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第二章
24話「大賢者は民の視線を浴びる」
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「おや? 随分と大勢の人達が私たちと同じ方角に向かって歩いていますね」
国王専用の黄金に塗装された馬車に全員が乗車して城を出発すると、コロッセオへと向かう為に暫くヒルデの街を進んでいたのだが、そこでアナスタシアが大勢の人が同じ方向へと進んでいる事に疑問を抱いたらしく首を傾げていた。
「ああ、本当だな。……おい国王よ。お前何か余計な事をしたのではあるまいな?」
彼女に言われてジェラードは馬車の窓から周囲を確認すると、やはり周りには大勢の人が馬車と同じ方向へと歩いていて、そこでふと嫌な予感を唐突に感じると民達に手を振りながら挨拶をしている国王へと苛立ち混じりの声を放った。
「ひょぇっ!? な、なんでしょうかジェラード様!」
急に声を掛けられた事で驚いているのか国王は変な声を出して何処か怯えていた。
「ひょぇっではないぞ。この大勢の民達のはどういう事なのかと聞いているのだ。次に質問以外の言葉を吐いたら、お前の髭を燃やすからな」
彼の変な声を真似しつつ質問をすると返答次第では国王自慢の長髭を燃やすとして脅すと、次の言葉を待ちながら右手に火属性の魔力を徐々に宿らせ始めた。
「は、はいですぞ! ……えっとこれには深い事情がありましてのう」
髭を燃やされる事は嫌なのか言葉を詰まらせながら返事をすると、両手の人差し指を合わせながらモジモジするような仕草を見せて深い事情と口にしていた。
「構わん話せ。時間はまだ幾らか残っているからな」
だが馬車がコロッセオへと到着するにはまだ暫しの時間が掛かると思い、ジェラードは魔力を宿らせた右手を自身の前に出すと手のひらから炎を具現化させて火柱を揺らめかせ始めた。
それは些細な脅し行為であり、深い事情とやらを早急に話すように促している。
「……じ、実は娘がジェラード様と戦うということで少々興奮してしまいましてのう。そこで大臣達や騎士達に頼んで一夜のうちに”若き剣聖”と”王都の大賢者”の世紀の対決という見出しの紙を街に配布しましたのじゃ……」
目の前で揺らめく火を目の当たりにして国王は重たそうな口を開くと、その話では一夜のうちに二人が試合を行うという宣伝をヒルデの街中で大々的に行ったらしく、結果的に周囲を歩く大勢の人は試合を見に行く観客達であるという事が判明した。
「……チッ、そういうことか」
事情を聞いて否応なしに納得させられるとジェラードは右手を握り締めて炎を消し、目の前で視線を泳がせて冷や汗のような雫を流している国王は親馬鹿が過ぎるとして遺憾であった。
「ジェ、ジェラード様! 本当に申し訳ございません! この馬鹿夫が余計な真似をしてしまいまして……。私から後でしっかりとお灸を据えて起きますので、この場はなんとか……」
そして彼から苛立ちの雰囲気を感じ取ったのか女王が国王の頭を鷲掴みにしながら急いで謝罪の言葉と共に頭を下げると、この場はなんとか穏便に済ませたいという意思が垣間見えた。
「ふむ、女王の顔に免じて今回だけは特別に許してやる。だが二度はないから覚悟せよ」
女王が咄嗟に見せた謝罪の行為に免じて勝手に宣伝して決闘の事を街に広めた事を許すと、ジェラードは両腕を組みながら国王を睨みつつ二度目は無いと言い切り話を終わらせる。
「は、はいですぞ!」
彼は自らが犯した事の重大さに漸く気づいたのか、女王の鷲掴みから開放された途端に背筋を正して焦りの篭った声で返事をしていた。
「……あっ、あれがコロッセオですか!?」
そんなやり取りをしている間にコロッセオが見えてきたらしくアナスタシアが妙に浮き立つ声を出しながら窓に頬を密着させる。
