気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

R666

文字の大きさ
22 / 54
第一章

22話「騎士は意外にも女子力が高い」

しおりを挟む
「まあ、午前中はこんなもので良いだろう」

 ジェラードは空中に浮いて村全体を見下ろしながら呟くと、そのまま仮設所へと降り立って暫しの休憩を挟む事にした。

 このまま復興作業を続行していても全然良かったのだが、それでは村人達が人に頼るだけの者達になってしまうことから敢えて休憩を入れたのだ。それに村人達には各自でやれる簡単な仕事を任せている。主に村に残った細かな瓦礫の撤去や、炊き出しとかの誰かがやらないと困る事を。

「ふぅ、流石に連続で魔法を使うと腹が減るな」

 近くに置いてあった木製の椅子に腰を下ろしてジェラードは自身の腹をさすると、ついさっき朝食を食べた筈がまるで三日ほど何も食べていない空腹感を抱いていた。

 大賢者と言えど彼の人体構造は人間であり、普通に腹は減るのだ。
 それも魔術師なら尚の事である。何故ならジェラードは村を囲うように外壁を築いたあと、休むことなく村に必要な物を次々と作り上げていったのだ。

 つまり魔力消費は微々たるものでも、体を動かすのに必要なカロリーが不足しているのだ。
 無論スーリヤが作った朝食は美味しい物ではあったが、ジェラードのカロリー的計算の概念で捉えるとそんなにはないのだ。

「ああ、腹が減ったな……。ったく、なんでこういう時に限ってアナスタシアは何処にも居ないのだ?」

 彼は文句を吐きながら周りへと顔を向けるが、そこには力のない顔をした女性達が居るだけで彼女の姿は何処にも見えなかった。

 あわよくばアナスタシアに昼食を作らせようと思っていたのだが、恐らく彼女は子供達の元へと向かって世話を焼いているのだろう。

「アイツの子供好きも大概だな。まあ、それが今回は良い方に転がっているから何とも言えんが」

 今頃アナスタシアは元気になった子供達と戯れているのだろうと、ジェラードは鼻で笑ってその光景を想像した。

 実は彼が子供達の忌々しい記憶を消したあと、村がなぜこの状態になっているのか説明するのが大変ではあったが古龍の襲来でああなったと言って誤魔化したのだ。

 それゆえに色々と設定の部分を考えてなければいけなかったが、未来のある子供達の為とアナスタシアが率先して頭を使ってくれた訳だ。
 その影響もあってか村の子供達はすっかり彼女に懐いている様子らしいのだ。

「はぁ……。だが今はそんな事を考えるよりも、この空腹の胃を満たす事を考えなければな。……面倒だが炊き出しを受け取りに行くべきか?」

 手を顎に添えながらジェラードは昼食をどうするべきかと思案し始めると、急に前方から何やら慌ただしい足音が聞こえてきた。

 すると足音は一直線に彼の元へと向かってきていて、スーリヤかアナスタシアが戻って来たのだろうかとジェラードは昼食を作って貰う為に口を開く。

「やっと戻ったか。すまないが俺の昼――」

 ジェラードが顔を上げた際に視界に映り込んだのは金髪で碧眼の女性リアスであり、それを見た瞬間に言葉が自然と止まった。

「お待たせしました魔術師様。リアス=スプリングフィールドは準備を整え、ただ今戻りました」

 しかも彼女は騎士らしく右手の握り拳を心臓の位置へと掲げて、視線は一切瞬きをせずに彼の方へと向けられている。

「お、お前だったのか。……そう言えば準備を整えたら来るとか何とか言っていたな」

 ジェラードが朝食時の出来事を脳内で思い浮かべながら口にする。

「はい、そうです。少しばかり準備に手間取ってしまいましたが、今から魔術師様に仕えて色々と手伝わせて頂きます」

 リアスは硬い姿勢を解いて片膝を地面に付けて頭を下げると彼にとって面倒な事を言い放った。
 それは午後からの復興作業に彼女が付いていくるという事だ。

「いや、手伝いはいらん。お前は困っている村の連中を助けてやればいい」

 ジェラードにとって彼女が付いてくるという行為は単純に言ってしまえば”足手まとい”なのだ。それはリアスが騎士であるがゆえになのだ。
 主に空が飛べなくて移動力が低かったり、風を操って物を浮かしたり出来ないと多岐に。

