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32 迷惑ですか?
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富士子の病室に着くと平介は「ちょっと待て」と言って二人を待たせて一人先に中へ入ってしまった。
「どうしたんでしょう? 富士子さん、大丈夫でしょうか?」
星は不安そうだが、洋介も訳が分からない。
「僕が来たの、ご迷惑だったでしょうか?」
「えー、そんな事無いと思うよ」
星は富士子の大のお気に入りだ。てっきり富士子は大喜びではしゃぎ、星を迎えるとばかり……、いやそもそも星が来ている事を富士子には内緒にしておくとか昨日言ってなかったっけ? 何でこんな状況になってるんだ?
うーんと考えてみた。
そう言えば、朝食の後、ひとりニヤニヤしながら平介はずっとスマホを弄っていた。平介にメールして来る相手なんて限られているから珍しい事もあるもんだと気になったのだ。
もしかしたら、あれは富士子とやり取りしていたのかもしれない。平介のメールの相手は、星か、家族くらいしかいない。星は今日は目の前に居るからわざわざメールする筈はないので外す。行介夫婦はいつもリンちゃんの写メを送ってくるが、何故かいつも洋介にもccで送られて来て、今日はそれが届いてないから彼等も外す。
そうすると、残るは自分か富士子。送ってないから自分も外すと、相手は富士子しか思い当たらない。
でも富士子が星を拒否して、先に平介だけ中に入って欲しがるなんて事があるだろうか?
「実は、母にやめた方がいいと言われたんです」
「えっ? 何を? ああ、もしかして、見舞いを?」
「はい、自分だったら嫌だと。行くならもう少し経って落ち着いた頃か、退院されてからにしなさいって」
「ああ、そうなんだ」
それは、どういう考えなんだろう? 星の母親がどんな人か分からないし、自分もてっきり喜ぶと思っていたから富士子の気持ちが想像出来ない。
「でも、僕、とても心配で。富士子さんの事大好きだから、心配で会いたくて堪らなくなって……」
星が何でこんなに富士子に好意を持ってくれているのか洋介は分からない。逆の立場だったら、洋介はアメリカからわざわざ帰って来たりはしない。面倒臭い。アメリカから日本は遠いし、更に空港から此処迄来るのも大変だ。危篤でもなし、先方が落ち着いた頃にメールか、電話するくらいで済ませる。
大体、星とうちの家族の関係性も不思議なんだ。それなのに星が来たのに心底驚いたけれど、星だからな、と納得する部分もあった。
星は俯き加減で気落ちしているように見えた。だから変に誤魔化さず、洋介は思ったまま答えることにした。
「うーん。正直、お袋の気持ちは分かんないけど、親父は喜んでるよ。星さん来てくれて。実は昨日、親父すごく落ち込んでたけど、星さん来た途端に元気になったからね。それは俺は本当に感謝してるよ」
「そうなんですか?」
星が顔を上げる。
「昨日の夜、お袋の麻酔が覚めるのに立ち会えなかったからね。病院が開いてる時間過ぎちゃったから、帰るように言われてさ。だから親父、病院出る時、元気なかったんだよ」
あの時の平介はとても小さく弱々しく見えた。思い出すと洋介は何とも言えない心持ちになる。そんなにラブラブな夫婦で無くても相方が欠けそうになるのは心細いのだろうか?