「ん? ああ、どうやら下らない会話をしている間に到着したようだな」
確かにジェラードの視界にもコロッセオの入口部分が見えていて国王夫妻とのやり取りは時間を潰すのにはちょうど良かったことを実感した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから馬車が人気のない脇道へと入っていくとそこは王家の者しか立ち入れない場所であり、ジェラードとアナスタシアは特別扱いで入る事が許されると馬車は暫く進んだあと停車してその場で全員が下車することとなった。
そしてアナスタシアや国王夫妻はコロッセオを一望出来る特等席から戦いを見物するとして去っていくと、その場に一人残されたジェラードは若い騎士に声を掛けられてコロッセオ内部を案内して貰うこととなった。
――すると案内された場所は中々に広い空間であり、全体的に薄暗い印象を受けるが壁際には松明が幾つか備えられていて視界が確保出来るぐらいの明るさはあった。
「ん……あれは……」
何気なくジェラードが視線を周囲へと向けると、この場所には松明の他にも鉄製の剣や木製の盾や先の尖った物が幾つも付いている鉄球のような武器までもが無造作に置かれていて、見たところ自由に使用して良いような雰囲気が出ていた。
「ああ、なるほど。差し詰めファイター達がここで武器を選んで戦うのだな」
憶測で答えを導き出して彼は独り言を呟くと、近くに設置されていた薄汚い木製の椅子に腰を落ち着かせた。
どうやらヒルデのファイター達は物を大事に扱う習慣がないのか、この空間に置かれている様々な物は何処かしらが傷んでいたり、地面には木屑や埃がそこかしこに積もっていて衛生面は最悪の場所であった。
「大変申し訳ないのですがジェラード様は暫くこちらで待機していて下さい。今から国王陛下による、民衆への演説がありますので……」
そこへ若い騎士が急に頭を下げながら謝り出すと試合の前には国王から民衆へと軽い演説のようなものがあるらしく、恐らくそれは会場を盛り上げて民衆の観戦意欲を高める事にあるのだろうと彼は何となくだが分かった。
「皆まで言わなくとも理解している。それに回復した国王を一目見るだけでも民達にとってそれは生きる糧になるだろうからな」
だがその演説には他の意味も含まれている事をジェラードは感覚的に悟ると、民達の中には国王が元気に両足を地に付けて立っている姿を自らの視界に収めたい者もいるであろうことを考察していた。
「お、お察しのほど感謝致します……」
すると若い騎士は声を詰まらせながら再び頭を下げて小さく呟いた。
――それから二人の間に暫し無言の間が訪れると唐突に外から民衆の沸き立つ声が響き聞こえてきて、
「あっ、国王陛下の演説が終わったみたいですね。それでは会場へと案内致しますので、恐れ入りますが自分の後を付いて来て下さい」
どうやら国王による演説が終わったらしく若い騎士が視線を合わせながら自身の後に付いて来てくるように言っていた。
「ああ、分かった」
短く返事をしてからジェラードは腰を上げて立ち上がると言われた通りに彼の後ろを黙って付いて歩いて行く。
……そうして歩き進むと数分が経過すると道幅の狭い場所へと入り、
「この奥を進んで頂くと会場へと出ます。そして試合開始の合図は巨大な銅鑼の音ですので、お忘れなく」
若い騎士が突然立ち止まると振り返りながらこの先は一人で行くように促してくると共に試合開始の合図のことも細かに教えてくれた。
けれどこの道幅の狭い通路は先程の薄汚い空間と違い松明と言われるような灯りは一切なく、辛うじて存在する光源は正面へと続く道の一番奥に差し込んいる陽射しぐらいである。
「ほう、銅鑼の音とは中々に良い趣味をしているなヒルデは。……だが案内ご苦労であった。感謝するぞ、若き騎士よ」
手を顎に当てながらジェラードは銅鑼の音を想像して気が少し緩むと、顔を彼へと向けてここまでの案内に感謝の言葉を与えた。
