気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

R666

文字の大きさ
39 / 54
第二章

14話「大賢者と若き魔女は相部屋となる」

しおりを挟む
「大変遺憾ではありますが女王様直々の頼みとあらば仕方ありません。私の後に付いて来てください。部屋まで案内致します」

 執事長が女王に言われた通りにジェラードを部屋へと案内する為に声を掛けてくるが、その声には何処となく怒りの感情が孕んでいそうであった。

「うむ、よろしく頼むぞ」

 だが当の本人でもある彼は小さく頷いてから彼女の後を追うようにして歩き出した。
 するとその際に周りからは他の執事達が嫌悪を煮詰めたような視線で自分の事を見ていると、ジェラードは背中に感じる威圧感の数々に気がついていた。

「ふむ……。これは些か難儀な事になったやもしれんな」

 そう独り言を呟くようにして彼は城の中を進んで歩いていくと、途中から赤く高級そうな敷物が引かれている廊下へと入り、そこには絵画の他にも壺や小さい彫刻の置物と言った造形物が壁際に飾られていた。

「おお……これは売れば恐らく金貨数枚にはなるだろうな。そうすれば旅の資金に困ら――」

 ジェラードは飾られている如何にも高級そうな物の数々を見て金額を脳内に思い浮かべると自然と口が緩むが、

「あの、あまり私の後ろで邪な事を言わないでくれますか? でないと幾ら大賢者様と言えど盗賊認定して、この城から追い出さねばなりません」

 急に先頭を歩く執事長が足を止めて振り返ってくると冷たい声色と共に残飯を見るような何とも言えない視線を向けながら告げてきた。

「……すまない。ちょっとした冗談だとも」

 執事長の言葉が本気のものだと彼は雰囲気から察すると、徐に両手を上げて慣れない笑みを作って返した。

「そうですか。ではご自身の発言には以後気をつけて下さいね? 私達メイ……執事達は常に貴方方を監視していますから」

 彼女は相変わらず表情を一切変えないまま淡々とした口調で喋っているが、その刹那ジェラードの索敵範囲内に先程広間で出会った執事達全員の闘気が一気に反応した。

 恐らく気づかれないように城の隠し通路や天井から自分の事を見張っていて、今の執事長の発言に反応して闘気が漏れ出したのだろうと彼は何となくだが理解する。

「ああ、ここに滞在している間は気をつけるさ。……だが、これは少しばかり無謀だぞ?」

 ジェラードは人差し指を立たせながら軽口を呟くと、闘気すら碌に隠しきれないで隠密行動は難しいだろうと彼女達の今後を案じて少しだけ遊んであげる事にした。

「な、なにを言っているのやら……」

 彼の発言に執事長は何か思い当たる節が有るのか急に眉を顰めて声色が変わりだした。
 そしてジェラードは人差し指を立たせたまま体の内に流れる魔力を僅かに外へと放出して、その放出した魔力を全ての執事達に向けた。

 ――――するとその瞬間、彼の目の前に立っていた執事長は表情を恐怖のものへと変えて口を半開きにしたまま全身が震えだすと何故か瞳から涙が流れ出していた。

「おっとすまない。少々やり過ぎたようだな。……しかしこれっぽっちの覇気で怖気つくようでは話にならんな。もっと鍛錬して気持ちと闘気を高めると良いぞ」

 ジェラードはそんな彼女の姿を目の当たりにして少しだけやり過ぎた事を自覚すると急いで魔力を抑えたが、可能性として他の執事達も彼女と同様に圧倒的な恐怖を感じてしまったであろうと思い罪悪が芽生えた。

「お、おい? 大丈夫か?」

 彼は依然として涙を流して膠着している彼女を心配して声を掛けながら手を伸ばす。

「ひィっ……! こ、こないで!」

 執事長はそれを自身の手の甲で跳ね除けると先程まで男の声を真似ていたのだが今ではすっかり女声で叫んでいた。

「「…………」」

 そして二人の間に気まずい雰囲気が流れ出すと廊下の真ん中で沈黙の数分間が訪れた。
 だがそれも暫くしたあと執事長が自身の着ている服装を整えてから気を取り直した様子でジェラードを再び部屋へと案内しだしたが、その間に二人の会話は当然の如く全くなかった。

 それどころか彼女の歩く速度が速いのかジェラードとの距離が物凄く空いていて間に人が五人ぐらい入れそうなほど余裕のある空間が広がっていたぐらいである。
 ――そんな状態が続いて三分程が経過すると執事長は急に一つ部屋の前で足を止めて、

「到着致しました。ここがジェラード様と”お付の人”のお部屋となります。何か困り事がありましたら部屋の中に置かれているベルを鳴らして下さい。……それでは以上で私は下がらさせて貰います。ごゆっくりと」

