気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第二章

25話「王女と大賢者は決闘ス」

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「「「「「お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぅ”う”!」」」」」

 暗く狭い通路を進み始めるとジェラードは光が差し込む場所へと出て、そこで視界が日光によって瞬く間に眩むと周りからは建物が揺れるほどの叫び声と同等の歓声が聞こえてきて、咄嗟に防音魔法を自身の周りに張り巡らせた。

「……騒々しい。やはり俺は大勢の前に立つのは性に合わないようだな」

 視界が慣れてくると漸く周囲を見渡すことができて、彼は席が全部民達で埋まっていることに気が付くと宣伝の効果とはここまで顕著に現れるものなのかと戸惑う。

 だが考え方次第ではこれは国王による一種の作戦なのではないかとジェラードは思えてしまう。
 その理由は娘を勝たせたが故に、大勢の民達を使って騒々しい歓声をあげることで自身の弱体化を狙っているのではないかと。

 仮にそんな作戦が密かに行われていたのならば中々に国王は策士な男ではあるが、そんな小さい嫌がらせを行うような男ではないことを知っている彼は鼻で笑って自身の妄想を終わらせた。

「お待たせ致しましたジェラード様! この度は私のような小娘の決闘を承諾して頂き、改めて感謝を申し上げます!」

 そして彼が下らない妄想をしている間にアーデルハイトの準備が整っていたらしく、ジェラードの正面に立つと決闘を受けた事への感謝の言葉を述べると同時に頭を深々と下げていた。

 しかもよく見れば彼女は純白の鎧を身に纏い、白銀に輝くレイピアを腰に備えていて所謂”勝負武装”という格好をしていた。

「世辞はいらん。お前の剣聖としての実力を俺に見せてみろ。礼はそれで充分だ」

 感謝の言葉を受け取るつもりはなく彼は右手を左右に振って適当に済ませると、感謝の言葉に変わりるものはアーデルハイトが実力を余すことなく存分に自分に見せてくれる事だけであった。

「は、はい分かりました! ではジェラード様を失望させないように、精一杯戦わせて頂きます!」

 ジェラードの言葉を聞いて彼女は心臓の位置に手を添えて返事をすると、戦闘民族の血が流れている事が影響しているのか笑みを見せて興奮している様子である。
 それから互いに一定の距離を保つようにして少し離れると銅鑼の音が鳴り響くのを待ち始めたのだが、

「ジェラード様ぁぁッ! 相手が私の娘だからと手加減はしないで結構ですからぁぁ! 思う存分に戦い現実というのを是非教え込んで上げて下さい!」

 突然特等席側から女王の声がコロッセオ内に響き聞こえてくると民達やアナスタシアまでもが視線を向けて目を丸くして固まっていた。

「……まったく、血の濃さというのは面倒なものだな」

 頭を抱えながらジェラードは小さく呟くと、純血の戦闘民族の血が流れている彼女が一番この戦いに対して興奮しているのではと思えて変に肩の力が抜けた。

 ――しかし彼が脱力感に襲われていると、まるで狙ったかのように銅鑼が叩かれて重たい音色がコロッセオ全体に響き渡る。

「「「「「お”お”ぉ”ぉ”ぅ”ぅ”ぅ”!」」」」」

 それと同時に大勢の民達が銅鑼の音に被せるようにして歓喜の声を上げると”試合”が開始されたことを意味していた。

「行きますッ! ジェラード様! ヒルデ流剣技【スター・ストロディント】!」

 試合が開始されて直ぐにアーデルハイトは闘気を練り上げてレイピアに乗せて突きの攻撃を放つと、放たれた闘気はレイピアの形状を維持して真っ直ぐに彼の心臓へと目掛けて飛んでいた。

「ほう、ヒルデに伝わる王宮剣技か……まあ妥当な所だろうな」

 初手の技としては中々に良い判断だとしてジェラードはその場を一歩も動かずに飛んでくる闘気を眺めると大体の練度を見極める事が出来て、ゆっくりと右手を前に出すと指を鳴らして向かってくる闘気を消滅させた。

「なっ!? わ、私の技を一瞬で消し去った……!?」

 目の前で一体何が起こったのかアーデルハイトは理解出来ていないような声を漏らすと全身が隙だらけの状態であった。右手に持っているレイピアは構えもせずに、ただ呆然と正面に顔を向けて口を半開きにしている状態。

