短い帯のような物を取りつけた道具であった。

「中央の革帯に石を包んで使う。紐は羊毛を編んだものだ。植物性に比べて伸縮する分、投石の威力が増す利点がある」
「一方の端にある輪は、何に使うものでしょう?」
「ここに手首を通して、紐が手から離れないようにする」

 ネオンは実際に紐を右手に装着して見せた。石を革帯に包むと、紐のもう一方の端を輪から出た紐と一緒に、手のひらに握り込む。

「持ち方はこうだ。これを頭上や体の横で振り回してから手を離すと、2つ折にした紐がまっすぐに伸びて石が放たれるのだ」
「手を離すタイミングが難しそうですね」

 石は紐が旋回する面に沿って飛んで行くが、タイミングを間違うと標的には当たらない。

「どれ、試しにやって見せよう。離れていなさい」

 ネオン師は長机に近づき、拳大の石を紐にセットした。

「紐には『上天』の型と『黄泉路よみじ』の型しかない。まずは上天を見せる」

 彼女は左半身に構え、右手の紐を頭上で回し始めた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第529話 お前、縄を使うのだろう?」

 ひゅん、ひゅん、とうなりを上げるスリングは回転が早まると、「ヒュー」と音が一定になった。
 5回転したところで紐が放たれ、ネオン師の手元から石が宙に飛び出した。

 そのスピードは素手で投げるよりもはるかに速い。一直線に40メートル先の遠的にぶち当たった。

「これが『右上天うじょうてん』だ。続いて、『右黄泉路みぎよみじ』」

 ネオン師は別の石を「スリング」に挟むと、体の右横で縦に回した。車で言えば後退バックの回転だ。

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...