気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

R666

文字の大きさ
19 / 54
第一章

19話「大賢者と押しかけ女騎士達」

しおりを挟む
 村長宅の机に置かれていた報酬を受け取ってジェラード達はスーリヤに案内されるがままに付いて歩くと数多くの村人達が埋葬されている場所へと到着した。

「ほう、ここが墓地か」

 そのままジェラードが周囲を見渡すと名前の彫ってある墓石や、木で作られている簡易的な十字架が数多く地面に突き立てられているのが印象的であった。

「ふむ、恐らく木の十字架は爺さんが言っていた若者達がスーリヤ達を助けに行くまでに行った急拵えの供養だろうな」

 目の前に大量と広がる十字架の光景を見て、ジェラードは村長が言っていた事を思い出して呟く。そして彼の隣ではアナスタシアが片膝を地に着けると目を閉じて祈りを捧げ始めていた。

「おいスーリヤ。お前の爺さんの墓はどこだ?」

 ジェラードはアナスタシアから視線を外して振り返ると、背後では同じくスーリヤが祈りを捧げていた。彼女は足にまだ痛みを伴っているのか地に膝を付ける事はしていなかったが、閉じている瞼の隙間からは雫が何滴が零れ落ちていくのが見えた。

「……ッはい。こちらのお墓にお祖父ちゃんが眠っています……」

 声を掛けられたスーリヤは祈りを辞めて手の甲で涙を拭うと彼を村長の墓の前まで案内した。
 するとジェラードの目の前には他の墓石とは違い一回り大きいものが置かれていて、真ん中には名前が大きく掘られていた。

「ほう、あの爺さんの名前は【キリスト・クリューゲル】と言うのか。中々に格好良い名だな。……ではキリスト爺さん、約束通り報酬は貰っていくぞ」

 村長の墓の前で彼は魔法で精製したユリ・カサブランカを墓石に添えると、それだけ言ってアナスタシアの元へと戻ろうした。
 
 ――だがその時、風に乗って「ありがとうございますじゃ。大賢者クリストフェル=ジェラード様、それと弟子のアナスタシアお嬢ちゃん」と言う村長の声がジェラードには聞こえた気がした。

「ふっ、俺の正体に気づいていたのか。……まったく、アナスタシアは弟子ではないぞ。キリスト爺さん」

 彼が顔を上げて空へと向かって言葉を口にする。

「……えっ? お、お祖父ちゃんがどうかしましたか?」

 それを横で聞いていたスーリヤは困惑の表情を浮かべて訊ねてきた。
 しかしジェラードは何でもないとだけ言ってその場を離れるとアナスタシアの元へと戻った。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 それから夜も遅かった事からジェラード達はハウル村にて一泊して朝を迎えると、当初の目的でもある武装国家へと向かう為に準備を進めていたのだが。

「せ、先生……実は話が「駄目だ。これ以上ここに滞在は出来ない」……ま、まだ何も言ってないじゃないですか!」

 二人は村長宅にて一泊させて貰いスーリヤ手製の朝食を食べながら話していると、急にアナスタシアがそわそわ仕出して今に至る。彼女の言いたい事は考えるまでもなく、ジェラードには手に取るようにアナスタシアの思考が理解出来た。

 大方この村が復興するまで居たいや、復興の手助けがしたいと言った所だろうと。
 このアナスタシアのお人好しな性格はシャロンではなく父の方が強く出ているのか、遺伝とは厄介なものだと顔も名前もしらない彼女の父を思ってジェラードは溜息が出た。

「あ、あの魔術師様……お口に合いませんでしたか……?」

 彼が溜息を吐いたのを見ていたのか食器にナイフとフォークを置いてスーリヤは訊ねてきた。
 恐らく自分の作った料理に何か不満を抱いたのかと思ったのだろう。
 
「いや、料理は最高だ。ちゃんと美味いぞ。……ただ、そこの小さい魔女が聞き分けのないヤツでな。少々難儀しているのだ」

 ジェラードは訊ねられた事に対して不満はないと言うとフォークの先をアナスタシアに向けて困っている雰囲気を装った。そして料理の事を褒められたスーリヤは照れているのか、何処となく頬が赤くなっているようだった。

「むきーっ! 今私を小さいと言いましたね!? そもそも身長は魔女にと…………おっといけません。これで話題に乗ってしまったら有耶無耶にされてしまいますからね」

 自身が気にしている事を突かれると彼女はナイフの先端を向けて言い返してきたが、直ぐに冷静さを取り戻したのかそれ以上話に食いついて来ることはなかった。

「チッ、余計な事だけは成長しているようだな」

 舌打ちをしながらジェラードはアナスタシアが変な成長をしている事を実感する。
 
「ふふんっ、伊達に先生と長く居ませんよ。……それよりも私はこのハウル村を復興させるお手伝いがしたいですッ! ですから先生お願いします! どうかあと数ヶ月だけここに居させて下さい!」

