気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第二章

16話「国王は呪いにより床に伏せる」

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 焦る女王に案内されてジェラードとアナスタシアは国王が寝込んでいるであろう部屋へと向かい中に入ると、そこには人が三人ぐらい同時に寝られるような大きなベッドに国王らしき男が横になっていて、状態は見るからに健康そうではなく食事も真面に取れていないのか頬の肉がこけていた。

 ジェラードが周りを見渡せば大勢の医師たちであろうか髭を生やした老人達が国王の周りを取り囲むように並んでいて皆一様に暗い顔を見せると、その中には泣きながら言葉を発する王女アーデルハイトの姿もあった。

「貴方……」

 国王を見るや否やすぐさま女王は駆け寄ると、それはまるで最後を看取るかのように聖母のような表情を見せながら声を掛けていた。

「こ、この人が国王なんですか……?」

 ベッドの上で時たま咳を上げる国王を見ながらアナスタシアが訊ねてくる。

「ああ、そうだ。俺が最後に会った時はまだ元気に自身の肉体を自慢してくる、筋肉モリモリのうるさい奴だったがな。……しかしどんなに己の五体を極めようとも病には勝てないということか」

 ジェラードは静かに瞼を閉じて在りし日の記憶を刹那に振り返り呟いた。

「ごほっ、がはっ! ……はぁはぁ。そ、その声は大賢者……ジェラード様では……」

 彼の話し声が聞こえたのか国王は咳き込みながら両手を支えに使って無理やり体を起こすと、その両腕は嘗て世界で最も硬いと言われていた鉱石【ダイヤモンド】並みの筋肉を有していたと言われるほどであったが、今ではその姿は何処にもなく影すらも見えなかった。

「あ、貴方!? 安静にしていないと駄目ですよ!」

 女王は突如として起き上がった彼の朽ちた枯れ木のような細い腕に触れて涙混じりの声でそう言う。

「はぁはぁ……それは無理だのう……。ワシはこれでもヒルデの国王……大賢者ジェラード様が来ているならば、こんな無様な姿は魅せられんのだ……」

 国王は震える体と共に紫色に染まった顔を見せて息を切らしながら何とか言葉を紡いでいた。

「ふっ、相変わらず義理堅い男だなお前は」

 弱りきった彼を見て中身は何も変わっていないことをジェラードは感じ取る。

「ああ、やはり貴方は大賢者ジェラード様……。申し訳ない……貴方とまた会うことが出来たら手合わせをと……頼んだのはワシの方だと言うのに……守れなく……て」

 国王は彼の声を聞いて再度確認するように声を出すと悔し涙であろうか、瞳から大粒の雫を流しながら約束を守れなかった事を口にして右手で握り拳が作られていた。

「あー、そう言えばそんな約束もしたな。今の今まですっかり忘れていたぞ」

 だがジェラードはそんなことは疾うの昔に忘れていて、彼に言われるまで記憶の片隅にすら置かれていないことであった。

「ははっ……相変わらず気まぐれな方……げほっ!! ぐほぁっ!!」

 国王は彼の気の抜けた声を聞いて僅かに笑みを見せると、そろそろ体の限界が近づいて来ているのか大きく咳き込み始めた。

「貴方! もう喋ってはいけません! それ以上は本当に……」

 女王は国王の容態が急激に悪くなっているのを察したのか安静にするように言う。

「あ”あ”あ”父様ぁ”ぁ”ぁ”! 死なないで下さいぃ”ぃ”ぃ”」

 その横では王女が涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き声を上げていた。

「あの、先生? 少し気になるのですが、あの国王の異常な顔の悪さはもしかして呪いの類ではないでしょうか?」

 そしてそんな王家の一族をジェラードは見ていると、ふと何かに気が付いたのか隣からアナスタシアが神妙な面持ちで国王は呪いに犯されているのではないかと訊ねてきた。

「呪いだと? ……ふむ、言われて見れば確かに僅かにだが呪いの魔力を感じるな。だがそれが一体どう――」

 彼女に言われて彼は指で輪を作ってそこから視線を通すと、微量ではあるが肺と心臓の位置に紫色の魔力反応が確認出来た。けれど国王が呪いに犯されているからと言って、それがどうしたと言うのがジェラードの本心である。

