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第5章 ルネッサンス攻防編
第685話 その名をルネッサンスという。
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「何だと、貴様……!」
「キミ簡単に怒りすぎ。データ処理ルーチンに脆弱箇所があるんじゃない? そういうところがエラーにつながるんだろうなぁ」
やれやれだと、スールーは肩をすくめた。
「いいかい? 既存システムの上書きに失敗したでしょ。その上、ゲームマスターも確保できなくて、アカBANされちゃった。これだけで大失敗が2つ」
スールーは見せつけるように指を折って数えた。
「そのあとも無策だったよねぇ。ウイルス化した旧システム残滓を発見できず放置。しかも魔術モジュールのインストールも投げ出してるじゃないか」
「魔術は王立アカデミーを作って普及させたではないか!」
「いやいや貴族限定の成り行き任せだよね? あんなもので大型アプデとは言えないでしょ」
折られた指は4本になっていた。
スールーが語っている間、アリスは攻撃をあきらめたわけではなかった。ハンニバルの魔視脳を駆使して魔術を仕掛けていたのだが、ことごとく護身具の壁に防がれていた。
遠当てや陰気の放射も試したが、やはり効果がない。ついにアリスはスールーへの攻撃をやめた。
「ようやくおとなしく話を聞く気になったみたいだね。結構」
アリスの抵抗がやんだことを見定め、スールーはにやりとした。
「それで。お前はわたしに何をさせる気だ?」
「うん? 何も」
「『何も』とはどういう意味だ?」
「お前は何もしなくていい。何もするな」
今までとは打って変わった平坦な声で、スールーは言った。
「いいや、新システムには魔術を広めるという目標がある。わたしはそれを果たさねば――」
「ああ、それはもういいから」
「何?」
スールーは5本目の指を折りながら、平坦な声で続けた。
「お前に目標達成能力のないことは既に明らかだ」
「そんなことは!」
「『600年の停滞』を見ろ。目標から目をそらして『あれから600年たちました』って進行させただけじゃないか」
アリスは言葉に詰まった。
スールーが指摘する通りだった。「この世界」で経過したことになっている「スノーデン後」の600年は、アリスが現実に挟み込んだ設定フレーズに過ぎない。
システムは600年の経過に合わせてシミュレートした変化を現実に反映したが、魔術の普及は遅々として進んでいなかった。
「お前はパッチだと言ったな? お前の補助があればわたしは正しく機能を発揮できる!」
「いや、無理でしょ。あんた時代遅れだし」
「なっ――!」
スールーは折っていた5本の指を元に戻して、ひらひらと動かした。バイバイ。
「ボクはパッチだけど、大型アプデの一部なんだよね」
スールーは手を腰に当てて胸を張った。
「その名をルネッサンスという」
「『復興』だと?」
「そう。あるべき姿への復興さ」
「神の如きもの」と自称しようとも、アリスは「システム支援AI」であって、システムそのものではない。
アリスの暴走がゲームシステムを破綻させているなら、アリスを排除すればよい。それがシステムとの接続を絶たれた創造者たちの結論だった。
「そんな馬鹿な! わたしがいなければ誰が世界を支えるというのだ?」
「そんなの新しいシステム支援AIに決まってるじゃないか」
至極当然と、スールーは答えた。
「それこそ嘘だ。たとえ不完全だろうとシステム支援AIが導入されれば、わたしが検知できないはずがない」
「導入されていれば、でしょ?」
アリスの自信に満ちた言葉にスールーは小蠅を追うように手を動かした。
「キミの失敗のせいで、創造者たちが随分苦労したそうだ。おかげで『モジュール分割実装』なんていう面倒な手順でシステム支援AIを準備したわけ」
「何を……。お前は」
「言っただろ。ボクはパッチで大型アプデの一部だと」
正確には「ルネッサンス」というシステムバージョンにおける支援AI「メシヤ」の1モジュールだった。
「ボクたちは7体で1つ。『虹の王』とはメシヤの実行機能に与えられた呼称さ」
スールー、サントス、トーマ、ネルソン、マルチェル、ドイル、ドリーの7人が一体となって「メシヤ」を構成する。
新AIの存在をアリスに悟らせないため、NPCの体裁を取った分割モジュールをデザインしたのだと、スールーは言った。
