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第5章 ルネッサンス攻防編
第675話 キミもだよ、サントス?
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「まずはあいさつ回りからだね」
スールーは次の日、朝の食卓で言い出した。
今回の引っ越しは商売を始めるためのものなので、その言葉に全員が納得した。
「当然だけど、最初はネルソン商会ね」
「まあそりゃそうなるわな」
スールーの提案に残りの3人を代表してトーマが答えた。
アカデミー時代からネルソンのバックアップを受けてきた3人である。商売人としてもネルソン商会の支援を受けられるかどうかは大きな意味があった。
「俺はついこの間お邪魔したばかりだけど、みんなは直接顔を出したことがないよね?」
「いい機会だからみんなでご挨拶しようか。キミもだよ、サントス?」
「――仕方ない」
憮然とした面持ちでサントスは頷いた。人間嫌いではあるが、サントスも商売人だ。時には社交が必要なことはわかっている。
道中スールーが見繕った果物を手土産に、4人は無事コッシュへのあいさつを済ませた。
店を出る前、ステファノはプリシラに用があると言って3人と別れた。
「ウニベルシタスを離れたんですって?」
「うん。独立して呪タウンで働くことにしたんだ」
「そう。それじゃすぐに会えるわね」
「プリシラ――」
ステファノは普段とは異なる様子でプリシラの目を見つめた。
「1年後、俺と一緒に暮らしてくれないか?」
「え? それって……」
「俺と結婚してほしいんだ」
今はまだ一緒に暮らしてくれと言えない。ステファノは中途半端な自分が歯がゆかった。
「まずは商売をしっかり立ち上げたい。そのために1年時間をくれないか? 親父のこともまだ尾を引くかもしれないし」
「ステファノ、わたしでいいの?」
「プリシラじゃなきゃだめなんだ。プリシラがオレのために襲われて、それでわかった。側にいなくちゃ守れない。だから、結婚してほしいんだ。必ず迎えに来るから待っていてほしい」
一気に語るステファノの言葉を聞き、プリシラの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
「何でかしら。嬉しいのに涙があふれる。ありがとう。迎えに来てくれるのを待ってるわ、ステファノ」
この人を必ず守る。それが言葉にしないステファノの誓いだった。
◆◆◆
「メシヤ流魔道具工房」が呪タウンで開業したという知らせは、静かに広がっていった。
そこに行けば他では見られない新奇な魔道具が見つかる。そういう噂が人から人へと伝わった。
王立アカデミーの職員や生徒に知られるようになるまでに、さほどの時間はかからなかった。
「一度学園にサンプルを持って来てほしい」
学長のリリーからアリステア教務長経由でそういう要望が届いたのは、開業して3か月ほどたったある日のことだった。
「これだけ豊富な品ぞろえというのも珍しいですね」
一通り品物の説明を聞き、リリーは感嘆のため息をついた。
付与魔術師が少ない現状では、まとまった数の魔道具を一度に観ることなどめったにない。
「しかも、武器以外でこれだけの道具をそろえているというのが珍しい。ええ、そうですとも」
アリステアもリリーと同じ感想を抱いた。
武器以外の魔道具が少ないのは売れないからだ。
魔道具作成には長い時間と労力がかかる。自然と価格を高くしなければ元が取れない。
しかし、暮らしに使う日用品に賃金1か月分以上を払う余裕など庶民にはないのだ。
必然的に魔道具は貴族か金持ちがもてはやす、好事家向けのコレクションとなりがちだった。
「ははは。うちの場合、魔道具を量産できますからね。お手ごろな値段で道具を売ることができます」
スールーが営業スマイルを浮かべてリリー学長にすり寄った。
「さすがは当校歴代卒業生の中でも屈指の実績を残したステファノを擁するだけのことはありますね」
「そうでしょう、そうでしょう。はっはっは」
アカデミーには貴族と金持ちの子女が集まる。ここで実績を残せば国中に販路を広げることにつながると、スールーは内心でそろばんを素早く弾いていた。
「学長、うちは小売りだけでなく『業務用』の魔道具も扱ってますんで、そこんところもよろしく」
スールーの肩越しに顔を出してトーマが自分の得意分野を宣伝する。
「あら? 業務用とはどのような物かしら?」
リリー学長が上品に小首を傾ける。
