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30 イケメンパワーですか?
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※前話、星が「羽田から来た」と言っている台詞を「成田から来た」に訂正しました。元々成田にするつもりだったのですが間違えたので。
・・・・・・・・・・・・
翌日、洋介の運転で富士子の病院へ向かった。助手席の星は時差ボケ中なのか眠そうな顔でにシートに沈んでいる。
昨夜は、店に着いたところで、平介のスマホに病院から、富士子が麻酔から覚めたと連絡があって安堵した。本人からも今朝電話があって、手術した所の皮膚が引き攣って痛いと訴えながらも、ちゃんと持って来て欲しい物を平介に要求して来たそうだ。
「次の日に電話出来ちゃうなんて、お袋全然元気じゃね?」
「痛い痛いと言ってたぞ」
「でもさ、そんだけ動けたって事だろ?」
「今は個室だから、部屋から電話したらしい」
「あ、そうなんだ」
個室なら部屋から電話していいんだ。病院ってスマホ禁止じゃなかったっけと洋介は気になったが、平介が全然悪びれていないところを見ると、今は良くなったのかもしれない。洋介と違って、両親はやけに入院慣れしているから洋介が知らない事でも知っている。
大部屋だと他の人に迷惑をかけるから、電話していい場所が決まっている、とかなのだろうか? ドラマだとどうだったろうか? 両親のお見舞いに行った事もあるが思い出せない。直近の入院風景となるとグルメドラマで主人公が腰をやって入院していた話だ。我ながら薄情だ。
まあ、これから向かっている場所だから、自分で確認して、もし富士子が病院に内緒で部屋から電話をかけていたとなったら、こっそり注意してやめさせようと洋介は心のメモ帳に書き留めた。
両親はリンちゃんの前ではちゃんとするが、居ないと最近は何でも年のせいにして面倒くさがり、いい加減だ。息子の自分が、社会のルールを守るようしっかり言い聞かせなければならない。昔は躾に厳しい両親だった筈なのに、すっかり立場が逆になってしまった。
そもそも洋介は、引きこもりなのに。社会からはみ出しているのに。そんな自分が親にしっかりしなければならないと言い聞かせるのは何だか矛盾していて可笑しいとクスリと笑ってしまう。
「どうした?」
平介に聞き咎められたので、誤魔化すように会話を続ける。
「あんだけ荷物持ってって、まだ必要なものがあるの?」
「箱のティッシュと、小さいゴミ袋」
服の胸ポケットから取り出したメモを見ながら、平介が答える。
「ティッシュ置いてないんだ?」
「ああ。今は経費削減だからな。なんでも持参だ」
「ふうん。ゴミ袋も? 病院ってゴミ箱ないんだ」
「いや、あるだろう。ただ、自分の側に、すぐ手に届く所に、ゴミ袋が欲しいらしい」
「そういう事か」
「しまった。セロテープ忘れた」
「何に使うの?」
「ゴミ袋をテーブルの横に貼り付けたいらしい」
「それくらいなら病院で貸してくれるだろ?」
「そうだな、ナースステーションで聞いてみるか」
隣の星が静かだなあと見やると、すっかり眠り込んでいた。バッグを抱え込んで丸くなっている様が、何だか幼く見えて微笑ましい。
星は、昨日の夕食に何も不満はなかったようで、クーポンの中からしか選べない、平介の注文縛りも楽しんでいた。
星はファミレスに入った事はあるが、桃のマークの中華は初めてで、偉そうに先輩風を吹かせた平介が「これもどうだ? こっちも美味そうだぞ」とクーポンの中から勧めた。
洋介としてはクーポンにこだわる平介が貧乏臭くて恥ずかしくて堪らなかったのだが、星は目をキラキラさせて「うわー、お得ですねー」と楽しそうにしていた。もしかしたら、お金持ちだからこそ、クーポンは逆に新鮮だったのかもしれない。
楽しそうな星に機嫌をよくした平介は「今日は運転手がいるから俺達は生ビールを飲もう!」と星を誘った。そして酔って赤くなった顔を綻ばせながら「美味いか? 腹は膨れたか?」と何度も星に同じ事を尋ねた。帰りの車でも「また行こう」と仕切りに繰り返していた。
生ビールもクーポンがあったからこそだが、親子二人きりだったら、一人で生ビールは頼まなかったろうし、ろくに会話もなく早食いして家に帰っただろう。星には感謝だ。
「お袋に星さん来てる事言ったの?」
「ああ」
「言ったんだ。内緒にするかと思った。サプライズー、って」
「いや、知らないで連れてったら怒るだろ」
「え? 怒るの?」
富士子的にはまずかったのかと隣の星に聞こえないよう声を顰めると、平介は鼻で笑った。
「洒落っ気づいて見栄張ってるだけだ。婆さんの癖に」
つまり、若いイケメンに弱ってる所を見られたくないとかいう?乙女心みたいなやつか。
「ふうん。ま、いいじゃん。年取って全く身なりに構わなくなるよりは」
「変に色気付いてるだけだ」
憎まれ口を叩いているが、そう言う平介も星を気に入っているのだ。星が来てくれたのが嬉しかったのは、昨日星が現れた途端の声の変わり様で分かっている。平介はあまり表情には出ないが、声には感情が強く出るタイプだ。親子二人の時の沈んだ声とは大違いだった。
両親を元気づけられるのはリンちゃんの孫パワーだけかと思っていたが、星もそのパワーを持っているらしい。星のパワーは何パワーだろう? やっぱり、イケメンパワーだろうか? 女の富士子にイケメンパワーが効果あるのは分かるが、男の平介にもイケメンパワーの効果があるとは不思議だ。
