抱かれてみたい

小桃沢ももみ

文字の大きさ
46 / 142
愛し子

白馬

しおりを挟む
 寮の前で待っていると、白馬に乗ってライム先輩が来た。手綱をマーリーという使用人が握っている。
 
 (ひえー、かっこ良すぎる。絵みたい)

 ライム先輩の金髪が秋の陽射しの中煌めいて眩しい。アーロンを認めて思わず笑顔になった美しい唇から覗く白い歯も眩しい。
 確かに、伯爵家の寮から男爵家の寮迄はちょっと距離がある。片道徒歩二十分強位か。往復するなるとなかなかの時間が掛かってしまうのにわざわざ来て貰うのは気が引けていた。そうか、馬という手段もあるのかとアーロンはほっとした。

 「アーロン君」

 さっと白馬から飛び降りるライム先輩に、野次馬の男爵家の生徒達が見惚れている。キースはおとなしくしているようだ。ここであの声が聞こえたら、台無しになる所だった。

 「ようこそいらっしゃいました。お気遣い頂きありがとうございます」
 「君が無事で良かった」

 駆け寄ったライム先輩にアーロンはふんわりと抱きしめられた。嫌ではない。先輩の抱きしめ方は温かく包み込むようだし、良い匂いがする。
 何処から微かに「きゃー」と声がした。絶対キースだ。頼むイアン、後で何かお菓子をあげるからおとなしくさせておいて、とアーロンは心の中で祈った。

 「先輩、ここは人が多いですから中へ入りませんか?」

 ライム先輩の腕の間から見上げると、碧い瞳が優しげに見下ろしていた。

 「そうだね。すまない。感情が抑えきれなくて、まだ返事を貰っていないのに悪かったね」
 「いえ」

 会話の意味が分かったのか、周りの生徒達がざわつくのに、アーロンは焦ってしまう。

 「こちらへ、どうぞ」

 馬はどうしようと思ったのだが、農家の作業着のような格好をした人がどこからか現れてマーリーから手綱を受け取ってくれた。マーリーの様にお仕着せを着たタイスケ言う所の『ぱりっとした』使用人は居ないが、一応男爵家の寮にも裏で働いている人はいるのだ。洗濯室とか給湯室、掃除係等など。
 寮の中に入ると直ぐに談話室になっているのだが、ソファや椅子が全て生徒達で埋まっている。外の野次馬みたいにじろじろとこちらを見て来る事は無いが、目的は同じなのだろう。聞き耳を立てられている気がする。
 寮監の部屋に案内すると、リバーが迎えてくれた。

 「男爵家の寮監のリバーだ」
 「ライム伯爵家のヨアヒムです」
 「二人はまだ友人関係だと聞いた。アーロン君の部屋に案内するのは良く無いと判断したので、今日は此方を使ってくれ」
 「はい。勿論です」
 「それから、寮監として俺も同席させて貰う」
 「構いません」

 さすがに今回はリバーは寮監室の扉を閉めた。「ちぇっ」と不服を表す野次馬の声が聞こえたような気がした。完全に見世物になってしまっている。ライム先輩はそれを分かっているのかいないのか。それなのににこやかな笑みを崩さない先輩は後光が差している様に神々しいし、歩いている姿も、今ソファに腰掛けた姿も、洗練され過ぎていて完全にこの寮から浮いていた。
 アーロンはライム先輩の向かい側に腰掛けた。リバーはマーリーにお茶の道具の場所を教えると、アーロンの横に座った。お茶の用意はマーリーがしてくれるらしい。お茶はもう飲みたくないとアーロンは思ったが口に出せる訳もない。リバーとライム先輩は世間話をしている。

 「伯爵家の寮とは雰囲気違うんで、驚いただろ?」
 「そうですね。でも賑やかで楽しそうです」
 「まあ、そうだな。ここの生徒が一番学生らしい生活を送っているかもしれないな」
 「自由に生活出来て羨ましいです」

 マーリーが銀の皿にのせて持ってきたのはエクレアだった。それもチョコレートと、もう一つの少し薄い茶色がかかっているのはもしやコーヒー味ではないだろうか。アーロンの目が輝く。

 「アーロン君もこれが好きかい?」
 「はい! こっちの薄い茶色の方って、コーヒーエクレアですか?」
 「そうだよ。よく知っているね」

 アーロンの返事にライム先輩が目を細める。

 「チョコエクレアも好きなんですけど、コーヒー味も好きです」
 「それは良かった」
 「おお、美しいな」

 エクレアは小さめで二口か三口で食べ切れそうな大きさだ。それが小山の様に積まれていて、目にも楽しいのでリバーも喜んでいる。

 「後で、寮にも届けさせます。本日は一年生の歓迎会なのだとお聞きしたので」
 「それは生徒達も喜ぶだろう。ありがとう」
 「いえいえ。アーロン君、他の味もあるのだよ、後で届ける分にはそちらも加えておくので今食べてもまた違う味を楽しめるからね」

 とライム先輩が教えてくれる。
 アーロンがうっとりとエクレアを見つめていると、マーリーがリバーに尋ねた。

 「お飲み物はコーヒーをご用意しておりますが、よろしいでしょうか?」
 「ああ」
 「お砂糖やミルクはいかが致しますか?」
 「俺は何も入れなくていい」

 コーヒーと聞いて、アーロンはそれなら飲めそうだと思った。出された物を残したらアーロンの家では叱られる。もしまたハーブティや紅茶を出されたらどうしようと思っていた。

 「アーロン様は、ミルク多めに致しましょうか?」
 「それでお願いします。砂糖は入れなくて良いです」
 「畏まりました」

 嬉しい、ライム先輩はやっぱり素敵。持って来てくれるお土産迄素晴らしい、とアーロンの中でまたライム先輩の評価が高まった。

 
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

処理中です...