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第5章 ルネッサンス攻防編
第620話 戦場での『必殺』とはそういうものです。
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「むう……見た限り話にならないなぁ。『内気功』を使っただけでこの始末だろう? この上『外気功』とやらを使ったら5人がかりでも相手にならないんじゃないか?」
「そうでしょうね。ですが、物事には中途半端に終わらせるべきでない時があります。過ちをただすなら徹底的に行うべきでしょう」
勝負にならないドリーの戦いぶりを見て、ドイルはもう観戦に飽き始めていた。彼の目から見れば既に十分なデータが取れており、これ以上は時間の無駄に思える。
それに対してマルチェルは「やるなら徹底的に」という考えだった。
言い訳の余地を残さず、完膚なきまでに叩きのめす。
「騎士だ、剣士だと気取っても、武術なんてものは野良猫の喧嘩と変わらないところがあるのです。どちらが強いのかをはっきりさせておかないと、後々禍根が残ります」
「くだらない意地の張り合いだねぇ。精々手っ取り早く決着をつけてくれることを期待しよう」
聞えよがしな2人の会話はシュルツ団長の耳にも届いている。子飼いの騎士たちが女性剣士1人に手玉に取られているのだ。「反魔」だ、「抗気」だという立場など関係なく、王立騎士団としてのプライドが傷ついていた。
「ご来客は本気の立ち合いを望んでおられる。王立騎士団の本気とは『必殺必勝』あるのみ! 5名の団員は死地にあると思って立ち合いに臨め!」
社交辞令や騎士団長としての余裕をかなぐり捨てて、シュルツが吠えた。
5名の反魔抗気党メンバーは互いに顔を見合わせると、盾を捨て、剣のみを引っさげて進み出た。
「ふむ。マルチェル、盾を捨てたことに意味はあるのかい?」
あえて防御力を下げるような振る舞いを見て、ドイルが疑問を口にした。
「あれは彼らの本気です。5対1だからこそ盾を捨てたのです。受けの一手を捨てて、相討ちになろうと敵を斬る。戦場での『必殺』とはそういうものです」
当然のことを語る口調でマルチェルは言った。
自分が斬られている間に、他の味方が敵を斬る。犠牲をいとわない戦法でもあった。刃引きした模擬剣とはいえ、大怪我する危険を顧みない死に物狂いの戦い方だ。
「双方準備は整ったと見た。始めっ!」
合図と共に5名の騎士はドリーを囲もうと横に動き出した。それを予期していたドリーも自分の左手に向け、走り出す。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
左手を突き出し、ドリーは左端の騎士目掛けて遠当てを3発放った。イドで包んだ3つの圧縮空気弾は水平に並んで飛んでいく。
イドの制御を磨いたドリーだが、遠当ての精度はヨシズミやステファノに及ばない。狙いのブレを補うために着弾点を広げたのだった。
「ぐはっ!」
ドリーの思い通り、真ん中の空気弾が移動中の騎士を捉えた。着弾と同時に弾けた空気弾が、体ごと騎士を跳ね飛ばしながら意識を刈り取った。
「1人」
冷静にカウントしつつ、ドリーは前に出た。騎士たちの2倍という圧倒的なスピードで。気絶した左端の騎士に走り寄り、首筋を剣尖の腹で叩きながら通過する。これで、この騎士は死亡認定だ。
ドリーが左前に移動した結果、騎士たちの包囲網が破綻した。彼らが描く円弧の端にドリーがいる。
これでは多勢を生かした集中攻撃ができない。ドリーから遠い右端の2人は方向転換してドリーに近づこうとしているが、すぐには戦いに加われなかった。
その反面、左から2番目の騎士はドリーと鉢合わせする勢いで距離を詰めていた。ドリーの急接近に一瞬驚いたが、すぐに覚悟を決めて右手の剣を引きつけた。
走りながら剣を振ることは難しい。間合いをあやまたぬためにも、出会い頭の刺突を攻撃方法に選んだのだ。
騎士の上背は2メートル近い。突きでの争いであれば、体格を生かしてドリーを制せると判断した。
まともな突き合いなら、この騎士の考えた通りだったかもしれない。だが、ドリーにはまともに突き合うつもりなどなかった。
「水餅!」
突きの間合いに入る手前で、踏み切りながらドリーが叫んだ。
(馬鹿め! 間合いの手前からジャンプするとは。突きの餌食だ!)
