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授業
鐘の音
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鐘の音が鳴る。
講義開始の合図だ。学院の鐘楼にある鐘は、授業開始と終わり、昼食と夕食時に食堂が開く時間に鳴る。生徒だけでなく、学院周辺に住んでいる人々もこの鐘の音を合図に一日を過ごして居る。昔は朝食時にも鐘の音が鳴っていたのだが、それを煩いと言ったお寝坊さんのやんごとなき人が居たので、その時間に鐘を鳴らす事は無くなったという言い伝えがある。
これからはアーロンも鐘に音に合わせて三年間の学院生活を過ごすのだ。
その日、アーロン達は鐘が鳴るよりもずっと前に教室に入った。
男爵家の生徒達は学年に関わらず、基本的に早めに移動する。それは彼等の爵位が学院の中で一番低いからだ。学院内で正式な礼をしたりする必要は無いし、身分の高い方が許せば友人とも呼べる関係になる事は可能だが、序列はしっかり存在して居る。だから学院外、例えば王城に出仕する時やパーティに出席する時と同じように、教室にも身分の低い方が先に入って高い方を待つ。
登校時、男爵家の一年生達は殆どが無口だった。イアンの兄ルークに出された宿題の答えを考えていたからだ。反対に、寮長とイチロウはずっと二人で話し合っている。二人はだいぶ離れた所に居るのだが、タイスケは平気な顔してアーロンの隣に居た。アーロンの逆隣はイアンだが、イアンは「愚兄むかつく」とぶつぶつ言いながら歩いて居た。
アーロンはといえば、歩きながら生徒達の顔を覚えようとしていた。結構な人数だ、一度に全員はとても覚えられない。男爵家、というのは貴族の中では底辺だが、その実、数は一番多い。だが今年はそれだけれは無かった、王太子が生まれるのに合わせて国内の貴族家が子を作った結果、男爵家に限らずいつもよりも生徒数は格段に多くなっていたのだった。
教室に着くと、イチロウが居ない。慌ててタイスケが探しに行って戻って来た。間違ってAクラスに行っていたそうだ。Aクラスには寮長ともう一人、男爵家の子息が居て、その三人で話して居る内に盛り上がり過ぎて間違って、一回Aクラスまで行ってしまったとイチロウは恥ずかしそうにしていた。
「頭の良い人達の会話って最悪っす。話の切れ目が分かんなくて、止めどころが」
とタイスケは嫌そうに首を振る。そして、
「おいら先が思いやられるっす。あの分だと、若は次はAクラスになりたがりそうですけど、それに合わせなきゃならないと思うと、どんだけ勉強したら良いんだろうって、今から頭が痛いっす」
と恨めしそうな顔をした。
イチロウが戻って来た事で、やっとアーロン達は席につけた。
皆で早く来たのは席取りの為だろうとアーロンは思っていたのだが、イチロウが居ない事にタイスケが気が付いて探しに行っている間、誰も席につかなかったのだ。戻って来た火の国の二人は昨日とは同じ所に座る。すると周りの生徒達がアーロンを見るので、自分の番なのかと昨日と同じイチロウの隣に席を取った。だがイアンがちょっと考える様にしてから、首を横に振った。
「それじゃ駄目な気がする」
「あ、そうですね」
イチロウも教室を見回してから頷いた。
「うん、アーロン様入り口側ね」
「で、周りを囲むと」
「うん」
ということで、イチロウの場所、後方の入り口横にアーロンが座り、その後ろにイアン。アーロンの隣がイチロウで、その後ろがタイスケという事になった。更にその周りを囲むように男爵家の子息達が座る。人数が多いので、ほぼ席が埋まり、開いているのは前の列だけとなる。
「これで」
「替えろとか言って来ないかな?」
「その時は自分が言葉が分からない振りをしましょう」
「ぷ。さすがにそこ迄はしないと思いたい」
「アーロン様個人を呼び付けそうな気はします」
「デクスターはやりそう」
「あいつねえ」
「身分が高い方を前にとか」
「あ、それ良い! それ採用」
男爵家の子息達がどんどん意見を出し合って決めていく。
アーロンはそれを聞きながら思った。
(こういう事だよね。僕、皆に守られている……)
ルークの宿題を思い出しいじけてきたアーロンが俯いていると、アーロンの横にある入り口が開いて誰かが入って来た。「お」と先に座っている男爵家の生徒達に少し驚いた様な声を上げ、「おはよう」と誰とは無しに言いながら空いていた前の席の一番角に座った。彼がアーロンの後ろを通り過ぎて行く時、ふわっと品の良い香水の香りが鼻をくすぐった。
それからだいぶ経って、子爵家の生徒達は時間ぎりぎりに来た。前の入り口から入って来て、一瞬教室内を見回す様にしたが、ちょうど鐘が鳴り出し慌てて空いている前の席に着いた。