「でも夕飯の時すごい元気だったろう?」
「はい」
昨晩の平介を思い出したように星がはにかむ。
「だから、俺、見舞いって、本人の為もあると思うけど、付き添ってる家族の為ってのもあるのかなぁ、ってちょっと思ったりした。俺と二人だけだったら、今日こうやって病院に来てお袋の顔見るまで親父は沈み込んだまんまだったと思うから」
「そうですか? 僕、少しは洋介さん達の為になりましたか?」
「うん」
星に笑顔が戻ったので、洋介は安心した。
それにしても長い。中で二人は何をやっているのか。随分待たされているような気がする。星に悪いな、いい加減、ノックして押し入ろうかと洋介が考え始めた時に、中から扉が開いた。
「待たせたな」
平介に誘われて入ると、富士子はベッドに上半身を起こし、初めて見る赤いセーターを肩にかけニコニコしていた。
「富士子さん、この度はお疲れ様でした。手術が成功して本当に良かったです」
「こちらこそありがとう。わざわざアメリカから来てくれて」
平介に背中を押されて星が寄って行くと、富士子は意外と元気そうだ。昨日麻酔が効いた状態だと蝋人形のように見えたのが嘘みたいに、ちゃんと生気が通っていた。髪の毛は若干ボサボサだがいつもの顔だ。
「アメリカ人みたいに会えて嬉しいって抱き合いたいんだけど、手術したところが痛いから握手でもいい?」
「勿論です」
ハグという単語が出て来なかったらしい富士子に何故か求められて、続けて洋介と平介も富士子と握手させられた。こそばゆい。満足したらしく富士子が仕切り出す。
「椅子、足りるかしら?」
ベッドの横にはパイプ椅子が一脚広げてあった。さっきまで平介が座っていたのだろう。
「えっと、確かお風呂場の方にもう一つあるって看護師さんが言ってたのよね。洋ちゃん見てみて」
「ほい」
洋介は言われて外に出ようとすると、「違う、そこ」と入口の手前を示された。一人部屋だから、中にトイレと簡易シャワーが付いているのだそうだ。外の共有の浴室かと思ったら違った。
「へえ、すげえな。ここ」
ビジネスホテルのバスルームみたいだった。トイレの横に人が一人立てるくらいの狭いスペースが取ってあってシャワーが付いている。間違いなくここでシャワーを浴びたら、便器も濡れる。だが、他の入院患者に会うのが煩わしい人なら重宝するだろう。
「うん、でもねえ、そこのシャワーはあたしは使えないのよ。お風呂入りたい時は、看護師さんに手伝って貰うから、広い方に行くんだって」
「そうなの?」
「うん。まだ倒れたりしたら危ないから一人はダメだって」
中を確認したがパイプ椅子は見当たらない。
「ねえぞ。こんなとこに椅子なんてある訳ないんじゃ?」
「あ、そうじゃなくて、お風呂場の横に戸棚っていうか、ロッカーがあるでしょ?」
「ロッカー?」
「うんそう。お風呂の横のロッカーを見て欲しかったの」
相変わらず要領を得ない富士子の説明だ。だったら最初っから風呂の横のロッカーと言えよと言うと「お風呂場見て貰いたかったのよお」と悪びれないのでムカつく。バスルームの横に取っ手が見つかった。造り付けのロッカーになっていて、中には富士子の上着や荷物が入っており、下の隅に折り畳まれたパイプ椅子を見つけた。
「その椅子は新一くんに。洋ちゃん、椅子欲しいなら看護師さんに聞いて来て」
「分かった、後で座りたくなったら行って来る」
「それなら自分が立ちますよ」
星が遠慮するが、洋介は首を振って座らせた。平介は病院の都合にもよるが、1、2時間は居たいと言っていた。そんなに長い時間、此処で富士子と話すだけなんて、自分は絶対に飽きる。椅子を取りに行く、というのは、中座する理由に丁度良い。
「大丈夫。後でトイレ行くついでに貰ってくるから」
「そうですか? なら」
星は素直に座ると鞄から包みを取り出した。
