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二章 猟犬の掟
第7話 舞闘会
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ジェイドは早朝の会議が終わり、外廊下を歩いていると、ルークが慌ただしげに追い掛けて来ていた。相変わらず落ち着きの無い小僧だ、と小さく息を吐くと、仕方なく待ってやる。
「どうした、ルーク。後少しで任務に出る時間だぞ」
「隊長! 王が俺のこと、弱そうとか言うんですよ。俺だって影の一員なのに」
「はあ? ヘルレアからしたら、皆、弱そうだろ。そんなことか、まったく。じゃあな」
「確かに、確かにそうなんですけど……待ってくださいよ。このままでは悔しいです」
「ルーク、ヘルレアに入れ込むなよ。いいか、お前はからかわれただけだ。痛い目を見るぞ」
ルークの顔が赤く染まった。真に分かり易い。
「それは関係ありません。とにかく、俺が正式な影である事を示したいのです」
ジェイドは眉根を寄せる。
ルークは良くも悪くも若い。美しいヘルレアへ、直ぐに心を動かすのはよく分かる。しかし、ヘルレアとカイムの間に、横槍を入れられるのは困るのだ。ルークの若さは有利に働く可能性も無いとはいえない。ヘルレアは通説では十五才以下――ジェイドとしては、十三、四に見える――であるから、ルークの二十三才という年齢はけして悪くはない。むしろ、三十代半ばのカイムより魅力的に映るかもしれない。よりによって、ルークが王の番にでもなったら、ステルスハウンドは大混乱に陥るだろう。苦労が増えるのは簡単に想像出来る。
だから、必要以上にルークとヘルレアを関わらせたくないのが本音だ。
「正式な影である事を示すとは、何をする気だ」
「それは勿論、王に相手をしてもらうんです」
「お前殺されるぞ。せめて誰かとの手合わせを見せるとか、そういう方向には考えがいかないのか」
「でも、今いる顔触れだと俺、まともにアピール出来ないと思うんです。そもそも隊長は強過ぎて無理だし、チェスカル副隊長は後が怖いし、ハルヒコはゴリラだし、俺の長所を殺しに来る人達ばかりなんです。見せ場を奪われるんですよ。王に直接打つかってみたら早いのではないかなと」
「手合わせは力量差前提で成り立つものだぞ。チェスカルはともかく」
「加減した手合わせで、王が俺の事を認めてくれるとは思えないんです。相手も本気になる程、拮抗した強さでないと。これは、悔しいですけれどハルヒコにまで劣っていると、言っているようなものですが」
遠くから、少しだけ低い子供の様な笑い声が上がった。ジェイドとルークがそれに気を取られていると、ヘルレアがいつの間にか背後に立っていた。
ジェイドは全くヘルレアの気配に気が付かなかった。
二頭の猟犬は反射的に後退っていた。二人の手は腰のホルスターへ無意識に添えられている。
「王よ、無駄に気配を消すな。風穴を開けているところだ。まあ、寧ろ開けたいところだが」
「驚きました。こんなことが出来るなんて」
「ルーク、弱そうとかどうとか気にしているのか」
「気にするに決まっています。俺に取っては死活問題です。猟犬が弱いなどと言われて、プライドが傷付かないはずがありません。ですから王、俺と手合わせしてください。そうしたら俺が如何に優秀な影か分かる筈です。もう、弱そうとは言わせません」
「面白い。いいだろう、相手をしてやる。どこか人目がなくて広い場所はないか」
「訓練場があります。あそこなら人払い出来ますし、そもそもが早朝なので誰も居ません」
「待て、このどアホ共。何を勝手に決めている。ヘルレア、綺紋はどうなった。戻ってないならそのような状態で闘ってどうする。相手はルークだが、この小僧も一応猟犬の端くれだ。怪我でもされたら迷惑だ」
「綺紋など関係ない。ルークに怪我させられるわけがないだろう」
「王は俺を侮り過ぎです。カイム様に許可を頂ければいいですよね」
ジェイドは頭を抱えた。
猟犬の棲家にある訓練場は地下にある。訓練場の広さは館の三分の一程度という中々に広い面積がある。主に音を伴う武器類の練習場所に使われて、射撃訓練専用の階層も設けられている。
訓練場の地下一階は多目的な運動場になっており、上層部には観覧席が設けられ、そこには耐防弾衝撃ガラスが張られているので、安全に観覧可能となっている。
運動場の壁や床は灰白色をしている。特注品で耐久、耐刃、耐火に優れており特殊な訓練を行っても、褪せる事なく施工したばかりの状態に長期間保てる。
更に気密性が高く外部へは一切音を漏らさない。
ヘルレアとルークが訓練場の中心で、距離を置いて向き合っていた。ジェイドとカイム、チェスカルにハルヒコと、結局、ヘルレアを知る顔触れが集まって、二人を取り巻いている。
ジェイドが隠し切れない溜息を一つ。
カイムは弱い。押しに弱い。
ヘルレアと交渉事で渡り合ったというのに、半端などうでもいい件だと、尽く負けていく。
