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第5章 ルネッサンス攻防編
第667話 どうも活性が落ちているようだな。
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「まずは気の流れを観よう。お前も一緒に観てくれ」
ネルソンは両手でシュルツの胸と背中を前後に挟むようにした。ステファノは左手でシュルツの額を押さえる。
互いに呼吸を整え、目をつぶってシュルツの体内に精神を集中した。
(これは……。気の流れが悪い)
ステファノはプリシラの体を乗っ取った「まつろわぬもの」が巻いた包帯を思い出していた。本来そこにあるべき「気」がない。
シュルツの場合は薄く存在しているものの、せき止められた川のようによどんで勢いがなくなっていた。
「どうも活性が落ちているようだな。ステファノ?」
「はい。気の量も流れも悪くなっています」
「流れを元に戻してやることはできないだろうか?」
ステファノはシュルツから手を放し、ネルソンとともに考えた。
「気を――イドの総量を増やしてあげる必要がありますね」
「そもそもイドが薄くなったのは、なぜだろう?」
「……魔視脳の働きが抑圧されたんじゃないでしょうか?」
万物すべてにイドが存在する中で、ひときわ人間は濃いイドを持っている。それは魔視脳を持つせいだとステファノは考えていた。
「まつろわぬものはシュルツ団長の魔視脳に憑りついたんじゃないかと」
「理屈にはかなっているようだ」
ステファノは憑依が解けた後プリシラのイドを観ていた。シュルツほどの異常ではなかったが、病み上がりの人間のようににイドの勢いが失われていた。
時がたてばプリシラの魔視脳も活力を増すのだろうと思ったが、ステファノはそのままにしておけなかった。
「プリシラの魔視脳も弱っていたので、魔核を送り込んで活性化してみました」
「効果はあったか?」
「はい」
効果がない行為のことをステファノが報告するはずはない。ステファノの答えはネルソンの予想通りだった。
「ならば、ステファノは同じようにシュルツ団長の魔視脳に魔核を送ってくれ。わたしは体内の気を整える手伝いをしよう」
魔核の扱いではステファノに勝るものはいない。いわばAEDの操作をステファノに任せて、ネルソン自身は全身のバイタルをモニターしながら血流に当たるイドの流れを整える役割を担うことにした。
「初めはゆっくりと静かに。シュルツの様子を見ながら徐々に魔核の力を強めていこう」
「はい。始めます」
ネルソンが見守る中、ステファノはシュルツの魔視脳に練り上げた魔核を送り込んだ。
初めは小さな、小さな種を。爪に乗るほどの独楽のイメージで回転させた。
静かに、ゆっくりと、しかし力強く。
「まだ反応がないな。ゆっくりでいいから徐々に力を強めてくれ。蓮の葉に朝露をためるように、一滴ずつだ」
ステファノは脳裏に朝の池を思い描いた。水面に浮かぶ蓮の葉に、水滴が一粒落ちる。
その分だけ魔核を成長させ、回転の速度を早くする。
「よし。魔視脳の温度が少し上がったな。上げすぎてはいけない。時間をかけるぞ」
魔視脳も体の一部だ。使えば熱を持ってくる。
活性化を始めたしるしではあるが、オーバーヒートさせてはいけない。その加減を見極めるのはネルソンの役割だった。
副団長のマーズはネルソンたちに声をかけることもできず、固唾を飲んで見守っていた。
イドの量はまだ増えていなかったが、ネルソンは薄いイドでも流れを起こした方がよいと判断した。
(魔視脳が心臓だとすればイドの流れは血流だ。血の量と圧を増やしながら流れを同時に増やしてやれば……)
やがて、自律的なイドの流れが生まれるのではないかと、ネルソンは考えた。
ネルソンは魔法師としては平凡だ。イドの制御を精密に行えるわけではなく、大量のイドを生み出すこともできない。
しかし、彼には人体に対する理解があった。
(イドの流れが滞っているなら、血液の流れに助けを借りよう)
ネルソンはシュルツの魔視脳が発するわずかなイドを血流に乗せて心臓に運んだ。そして、鼓動に合わせ、イドを動脈から発する血流に載せて送り出す。
それだけではまだ勢いが足りない。何しろ動かせるイドが少なかった。
イドの流れを助けるにはどうしてやればよいのか。
問題があるのはイドを送り出す魔視脳だった。
(魔視脳の働きを助けるには……)
ネルソンは部屋の隅に控える介添え役に振り向いた。
「済まない。用意してもらいたいものがある」
「はっ。何でしょう?」
急に声をかけられて、介添え役は椅子の上で飛び上がった。
「砂糖か蜂蜜を湯に溶いて持ってきてほしい」
「さ、砂糖ですか?」
「うむ。甘露が欲しい」
ぱたぱたと足音を鳴らす勢いで、介添え役は部屋を出て行った。
(弱った体の働きを助けるには糖分を補給することだ)
脳の働きを吸収した糖分が助けてくれるはずだ。魔視脳も脳の一部である以上、血糖値が上がれば働きがよくなる。
「後は体を温めるか」
ネルソンは毛布を取り寄せてシュルツの体を覆うことにした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第668話 どうやら魔視脳が働きだしたようだな。」
蜂蜜を溶かした湯を口元に運ぶと、シュルツは素直に飲み始めた。初めこそ熱さに戸惑ったが、それに慣れると抵抗なくカップの中身を飲み干した。
ネルソンは取り寄せた毛布をシュルツにまとわせて、血行の助けとした。
「私は心臓と肺の機能を支援する。ステファノは魔視脳の刺激を続けてくれ」