講義開始の合図だ。学院の鐘楼にある鐘は、授業開始と終わり、昼食と夕食時に食堂が開く時間に鳴る。生徒だけでなく、学院周辺に住んでいる人々もこの鐘の音を合図に一日を過ごして居る。昔は朝食時にも鐘の音が鳴っていたのだが、それを煩いと言ったお寝坊さんのやんごとなき人が居たので、その時間に鐘を鳴らす事は無くなったという言い伝えがある。
これからはアーロンも鐘に音に合わせて三年間の学院生活を過ごすのだ。
その日、アーロン達は鐘が鳴るよりもずっと前に教室に入った。
男爵家の生徒達は学年に関わらず、基本的に早めに移動する。それは彼等の爵位が学院の中で一番低いからだ。学院内で正式な礼をしたりする必要は無いし、身分の高い方が許せば友人とも呼べる関係になる事は可能だが、序列はしっかり存在して居る。だから学院外、例えば王城に出仕する時やパーティに出席する時と同じように、教室にも身分の低い方が先に入って高い方を待つ。
登校時、男爵家の一年生達は殆どが無口だった。イアンの兄ルークに出された宿題の答えを考えていたからだ。反対に、寮長とイチロウはずっと二人で話し合っている。二人はだいぶ離れた所に居るのだが、タイスケは平気な顔してアーロンの隣に居た。アーロンの逆隣はイアンだが、イアンは「愚兄むかつく」とぶつぶつ言いながら歩いて居た。
アーロンはといえば、歩きながら生徒達の顔を覚えようとしていた。結構な人数だ、一度に全員はとても覚えられない。男爵家、というのは貴族の中では底辺だが、その実、数は一番多い。だが今年はそれだけれは無かった、王太子が生まれるのに合わせて国内の貴族家が子を作った結果、男爵家に限らずいつもよりも生徒数は格段に多くなっていたのだった。
教室に着くと、イチロウが居ない。慌ててタイスケが探しに行って戻って来た。間違ってAクラスに行っていたそうだ。Aクラスには寮長ともう一人、男爵家の子息が居て、その三人で話して居る内に盛り上がり過ぎて間違って、一回Aクラスまで行ってしまったとイチロウは恥ずかしそうにしていた。
「頭の良い人達の会話って最悪っす。話の切れ目が分かんなくて、止めどころが」
とタイスケは嫌そうに首を振る。そして、
「おいら先が思いやられるっす。あの分だと、若は次はAクラスになりたがりそうですけど、それに合わせなきゃならないと思うと、どんだけ勉強したら良いんだろうって、今から頭が痛いっす」
と恨めしそうな顔をした。
イチロウが戻って来た事で、やっとアーロン達は席につけた。
皆で早く来たのは席取りの為だろうとアーロンは思っていたのだが、イチロウが居ない事にタイスケが気が付いて探しに行っている間、誰も席につかなかったのだ。戻って来た火の国の二人は昨日とは同じ所に座る。すると周りの生徒達がアーロンを見るので、自分の番なのかと昨日と同じイチロウの隣に席を取った。だがイアンがちょっと考える様にしてから、首を横に振った。
「それじゃ駄目な気がする」
「あ、そうですね」
イチロウも教室を見回してから頷いた。
「うん、アーロン様入り口側ね」
「で、周りを囲むと」
「うん」
ということで、イチロウの場所、後方の入り口横にアーロンが座り、その後ろにイアン。アーロンの隣がイチロウで、その後ろがタイスケという事になった。更にその周りを囲むように男爵家の子息達が座る。人数が多いので、ほぼ席が埋まり、開いているのは前の列だけとなる。
「これで」
「替えろとか言って来ないかな?」
「その時は自分が言葉が分からない振りをしましょう」
「ぷ。さすがにそこ迄はしないと思いたい」
「アーロン様個人を呼び付けそうな気はします」
「デクスターはやりそう」
「あいつねえ」
「身分が高い方を前にとか」
「あ、それ良い! それ採用」
男爵家の子息達がどんどん意見を出し合って決めていく。
アーロンはそれを聞きながら思った。
(こういう事だよね。僕、皆に守られている……)
ルークの宿題を思い出しいじけてきたアーロンが俯いていると、アーロンの横にある入り口が開いて誰かが入って来た。「お」と先に座っている男爵家の生徒達に少し驚いた様な声を上げ、「おはよう」と誰とは無しに言いながら空いていた前の席の一番角に座った。彼がアーロンの後ろを通り過ぎて行く時、ふわっと品の良い香水の香りが鼻をくすぐった。
それからだいぶ経って、子爵家の生徒達は時間ぎりぎりに来た。前の入り口から入って来て、一瞬教室内を見回す様にしたが、ちょうど鐘が鳴り出し慌てて空いている前の席に着いた。
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