飯屋のせがれ、魔術師になる。

藍染 迅

文字の大きさ
588 / 694
第5章 ルネッサンス攻防編

第588話 剣士の戦いと違って意外と地味なもんですよ?

しおりを挟む
「しかし、お前が王国魔術競技会の準優勝者とはな」

 学生寮への道案内をされながら、ステファノの背中にアランが語りかけた。

「組み合わせに恵まれたんですよ」

 肩越しに顔を向けながら、ステファノが答える。
 トーナメント形式の競技会では誰と対戦するかは成績を大きく左右する要素だ。

 それでも、アカデミー出場枠から決勝まで進んだ例は過去にない。これまでで最高の成績は準々決勝敗退であった。

「俺とネロは騎士団の勤務があって、競技会を見られなかった。どんな戦いだったのか教えてもらえんか?」
「構いませんが、剣士の戦いと違って意外と地味なもんですよ?」
「そうなのか? 火を飛ばしたり、雷を発したりと派手なイメージがあるが」

 非魔術師ノーマルが魔術戦に描くイメージは、アランが言う通り、術が飛び交う派手な戦いだった。
 しかし、現実は必ずしもそうではない。戦いをいかに自分に有利なものにするか、その駆け引きが多くを占めていた。

 そもそも遠距離魔術を使える者がほとんどいない。魔術戦とは間合いの攻防でもあった。
 接近戦を挑むか。中距離で撃ち合うか。それとも遠距離から魔術発動体を飛ばすか。

 見た目が派手になるのは、互いに中距離から魔術を撃ち合う組み合わせだった。

 「俺は遠距離戦が得意なので、そもそも有利に試合を始められたんです」

 ◆◆◆

 対戦者が立つ開始線には50メートルの間隔があった。随分遠いがこれには理由がある。

 近い距離で試合を始めると、いきなり武技で相手を倒す競技者が現れた。それも戦いのリアルではあるが、それでは魔術を競い合う大会の趣旨にそぐわない。そこで開始線が50メートルまで遠ざけられたのだ。

 武器、防具の使用は自由。アカデミーの試技会とは異なり、攻撃は相手の体に当てる。当然危険を伴うので、致命傷を与えた者は失格となるルールだ。
 勝敗は一方が行動不能となるか、戦意喪失して負けを認めるまで。

 ほとんど実戦に近い、荒々しいルールであった。

 会場には国王を筆頭に、貴族諸侯、魔術師協会のお歴々が顔を並べる。魔術師にとっての登竜門となっており、出場者の中には手足を失っても負けを認めぬ者がいたらしい。
 それでは貴重な国家戦力を失うことになる。現国王の発案で審判を置き、試合続行不可能と認めたら試合終了を宣告する権限を与えた。

 審判は魔術師協会の重鎮が務める慣例となっている。この日の審判はステファノとも因縁のあるガル老師だった。

「両者、開始線に立て」

 一回戦、ステファノの相手はアンと名乗る中年の女性だった。短杖を腰に差した相手は黒シャツに黒パンツを着用し、革製の胴鎧、同じく革製の籠手こて、膝あて、すね当てを身につけていた。
 防御を考慮しつつも、動きやすさに重きを置いたように見える。

 対するステファノは黒の道着に黒の鉢巻、皮手袋に革靴を履き、長杖「ヘルメスの杖」を携えていた。

 外見を見る限り、両者とも接近戦を得意とするように見えた。

「始め!」

 ガル師の合図を受け、アンが一直線に走り出した。正面からステファノに迫りつつ、口中で呪文を詠唱している。

 アンは王都にある新興魔術道場の師範だった。道場と流派の名誉にかけて学生に負けるわけにはいかないと、意気込んでいた。
 
 アンのように開始早々相手との距離を詰めるのは、よく見られるパターンだった。大半の出場者は20メートル以内に近づかないと魔術が届かない。魔術発動体を投げつけるにしても、50メートルの距離は離れすぎていた。

 敵の疾走を見ながら、ステファノはピクリとも動かなかった。

水生木すいしょうもく水風蛇すいふうじゃの檻!」

 術を使ったと判定できるように、ステファノはわざと術名を宣言した。水と風、2匹の蛇が女性魔術師の足元から立ち昇り、その体に巻きついた。
 アンの方はこの遠距離魔法攻撃を予想していなかった。そもそも、魔力視のできない彼女には2匹の蛇が見えていなかった。
 
 水蛇がアンの手足を封じ、彼女は丸太のように地面に転がった。風蛇は――。

 風蛇はアンに巻きつきながら旋風を起こし、大気圧より低い負圧をアンの周りに作り出した。肺の空気を吸いつくされたアンは、一瞬で失神する。

「勝者、ステファノ!」

 白目をむいた女性魔術師の顔を見定め、ガル老師がステファノの勝利を宣告した。老師の眼はアンの顔色ばかりでなく、ステファノの術も見極めていた。風蛇が空気を奪った時点で、アンの試合続行は不可能だった。

 頭を下げたステファノは術を解いて、相手を解放する。同時に新鮮な空気が彼女の肺に流れ込んで行った。
 酸素の供給を得れば、アンの意識は戻る。頭を振りながら、彼女は自力で立ち上がった。

「お、おおー!」

 観衆から拍手と歓声が起こるが、どこか戸惑いがあった。

 観衆の眼には水蛇と風蛇は映らない。走り出したアンが、突然倒れたとしか見えなかったのだ。
 どうやらステファノが術を飛ばしたらしいのだが、杖を振らず、腕さえも上げなかった。

 しかも、ステファノから50メートル近く離れた場所で彼女は倒れている。

 ステファノの術は観衆が知る魔術とは性質が異なり過ぎていた。異質すぎて、そのすごさが理解できない。
 選手両者が退場してから、観客席がざわつき始める状況だった。

(魔力視を持たない相手にはこの戦い方で良いだろう)

 選手控えに戻りながら、ステファノはそう考えていた。

(派手さはないが、確実だ。相手を傷つけることもないし)

 魔力やイドを見極める能力を持つ相手には、もう少し厳しい術を使わなければならない。
 ステファノは術の組み合わせや威力の調節に考えをめぐらせた。

――――――――――
 ここまで読んでいただいてありがとうございます。

◆次回「第589話 遠距離戦だけでは飽きるよね。」

 ステファノの試合以外は、至って普通の戦いだった。
 中距離で魔術を撃ち合い、あるいは発動体である短剣やつぶてを投げつける。近距離での剣戟に魔術を織り交ぜる。そういう戦い方がほとんどだ。

 たまに弓やクロスボウで遠距離から攻撃する出場者がいたが、氷や風の防壁で防がれるのが常だった。

 矢の撃ち合いになってしまった組み合わせでは、会場からヤジが飛んだ。「魔術で戦え!」と。
 結局、盛り上がるのは中距離以下での戦いだった。

 ……

◆お楽しみに。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち
ファンタジー
ダンジョンを攻略する人材を育成する学校、竜桜学園に入学した主人公綿貫 鐘太郎(ワタヌキ カネタロウ)はサブカル同好会に所属し、気の合う仲間達とまったりと平和な日常を過ごしていた。しかしそんな心地のいい時間は長くは続かなかった。 まったく貢献度のない同好会が部室を持っているのはどうなのか?と生徒会から同好会解散を打診されたのだ。 しかしそれは困るワタヌキ達は部室と同好会を守るため、ある条件を持ちかけた。 一週間以内に学園のため、学園に貢献できる成果を提出することになったワタヌキは秘策として同好会のメンバーに彼の秘密を打ちあけることにした。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

処理中です...