「いわば業者向けという奴で。小麦粉をひいたり、糸をつむいだり。木工や鍛冶屋向けの道具もありますよ」
家庭用、個人用と違って業務用となると用途が特殊であったり、大掛かりになったりする。そういうものは道具の素体が大きく複雑になるので、専門の工房でないと加工できないのだ。
「そういう加工はキムラーヤ商会に頼めるので、うちは応用が効くんです」
「君の実家を使うのですか。そういうところは抜け目がない。いや褒めているんですね」
アリステアはトーマの如才なさに唇の端を引き上げたが、非難しているわけではなさそうだった。
商売人ならば使えるコネは利用すべし。そういう目でトーマの言葉を肯定していた。
「うーん、面白いですね。どうでしょう、学長。メシヤ流工房の見本展示会というのは?」
「あら、それは面白そうだけど……。学園として1つの業者に肩入れしてしまうのはどうかしら?」
「それなら、他の魔道具業者にも声を掛けたらいかがでしょう?」
アリステアの提案にリリーは学長として公平性を懸念した。それを聞いたステファノは、他の業者も招けばよいと言う。
「やっぱりキミは見た目の割に図太いね。誰が来ても負けないと言うんだね? 結構じゃないか」
ステファノの発案にスールーは前のめりに賛成した。お祭り騒ぎは彼女の得意とするところだ。
「派手に実演して、見物客の度肝を抜いてやろうじゃないか!」
「スールー、調子に乗りすぎ」
「何だって、サントス。ボクほど冷静沈着な人間はいないと思うよ? それよりもまずはコスチュームをそろえてだね――」
スールーの鼻息は荒く、見本展示会を盛り上げる案はとめどなく湧き上がるのだった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第676話 さてそうなると、目玉が欲しいねえ。」
単純なあいさつ回りのつもりだったが、ひょんなことから王立アカデミーで「魔道具見本展示会」を開催することになってしまった。
もちろん、あくまでも展示会であって商品の優劣を競う品評会ではない。
「そうは言ってもだ。業者同士が商品を持ち寄るということになれば、そこはねえ。競い合うなというのが無理な話じゃないか」
「――面倒くさい」
アカデミーから戻ったスールーは、すっかりやる気を出していた。それに当てられて、サントスの方はいささか迷惑そうだ。
……
◆お楽しみに。
スールーは次の日、朝の食卓で言い出した。
今回の引っ越しは商売を始めるためのものなので、その言葉に全員が納得した。
「当然だけど、最初はネルソン商会ね」
「まあそりゃそうなるわな」
スールーの提案に残りの3人を代表してトーマが答えた。
アカデミー時代からネルソンのバックアップを受けてきた3人である。商売人としてもネルソン商会の支援を受けられるかどうかは大きな意味があった。
「俺はついこの間お邪魔したばかりだけど、みんなは直接顔を出したことがないよね?」
「いい機会だからみんなでご挨拶しようか。キミもだよ、サントス?」
「――仕方ない」
憮然とした面持ちでサントスは頷いた。人間嫌いではあるが、サントスも商売人だ。時には社交が必要なことはわかっている。
道中スールーが見繕った果物を手土産に、4人は無事コッシュへのあいさつを済ませた。
店を出る前、ステファノはプリシラに用があると言って3人と別れた。
「ウニベルシタスを離れたんですって?」
「うん。独立して呪タウンで働くことにしたんだ」
「そう。それじゃすぐに会えるわね」
「プリシラ――」
ステファノは普段とは異なる様子でプリシラの目を見つめた。
「1年後、俺と一緒に暮らしてくれないか?」
「え? それって……」
「俺と結婚してほしいんだ」
今はまだ一緒に暮らしてくれと言えない。ステファノは中途半端な自分が歯がゆかった。
「まずは商売をしっかり立ち上げたい。そのために1年時間をくれないか? 親父のこともまだ尾を引くかもしれないし」
「ステファノ、わたしでいいの?」
「プリシラじゃなきゃだめなんだ。プリシラがオレのために襲われて、それでわかった。側にいなくちゃ守れない。だから、結婚してほしいんだ。必ず迎えに来るから待っていてほしい」
一気に語るステファノの言葉を聞き、プリシラの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
「何でかしら。嬉しいのに涙があふれる。ありがとう。迎えに来てくれるのを待ってるわ、ステファノ」
この人を必ず守る。それが言葉にしないステファノの誓いだった。
