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ライム先輩との冬
金曜日
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今朝は売店にはあんバターパンは売っていなかった。
しかしイアンはそう落ち込みはしなかった。イチロウが餡子を炊いてくれると言っていたからだ。そして食堂へ向かうとイチロウが布で包んだ物を手に待っていた。
「イアン様、ご要望の品です。ただ、包んでいる布と入れ物は後日返却頂けますでしょうか?」
「ありがとう。大丈夫」
イアンは嬉しそうに受け取って、火の国式のお礼をした。それだけはちゃんと火の国語入門の講義でケビンが教えてくれていたのだ。言葉の方は一向に挨拶しか教わっていなくて雑談ばかりだが。
「おお。これはご丁寧に」
とイチロウも嬉しそうだ。
イアンは早速クロワッサンに挟むようだ。寮長を見習いながら慎重に横半分に切り目を入れている。
「これはどれ位日持ちがするのですか?」
寮長はそんなイアンを横目で見ながらイチロウに尋ねた。
「おお、それをお伝えし忘れていました。甘めにしましたので多少持つと思うのですが、三日程でしょうか。冷蔵の魔道具で保管して下さい」
「ご飯終わったら寮に戻る!」
「それが宜しいでしょう。自分の寮の方が近いのでお預かりして差し上げたい所ですが、タイスケが全部食べてしまいそうなのです。少し味見させたら、昨晩煩くて参りました」
とイチロウが苦笑する。
「でも、寮に持って帰ってイアン様どうするの? 部屋に冷蔵庫無いよね? 窓の外に置いておくの?」
アーロンは心配して尋ねた。
「大丈夫。リバー先生預かってくれる」
「あ、そうかー」
「うん。少しお裾分けしていい?」
と後の方はイチロウにイアンは聞いた。
「構いませんよ」
「リバー先生新しいお菓子思いつくかも」
とイチロウの返事にイアンはにやりとする。寮長もその言葉に頷いているので、アーロンは首を傾げた。それを見てイアンが教えてくれる。
「談話室のお菓子、リバー先生の手作り」
「えー!」
アーロンは驚いた。談話室にはクッキーやスコーン、パウンドケーキやマフィン等が置いてある。味も種類も豊富だし、マフィンにはたまにクリームと果物で可愛らしく飾り付けられた物もあってキースとアレックスが喜んでいた。
「上手」
「うんうん。美味しいよねー。知らなかった!」
「趣味」
「あ、そうなんだ」
イアンは綺麗に半分に切れ目を入れたクロワッサンの下半分に薄くバターを塗り込むと、いそいそと布包から中身を取り出した。
「あ、お重」
「おお、アーロン様はご存知でしたか」
「うん、三の兄上が火の国からお土産に持って帰って来たから家にもあるよ。『お正月』の料理を入れる箱だよね?」
「はい。『お節』と言って『お正月』の料理を入れるのに使いますが、それ以外にも使います」
「そうなんだ」
「『お正月』?」
とイアンが首を傾げるのに、アーロンが説明した。
「あ、そうか、この国には無いよね。火の国は一月一日を『お正月』って言って、ご馳走を食べるんだよ。それが『お節』」
「ふうん」
「この入れ物は本当は三段とか五段とか色々あるけど、今日はその内の一段だけ持って来たんだねー」
「段?」
「箱一つという事です。さすがに箱が三つや四つは量が多いと思いまして、今日は一段だけ使っています」
とイチロウが捕捉してくれる。イアンは、
「三段の餡子」
とうっとりしている。それにイチロウが、
「こちらの布は、」
と更に説明してくれそうなのに、とある事を思い付いたアーロンは慌てて、
「ごめん、イチロウ様待って!」
と止めた。そしてイアンに、
「詳しくは、今日の講義で兄上に質問してみて!」
と頼む。
「分かった」
とイアンが頷く。また語学の勉強からは遠くなりそうだが、兄に話題を任せているとえっちな方向へ傾きがちなので、どきどきしてアーロンはいつも心臓が持たないのだ。イアンに『お正月』や『重箱』等について質問して貰ったら今日はまともな話で終わるだろう。
「おお、今日は火の国語入門の講義の日でしたか」
「うん、そうなんだー。今イチロウ様にお聞きしても良いんだけど、折角だから講義に出ている皆に兄上から話して貰った方が良いかなと思って」
「それが良いでしょう。そうでした、だから早めに寮に戻って来るようにと師匠に頼まれたのでした」
「あ、そうか。兄上、タイスケ様の看病してたんだもんね」
「はい。助かりました。あ、それで師匠から言付けを頼まれました。少し遅れるやも知れぬと」
「あ、そうだね。イチロウ様と入れ替わりになるもんね」
「はい。もうタイスケがじっとして居ないものですから、師匠に居て頂けて助かりました。放っておくと、身体は元気だと言い出して外で剣の素振りを始めたりするもので」
その会話を聞いて、イアンが、
「イチロウ様大変。餡子のお礼思い付いた! 楽しみにしてて」
と言ったが、イチロウはにこにこしながら、
「いえいえ。自分の国の食べ物をお気に召していただけたのが嬉しいので、お気になさらず」