大兵の騎士は右足を大きく踏み出しながら、全身の勢いを載せて右手を突き出した。ブレのないきれいな突きがドリーの鳩尾に決まる――はずだった。
「うっ?」
突きを放つはずの腕が上がらなかった。得体のしれない柔らかいものに両腕を胴体に縛りつけられている。
バランスを崩した騎士は、もがきながら前のめりに倒れた。
「2人」
ぱあんっ!
乾いた音が騎士の後頭部から鳴った。ドリーの靴が真上を通り抜けながら踏みつけた音だ。
内気功で筋力と反応速度を強化したドリーは、更に高く、鋭く、前方へ飛び出す。
「イドの翼」
空中に身を横たえ、両手両足を広げながらドリーは体を覆うイドの鎧を翼の形に変形させた。十分な勢いをつければ、魔法を使わなくとも短時間の滑空ができる。
ドリーは残り3人の頭上を飛び越えて、右端の騎士に襲い掛かろうとしていた。
3人の騎士たちはドリーが仲間2人を倒す間に、周りを囲む位置に戻ろうとしていた。しかし、彼らを飛び越えたドリーはそれを許さず、今度は右側から3人を一直線に迎え撃つ位置に降り立った。
騎士たちは再び向きを変えねばならず、体の勢いを止めざるを得なかった。止まってしまえばドリーの良い的だ。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
騎士たちが振り返った瞬間、ドリーは目の前の騎士に向けて3発の遠当てを放った。相手は止まっているので狙いが外れることはないが、避けられた場合を考えて相手の左右にも撃ち込んだのだ。
振り向いたばかりの騎士は体が居ついており、かわすこともできずに遠当てをまともに食らった。体に浸透する内臓への衝撃と、神経経路を阻害するイドの働きで、遠当てを受けた騎士は苦鳴を漏らす暇もなく棒のように打ち倒された。
「3人」
静かに数えながら、ドリーは右手の剣を体の前に構えた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第621話 どうやら彼らは一卵性双生児のようだ。」
「まだ続けるのかねぇ? 内気功だけでも2人相手に圧勝していたのに」
ドイルの声は気の毒そうな響きを帯びていた。これ以上は弱い者いじめになるのではないかと。
残された2人はうつむきがちに顔を伏せ、視線を交わしているようだった。試合放棄の相談でもしているようにドイルには見えていた。
「さて、どうでしょうか。あの2人は初めて相手にする団員ですね。戦いは数だけで決まるものではありませんが……」
……
◆お楽しみに。
「そうでしょうね。ですが、物事には中途半端に終わらせるべきでない時があります。過ちをただすなら徹底的に行うべきでしょう」
勝負にならないドリーの戦いぶりを見て、ドイルはもう観戦に飽き始めていた。彼の目から見れば既に十分なデータが取れており、これ以上は時間の無駄に思える。
それに対してマルチェルは「やるなら徹底的に」という考えだった。
言い訳の余地を残さず、完膚なきまでに叩きのめす。
「騎士だ、剣士だと気取っても、武術なんてものは野良猫の喧嘩と変わらないところがあるのです。どちらが強いのかをはっきりさせておかないと、後々禍根が残ります」
「くだらない意地の張り合いだねぇ。精々手っ取り早く決着をつけてくれることを期待しよう」
聞えよがしな2人の会話はシュルツ団長の耳にも届いている。子飼いの騎士たちが女性剣士1人に手玉に取られているのだ。「反魔」だ、「抗気」だという立場など関係なく、王立騎士団としてのプライドが傷ついていた。
「ご来客は本気の立ち合いを望んでおられる。王立騎士団の本気とは『必殺必勝』あるのみ! 5名の団員は死地にあると思って立ち合いに臨め!」
社交辞令や騎士団長としての余裕をかなぐり捨てて、シュルツが吠えた。
5名の反魔抗気党メンバーは互いに顔を見合わせると、盾を捨て、剣のみを引っさげて進み出た。
「ふむ。マルチェル、盾を捨てたことに意味はあるのかい?」
あえて防御力を下げるような振る舞いを見て、ドイルが疑問を口にした。
「あれは彼らの本気です。5対1だからこそ盾を捨てたのです。受けの一手を捨てて、相討ちになろうと敵を斬る。戦場での『必殺』とはそういうものです」
当然のことを語る口調でマルチェルは言った。
自分が斬られている間に、他の味方が敵を斬る。犠牲をいとわない戦法でもあった。刃引きした模擬剣とはいえ、大怪我する危険を顧みない死に物狂いの戦い方だ。
「双方準備は整ったと見た。始めっ!」