◆◆◆
「メシヤ流魔道具工房」が呪タウンで開業したという知らせは、静かに広がっていった。
そこに行けば他では見られない新奇な魔道具が見つかる。そういう噂が人から人へと伝わった。
王立アカデミーの職員や生徒に知られるようになるまでに、さほどの時間はかからなかった。
「一度学園にサンプルを持って来てほしい」
学長のリリーからアリステア教務長経由でそういう要望が届いたのは、開業して3か月ほどたったある日のことだった。
「これだけ豊富な品ぞろえというのも珍しいですね」
一通り品物の説明を聞き、リリーは感嘆のため息をついた。
付与魔術師が少ない現状では、まとまった数の魔道具を一度に観ることなどめったにない。
「しかも、武器以外でこれだけの道具をそろえているというのが珍しい。ええ、そうですとも」
アリステアもリリーと同じ感想を抱いた。
武器以外の魔道具が少ないのは売れないからだ。
魔道具作成には長い時間と労力がかかる。自然と価格を高くしなければ元が取れない。
しかし、暮らしに使う日用品に賃金1か月分以上を払う余裕など庶民にはないのだ。
必然的に魔道具は貴族か金持ちがもてはやす、好事家向けのコレクションとなりがちだった。
「ははは。うちの場合、魔道具を量産できますからね。お手ごろな値段で道具を売ることができます」
スールーが営業スマイルを浮かべてリリー学長にすり寄った。
「さすがは当校歴代卒業生の中でも屈指の実績を残したステファノを擁するだけのことはありますね」
「そうでしょう、そうでしょう。はっはっは」
アカデミーには貴族と金持ちの子女が集まる。ここで実績を残せば国中に販路を広げることにつながると、スールーは内心でそろばんを素早く弾いていた。
「学長、うちは小売りだけでなく『業務用』の魔道具も扱ってますんで、そこんところもよろしく」
スールーの肩越しに顔を出してトーマが自分の得意分野を宣伝する。
「あら? 業務用とはどのような物かしら?」
リリー学長が上品に小首を傾ける。
「いわば業者向けという奴で。小麦粉をひいたり、糸をつむいだり。木工や鍛冶屋向けの道具もありますよ」
家庭用、個人用と違って業務用となると用途が特殊であったり、大掛かりになったりする。そういうものは道具の素体が大きく複雑になるので、専門の工房でないと加工できないのだ。
「そういう加工はキムラーヤ商会に頼めるので、うちは応用が効くんです」
「君の実家を使うのですか。そういうところは抜け目がない。いや褒めているんですね」
アリステアはトーマの如才なさに唇の端を引き上げたが、非難しているわけではなさそうだった。
商売人ならば使えるコネは利用すべし。そういう目でトーマの言葉を肯定していた。
「うーん、面白いですね。どうでしょう、学長。メシヤ流工房の見本展示会というのは?」
「あら、それは面白そうだけど……。学園として1つの業者に肩入れしてしまうのはどうかしら?」
「それなら、他の魔道具業者にも声を掛けたらいかがでしょう?」
アリステアの提案にリリーは学長として公平性を懸念した。それを聞いたステファノは、他の業者も招けばよいと言う。
「やっぱりキミは見た目の割に図太いね。誰が来ても負けないと言うんだね? 結構じゃないか」
ステファノの発案にスールーは前のめりに賛成した。お祭り騒ぎは彼女の得意とするところだ。
「派手に実演して、見物客の度肝を抜いてやろうじゃないか!」
「スールー、調子に乗りすぎ」
「何だって、サントス。ボクほど冷静沈着な人間はいないと思うよ? それよりもまずはコスチュームをそろえてだね――」
スールーの鼻息は荒く、見本展示会を盛り上げる案はとめどなく湧き上がるのだった。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第676話 さてそうなると、目玉が欲しいねえ。」
単純なあいさつ回りのつもりだったが、ひょんなことから王立アカデミーで「魔道具見本展示会」を開催することになってしまった。
もちろん、あくまでも展示会であって商品の優劣を競う品評会ではない。
「そうは言ってもだ。業者同士が商品を持ち寄るということになれば、そこはねえ。競い合うなというのが無理な話じゃないか」
「――面倒くさい」
アカデミーから戻ったスールーは、すっかりやる気を出していた。それに当てられて、サントスの方はいささか迷惑そうだ。
……
◆お楽しみに。
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