「は、はいっ! 光栄の極みであります!」
突然感謝の言葉を掛けられた事に若い騎士は動揺している様子ではあったがしっかりと最高位の敬礼を見せると、彼はそれを数秒目の当たりにして騎士から視線を外すと王女と戦う為に暗い一直線の道を歩き始めるのであった。
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彼女に言われてジェラードは馬車の窓から周囲を確認すると、やはり周りには大勢の人が馬車と同じ方向へと歩いていて、そこでふと嫌な予感を唐突に感じると民達に手を振りながら挨拶をしている国王へと苛立ち混じりの声を放った。
「ひょぇっ!? な、なんでしょうかジェラード様!」
急に声を掛けられた事で驚いているのか国王は変な声を出して何処か怯えていた。
「ひょぇっではないぞ。この大勢の民達のはどういう事なのかと聞いているのだ。次に質問以外の言葉を吐いたら、お前の髭を燃やすからな」
彼の変な声を真似しつつ質問をすると返答次第では国王自慢の長髭を燃やすとして脅すと、次の言葉を待ちながら右手に火属性の魔力を徐々に宿らせ始めた。
「は、はいですぞ! ……えっとこれには深い事情がありましてのう」
髭を燃やされる事は嫌なのか言葉を詰まらせながら返事をすると、両手の人差し指を合わせながらモジモジするような仕草を見せて深い事情と口にしていた。
「構わん話せ。時間はまだ幾らか残っているからな」
だが馬車がコロッセオへと到着するにはまだ暫しの時間が掛かると思い、ジェラードは魔力を宿らせた右手を自身の前に出すと手のひらから炎を具現化させて火柱を揺らめかせ始めた。
それは些細な脅し行為であり、深い事情とやらを早急に話すように促している。
「……じ、実は娘がジェラード様と戦うということで少々興奮してしまいましてのう。そこで大臣達や騎士達に頼んで一夜のうちに”若き剣聖”と”王都の大賢者”の世紀の対決という見出しの紙を街に配布しましたのじゃ……」
目の前で揺らめく火を目の当たりにして国王は重たそうな口を開くと、その話では一夜のうちに二人が試合を行うという宣伝をヒルデの街中で大々的に行ったらしく、結果的に周囲を歩く大勢の人は試合を見に行く観客達であるという事が判明した。
「……チッ、そういうことか」
事情を聞いて否応なしに納得させられるとジェラードは右手を握り締めて炎を消し、目の前で視線を泳がせて冷や汗のような雫を流している国王は親馬鹿が過ぎるとして遺憾であった。
「ジェ、ジェラード様! 本当に申し訳ございません! この馬鹿夫が余計な真似をしてしまいまして……。私から後でしっかりとお灸を据えて起きますので、この場はなんとか……」
そして彼から苛立ちの雰囲気を感じ取ったのか女王が国王の頭を鷲掴みにしながら急いで謝罪の言葉と共に頭を下げると、この場はなんとか穏便に済ませたいという意思が垣間見えた。
「ふむ、女王の顔に免じて今回だけは特別に許してやる。だが二度はないから覚悟せよ」
女王が咄嗟に見せた謝罪の行為に免じて勝手に宣伝して決闘の事を街に広めた事を許すと、ジェラードは両腕を組みながら国王を睨みつつ二度目は無いと言い切り話を終わらせる。
「は、はいですぞ!」
彼は自らが犯した事の重大さに漸く気づいたのか、女王の鷲掴みから開放された途端に背筋を正して焦りの篭った声で返事をしていた。
「……あっ、あれがコロッセオですか!?」
そんなやり取りをしている間にコロッセオが見えてきたらしくアナスタシアが妙に浮き立つ声を出しながら窓に頬を密着させる。
「ん? ああ、どうやら下らない会話をしている間に到着したようだな」