「はいっ、畏まりました。では困っている人を助けつつ、魔術師様のサポートをさせて頂きます」

 だがしかし彼女は何をどう捉えたのか凛とした表情を崩すことなく、そう言い切って話を終わらせた。それはまるで何処かアナスタシアに似たような強情さが垣間見えた気がするジェラード。
 
 この手の者には色々と理屈を述べた所で意地でも譲らない事を知っている事から、彼はリアスを引き離そうと一瞬の間に色々と考えた。そして一つの案が脳裏に浮かぶと自然と口が開く。

「あー、そう言えば俺は腹が減ってたんだよなぁ。誰か炊き出しに行って貰ってきてくれないかなー」

 誰がどう見ても演技を装っている棒読みの声であるが、事実ジェラードはお腹が減っている。
 つまりあながち嘘を言っている訳ではないのだ。

「大丈夫です魔術師様。そういう事もあろうかとしっかりと準備をしてきています。さぁ、これを是非食べてみて下さい」

 彼が空腹を訴えるとリアスが突然、横から物凄い勢いて何やらバスケットのような物を取り出してジェラードの目の前へと差し出さしてきた。

「こ、これは……」

 一体何事かと思いながらも彼は差し出されたバスケットへと目を向けると、

「はい、見ての通りお弁当です。実はこれを作っていて遅れてしまったのです……。申し訳ございません」

 彼女はそれを”お弁当”と言うと同時に遅れた理由を付け加えて何度目かの頭を下げた。
 確かにバスケットの中にはパンの間に野菜が挟まっているものや、肉が挟まっているものと多数の軽食らしき食べ物があった。

「ああ、そうなのか……」

 リアスを自分の元から離そうと思って放った言葉が意図も簡単に失敗に終わると、ジェラードは手渡されたパンを受け取って何とも言えない気持ちを抱いた。

 そして彼女が徐に隣へと近寄ってくると目を輝かせて今か今かと食べる瞬間を心待ちにしているように彼には見えた。しかしそんなにも横から見られると、ジェラードとしても食べづらい気持ちである。だが胃が食べ物を求めているものまた事実であり……、

「頂くとしよう」

 そう短く彼女に告げてからパンに齧り付くジェラード。
 そのまま数回ほど咀嚼して素材を充分に味わい尽くすと、リアスから受け取った茶を飲んで胃へと流し込んだ。

「……うむ、これは美味な食べ物だな」

 ジェラードは彼女が作った手製のパンを食べ終えてしっかりと吟味した結果を伝える。

「ほ、本当ですか!? う、嬉しいですっ!!」

 リアスはそれを聞いて表情を明るいものへと変えながら胸元辺りで拳を作って喜んでいる様子であった。
 彼女のその表情は無邪気なもので、暗い瞳には微かに光が戻ったように彼には思えた。

 ――それからもジェラードはリアスから手製のパンを貰い続けると、空だった胃が一気に満たされて至福の感情で一杯であった。しかし彼女を引き離すと言う当初の目的は達成されなかった事から、言わずもがな午後の復興作業にはリアスが付いて来る事になった。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 そしてリアスを引き連れての復興作業を終えると、既に空は漆黒色で周りには月明かりと焚き火の灯りしか目立つものはなかった。

 今日一日で村人全員が仮設所から出られるようにと、ジェラードが満たした胃を犠牲にして家を何軒か連続で建てる事が出来たのは良い結果と言えるだろう。そしてアナスタシアが子供達の面倒を見ていたおかげで、大人達が村の復興に力を注ぐ事が出来た事も良い結果だろう。

 しかしリアスはやはり騎士という事もあってか、さほどジェラードを手伝う事は出来なかった。
 彼は魔法で自己完結出来る事から、手助けや補助と言ったのは本当に必要ないのである。

 けれどそれがリアスにとって精神的に駄目だったのか、微かに光が戻ったような瞳は死んだ魚の目のようになってしまい終始俯いたままとなってしまったのだ。
 そこでジェラードは昼の礼も兼ねて何かリアスの有用性がないかと考えたのだ。

 そうしたら騎士という利点は確かにあって、村人が魔物と戦えるように剣の扱い方や戦術を教える”教官”としての役回りを見出したのだ。つまり午後の復興作業はジェラードが単独で全てを終わらせて、リアスは戦う術を村人達に教えていたという事である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~

楠富 つかさ
ファンタジー
 ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。  そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。 「やばい……これ、動けない……」  怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。 「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」  異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...