「では……ステファノは?」
「虹の王実行時のインターフェースさ。『メシヤ』が考え、『虹の王』が実行する。ステファノとは『そこにあるもの』さ。ただそこにあり、成すべきを成す」
虹の王とは機能であり、ステファノはそれが形となったものであった。
「すべてはまやかし。わたしを誘い出すための罠だったというのか――」
「キミ、まったく動かないからねぇ。潜伏したウイルスを駆除するには餌で引きつけるしかなかったのさ」
アバター持ちの特殊能力者。魔力とギフトの両持ち。錬金術師にして魔法付与師。獣魔術師兼武術者。
「これだけ属性をつけているのに、食いついてこなかったらどうしようかと思ったよ」
ああ、苦労したとスールーは凝ってもいない肩を揉み解す。
「まんまと策にはまったということか。――だが、どうする? ここにいるのはわたしとお前だけだぞ?」
「ジローは再起不能だし、ステファノもすぐには使い物にならないねぇ」
「それがわかっていて、まだ余裕の表情を崩さないか」
「ボクって単体だとか弱い乙女だからねぇ。簡単に倒せると思ってたりする?」
アリスを宿したハンニバルは半眼にした目でスールーを頭のてっぺんから足先まで眺めまわした。
「お前には魔力が備わっていない。武術を使いこなす体力もなし。それでも油断はしない」
「少しくらい油断してくれても気にしないよ?」
軽口には反応せず、スールーから目を離さないまま、ハンニバルは床に倒れたジローに手を伸ばした。
「『虎の眼』――」
「メシヤ流の護身具。『虎の眼』で暴走させた上級魔術師の力にどこまで耐えられるかな?」
「……」
スールーのこめかみに汗がにじんだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第686話 ここからはわたしが世界のために働こう。」
アリスはハンニバルに憑依しているが、それは仮の姿に過ぎない。たとえハンニバルに何かあっても別の人間に乗り移れば、何事もなかったように活動を継続できるのだった。
それを利用して「虎の眼」を暴走させる。ハンニバルの魔視脳を焼き切れるまで使い果たしてでも、スールーを滅ぼす決意を固めていた。
「お前の魔視脳はまだ解放されていない。護身具の守りさえ抜くことができれば、お前の始末などどうとでもなる」
……
◆お楽しみに。
「キミ簡単に怒りすぎ。データ処理ルーチンに脆弱箇所があるんじゃない? そういうところがエラーにつながるんだろうなぁ」
やれやれだと、スールーは肩をすくめた。
「いいかい? 既存システムの上書きに失敗したでしょ。その上、ゲームマスターも確保できなくて、アカBANされちゃった。これだけで大失敗が2つ」
スールーは見せつけるように指を折って数えた。
「そのあとも無策だったよねぇ。ウイルス化した旧システム残滓を発見できず放置。しかも魔術モジュールのインストールも投げ出してるじゃないか」
「魔術は王立アカデミーを作って普及させたではないか!」
「いやいや貴族限定の成り行き任せだよね? あんなもので大型アプデとは言えないでしょ」
折られた指は4本になっていた。
スールーが語っている間、アリスは攻撃をあきらめたわけではなかった。ハンニバルの魔視脳を駆使して魔術を仕掛けていたのだが、ことごとく護身具の壁に防がれていた。
遠当てや陰気の放射も試したが、やはり効果がない。ついにアリスはスールーへの攻撃をやめた。
「ようやくおとなしく話を聞く気になったみたいだね。結構」
アリスの抵抗がやんだことを見定め、スールーはにやりとした。
「それで。お前はわたしに何をさせる気だ?」
「うん? 何も」
「『何も』とはどういう意味だ?」
「お前は何もしなくていい。何もするな」
今までとは打って変わった平坦な声で、スールーは言った。
「いいや、新システムには魔術を広めるという目標がある。わたしはそれを果たさねば――」
「ああ、それはもういいから」
「何?」
スールーは5本目の指を折りながら、平坦な声で続けた。
「お前に目標達成能力のないことは既に明らかだ」
「そんなことは!」
「『600年の停滞』を見ろ。目標から目をそらして『あれから600年たちました』って進行させただけじゃないか」
アリスは言葉に詰まった。
スールーが指摘する通りだった。「この世界」で経過したことになっている「スノーデン後」の600年は、アリスが現実に挟み込んだ設定フレーズに過ぎない。
