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第二章
15話「女王は取り乱し、王女は飛び出す」
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ジェラードとアナスタシアが時間を忘れてまで些細な言い争いを続けていると、
「あ、あのー……。夕食の準備が整いましたので案内致します……」
弱々しい女性の声が扉越しに聞こえてきて二人は言葉の投げ合いを終わらせた。
「も、もうそんな時間でしたか……」
外から聞こえてきた女性の声によってアナスタシアは落ち着きを取り戻す。
「ああ、そうみたいだな。まったく、お前と話していると時間が幾らあっても足りんな」
ジェラードは右手で頭を抱えて小さく首を左右に振った。
「なんですとっ!? それは嫌味ですか! 私がお婆ちゃん並に話が長いと! そういう意味ですか!」
彼女は耳を数回小刻みに動かしてから目を尖らせて顔を合わせてくると、自身が長話がちになることを少なからず気にしている様子であった。恐らくアナスタシアが育った村では年配の方が多くて、その影響が少なからず彼女にも影響しているのだろうとジェラードは見ていて思った。
「いや、別にそこまでは言っていないだろ。そもそも――」
面倒な事を言ってしまったと彼は人差し指で頬を掻きながら口を開くが、
「あ、あの! 食堂の間にて女王様と王女様がお待ちになられているので、早めに出てきて頂けると助かります!」
それは扉越しに聞こえる女性の大きな声によって遮られた。
どうやら声色から察するに相当焦っているようにジェラードには伺えて、
「……分かった。直ぐに準備をする」
と短くそう答えて扉越しの女性を安堵させる事を優先した。
「えっ、先生に準備とかあるんですか? ただ食事をするだけなのに? 女子ですか?」
だがそれを横で聞いていたアナスタシアは右手を自身の口元に近づけると、如何にも態とらしく驚いた状態を作って煽るように言葉を口にしていた。
「お前は日を追うごとに面倒が増していくな。一体誰を見て覚えているのか気になるところだ」
ジェラードは彼女の語彙力が日に日に増していくを否応なしに実感させられている。
「それはもう殆ど答えが分かっているのでは……」
アナスタシアは肩をだらしなく下げさせては何故か乾いた笑みを見せていた。
「まあ何にせよ今は食事を取ることが優先だ。行くぞアナスタシア」
彼女の張り付いたような笑を見て彼は話題を露骨に変えると、実際に準備をするとは適当に言ったことであって意味はなかった。
「あ、はい! ……って準備とは一体何の準備だったんですか!? ちょっ先生ェ!」
それでもアナスタシアは深く勘繰っている様子で声を荒げていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「こちらがヒルデ王家の食堂の間となります。既に女王様と王女様が中でお待ちになられているので、く・れ・ぐ・れ・も・粗相がないようにお願い致しますね」
二人が部屋を出ると廊下で待機していた男装執事によって食事をする場所まで案内されたが、彼女は食堂の間に繋がる扉の前で足を止めて振り返ると注意深くジェラードを見ながら言葉を口にしていた。
「ああ、分かっている」
彼は執事の言葉に僅かに頷いて返す。
「……先生? もしかしてもう何かやらかしたんですか?」
そしてジェラードの隣ではアナスタシアがローブを引っ張りながらそんなことを訊ねてきた。
「なんだその疑いの眼差しは……辞めろ。俺は何も――――ま、気にすることはない。それよりも中に入るぞ。二人を待たせているらしいからな」
彼女の疑惑を孕んだような瞳を目の当たりにして言葉を濁すと彼は心当たりしかなくて、それを言ってしまうとまた言い争い発展するだろうと思い話しを逸らすと中へと入る為にドアノブに手を掛けた。
「あっ、今誤魔化しましたね!! もぉー、私が目を離すと直ぐにこれだから……やれやれ」
アナスタシアは彼の言葉の中に変な間がある事が気になったのか、それを誤魔化しだと瞬時に見破ると両手を小さく上げて首を左右に振っていた。だがジェラードはそんな事は気にせずにドアノブを下げて扉を開けると中へと入る為に足を進めた。
「お待ちしておりました。ジェラード様とアナスタシア様。こちらの席にお座り下さい」