2人がしていることはかかりの悪くなったエンジンを再スタートさせるようなものとも言えた。新品のバッテリーをつなぎ、燃料系を清掃する。
……
◆お楽しみに。
ネルソンは両手でシュルツの胸と背中を前後に挟むようにした。ステファノは左手でシュルツの額を押さえる。
互いに呼吸を整え、目をつぶってシュルツの体内に精神を集中した。
(これは……。気の流れが悪い)
ステファノはプリシラの体を乗っ取った「まつろわぬもの」が巻いた包帯を思い出していた。本来そこにあるべき「気」がない。
シュルツの場合は薄く存在しているものの、せき止められた川のようによどんで勢いがなくなっていた。
「どうも活性が落ちているようだな。ステファノ?」
「はい。気の量も流れも悪くなっています」
「流れを元に戻してやることはできないだろうか?」
ステファノはシュルツから手を放し、ネルソンとともに考えた。
「気を――イドの総量を増やしてあげる必要がありますね」
「そもそもイドが薄くなったのは、なぜだろう?」
「……魔視脳の働きが抑圧されたんじゃないでしょうか?」
万物すべてにイドが存在する中で、ひときわ人間は濃いイドを持っている。それは魔視脳を持つせいだとステファノは考えていた。
「まつろわぬものはシュルツ団長の魔視脳に憑りついたんじゃないかと」
「理屈にはかなっているようだ」
ステファノは憑依が解けた後プリシラのイドを観ていた。シュルツほどの異常ではなかったが、病み上がりの人間のようににイドの勢いが失われていた。
時がたてばプリシラの魔視脳も活力を増すのだろうと思ったが、ステファノはそのままにしておけなかった。
「プリシラの魔視脳も弱っていたので、魔核を送り込んで活性化してみました」
「効果はあったか?」
「はい」
効果がない行為のことをステファノが報告するはずはない。ステファノの答えはネルソンの予想通りだった。
「ならば、ステファノは同じようにシュルツ団長の魔視脳に魔核を送ってくれ。わたしは体内の気を整える手伝いをしよう」
魔核の扱いではステファノに勝るものはいない。いわばAEDの操作をステファノに任せて、ネルソン自身は全身のバイタルをモニターしながら血流に当たるイドの流れを整える役割を担うことにした。
「初めはゆっくりと静かに。シュルツの様子を見ながら徐々に魔核の力を強めていこう」
「はい。始めます」
ネルソンが見守る中、ステファノはシュルツの魔視脳に練り上げた魔核を送り込んだ。
初めは小さな、小さな種を。爪に乗るほどの独楽のイメージで回転させた。
静かに、ゆっくりと、しかし力強く。
「まだ反応がないな。ゆっくりでいいから徐々に力を強めてくれ。蓮の葉に朝露をためるように、一滴ずつだ」
ステファノは脳裏に朝の池を思い描いた。水面に浮かぶ蓮の葉に、水滴が一粒落ちる。
その分だけ魔核を成長させ、回転の速度を早くする。
「よし。魔視脳の温度が少し上がったな。上げすぎてはいけない。時間をかけるぞ」
魔視脳も体の一部だ。使えば熱を持ってくる。
活性化を始めたしるしではあるが、オーバーヒートさせてはいけない。その加減を見極めるのはネルソンの役割だった。
副団長のマーズはネルソンたちに声をかけることもできず、固唾を飲んで見守っていた。
イドの量はまだ増えていなかったが、ネルソンは薄いイドでも流れを起こした方がよいと判断した。
(魔視脳が心臓だとすればイドの流れは血流だ。血の量と圧を増やしながら流れを同時に増やしてやれば……)
やがて、自律的なイドの流れが生まれるのではないかと、ネルソンは考えた。
ネルソンは魔法師としては平凡だ。イドの制御を精密に行えるわけではなく、大量のイドを生み出すこともできない。
しかし、彼には人体に対する理解があった。
(イドの流れが滞っているなら、血液の流れに助けを借りよう)
ネルソンはシュルツの魔視脳が発するわずかなイドを血流に乗せて心臓に運んだ。そして、鼓動に合わせ、イドを動脈から発する血流に載せて送り出す。
それだけではまだ勢いが足りない。何しろ動かせるイドが少なかった。
イドの流れを助けるにはどうしてやればよいのか。
問題があるのはイドを送り出す魔視脳だった。
(魔視脳の働きを助けるには……)
ネルソンは部屋の隅に控える介添え役に振り向いた。
「済まない。用意してもらいたいものがある」
「はっ。何でしょう?」
急に声をかけられて、介添え役は椅子の上で飛び上がった。
「砂糖か蜂蜜を湯に溶いて持ってきてほしい」
「さ、砂糖ですか?」
「うむ。甘露が欲しい」
ぱたぱたと足音を鳴らす勢いで、介添え役は部屋を出て行った。
(弱った体の働きを助けるには糖分を補給することだ)
脳の働きを吸収した糖分が助けてくれるはずだ。魔視脳も脳の一部である以上、血糖値が上がれば働きがよくなる。
「後は体を温めるか」
ネルソンは毛布を取り寄せてシュルツの体を覆うことにした。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第668話 どうやら魔視脳が働きだしたようだな。」
蜂蜜を溶かした湯を口元に運ぶと、シュルツは素直に飲み始めた。初めこそ熱さに戸惑ったが、それに慣れると抵抗なくカップの中身を飲み干した。
ネルソンは取り寄せた毛布をシュルツにまとわせて、血行の助けとした。
「私は心臓と肺の機能を支援する。ステファノは魔視脳の刺激を続けてくれ」
2人がしていることはかかりの悪くなったエンジンを再スタートさせるようなものとも言えた。新品のバッテリーをつなぎ、燃料系を清掃する。
……
◆お楽しみに。
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