気まぐれで世界最強の大賢者は弟子の娘と旅をする。

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第二章

27話「王女の隠された能力」

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「ふっ、お前は国王に似て大馬鹿者だな。まるでアイツの若かりし頃を見ているようだ。……だがもうお遊びは終わりだ」

 アーデルハイトが額に青筋を立たせてレイピアの刃先を向けてくると、ジェラードは何処か懐かしい気分になり鼻で笑うと彼女の立ち姿に幼き頃の国王の面影が重なるように見えた。

 ……しかしそれでも手を抜くという考えは一切なく彼は地面を抉るように蹴り上げると一気に距離を縮めて、正拳突きと呼ばれる単純な技を彼女の腹部に目掛けて打ち込むと肉が破けるような感覚が拳に鮮明に伝わる。

「ぶはぁあぁっ!?」

 ジェラードの瞬足に意識か視界が追いつかなかったのか、アーデルハイトは無防備に晒していた腹部に拳がめり込むと血を吐きながら後方へと飛ばされて転がりながら地面に体を伏せた。

「私が……負けた……ら……父様が……」

 彼女は口の端から血を流しながらもレイピアを握る手を離すことなく、地面に突き刺して立ち上がろうとするが足に力が入らないのか膝を地に付けて体を起こすことが精一杯の様子である。
 
 ――そしてここで国王が試合終了の判断を下したのか、銅鑼の重く騒々しい音色がコロッセオに響き渡り試合は終わりを迎えた。

「ふん、剣聖の実力もこれほど落ちたとはな。まったく……十字教の者達は一体何を基準に選定しているのか」

 銅鑼の音を聞いた途端にアーデルハイトは顔を下に向けて肩の力も抜けていくと漸く負けを認めたようで、ジェラードはその光景を視界の端で確認すると剣聖の実力を嘆くと共に”十字教”と呼ばれる剣聖の証を発行している組織に苦言を呈した。

「やれやれ、無駄に体力を消費した気分だ。さっさと帰ると――――なッ!?」

 肩を竦めながら彼はこの決闘を何の意味もない無駄なものだと漏らすと、そのまま会場を出ようと振り返って歩き出してたのだが、突如背後からただならぬ闘気を感じると自然とジェラードの体は回避の行動を取っていた。

「なんだ、今の圧倒的なまでの闘気は? ……いや、そうじゃない。アイツは確かに敗北を認めた筈だ。なのに何故まだ刃を向けてくる……ただの強情か?」

 背後から殺意にも似た闘気を向けられた彼は瞬時に一定の距離を取ると一体誰が闘気を向けてきたのかと視線を向けるが、そこに立っていたのは顔を下に向けたままレイピアを構えているアーデルハイトであった。

 ジェラードは敗北を認めた彼女が何故ここまでするのかと疑問に気を取られていると、彼の羽織っているローブの一部が地面にひらりと落ちた。

「ッ!? 俺のローブを切り落とした……だと?」

 足元に落ちたローブの一部を見てジェラードは予想外の出来事に驚愕の声を出す。

「…………」

 だが対面する彼女は無言のまま再び攻撃を仕掛けようとしているのか真っ直ぐ走りながら向かってきた。
 
「チッ、アイツこの状態で何を……はっ!? ま、まさか母方の一族の能力に目覚めたと言うのか?」

 一体アーデルハイトの身に何が起こってここまで力や身体機能が急激に上昇しているのか彼は考え始めると、彼女との距離が四メートルほど迫った頃に一つの可能性を思い浮かべた。それは女王が生まれた東の国の”とある一族”にのみ現れるとされる”特殊な瞳”による能力である。

「ならばここから先の試合は――――今後の楽しみとして取っておく事にしよう」

 その能力が仮に本当に開眼したのであれば試合は最も楽しくなり有意義な結果になることは間違いないとジェラードは確信したが、今この気絶しているのか本能だけで動いているような状態のアーデルハイトを倒しても彼女自身が得られるものがないとして次回に持ち越すことを選ぶ。

「彼の者の動きを止めよ。氷魔法【アイス・ロック】……次回はちゃんと意識がある状態で頼むぞ。若き剣聖」

 指を鳴らして彼は氷魔法を発動するとアーデルハイトの足元を凍らせて動きを封じ、その氷は見る見るうちに彼女の体を覆い始めて首だけ残して他は全て凍結させる。
 無論だが人体に影響が出ないように、しっかりと魔力調節を施してある。

 ……がしかし魔法を使った事でジェラードは自身が立てた誓を破ることとなり、例えそれは試合が終わっていたとしても自分に魔法を使わせたアーデルハイトこそが真の勝利者であることを彼は認めていた。