「あの、これアメリカのお土産です。本当は全部予定が終わって日本に帰って来た時にお渡ししようと思っていたのですが、これなら入院中に使えるかと思ったので。先に富士子さんの分だけお渡しします」
明るいオレンジ色のストールだった。
「やだ、素敵じゃない。こんなお婆ちゃんなのに、似合うかしら?」
満更でもない感じで、富士子が肩に当てる。赤いセーターよりもずっと顔色が良く見えた。大判なので、太めな富士子でも楽に肩周りを一周しそうだ。病院内で肌寒い時、羽織るのに使えるだろう。
「似合ってるよ。今、肩に掛けてるセーターより、こっちのがいいんじゃね?」
「あら、じゃあそうしよう。これ、洋ちゃん、さっきのロッカーにしまって置いてよ」
「ほいほい」
洋介が褒めると富士子はセーターを軽く畳んで渡して来た。洋介が綺麗に畳み直してロッカーにしまっている間、三人は楽しそうに盛り上がっている。
「新一くんありがとう。気を遣わせちゃってごめんなさいね。高級品じゃないの? すごく肌触りがいいんだけど」
「いえいえ。丁度安くなっていたんです。でも物は良いので、アメリカのお土産にしようと思って先に買っておいたんです。だから、お見舞いに買ってきた訳じゃなくて、こちらこそ申し訳ないです。ちゃんとお見舞いの品を持って来てなくて」
「やだ、そんなの気にする訳ないじゃない。見舞いの品なんかいらないわよお。来てくれただけでありがたいんだから」
「母さんだけ、先に土産を貰ったのか。じゃあ、この次新一くんが帰って来た時、母さんだけ土産は貰えないんだな」
「別にそれで良いわよ、先に貰ったぶんだけ長く使えるって事じゃない」
「新一くん、俺には安物で良いから食い物にしてくれ。そしたら、母さんの前で一人だけ食べてやる。もう母さんの分はないから、食べられなくて悔しがっても分けてやらないぞ」
「何それ、ちょっとくらい分けてくれても良いじゃない」
「ダメだ。これは俺の分、って見せつけてやるんだからな」
「うふふふ。ちゃんと皆さんで食べられるお菓子も買って来ますから、富士子さんは心配しなくても大丈夫ですよ」
「わあ。ありがとう、新一くん。楽しみにしてるわあ。あ、アメリカのお話、聞かせて」
平介の冗談は慣れていない人にはそうだと分からない。本人は面白い事を言っているつもりだが、初めての人には意地の悪い事を言っているようにしか聞こえなくて、富士子がいじめられている様に見えるらしい。康子ちゃんなんて、未だにどう対応した良いのか分からないようで、引き攣った笑顔でやり過ごしている。間違っても二人の会話に入ってはいかないのに、星はすごいなあと、洋介は感心した。
「どうしたんでしょう? 富士子さん、大丈夫でしょうか?」
星は不安そうだが、洋介も訳が分からない。
「僕が来たの、ご迷惑だったでしょうか?」
「えー、そんな事無いと思うよ」
星は富士子の大のお気に入りだ。てっきり富士子は大喜びではしゃぎ、星を迎えるとばかり……、いやそもそも星が来ている事を富士子には内緒にしておくとか昨日言ってなかったっけ? 何でこんな状況になってるんだ?
うーんと考えてみた。
そう言えば、朝食の後、ひとりニヤニヤしながら平介はずっとスマホを弄っていた。平介にメールして来る相手なんて限られているから珍しい事もあるもんだと気になったのだ。
もしかしたら、あれは富士子とやり取りしていたのかもしれない。平介のメールの相手は、星か、家族くらいしかいない。星は今日は目の前に居るからわざわざメールする筈はないので外す。行介夫婦はいつもリンちゃんの写メを送ってくるが、何故かいつも洋介にもccで送られて来て、今日はそれが届いてないから彼等も外す。
そうすると、残るは自分か富士子。送ってないから自分も外すと、相手は富士子しか思い当たらない。
でも富士子が星を拒否して、先に平介だけ中に入って欲しがるなんて事があるだろうか?