二人が中に入ると直ぐ横に男装執事が白い布を手にしながら立っていて、彼女はそのまま綺麗に背筋を伸ばしながら右手を向けてジェラード達が座る席を指していた。
「おぉ、これが王家の食事という奴ですか……。何か場違い感が凄いですね先生!」
それを確認して二人は席に向かって歩き出すと、アナスタシアは部屋を物色するように顔を忙しなく周囲へと向けて瞳を輝かせていた。
「そうだな。森で山菜を食っていた頃が懐かしいぐらいだ」
ジェラードも視線を周囲へと向けるとこの食堂の間は単調な作りをしていて壁には相変わらずの絵画が飾られていたり、鉱石を削って作ったのであろう石製の長い机や赤色の布が貼られて高級感が溢れる椅子が数多く並べられていた。
そしてその奥では女王と王女が仲良さ気に隣同士で座っていて二人が着席するのを待っているよであり、ジェラード達は漸く席の前へと到着すると椅子を引きずらないよう注意を払いながら腰を落ち着かせた。
「んんっ……ジェラード様? 食事をする前に一つお聞きしても?」
彼が席に腰を下ろすと同時に女王が軽い咳払いをしてから質問を訊ねてくる。
「別に構わないぞ。俺も聞きたい事があるしな」
ジェラードは特に断る理由もないことから受け入れた。
けれど彼自身も女王に聞きたい事があって、これはある意味で好都合であった。
「実は先程ジェラード様を部屋まで案内した者が――」
瑞々しい唇を恐る恐ると言った感じで女王は再び開いて声を出そうとしたが、
「大変です! 女王様!!」
それは突如として食堂の間の扉が乱暴に開かれる音と共に騎士の危機迫る声によって遮られることとなった。
「何事ですか騒々しい! 女王様は今お客様と大事な食事中ですよ!」
女王の隣に立っていた男装執事が声を荒げて部屋に入ってきた者を注意する。
「も、申し訳ございません! ですが事は一刻を争います!」
その騎士は頭を深々と下げて謝罪の言葉を口にしたが矢継ぎ早に顔を上げると女王へと視線を向けていた。
「まったく……申し訳ございませんジェラード様、少々お待ち下さい。それで? 一体なにが大変なのですか?」
騎士の視線に何か深い意味が込められているのを感じ取ったのか、彼女はジェラードとの会話を中断させると要件を聞き返していた。
「は、はいっ! 実は陛下の容態が急変致しまして医師達が言うには今夜が山場かと……」
返事をして即座に地に膝を着けて騎士は国王の事を口にすると、一瞬にして食堂の間は静寂に包まれて時間が止まったかのように全員が動きを止めていた。
「な、なんですって!? そんなまさか……度々申し訳ございませんジェラード様。私は暫くの間席を外させて貰います。夕食については是非食べて行ってください」
顔色を段々と青白くさせていくと女王は音を立てながら椅子から立ち上がって彼に向けて頭を下げると今にも走り出しそうにドレスの端を両手で掴んでいた。
「ん、待て女王よ。俺も付いて行くとしよう。これでも今の国王とは王位継承の儀で会っているからな。もしもの時は祈りぐらいは捧げてやる義務がある」
女王を呼び止めながらジェラードは腰を上げて立ち上がると、自分も国王の元へと向かう事を告げた。
「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございますジェラード様……」
急な彼の申し出に彼女は一瞬だけ目を見張ると頭を下げて震える声で感謝の言葉を口にした。
「と、父様が……。そ、そんなぁぁぁ!」
椅子が乱暴に倒される音が聞こえてくると、次の瞬間にはアーデルハイトが血相を変えて走り出して一目散に食堂の間から出て行く。
「で、アナスタシアはどうする? このまま一人で夕食を続けるか?」
そんな王女の様子を見てからジェラードは隣に居る彼女に声を掛ける。
「さ、流石にそれは気まずいを通り越して無礼に値すると思いますよ。……だから私は先生達に付いて行きます。それにアーデルハイトさんの様子も気になりますし……ね」
椅子から降りてアナスタシアが眉を顰めて難しい顔を浮かべると飛び出して行った彼女の様子が気になるらしくジェラード達と共に付いて行く事を選んだようである。
「ふっ、俺が居ない間に随分と仲良くなったようだな。……では行くとしようか、国王の容態を確かめにな」