と言っていたがイアンは鼻息荒く、何やら考えていた。
しかしイアンはそう落ち込みはしなかった。イチロウが餡子を炊いてくれると言っていたからだ。そして食堂へ向かうとイチロウが布で包んだ物を手に待っていた。
「イアン様、ご要望の品です。ただ、包んでいる布と入れ物は後日返却頂けますでしょうか?」
「ありがとう。大丈夫」
イアンは嬉しそうに受け取って、火の国式のお礼をした。それだけはちゃんと火の国語入門の講義でケビンが教えてくれていたのだ。言葉の方は一向に挨拶しか教わっていなくて雑談ばかりだが。
「おお。これはご丁寧に」
とイチロウも嬉しそうだ。
イアンは早速クロワッサンに挟むようだ。寮長を見習いながら慎重に横半分に切り目を入れている。
「これはどれ位日持ちがするのですか?」
寮長はそんなイアンを横目で見ながらイチロウに尋ねた。
「おお、それをお伝えし忘れていました。甘めにしましたので多少持つと思うのですが、三日程でしょうか。冷蔵の魔道具で保管して下さい」
「ご飯終わったら寮に戻る!」
「それが宜しいでしょう。自分の寮の方が近いのでお預かりして差し上げたい所ですが、タイスケが全部食べてしまいそうなのです。少し味見させたら、昨晩煩くて参りました」
とイチロウが苦笑する。
「でも、寮に持って帰ってイアン様どうするの? 部屋に冷蔵庫無いよね? 窓の外に置いておくの?」
アーロンは心配して尋ねた。
「大丈夫。リバー先生預かってくれる」
「あ、そうかー」
「うん。少しお裾分けしていい?」
と後の方はイチロウにイアンは聞いた。
「構いませんよ」
「リバー先生新しいお菓子思いつくかも」
とイチロウの返事にイアンはにやりとする。寮長もその言葉に頷いているので、アーロンは首を傾げた。それを見てイアンが教えてくれる。
「談話室のお菓子、リバー先生の手作り」
「えー!」
アーロンは驚いた。談話室にはクッキーやスコーン、パウンドケーキやマフィン等が置いてある。味も種類も豊富だし、マフィンにはたまにクリームと果物で可愛らしく飾り付けられた物もあってキースとアレックスが喜んでいた。
「上手」
「うんうん。美味しいよねー。知らなかった!」
「趣味」
「あ、そうなんだ」
イアンは綺麗に半分に切れ目を入れたクロワッサンの下半分に薄くバターを塗り込むと、いそいそと布包から中身を取り出した。
「あ、お重」
「おお、アーロン様はご存知でしたか」
「うん、三の兄上が火の国からお土産に持って帰って来たから家にもあるよ。『お正月』の料理を入れる箱だよね?」
「はい。『お節』と言って『お正月』の料理を入れるのに使いますが、それ以外にも使います」
「そうなんだ」
「『お正月』?」
とイアンが首を傾げるのに、アーロンが説明した。
「あ、そうか、この国には無いよね。火の国は一月一日を『お正月』って言って、ご馳走を食べるんだよ。それが『お節』」
「ふうん」
「この入れ物は本当は三段とか五段とか色々あるけど、今日はその内の一段だけ持って来たんだねー」
「段?」
「箱一つという事です。さすがに箱が三つや四つは量が多いと思いまして、今日は一段だけ使っています」
とイチロウが捕捉してくれる。イアンは、
「三段の餡子」
とうっとりしている。それにイチロウが、
「こちらの布は、」
と更に説明してくれそうなのに、とある事を思い付いたアーロンは慌てて、
「ごめん、イチロウ様待って!」
と止めた。そしてイアンに、
「詳しくは、今日の講義で兄上に質問してみて!」
と頼む。
「分かった」
とイアンが頷く。また語学の勉強からは遠くなりそうだが、兄に話題を任せているとえっちな方向へ傾きがちなので、どきどきしてアーロンはいつも心臓が持たないのだ。イアンに『お正月』や『重箱』等について質問して貰ったら今日はまともな話で終わるだろう。
「おお、今日は火の国語入門の講義の日でしたか」
「うん、そうなんだー。今イチロウ様にお聞きしても良いんだけど、折角だから講義に出ている皆に兄上から話して貰った方が良いかなと思って」
「それが良いでしょう。そうでした、だから早めに寮に戻って来るようにと師匠に頼まれたのでした」
「あ、そうか。兄上、タイスケ様の看病してたんだもんね」
「はい。助かりました。あ、それで師匠から言付けを頼まれました。少し遅れるやも知れぬと」
「あ、そうだね。イチロウ様と入れ替わりになるもんね」
「はい。もうタイスケがじっとして居ないものですから、師匠に居て頂けて助かりました。放っておくと、身体は元気だと言い出して外で剣の素振りを始めたりするもので」
その会話を聞いて、イアンが、
「イチロウ様大変。餡子のお礼思い付いた! 楽しみにしてて」
と言ったが、イチロウはにこにこしながら、
「いえいえ。自分の国の食べ物をお気に召していただけたのが嬉しいので、お気になさらず」
と言っていたがイアンは鼻息荒く、何やら考えていた。
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