合図と共に5名の騎士はドリーを囲もうと横に動き出した。それを予期していたドリーも自分の左手に向け、走り出す。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
左手を突き出し、ドリーは左端の騎士目掛けて遠当てを3発放った。イドで包んだ3つの圧縮空気弾は水平に並んで飛んでいく。
イドの制御を磨いたドリーだが、遠当ての精度はヨシズミやステファノに及ばない。狙いのブレを補うために着弾点を広げたのだった。
「ぐはっ!」
ドリーの思い通り、真ん中の空気弾が移動中の騎士を捉えた。着弾と同時に弾けた空気弾が、体ごと騎士を跳ね飛ばしながら意識を刈り取った。
「1人」
冷静にカウントしつつ、ドリーは前に出た。騎士たちの2倍という圧倒的なスピードで。気絶した左端の騎士に走り寄り、首筋を剣尖の腹で叩きながら通過する。これで、この騎士は死亡認定だ。
ドリーが左前に移動した結果、騎士たちの包囲網が破綻した。彼らが描く円弧の端にドリーがいる。
これでは多勢を生かした集中攻撃ができない。ドリーから遠い右端の2人は方向転換してドリーに近づこうとしているが、すぐには戦いに加われなかった。
その反面、左から2番目の騎士はドリーと鉢合わせする勢いで距離を詰めていた。ドリーの急接近に一瞬驚いたが、すぐに覚悟を決めて右手の剣を引きつけた。
走りながら剣を振ることは難しい。間合いをあやまたぬためにも、出会い頭の刺突を攻撃方法に選んだのだ。
騎士の上背は2メートル近い。突きでの争いであれば、体格を生かしてドリーを制せると判断した。
まともな突き合いなら、この騎士の考えた通りだったかもしれない。だが、ドリーにはまともに突き合うつもりなどなかった。
「水餅!」
突きの間合いに入る手前で、踏み切りながらドリーが叫んだ。
(馬鹿め! 間合いの手前からジャンプするとは。突きの餌食だ!)
大兵の騎士は右足を大きく踏み出しながら、全身の勢いを載せて右手を突き出した。ブレのないきれいな突きがドリーの鳩尾に決まる――はずだった。
「うっ?」
突きを放つはずの腕が上がらなかった。得体のしれない柔らかいものに両腕を胴体に縛りつけられている。
バランスを崩した騎士は、もがきながら前のめりに倒れた。
「2人」
ぱあんっ!
乾いた音が騎士の後頭部から鳴った。ドリーの靴が真上を通り抜けながら踏みつけた音だ。
内気功で筋力と反応速度を強化したドリーは、更に高く、鋭く、前方へ飛び出す。
「イドの翼」
空中に身を横たえ、両手両足を広げながらドリーは体を覆うイドの鎧を翼の形に変形させた。十分な勢いをつければ、魔法を使わなくとも短時間の滑空ができる。
ドリーは残り3人の頭上を飛び越えて、右端の騎士に襲い掛かろうとしていた。
3人の騎士たちはドリーが仲間2人を倒す間に、周りを囲む位置に戻ろうとしていた。しかし、彼らを飛び越えたドリーはそれを許さず、今度は右側から3人を一直線に迎え撃つ位置に降り立った。
騎士たちは再び向きを変えねばならず、体の勢いを止めざるを得なかった。止まってしまえばドリーの良い的だ。
「ハッ! ハッ! ハッ!」
騎士たちが振り返った瞬間、ドリーは目の前の騎士に向けて3発の遠当てを放った。相手は止まっているので狙いが外れることはないが、避けられた場合を考えて相手の左右にも撃ち込んだのだ。
振り向いたばかりの騎士は体が居ついており、かわすこともできずに遠当てをまともに食らった。体に浸透する内臓への衝撃と、神経経路を阻害するイドの働きで、遠当てを受けた騎士は苦鳴を漏らす暇もなく棒のように打ち倒された。
「3人」
静かに数えながら、ドリーは右手の剣を体の前に構えた。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第621話 どうやら彼らは一卵性双生児のようだ。」
「まだ続けるのかねぇ? 内気功だけでも2人相手に圧勝していたのに」
ドイルの声は気の毒そうな響きを帯びていた。これ以上は弱い者いじめになるのではないかと。
残された2人はうつむきがちに顔を伏せ、視線を交わしているようだった。試合放棄の相談でもしているようにドイルには見えていた。
「さて、どうでしょうか。あの2人は初めて相手にする団員ですね。戦いは数だけで決まるものではありませんが……」
……
◆お楽しみに。
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