 振り返りながら右手を扉の方に向けて感情が一切篭っていない様子の声で伝えると静かに頭を下げた。しかも彼女からは一刻も早くこの場から立ち去りたいという雰囲気すら感じ取れて、ジェラードはこれ以上何かを言ったとしても逆効果だと思い黙って頷く。 


◆◆◆◆◆◆◆◆


 それから執事長が小走りで自分の前から去っていくと、ジェラードは大きく溜息を吐いて胸に触れただけで女性はあれほど怒るのかと一つ学んだ。そして女王が会議の間の準備を終えるまで部屋でゆっくりしようとドアノブを下げて中へと入った。

「ふむ、至って普通の部屋だな。特に可もなく不可もなしだ。まあ、寝泊りするだけなら充分だろう」

 部屋の中へと入って全体を収めるように彼は顔を動かすと、この部屋には人が二人一緒に寝られるほどの大きなベッドに繊細な装飾が施された木製の机と椅子が置かれていた。
 そのどれもこれもが売れば金貨数百にはなるだろうと思われる家具の数々である。

「さて、物色はこれぐらいにして暫くは魔法も使わずにのんびりと横になってみるか。これも人としての在り方を忘れない為に必要であろう」

 ジェラードはそう呟くとベッドの方へと向かって歩き出し、ふと王家が使う寝具とは一体どれほどの質感を持っているのかと些細な好奇心に駆られると手のひらを押し当てた。

 するとこのベッドは今まで彼が使ってきたどれよりも滑らかで上品な肌触りをしていて、しかもかなりの高反発さも持ち合わせていた。もしかしたらこの上で一度でも寝てしまったら、もう二度宿屋に置かれているような粗悪な寝具は使えなくなってしまうのでは思えてしまうほどだ。

「お、おぉ……。これなら魔法を使って無理やり睡眠を取る必要すら無くなるかもな」

 ベッドの質感を手のひらで余すことなく体感すると、ジェラードはいよいよ自身の五体を使って体験するべく身を乗せようとした。
 ――――だがその時、勢い良く部屋の扉が開かれて甲高い声が聞こえてくる。

「いやぁ、お城の中って迷いの森並に入り組んでいて一人で動くと絶対迷子になりますねぇ……。にしても探索中に見掛けた男装した女性……あれは中々に有りですね。今度会ったら握手でも頼んでみましょうか。……ってあれ? なぜここに先生が?」

 盛大に独り言を漏らして自身の顎に手を当てながら部屋に入ってくるアナスタシアは、彼の存在に気が付いたらしく疑問の声を出して首を傾げていた。

「お前は独り言すらその声量で言っているのか……。まあそれはそれとして、この部屋は恐らく俺とお前が一緒に使う事になっている筈だぞ」

 ジェラードはそんな彼女の様子を見て率直に呆れると、先程執事長が言っていた言葉を思い起こしながらこの部屋は二人用だと言う事を教えた。
 
「……は? それは本気で言ってるんですか?」

 アナスタシアは彼の言葉を聞いて表情を露骨に嫌そうにさせると頬が若干引き攣っているようであった。

「ああ、本気だ。こんな所でつまらない冗談を言うような男ではないのでな俺は」

 ジェラードは自分が言ったことはまごう事なき事実だと口にしてベッドの端に乗せていた腰を上げて立ち上がる。

「ま、まじですか……。こんなにもか弱くて幼気で麗しい私が、こんなむさ苦しい男と一緒の部屋で寝るですとぉ……」

 文句を吐きながら彼女は部屋の奥へと進んでいくと、内装が気になったのか項垂れつつもしっかりと周囲の家具に視線を向けていた。

「おい待て、なんだその言い方は。ゴブリン達を魔法で肉片に変えた奴の何処が幼気でか弱いんだ? 寧ろバーサーカー魔女か何かだろお前は」

 ジェラードは彼女の言い方が微妙に気に食わなかった事から、知性が乏しく闘争心だけを持ち合わせて戦う狂戦士の異名を混ぜて反論する。
 
「な、なにを!? でしたら先生の方がよっぽど――――」

 するとアナスタシアの中で火が付いたのか勢い良く首を曲げて顔を合わせてくると再び文句を言い放ち、

「ふっ、お前の方が――――」

 それに一字一句反論するようにジェラードも口を開くと二人は夕食の時間まで言い争いを続けるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜

妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。 男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。 現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。 そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。 しかし、ただの転生では終わらなかった―― 彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。 無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。 護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、 毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく…… 個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。 ――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。 そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。 「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」 恋も戦場も、手加減なんてしてられない。 逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...