「おい王女よ。今は戦いの最中だぞ。そんなに棒立ちしていて良いのか?」

 女王から手加減無用と言われていることから彼は右手のひら彼女に向けて狙いを脇腹に定めると、風属性の魔力を圧縮して作り上げた小規模の球体を遠慮なく放った。

「ッ……!? しまっ――」

 常人ならば決して捉えきれない速さでの放出であるが、アーデルハイトは寸前の所で正気を取り戻すと全身に闘気を巡らせる事で体の強度を上げて耐える選択をしたようである。
 ――――そして風の球体が彼女の脇腹に命中すると、

「く”あ”ぁ”ぁ”あ”」

 純白の鎧の一部を抉り取り消滅してアーデルハイトは叫び声をあげながら地に片膝を付けた。

「ふむ、この一撃で終わると思ったのだがな。いやはや剣聖とは伊達ではないようだ」 

 意地でも体を地に付けないようにしているのかレイピアを地面に突き刺して片膝だけで耐えているアーデルハイトの姿を見て、素直にジェラードは賞賛の声と共に拍手を送る。

「はぁはぁ……ごほっ……。こ、これぐらいじゃぁまだ私は倒れませんッ!」

 乱れた呼吸を整えながら彼女は顔を上げて睨んでくると、その二つの瞳には確かにまだ闘士とも言える強き揺らめきが感じられてジェラードは笑みが込み上げてくる。

「くッはははっ! よく言ったぞ! それでこそ剣聖! それでこそヒルデの名を継ぐ者だ!」

 アーデルハイトが期待以上の者だと彼は確信すると、両手を広げながら高い笑い声を会場に響かせて改めて戦う体制を整えた。同時に彼女もレイピアを地面から引き抜くと体制を整えて、何かしらの技を繰り出そうとしていた。

「はぁぁあッ! ヒルデ流剣技【トライアント・リニアー】!」

 レイピアを握り締めている手に力を入れるとアーデルハイトは高速で三回の突き攻撃を放つと、その全てに闘気が込められていて先程の技と比べると勢いと数が増していた。

「ふっ、斬撃の数を増やしたか。だがそれでは俺に傷を一つも負わせることは叶わんぞ。もっと限界を越えた先の力を見せてみよ!」

 手数を増やして戦う事は全然有りでジェラードは関心するが、それだけでは自分に攻撃を当てる事は不可能だと言う。

 けれど彼女にはまだ自身の内側に秘められている力があるとしてさり気なく教えると、彼は指を鳴らして向かって飛んでくる三本のレイピアの形をした闘気を消し去った。

「くっ、ヒルデの剣技が通じない……。ならば! 近接戦に持ち込むのみ!」

 王宮剣技が通じないと悟るとアーデルハイトは下唇を噛み締めたあと、相手が魔術師だとして苦手な分野の近接格闘に持ち込もうと両足を闘気を巡らせて一気に距離を縮めて来る。

「そうだ。相手の苦手な分野を瞬時に分析して戦え。そうすれば或いは勝機が見えるかも知れん」 

 直ぐ目の前に彼女が姿を現すとレイピアで突きの攻撃や左右に振ったりとして近接戦へと持ち込むが、ジェラードはその殆どを魔法を使わずに軽い足取りだけで交わしていく。

「……だが悪いな。生憎と俺は無駄に長生きしているせいで、一通りの体術は習得しているのだ」

 アーデルハイトの剣術を暫く交わし続けていると一向に進展しない展開に彼は少々飽きを感じて、交わすのを辞めると敢えて彼女の懐へと入り込み軽く固めた拳で鳩尾を的確に射抜いた。
 
「ぐぶはぁっ!? おえぇぇぁ……かはっ……」

 その刹那、王女の口から滝水の如く吐瀉物が吐き出されると蒼白い顔をしたまま二歩後ろに下がり、左手の甲で口元を拭うと乱れた息を整えようとしていた。

「ん、強く殴り過ぎたか? すまんな、体術の方は久方ぶりで力の加減がどうも難しくてな」

 彼女の弱りきった表情を見てジェラードはやり過ぎたかも知れない思い謝ると、体術は魔法よりも加減が効かなくて厄介なものだと考えつつも止める気は一切なかった。寧ろここからは魔法を一切使わないでアーデルハイトを地面に伏せさせようと気分が向上してきているぐらいである。
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