「ん……ふっ、なるほどな。どうやら瞳の能力は前触れ的なもののようだな」

 氷漬けにされた彼女からは先程までの桁違いの闘気を感じることはなく、完全に気を失っているところを見るに瞳の能力はまだ不完全なものだとしてジェラードは氷魔法を解除すると同時に再び会場を出るために歩き出した。

「てめえ、ふざけんじゃねえぞ! 俺達の王女様になにしやがるんだ!」
「そうよ! 王都の大賢者だか不浪人だか知らないけど何様よ!」

 すると観客席から若い男女の声が聞こえてくると、それが誘因となったのか次々に席から民衆達が立ち上がると罵詈雑言の嵐が巻き起こり、国王が静まるように急遽演説らしきものを行い始めたが収まることはなく、最終的に小石や物を投げてくる始末であった。

「……ほう、民衆には随分と好かれているようだな。アーデルハイトよ」

 民衆が投げてくる小物は自動防御魔法の能力で自動的に弾かれるとジェラードは民衆に好かれている彼女に色々と含めた事を今後に期待するとして、次に手合わせをする時が僅かな楽しみとなった。

 そして彼が会場を出ようと再び薄暗い道へと足を踏み入れようとすると、

「王女様! 大丈夫ですか!」
「おい、慎重に運ぶぞ!」
「体を氷漬けにされたのに……外傷が一つもない……だと!?」

 背後からは恐らく王室御用達の医療班らしき人達の声が聞こえてきてアーデルハイトの容態を確認しているようであった。

 ……だがそれは無用なことであり、ジェラードが氷漬けを解除した時に彼女の破壊された内蔵や骨は回復魔法で全て完治させていたのだ。
 なぜ回復魔法を掛けたのかと聞かれれば、ただの気まぐれだとしか彼には答えられないだろう。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 そのあとジェラードは最初に通った暗く狭い道を歩いてコロッセオの外へと出ると黄金色の馬車が停車している場所へと近づいて背中を馬車に預けて立ち尽くすと、暫くして国王や女王にアナスタシアが慌てた様子で横から近づいてくると三人とも何処か気まずそう雰囲気を醸し出していた。

「あっ、あの……ジェラード様……」

 彼の前に国王が息を切らした状態で目を泳がせながら話し掛けてくる。

「なんだ国王よ。話があるのなら、さっさと言え」

 ジェラードは小さく溜息を吐きながら大体の事情を察して早く言うように促した。

「もも、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!」

 国王が声を詰まらせながら腰に痛みを伴うような角度と勢いで頭を下げる。

「私からも本当に申し訳ございませんでした!」

 それに続いて女王も青ざめた顔のまま頭を下げて謝罪の意思を見せた。
 それは民衆の大半が自分に向けて物を投げて侮辱的な行為を働いた事に対しての謝罪であると彼は何も考えずとも理解出来た。

「……ははっ、こんなみっともない王族の姿は民衆に見せられんな」

 軽く笑いながらジェラードは頭を下げている二人の後頭部を見て言葉を茶化す。

「先生! 今はそういう雰囲気じゃないですよ! ちゃんと分かっているんですか!?」

 唐突にもアナスタシアが怒りを孕んだような声色を出しながら横から割って入ってきた。

「ああ、分かっているとも。国王と女王が頭を下げる理由も、アナスタシアが怒っている理由もな」

 彼は何故二人が青ざめた顔で頭を下げているのか、そして彼女が何故額に青筋を立たせる程に怒っているのか、その理由は最初から全てジェラードには分かっていて徐に両腕を組み始める。

「だったら! 尚の事先生は――」

 彼の言動が緊張感に欠けるものであったのかアナスタシアは依然として怒声を口にするが、

「だがなあアナスタシアよ。俺は別になにも気にしていないんだ。何故ならそれ以上に良い収穫があったからな。ゆえに国王と女王よ、俺に頭を下げなくとも良い」

 ジェラードは対照的に穏やかな口調で彼女の言葉を遮ると矢継ぎ早に話を続けていく。そして彼が今言ったこと全てが本心であり、最初から国王夫妻に対して腹を立てるということは一切ないのだ。

「ジェ、ジェラード様……本当に……この度は――」

 許しを得たことが影響しているのか国王は全身を震わせながら何かを言おうとすると、

「国王陛下! 城内の騎士から緊急の報告あり! ”赤の蛇”と思しき集団に城内が制圧されたとの事です!」

 突然ジェラードの背後から血相を変えた騎士が姿を現して息もつかぬまま口を開くと、その場に居る大半の者が唖然として言葉を失うのであった。
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