抱かれてみたい

小桃沢ももみ

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ライム先輩との冬

マクマの人気

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 アーロンは海老フライにタルタルソースをのせては落とし、またのせては落とし、というのを繰り返していた。

 「アーロン君、アーロン君」
 「はっ! 申し訳ありません。お行儀が悪くて」

 アーロンは慌ててナイフとフォークを置き、ライム先輩に頭を下げた。

 「いや、その件では無く、さっきから話し掛けているのだが」
 「え、そうでしたか?」
 「うん。気もそぞろだね。何かあったかい?」

 卓越しに伸びて来たひんやりした手がアーロンのおでこに当てられる。

 「熱は無いようだね」
 「はい」
 
 目の前の優しい微笑みにアーロンは申し訳なくなる。


 マクマはすっかり寮の生徒達に受け入れられ、平日の夜や土日の居場所迄あっという間に決まってしまった。

 「先生、夜はどうするの? 恋人が来たらこの子お邪魔じゃないの?」

 と誰かが言い出したのに、リバーがにやりとして、

 「ああ、そうなんだよー。こいつとあいつ、仲が悪くて困ってたんだ」
 
 と言うと、リバーの肩の上でマクマが同意するようにうんうん頷いたので、どっと笑いが起こった。

 「え、じゃあ、じゃあ、夜預かってあげるよ!」

 と一人が手を挙げると、次々に僕も僕もと声が上がる。そうしてあれよあれよという間に、マクマを預かりたい生徒はリバーの部屋のノートに名前を書く事に決まった。ーー因みにアーロンが渡されていたマクマを運ぶ為の手提げ袋は、マクマのお泊まり用品入れに変わり、後日リバーによって縫われた布団と枕、おやすみ用の帽子が入れられる事になる。ーー


 「先輩は頑張ったのに自分のした事は空回りで、寧ろ気にし過ぎてて、自分の目の前で自分を置き去りに話が決まっちゃった事ってありますか? しかもその方が自分が考えてた事よりずっと良い結果になって、なんか虚しくなっちゃう、みたいな」

 アーロンの取り留めのない質問に対してライム先輩は微笑んだ。そして、「食べなさい」と手の止まっているアーロンを促し、ちゃんと今度は海老フライにタルタルソースをのせて口に入れたのを見守ってから話出す。

 「私はそういう経験は無いな」
 「ん、やっぱりそうですか」

 咀嚼してからアーロンが相槌を打つ。美しいライム先輩に空回りや虚しさは似合わない。美貌の伯爵家嫡男は今迄もずっとそしてきっとこれからも嫌な思いなんてする事無く、自分のように無駄に走り回って汗をかいたりする事なんて無いんだろうなとアーロンは思う。

 「でも、色々考えて、思う通りにはいかないがそれも楽しい、という経験なら今しているよ」
 「そうなんですか?」
 「うん。今迄の自分なら決してしない様な事をしてみるのが楽しくてね」

 何だか意味の分からない事を言うな、と思いながらアーロンは食事を続ける。今日の昼食はフライの盛り合わせだ。海老フライに牡蠣フライ、帆立フライにアジフライの魚介類のフライと、ロースカツにヒレカツ、メンチカツに千切りキャベツでアーロンの皿はフライの山盛りになっている。珍しくライム先輩もアーロンと同じ物を頼んだが、皿の大きさは一回り小さくて、海老フライと帆立フライと、アーロンの皿には無い物の三種類だ。
 あれは何だろうとアーロンが見ていると、

 「食べるかい?」

 とライム先輩に聞かれた。

 「え? でもそんな、お行儀が悪いんじゃ」
 「ここは半個室だから構わないさ。代わりに私の皿にはのっていない何かと交換するのはどうかな」
 「あ、じゃあヒレカツは如何ですか?」

 多分ライム先輩はさっぱり目が好きだろうと、ロースではなくヒレ肉を勧めてみる。

 「頂こう」

 先輩がアーロンの方へ皿を近づけて来たので、アーロンはライム先輩の皿から三種類目のフライを取って、代わりにヒレカツを一枚のせた。

 「あ、これ美味しいです」

 謎の三種類目は、鶏ささみを青紫蘇で巻いて揚げた物で中に潰した梅干しも入っていた。

 「そうだね。君がくれたヒレカツも美味しいよ」

 と微笑むライム先輩はとても楽しそうで眩しかった。
 
 

 

 

 
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