確かにジェラードの視界にもコロッセオの入口部分が見えていて国王夫妻とのやり取りは時間を潰すのにはちょうど良かったことを実感した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから馬車が人気のない脇道へと入っていくとそこは王家の者しか立ち入れない場所であり、ジェラードとアナスタシアは特別扱いで入る事が許されると馬車は暫く進んだあと停車してその場で全員が下車することとなった。
そしてアナスタシアや国王夫妻はコロッセオを一望出来る特等席から戦いを見物するとして去っていくと、その場に一人残されたジェラードは若い騎士に声を掛けられてコロッセオ内部を案内して貰うこととなった。
――すると案内された場所は中々に広い空間であり、全体的に薄暗い印象を受けるが壁際には松明が幾つか備えられていて視界が確保出来るぐらいの明るさはあった。
「ん……あれは……」
何気なくジェラードが視線を周囲へと向けると、この場所には松明の他にも鉄製の剣や木製の盾や先の尖った物が幾つも付いている鉄球のような武器までもが無造作に置かれていて、見たところ自由に使用して良いような雰囲気が出ていた。
「ああ、なるほど。差し詰めファイター達がここで武器を選んで戦うのだな」
憶測で答えを導き出して彼は独り言を呟くと、近くに設置されていた薄汚い木製の椅子に腰を落ち着かせた。
どうやらヒルデのファイター達は物を大事に扱う習慣がないのか、この空間に置かれている様々な物は何処かしらが傷んでいたり、地面には木屑や埃がそこかしこに積もっていて衛生面は最悪の場所であった。
「大変申し訳ないのですがジェラード様は暫くこちらで待機していて下さい。今から国王陛下による、民衆への演説がありますので……」
そこへ若い騎士が急に頭を下げながら謝り出すと試合の前には国王から民衆へと軽い演説のようなものがあるらしく、恐らくそれは会場を盛り上げて民衆の観戦意欲を高める事にあるのだろうと彼は何となくだが分かった。
「皆まで言わなくとも理解している。それに回復した国王を一目見るだけでも民達にとってそれは生きる糧になるだろうからな」
だがその演説には他の意味も含まれている事をジェラードは感覚的に悟ると、民達の中には国王が元気に両足を地に付けて立っている姿を自らの視界に収めたい者もいるであろうことを考察していた。
「お、お察しのほど感謝致します……」
すると若い騎士は声を詰まらせながら再び頭を下げて小さく呟いた。
――それから二人の間に暫し無言の間が訪れると唐突に外から民衆の沸き立つ声が響き聞こえてきて、
「あっ、国王陛下の演説が終わったみたいですね。それでは会場へと案内致しますので、恐れ入りますが自分の後を付いて来て下さい」
どうやら国王による演説が終わったらしく若い騎士が視線を合わせながら自身の後に付いて来てくるように言っていた。
「ああ、分かった」
短く返事をしてからジェラードは腰を上げて立ち上がると言われた通りに彼の後ろを黙って付いて歩いて行く。
……そうして歩き進むと数分が経過すると道幅の狭い場所へと入り、
「この奥を進んで頂くと会場へと出ます。そして試合開始の合図は巨大な銅鑼の音ですので、お忘れなく」
若い騎士が突然立ち止まると振り返りながらこの先は一人で行くように促してくると共に試合開始の合図のことも細かに教えてくれた。
けれどこの道幅の狭い通路は先程の薄汚い空間と違い松明と言われるような灯りは一切なく、辛うじて存在する光源は正面へと続く道の一番奥に差し込んいる陽射しぐらいである。
「ほう、銅鑼の音とは中々に良い趣味をしているなヒルデは。……だが案内ご苦労であった。感謝するぞ、若き騎士よ」
手を顎に当てながらジェラードは銅鑼の音を想像して気が少し緩むと、顔を彼へと向けてここまでの案内に感謝の言葉を与えた。
「は、はいっ! 光栄の極みであります!」
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