軽く鼻で笑いながらアナスタシアが王女と仲良くなっていることに反応を示すと彼はこの場に居る全員に聞こえるように呟いてから、女王の案内のもと国王が寝込んでいるであろう部屋に向かうのであった。
「あ、あのー……。夕食の準備が整いましたので案内致します……」
弱々しい女性の声が扉越しに聞こえてきて二人は言葉の投げ合いを終わらせた。
「も、もうそんな時間でしたか……」
外から聞こえてきた女性の声によってアナスタシアは落ち着きを取り戻す。
「ああ、そうみたいだな。まったく、お前と話していると時間が幾らあっても足りんな」
ジェラードは右手で頭を抱えて小さく首を左右に振った。
「なんですとっ!? それは嫌味ですか! 私がお婆ちゃん並に話が長いと! そういう意味ですか!」
彼女は耳を数回小刻みに動かしてから目を尖らせて顔を合わせてくると、自身が長話がちになることを少なからず気にしている様子であった。恐らくアナスタシアが育った村では年配の方が多くて、その影響が少なからず彼女にも影響しているのだろうとジェラードは見ていて思った。
「いや、別にそこまでは言っていないだろ。そもそも――」
面倒な事を言ってしまったと彼は人差し指で頬を掻きながら口を開くが、
「あ、あの! 食堂の間にて女王様と王女様がお待ちになられているので、早めに出てきて頂けると助かります!」
それは扉越しに聞こえる女性の大きな声によって遮られた。
どうやら声色から察するに相当焦っているようにジェラードには伺えて、
「……分かった。直ぐに準備をする」
と短くそう答えて扉越しの女性を安堵させる事を優先した。
「えっ、先生に準備とかあるんですか? ただ食事をするだけなのに? 女子ですか?」
だがそれを横で聞いていたアナスタシアは右手を自身の口元に近づけると、如何にも態とらしく驚いた状態を作って煽るように言葉を口にしていた。
「お前は日を追うごとに面倒が増していくな。一体誰を見て覚えているのか気になるところだ」
ジェラードは彼女の語彙力が日に日に増していくを否応なしに実感させられている。
「それはもう殆ど答えが分かっているのでは……」
アナスタシアは肩をだらしなく下げさせては何故か乾いた笑みを見せていた。
「まあ何にせよ今は食事を取ることが優先だ。行くぞアナスタシア」
彼女の張り付いたような笑を見て彼は話題を露骨に変えると、実際に準備をするとは適当に言ったことであって意味はなかった。
「あ、はい! ……って準備とは一体何の準備だったんですか!? ちょっ先生ェ!」
それでもアナスタシアは深く勘繰っている様子で声を荒げていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「こちらがヒルデ王家の食堂の間となります。既に女王様と王女様が中でお待ちになられているので、く・れ・ぐ・れ・も・粗相がないようにお願い致しますね」
二人が部屋を出ると廊下で待機していた男装執事によって食事をする場所まで案内されたが、彼女は食堂の間に繋がる扉の前で足を止めて振り返ると注意深くジェラードを見ながら言葉を口にしていた。
「ああ、分かっている」
彼は執事の言葉に僅かに頷いて返す。
「……先生? もしかしてもう何かやらかしたんですか?」
そしてジェラードの隣ではアナスタシアがローブを引っ張りながらそんなことを訊ねてきた。
「なんだその疑いの眼差しは……辞めろ。俺は何も――――ま、気にすることはない。それよりも中に入るぞ。二人を待たせているらしいからな」
彼女の疑惑を孕んだような瞳を目の当たりにして言葉を濁すと彼は心当たりしかなくて、それを言ってしまうとまた言い争い発展するだろうと思い話しを逸らすと中へと入る為にドアノブに手を掛けた。
「あっ、今誤魔化しましたね!! もぉー、私が目を離すと直ぐにこれだから……やれやれ」
アナスタシアは彼の言葉の中に変な間がある事が気になったのか、それを誤魔化しだと瞬時に見破ると両手を小さく上げて首を左右に振っていた。だがジェラードはそんな事は気にせずにドアノブを下げて扉を開けると中へと入る為に足を進めた。
「お待ちしておりました。ジェラード様とアナスタシア様。こちらの席にお座り下さい」
二人が中に入ると直ぐ横に男装執事が白い布を手にしながら立っていて、彼女はそのまま綺麗に背筋を伸ばしながら右手を向けてジェラード達が座る席を指していた。
「おぉ、これが王家の食事という奴ですか……。何か場違い感が凄いですね先生!」