「実は、母にやめた方がいいと言われたんです」
「えっ? 何を? ああ、もしかして、見舞いを?」
「はい、自分だったら嫌だと。行くならもう少し経って落ち着いた頃か、退院されてからにしなさいって」
「ああ、そうなんだ」
それは、どういう考えなんだろう? 星の母親がどんな人か分からないし、自分もてっきり喜ぶと思っていたから富士子の気持ちが想像出来ない。
「でも、僕、とても心配で。富士子さんの事大好きだから、心配で会いたくて堪らなくなって……」
星が何でこんなに富士子に好意を持ってくれているのか洋介は分からない。逆の立場だったら、洋介はアメリカからわざわざ帰って来たりはしない。面倒臭い。アメリカから日本は遠いし、更に空港から此処迄来るのも大変だ。危篤でもなし、先方が落ち着いた頃にメールか、電話するくらいで済ませる。
大体、星とうちの家族の関係性も不思議なんだ。それなのに星が来たのに心底驚いたけれど、星だからな、と納得する部分もあった。
星は俯き加減で気落ちしているように見えた。だから変に誤魔化さず、洋介は思ったまま答えることにした。
「うーん。正直、お袋の気持ちは分かんないけど、親父は喜んでるよ。星さん来てくれて。実は昨日、親父すごく落ち込んでたけど、星さん来た途端に元気になったからね。それは俺は本当に感謝してるよ」
「そうなんですか?」
星が顔を上げる。
「昨日の夜、お袋の麻酔が覚めるのに立ち会えなかったからね。病院が開いてる時間過ぎちゃったから、帰るように言われてさ。だから親父、病院出る時、元気なかったんだよ」
あの時の平介はとても小さく弱々しく見えた。思い出すと洋介は何とも言えない心持ちになる。そんなにラブラブな夫婦で無くても相方が欠けそうになるのは心細いのだろうか?
「でも夕飯の時すごい元気だったろう?」
「はい」
昨晩の平介を思い出したように星がはにかむ。
「だから、俺、見舞いって、本人の為もあると思うけど、付き添ってる家族の為ってのもあるのかなぁ、ってちょっと思ったりした。俺と二人だけだったら、今日こうやって病院に来てお袋の顔見るまで親父は沈み込んだまんまだったと思うから」
「そうですか? 僕、少しは洋介さん達の為になりましたか?」
「うん」
星に笑顔が戻ったので、洋介は安心した。
それにしても長い。中で二人は何をやっているのか。随分待たされているような気がする。星に悪いな、いい加減、ノックして押し入ろうかと洋介が考え始めた時に、中から扉が開いた。
「待たせたな」
平介に誘われて入ると、富士子はベッドに上半身を起こし、初めて見る赤いセーターを肩にかけニコニコしていた。
「富士子さん、この度はお疲れ様でした。手術が成功して本当に良かったです」
「こちらこそありがとう。わざわざアメリカから来てくれて」
平介に背中を押されて星が寄って行くと、富士子は意外と元気そうだ。昨日麻酔が効いた状態だと蝋人形のように見えたのが嘘みたいに、ちゃんと生気が通っていた。髪の毛は若干ボサボサだがいつもの顔だ。
「アメリカ人みたいに会えて嬉しいって抱き合いたいんだけど、手術したところが痛いから握手でもいい?」
「勿論です」
ハグという単語が出て来なかったらしい富士子に何故か求められて、続けて洋介と平介も富士子と握手させられた。こそばゆい。満足したらしく富士子が仕切り出す。
「椅子、足りるかしら?」
ベッドの横にはパイプ椅子が一脚広げてあった。さっきまで平介が座っていたのだろう。
「えっと、確かお風呂場の方にもう一つあるって看護師さんが言ってたのよね。洋ちゃん見てみて」
「ほい」
洋介は言われて外に出ようとすると、「違う、そこ」と入口の手前を示された。一人部屋だから、中にトイレと簡易シャワーが付いているのだそうだ。外の共有の浴室かと思ったら違った。
「へえ、すげえな。ここ」
ビジネスホテルのバスルームみたいだった。トイレの横に人が一人立てるくらいの狭いスペースが取ってあってシャワーが付いている。間違いなくここでシャワーを浴びたら、便器も濡れる。だが、他の入院患者に会うのが煩わしい人なら重宝するだろう。
