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十色は十色
しおりを挟む「わあ!」
深夜、人の気配に気がついて目を開けると自室のベッドの上で、目の前には十色のどアップ。
めちゃくちゃびっくりした! 心臓止まるかと思った!
「と…といろ? 近いよっ! 軽く死ぬよ!?」
十色の綺麗な顔がもっと近づいてきて…びっくりした私は目を見開いて動けないでいた。そして十色の長い腕が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられた。
わわーーなに?
「と、十色? ど…どうしたの?」
最近は夢なのか、現実なのがが分からない。
夢だとしたら感触はやけにリアルだし、現実だったら辻褄が合わない。
「直は…微かだけど、やっぱりハルコと同じ臭いがする」
十色は私の首筋に鼻を近づけ、ひくひく臭いを嗅いだ。
ぎゃーやめてくれ!
さすがに夢でもダメ! くすぐったくてゾクゾクする!
ぐっと十色を押し退けようと、両手を十色の胸に当てた時…。
「ハルコ…」
十色の絞り出すような切なそうな声が耳に響いた。
ハルコさん…。十色の一番好きな人…。
十色の頭に両手を舞わして回して小さな頭を抱きしめた。そして右耳の三日月型のピアスを見つめた。
***
どれくらいそうしていたのか、十色が首を上げ、私を見下ろす。
はっきり見えていた十色の顔が離れたために、少しぼやけた。
私は極度の近視。眼鏡がないとほとんど見えない。ベッドボードをまさぐり、眼鏡を探した。
視界がはっきりするといつもの十色とは何かが違う。
ん? 首? なにか巻いてる?
いつもは黒一色の十色のスタイルなんだけど、首元に赤いハンカチが見えた。
結び目に手をやり、引っ張ると簡単に解けた。見覚えある赤いハンカチが十色の細い首からひらりと落ちた。
見覚えのある、由香の赤いハンカチだ。
十色をじっと見つめる。
黒猫と同じ鳩羽色の宝石のような瞳。右耳の三日月型のシルバーピアス。
ああ、そうか。
十色は黒猫だ。
驚くほど簡単に、府に落ちた。
十色の人なつっこい笑顔が迫って来て我に帰る。
「直、好き」
十色は私の頬をペロッと舐めた。
「ぎゃ! 十色! それはダメ!」
ぐいっと両手で十色を押し退けた。
「いやなの?」
「いやとかじゃなくて……」
もごもごと口ごもって、言葉にならない言葉を呟く。
十色はもう一度、私の背中に腕を回し、きゅうっと優しく抱きしめた。
「ハルコ…」
又、切なく呟く。
まったく、なんだろねこの子は。そんな声出されたら、怒れないじゃない。
「直の匂いはハルコを思い出す。この部屋も微かだけどハルコの匂いがする。だから…直、好き」
まったく、正直だなぁ。私はハルコさんの身代わりかい…。私が傷つくって思わないのかなぁ?
(まぁ…猫だから仕方ないか…)
そう思うと、妙に納得する。
十色の気紛れな言葉、態度。私に気遣う時もあれば、無関心だったりもする。
うん。確かに猫だわ。
気になる事は沢山あるけど、痛む頭で色々考えてもきっと答えは出ない。
だから、暫くはこの不思議な状況を楽しむ事にしよう。
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