イケメン恐るべし。
ふふふっと笑いを溢すと、また平介に怪訝な顔をされたが、洋介は無視した。
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翌日、洋介の運転で富士子の病院へ向かった。助手席の星は時差ボケ中なのか眠そうな顔でにシートに沈んでいる。
昨夜は、店に着いたところで、平介のスマホに病院から、富士子が麻酔から覚めたと連絡があって安堵した。本人からも今朝電話があって、手術した所の皮膚が引き攣って痛いと訴えながらも、ちゃんと持って来て欲しい物を平介に要求して来たそうだ。
「次の日に電話出来ちゃうなんて、お袋全然元気じゃね?」
「痛い痛いと言ってたぞ」
「でもさ、そんだけ動けたって事だろ?」
「今は個室だから、部屋から電話したらしい」
「あ、そうなんだ」
個室なら部屋から電話していいんだ。病院ってスマホ禁止じゃなかったっけと洋介は気になったが、平介が全然悪びれていないところを見ると、今は良くなったのかもしれない。洋介と違って、両親はやけに入院慣れしているから洋介が知らない事でも知っている。
大部屋だと他の人に迷惑をかけるから、電話していい場所が決まっている、とかなのだろうか? ドラマだとどうだったろうか? 両親のお見舞いに行った事もあるが思い出せない。直近の入院風景となるとグルメドラマで主人公が腰をやって入院していた話だ。我ながら薄情だ。
まあ、これから向かっている場所だから、自分で確認して、もし富士子が病院に内緒で部屋から電話をかけていたとなったら、こっそり注意してやめさせようと洋介は心のメモ帳に書き留めた。
両親はリンちゃんの前ではちゃんとするが、居ないと最近は何でも年のせいにして面倒くさがり、いい加減だ。息子の自分が、社会のルールを守るようしっかり言い聞かせなければならない。昔は躾に厳しい両親だった筈なのに、すっかり立場が逆になってしまった。
そもそも洋介は、引きこもりなのに。社会からはみ出しているのに。そんな自分が親にしっかりしなければならないと言い聞かせるのは何だか矛盾していて可笑しいとクスリと笑ってしまう。
「どうした?」
平介に聞き咎められたので、誤魔化すように会話を続ける。
「あんだけ荷物持ってって、まだ必要なものがあるの?」
「箱のティッシュと、小さいゴミ袋」
服の胸ポケットから取り出したメモを見ながら、平介が答える。
「ティッシュ置いてないんだ?」
「ああ。今は経費削減だからな。なんでも持参だ」
「ふうん。ゴミ袋も? 病院ってゴミ箱ないんだ」
「いや、あるだろう。ただ、自分の側に、すぐ手に届く所に、ゴミ袋が欲しいらしい」
「そういう事か」
「しまった。セロテープ忘れた」
「何に使うの?」
「ゴミ袋をテーブルの横に貼り付けたいらしい」
「それくらいなら病院で貸してくれるだろ?」
「そうだな、ナースステーションで聞いてみるか」
隣の星が静かだなあと見やると、すっかり眠り込んでいた。バッグを抱え込んで丸くなっている様が、何だか幼く見えて微笑ましい。
星は、昨日の夕食に何も不満はなかったようで、クーポンの中からしか選べない、平介の注文縛りも楽しんでいた。
星はファミレスに入った事はあるが、桃のマークの中華は初めてで、偉そうに先輩風を吹かせた平介が「これもどうだ? こっちも美味そうだぞ」とクーポンの中から勧めた。
洋介としてはクーポンにこだわる平介が貧乏臭くて恥ずかしくて堪らなかったのだが、星は目をキラキラさせて「うわー、お得ですねー」と楽しそうにしていた。もしかしたら、お金持ちだからこそ、クーポンは逆に新鮮だったのかもしれない。
楽しそうな星に機嫌をよくした平介は「今日は運転手がいるから俺達は生ビールを飲もう!」と星を誘った。そして酔って赤くなった顔を綻ばせながら「美味いか? 腹は膨れたか?」と何度も星に同じ事を尋ねた。帰りの車でも「また行こう」と仕切りに繰り返していた。
生ビールもクーポンがあったからこそだが、親子二人きりだったら、一人で生ビールは頼まなかったろうし、ろくに会話もなく早食いして家に帰っただろう。星には感謝だ。
「お袋に星さん来てる事言ったの?」
「ああ」
「言ったんだ。内緒にするかと思った。サプライズー、って」
「いや、知らないで連れてったら怒るだろ」
「え? 怒るの?」
富士子的にはまずかったのかと隣の星に聞こえないよう声を顰めると、平介は鼻で笑った。
「洒落っ気づいて見栄張ってるだけだ。婆さんの癖に」
つまり、若いイケメンに弱ってる所を見られたくないとかいう?乙女心みたいなやつか。
「ふうん。ま、いいじゃん。年取って全く身なりに構わなくなるよりは」
「変に色気付いてるだけだ」
憎まれ口を叩いているが、そう言う平介も星を気に入っているのだ。星が来てくれたのが嬉しかったのは、昨日星が現れた途端の声の変わり様で分かっている。平介はあまり表情には出ないが、声には感情が強く出るタイプだ。親子二人の時の沈んだ声とは大違いだった。
両親を元気づけられるのはリンちゃんの孫パワーだけかと思っていたが、星もそのパワーを持っているらしい。星のパワーは何パワーだろう? やっぱり、イケメンパワーだろうか? 女の富士子にイケメンパワーが効果あるのは分かるが、男の平介にもイケメンパワーの効果があるとは不思議だ。
イケメン恐るべし。
ふふふっと笑いを溢すと、また平介に怪訝な顔をされたが、洋介は無視した。
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