それを確認して二人は席に向かって歩き出すと、アナスタシアは部屋を物色するように顔を忙しなく周囲へと向けて瞳を輝かせていた。
「そうだな。森で山菜を食っていた頃が懐かしいぐらいだ」
ジェラードも視線を周囲へと向けるとこの食堂の間は単調な作りをしていて壁には相変わらずの絵画が飾られていたり、鉱石を削って作ったのであろう石製の長い机や赤色の布が貼られて高級感が溢れる椅子が数多く並べられていた。
そしてその奥では女王と王女が仲良さ気に隣同士で座っていて二人が着席するのを待っているよであり、ジェラード達は漸く席の前へと到着すると椅子を引きずらないよう注意を払いながら腰を落ち着かせた。
「んんっ……ジェラード様? 食事をする前に一つお聞きしても?」
彼が席に腰を下ろすと同時に女王が軽い咳払いをしてから質問を訊ねてくる。
「別に構わないぞ。俺も聞きたい事があるしな」
ジェラードは特に断る理由もないことから受け入れた。
けれど彼自身も女王に聞きたい事があって、これはある意味で好都合であった。
「実は先程ジェラード様を部屋まで案内した者が――」
瑞々しい唇を恐る恐ると言った感じで女王は再び開いて声を出そうとしたが、
「大変です! 女王様!!」
それは突如として食堂の間の扉が乱暴に開かれる音と共に騎士の危機迫る声によって遮られることとなった。
「何事ですか騒々しい! 女王様は今お客様と大事な食事中ですよ!」
女王の隣に立っていた男装執事が声を荒げて部屋に入ってきた者を注意する。
「も、申し訳ございません! ですが事は一刻を争います!」
その騎士は頭を深々と下げて謝罪の言葉を口にしたが矢継ぎ早に顔を上げると女王へと視線を向けていた。
「まったく……申し訳ございませんジェラード様、少々お待ち下さい。それで? 一体なにが大変なのですか?」
騎士の視線に何か深い意味が込められているのを感じ取ったのか、彼女はジェラードとの会話を中断させると要件を聞き返していた。
「は、はいっ! 実は陛下の容態が急変致しまして医師達が言うには今夜が山場かと……」
返事をして即座に地に膝を着けて騎士は国王の事を口にすると、一瞬にして食堂の間は静寂に包まれて時間が止まったかのように全員が動きを止めていた。
「な、なんですって!? そんなまさか……度々申し訳ございませんジェラード様。私は暫くの間席を外させて貰います。夕食については是非食べて行ってください」
顔色を段々と青白くさせていくと女王は音を立てながら椅子から立ち上がって彼に向けて頭を下げると今にも走り出しそうにドレスの端を両手で掴んでいた。
「ん、待て女王よ。俺も付いて行くとしよう。これでも今の国王とは王位継承の儀で会っているからな。もしもの時は祈りぐらいは捧げてやる義務がある」
女王を呼び止めながらジェラードは腰を上げて立ち上がると、自分も国王の元へと向かう事を告げた。
「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございますジェラード様……」
急な彼の申し出に彼女は一瞬だけ目を見張ると頭を下げて震える声で感謝の言葉を口にした。
「と、父様が……。そ、そんなぁぁぁ!」
椅子が乱暴に倒される音が聞こえてくると、次の瞬間にはアーデルハイトが血相を変えて走り出して一目散に食堂の間から出て行く。
「で、アナスタシアはどうする? このまま一人で夕食を続けるか?」
そんな王女の様子を見てからジェラードは隣に居る彼女に声を掛ける。
「さ、流石にそれは気まずいを通り越して無礼に値すると思いますよ。……だから私は先生達に付いて行きます。それにアーデルハイトさんの様子も気になりますし……ね」
椅子から降りてアナスタシアが眉を顰めて難しい顔を浮かべると飛び出して行った彼女の様子が気になるらしくジェラード達と共に付いて行く事を選んだようである。
「ふっ、俺が居ない間に随分と仲良くなったようだな。……では行くとしようか、国王の容態を確かめにな」
軽く鼻で笑いながらアナスタシアが王女と仲良くなっていることに反応を示すと彼はこの場に居る全員に聞こえるように呟いてから、女王の案内のもと国王が寝込んでいるであろう部屋に向かうのであった。
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