「うん、でもねえ、そこのシャワーはあたしは使えないのよ。お風呂入りたい時は、看護師さんに手伝って貰うから、広い方に行くんだって」
「そうなの?」
「うん。まだ倒れたりしたら危ないから一人はダメだって」
中を確認したがパイプ椅子は見当たらない。
「ねえぞ。こんなとこに椅子なんてある訳ないんじゃ?」
「あ、そうじゃなくて、お風呂場の横に戸棚っていうか、ロッカーがあるでしょ?」
「ロッカー?」
「うんそう。お風呂の横のロッカーを見て欲しかったの」
相変わらず要領を得ない富士子の説明だ。だったら最初っから風呂の横のロッカーと言えよと言うと「お風呂場見て貰いたかったのよお」と悪びれないのでムカつく。バスルームの横に取っ手が見つかった。造り付けのロッカーになっていて、中には富士子の上着や荷物が入っており、下の隅に折り畳まれたパイプ椅子を見つけた。
「その椅子は新一くんに。洋ちゃん、椅子欲しいなら看護師さんに聞いて来て」
「分かった、後で座りたくなったら行って来る」
「それなら自分が立ちますよ」
星が遠慮するが、洋介は首を振って座らせた。平介は病院の都合にもよるが、1、2時間は居たいと言っていた。そんなに長い時間、此処で富士子と話すだけなんて、自分は絶対に飽きる。椅子を取りに行く、というのは、中座する理由に丁度良い。
「大丈夫。後でトイレ行くついでに貰ってくるから」
「そうですか? なら」
星は素直に座ると鞄から包みを取り出した。
「あの、これアメリカのお土産です。本当は全部予定が終わって日本に帰って来た時にお渡ししようと思っていたのですが、これなら入院中に使えるかと思ったので。先に富士子さんの分だけお渡しします」
明るいオレンジ色のストールだった。
「やだ、素敵じゃない。こんなお婆ちゃんなのに、似合うかしら?」
満更でもない感じで、富士子が肩に当てる。赤いセーターよりもずっと顔色が良く見えた。大判なので、太めな富士子でも楽に肩周りを一周しそうだ。病院内で肌寒い時、羽織るのに使えるだろう。
「似合ってるよ。今、肩に掛けてるセーターより、こっちのがいいんじゃね?」
「あら、じゃあそうしよう。これ、洋ちゃん、さっきのロッカーにしまって置いてよ」
「ほいほい」
洋介が褒めると富士子はセーターを軽く畳んで渡して来た。洋介が綺麗に畳み直してロッカーにしまっている間、三人は楽しそうに盛り上がっている。
「新一くんありがとう。気を遣わせちゃってごめんなさいね。高級品じゃないの? すごく肌触りがいいんだけど」
「いえいえ。丁度安くなっていたんです。でも物は良いので、アメリカのお土産にしようと思って先に買っておいたんです。だから、お見舞いに買ってきた訳じゃなくて、こちらこそ申し訳ないです。ちゃんとお見舞いの品を持って来てなくて」
「やだ、そんなの気にする訳ないじゃない。見舞いの品なんかいらないわよお。来てくれただけでありがたいんだから」
「母さんだけ、先に土産を貰ったのか。じゃあ、この次新一くんが帰って来た時、母さんだけ土産は貰えないんだな」
「別にそれで良いわよ、先に貰ったぶんだけ長く使えるって事じゃない」
「新一くん、俺には安物で良いから食い物にしてくれ。そしたら、母さんの前で一人だけ食べてやる。もう母さんの分はないから、食べられなくて悔しがっても分けてやらないぞ」
「何それ、ちょっとくらい分けてくれても良いじゃない」
「ダメだ。これは俺の分、って見せつけてやるんだからな」
「うふふふ。ちゃんと皆さんで食べられるお菓子も買って来ますから、富士子さんは心配しなくても大丈夫ですよ」
「わあ。ありがとう、新一くん。楽しみにしてるわあ。あ、アメリカのお話、聞かせて」
平介の冗談は慣れていない人にはそうだと分からない。本人は面白い事を言っているつもりだが、初めての人には意地の悪い事を言っているようにしか聞こえなくて、富士子がいじめられている様に見えるらしい。康子ちゃんなんて、未だにどう対応した良いのか分からないようで、引き攣った笑顔でやり過ごしている。間違っても二人の会話に入ってはいかないのに、星はすごいなあと、洋介は感心した。
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