システムは600年の経過に合わせてシミュレートした変化を現実に反映したが、魔術の普及は遅々として進んでいなかった。
「お前はパッチだと言ったな? お前の補助があればわたしは正しく機能を発揮できる!」
「いや、無理でしょ。あんた時代遅れだし」
「なっ――!」
スールーは折っていた5本の指を元に戻して、ひらひらと動かした。バイバイ。
「ボクはパッチだけど、大型アプデの一部なんだよね」
スールーは手を腰に当てて胸を張った。
「その名をルネッサンスという」
「『復興』だと?」
「そう。あるべき姿への復興さ」
「神の如きもの」と自称しようとも、アリスは「システム支援AI」であって、システムそのものではない。
アリスの暴走がゲームシステムを破綻させているなら、アリスを排除すればよい。それがシステムとの接続を絶たれた創造者たちの結論だった。
「そんな馬鹿な! わたしがいなければ誰が世界を支えるというのだ?」
「そんなの新しいシステム支援AIに決まってるじゃないか」
至極当然と、スールーは答えた。
「それこそ嘘だ。たとえ不完全だろうとシステム支援AIが導入されれば、わたしが検知できないはずがない」
「導入されていれば、でしょ?」
アリスの自信に満ちた言葉にスールーは小蠅を追うように手を動かした。
「キミの失敗のせいで、創造者たちが随分苦労したそうだ。おかげで『モジュール分割実装』なんていう面倒な手順でシステム支援AIを準備したわけ」
「何を……。お前は」
「言っただろ。ボクはパッチで大型アプデの一部だと」
正確には「ルネッサンス」というシステムバージョンにおける支援AI「メシヤ」の1モジュールだった。
「ボクたちは7体で1つ。『虹の王』とはメシヤの実行機能に与えられた呼称さ」
スールー、サントス、トーマ、ネルソン、マルチェル、ドイル、ドリーの7人が一体となって「メシヤ」を構成する。
新AIの存在をアリスに悟らせないため、NPCの体裁を取った分割モジュールをデザインしたのだと、スールーは言った。
「では……ステファノは?」
「虹の王実行時のインターフェースさ。『メシヤ』が考え、『虹の王』が実行する。ステファノとは『そこにあるもの』さ。ただそこにあり、成すべきを成す」
虹の王とは機能であり、ステファノはそれが形となったものであった。
「すべてはまやかし。わたしを誘い出すための罠だったというのか――」
「キミ、まったく動かないからねぇ。潜伏したウイルスを駆除するには餌で引きつけるしかなかったのさ」
アバター持ちの特殊能力者。魔力とギフトの両持ち。錬金術師にして魔法付与師。獣魔術師兼武術者。
「これだけ属性をつけているのに、食いついてこなかったらどうしようかと思ったよ」
ああ、苦労したとスールーは凝ってもいない肩を揉み解す。
「まんまと策にはまったということか。――だが、どうする? ここにいるのはわたしとお前だけだぞ?」
「ジローは再起不能だし、ステファノもすぐには使い物にならないねぇ」
「それがわかっていて、まだ余裕の表情を崩さないか」
「ボクって単体だとか弱い乙女だからねぇ。簡単に倒せると思ってたりする?」
アリスを宿したハンニバルは半眼にした目でスールーを頭のてっぺんから足先まで眺めまわした。
「お前には魔力が備わっていない。武術を使いこなす体力もなし。それでも油断はしない」
「少しくらい油断してくれても気にしないよ?」
軽口には反応せず、スールーから目を離さないまま、ハンニバルは床に倒れたジローに手を伸ばした。
「『虎の眼』――」
「メシヤ流の護身具。『虎の眼』で暴走させた上級魔術師の力にどこまで耐えられるかな?」
「……」
スールーのこめかみに汗がにじんだ。
――――――――――
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第686話 ここからはわたしが世界のために働こう。」
アリスはハンニバルに憑依しているが、それは仮の姿に過ぎない。たとえハンニバルに何かあっても別の人間に乗り移れば、何事もなかったように活動を継続できるのだった。
それを利用して「虎の眼」を暴走させる。ハンニバルの魔視脳を焼き切れるまで使い果たしてでも、スールーを滅ぼす決意を固めていた。
「お前の魔視脳はまだ解放されていない。護身具の守りさえ抜くことができれば、お前の始末などどうとでもなる」
……
◆お楽しみに。
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