 ジェラードに成長と言われた事が彼女にとって誇るべきものだったのか、ナイフとフォークを皿に置くとそのまま両腕を組んで何故か満足気な表情を浮かべていた。がしかし直ぐに表情を崩すと両手を合わせて必死に頼み込んできた。

 それはやはりジェラードが想像していた通りの事であり、余りここに長く滞在して旅が疎かになるのもどうかと彼は思っているのだ。
 旅はまだ始まったばかりで彼が立ち寄りたい街や村は多く存在している。

「朝早くにすまない。ここに魔術師様はいらっしゃるだろうか?」

 ジェラードとアナスタシアが互いに一歩も譲らずにいると、その声は突如として扉の方から聞こえてきた。スーリヤは椅子から腰を上げると扉の方へと向かって歩き出し、ジェラードの背後からは扉の開く音と共に話声が聞こえてくる。

「だからお願いしますって!! 魔法を使えば家の二、三個簡単に作れますからっ!」

 アナスタシアが机に身を乗り出して懇願してくる。

「はぁ……。たかが二、三個作っただけで復興は終わらないだろ?」

 それをジェラードは軽くいなして皿の上に乗っている焼いた肉をフォークを使って口へと頬張った。

「あ、あの……お話中の所すみません。魔術師様にお客様です……」

 彼が肉の味を堪能するが如く噛み締めていると、背後からスーリヤが萎縮した様子で声を掛けてきた。

「ん、俺に客人か? はてこの村にそのような人物が居ただろうか……まあいい。分かった」

 ジェラードはハウル村特産の茶を飲んで肉を胃に流し込むと、スーリヤにそう言って席を立ち扉の方へと向かった。その際にアナスタシアが目を尖らせて睨んでいたが、恐らく話しはまだ終わっていないとでも言いたかったのだろう。

「それで? お前達が俺に一体何の用があるんだ?」

 面倒ながらも客人の前にジェラードは姿を現すと、その視界にはゴブリン・ロードのお気に入りで体中に体液を掛けられていた、中立国派遣の騎士達が敬礼したまま佇んでいた。

「はいっ……! まずはお礼から言わせて下さい。私達騎士をあの劣悪な環境から救って頂きまして本当にありがとうございます」

 敬礼を維持したまま一人の騎士が最初に声を出すと、

「「ありがとうございます」」

 そのあとに続いて二人の騎士も感謝の言葉を口にしていた。
 恐らく最初に声を出した女性がこの場で一番階級が高い者なのだろう。

 見ればその騎士は女性の中では背が高い方で、その表情には暗く影を宿している。
 恐らくゴブリンから受けた屈辱によって精神が病んでしまった影響だろう。

 だがそれとは対照的に髪は金色で短めであり、横髪が伸びていて瞳は綺麗な青色をしている。
 もっとも病んでいる影響で青色の瞳に光は宿ってなく、まるで暗く深い水底のようでもあるが。

「あー、感謝なら別にいらん。あれはゴブリンを倒すついでにしただけの事だからな。それよりもお前達は中立国に帰らなくていいのか? この事を上に報告しないと流石にまずいだろ」

 ジェラードは頭を掻きながら適当に答えると、何を思ったのか目の前の騎士達は敬礼の姿勢を解いて今度は片膝を地に着けて頭を下げてきた。

「はい、魔術師様のおっしゃる通りで今から後ろの二人を国へと向かわせる予定です。……そして、誠に勝手ながら私は貴方様に忠を尽くすことを決めました。叶うのであれば是非、私も魔術師様の旅に同行させて貰えないでしょうか?」

 金髪の騎士が頭を下げた状態でそう力強く言ってくると、後ろで同じく頭を下げている二人の騎士も何故か口を揃えて「お願いします」と言っていた。
 しかも騎士達から漂う雰囲気が冗談のものではなく、本気の雰囲気だからこそ質が悪い。

 その突然な出来事にジェラードは思考を放棄して回れ右をして朝食の席に戻りたいと思ったが、ここで適当に話を済ませると後々面倒な事になることは経験上分かっていた。

「……断る」

 だから余計な言葉は避けて直球的に意思を伝える事にした。
 けれど何故、この騎士は旅をしている事を知っていたのだろうかとジェラードは些細な疑問を抱くのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...