「助けて上げて下さい。残念ながら私はまだ呪いを解く魔法を知らないので。……それに我を忘れて泣いている親友を私は見たくないです。きっと彼女に一番似合うのは笑顔の筈ですから。……どうかお願いします。ジェラード先生」

 アナスタシアは彼の言葉を遮るようして強くはっきりした声色で言うと、それは国王の体を蝕んでいる呪いを解けということであった。確かにジェラードは魔法の基礎を教えただけであって、呪いを解くという特殊なものに関しては何一つ教えていないのだ。

「はぁ……お前の観察眼は素晴らしいが実力が伴っていないな。だがまあ良いだろう。お前に呪いを解く魔法を教える気はないが見て盗むのなら勝手にしろ」
 
 大きく溜息を吐いて彼は横髪を掻きながら彼女の観察眼を褒めるが依然として呪いを解くという面倒な魔法を教える気はなく、覚えたいのなら見て覚えるしかないとさり気なく伝えた。

 その理由はシャロンの娘であるならば一度見た魔法は自分の手足のように使えるようになる筈だとジェラードは思ったのだ。嘗て共に旅をしていた彼女がそうしていたように。

「ジェ、ジェラード様……呪いとは一体どういう……」

 アナスタシアとの会話が聞こえていたのか女王が呪いという単語を口にして訊ねてくる。

「あ”あ”あ”大賢者様ぁ”ぁ”ぁ”おねがいじまず……父様を助けて下さい……」

 その隣でアーデルハイトが顔を上げて顔を合わせてくると目を真っ赤にさせて必死の様子で懇願してきた。

「我々医師団からもお願いします。どうか、国王陛下を救って下さい。この国にはまだ陛下のお力が必要なのです」

 するとずっと国王の治療に徹していたのだろう髭を生やした老人の一人が一歩前に出て頭を下げてくると、その周りに立っていた医師達も次々と頭を下げて助けて欲しいと口を揃えて頼み込んできた。

「まったく、そう一度に話し掛けてくるな。集中力が削がれるだろう。話しならば後で聞いてやるから今は黙って国王の身を案じていろ」

 ジェラードはアナスタシアに頼まれた時点で呪いを解く魔法を発動しようと右手に魔力を集め始めていて、横から女王や老人達の声によって魔力の流れを乱されるのを不快に思って静かにすることを告げる。

「「「「…………」」」」

 一瞬にして女王や医師達が口を閉じて黙ると王女も必死に泣くのを堪えている様子である。

「汝の体に宿いし邪な魔力よ、我が浄化の魔力を持って打ち消さん。【ピュアリフィケイション・カーズ】」

 この場が静かになった所でジェラードは国王の元へと近づくと、魔力の溜まった右手を向けて呪いを解く魔法を詠唱すると部屋中に淡い青色の光りが反射した。

「く”あ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”!?」

 そして詠唱を終えて僅か数秒後に国王は悲鳴をあげながら目を充血させて白目の部分が真っ赤に血のように染まるとベッドのシーツや掛け布団を掴んで暴れ始めた。

「くっ……流石はコイツの体を蝕んでいた呪いだけのことはある。壮絶に拒否反応を起こしているな。おい、全員国王の体を押さえろ。でないと浄化が失敗に終わる」

 ジェラードは予想以上に抵抗してくる呪いに対して愚痴を漏らすと、この場に居る全員に国王を力尽くで抑えるように声を掛ける。

「貴方しっかりして! 今ジェラード様が呪いを解いて下さっているのよ!」

 女王は気を確かに持つようにと必死に声を掛ける。

「父様ぁ”ぁ”ぁ”こんなにも力を失われて……あ”ぁ”ぁ”ぁ”」

 アーデルハイトは呪いによって弱まった国王の力を嘆き悲しんでいる様子であった。

「ちょっと先生、国王は本当に弱っているのでしょうか! 普通に力が強いように私には思えますが!」

 だがそれを他所にアナスタシアは国王の左腕を押さえるがやっとのようで、今にも振りほどかれそうにしがみついて何とか耐えているようである。

「ああ、だろうな。例え筋肉が衰えようとも今まで培ってきたものは不滅ということだ。……さて、全員そのまましっかりと抑えていろ。もう時期に浄化は終わる」

 国王の全盛期を知っているがゆえにこの言葉を呟くと、ジェラードは自身の魔力を繊細に操って呪いが宿っている根幹を見つけ出すと全てを駆逐するべく浄化の魔力を流し込むのであった。
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