カイムは王の声に折れた。ジェイドはこうなる事が分かっていた。完全に悪ノリしている王にカイムが勝てるとは思えなかった。
他愛ない我儘や、甘えて来る相手を、カイムは甘やかしてしまう。また、ジェイドもそれをつい、諫められないのだから同罪なのだが。
ヘルレアが手で、来るようにと軽く振る。
「ルーク来い。武器は何でも使っていいぞ。勿論、実弾入りの銃もだ。制限は設けない、設けなくていい環境のようだからな」
「本当にいいんですか」ルークがベルトからダガーを抜いて、カイムとチェスカルを見る。
「やり過ぎない様に」カイムは苦笑いしている。
「殺す気で行け」チェスカルは腕を組む。
「お前も言うようになったな」
ヘルレアは半眼でチェスカルへ笑うと、ルークへ大きく手招きした。構わない、来いという合図のようだ。
ルークはダガーを構えるとヘルレアへ躍り掛かった。突き刺す形で頸動脈を狙う。ヘルレアは危ういところで首を反らすと、刃が引き切る前に首を戻した。
ように、見えた――。
ルークは瞬時に諸刃で切り付ける角度に変えて、削ぐように風切る速度で執拗に首を狙っていく。だが、ヘルレアはその度に首を僅かに振らせているようで、当たった様に見えて触れてさえいなかった。
焦れたのかルークはダガーに角度をつけて、肋骨の間から肝臓を狙い始めた。
ダガーは正確に致命傷を狙っているが、ヘルレアの身体を皮一枚で滑り抜けて行く。敢えて王は危うい距離間を保っているようで、実のところ何の苦もなくルークの諸刃を避けている様だった。
王は明らかに遊んでいるが、その遊びようはジェイド等観戦者には冷や汗ものだ。少しでも刃から視線がずれれば、ダガーがヘルレアを切り裂いて見える。ルークの腕で王が殺せるとは、当たり前だが思っていない。しかし、それをジェイド達が認識しているのを分かっていて、ヘルレアは危うい動きで動揺させているのだ。ルークではなくジェイド達を弄んでいる。
「あのガキ……、」
ルークの動きは鈍らない。その刃は連撃も正確だった。王は刃を避けて、踊るようにステップを踏む。ルークは空かさず攻め込んで、何度も何度も致命傷を与えられる場所へ切り込んだ。
だが、一掠りもしない。
「……まだやるつもりか」
「王が俺を、猟犬と認めて下さるまで」
ヘルレアがルークの背後に滑り込む。
「お前、なかなか呼吸が乱れないな」
「こんなの動いた内にも入りません!」
「妙だな、」
ルークが身を返そうとした瞬間、王は微動作で彼を投げ飛ばした。ルークは床に叩き付けられる前に、猫よろしく、身を翻して直ぐに体勢を立て直す。
「なるほど……少しやってやるか」
王が言うが早いか、瞬く間にルークへ迫って大きく張り飛ばした。まるで壁に引力が生まれたかのように、王からルークが遠ざかって行く。飛ぶ勢いが弱まると、直ぐに受身を取って起き上がった。かなり遠くまで飛ばされた。
王も王だが、ルークも大概だ。
ルークは自分の体の状態など一切感知せず、ヘルレアへ突っ走って戻っていく。王はそれを見ると、にんまり笑い、ルークの正面目掛けて突進する。
ルークはそれでも速度を落とさなかった――生身の度胸試し。
勿論ヘルレアが怯むわけもない。
そして王は、おそらく打つかっても気にしない。トラック、電車、戦車、何でもいい――ルークは馬鹿だ。
ジェイドは笑うしかなかった。
「ルークの奴、吹っ飛ぶかもな」
「これから任務なんですから、困ります」
「二人共、少しはルークの身を心配してあげなさい」カイムは肩を落とす。
ルークは早かった。ヘルレアへ近づく程、加速して行くようだ。一瞬、踏み出す一歩が異常な滑らかさを見せる。彼の足元に、金の砂が絡まるようにして漂い始めて尾を引いた。ヘルレアは素早く反応して、遠く飛び退るようにして立ち止まっていた。
「止めるんだ、中止だ!」チェスカルは何の躊躇もなく、ヘルレアの前へ飛び出した。
ジェイドは肩を怒らせて突っ走り、ルークへとラリアットを決めて、無理やり捕らえた。そのまま頭へ重い拳を落す。ルークはその強烈な一発で崩折れてしまい、頭を抱えて転がった。
「だから、言っただろう! 馬鹿野郎が。自分を律せない未熟者に、ヨルムンガンドと闘う資格はない。反省しろ。カイム、ぼけっと見ていないで叱れ」
カイムが見かねたのか、ルークの手を取り起こしてやっている。
「確かにジェイドは間違っていないね。ヘルレアへ謝って来なさい。お赦しをいただけたら、僕もルークを赦そう」
ヘルレアは面白そうにニヤつく。
「お前、人狼か。躾のなっていない獣だな。あのままやり合ってたら、お前は挽肉になってるぞ」
ルークは頭を抱えて屈み込んだままだ。
「すみません、ごめんなさい。もう、しません。ヘルレア、赦してください」
「まあ、ガキのやることだ、赦してやろう――結論、カイムよりは強いな。任務に行って来い、猟犬。骨は拾ってやる」
「――僕を巻き込まないでください」カイムは肩を落としていた。
ジェイドは早朝の会議が終わり、外廊下を歩いていると、ルークが慌ただしげに追い掛けて来ていた。相変わらず落ち着きの無い小僧だ、と小さく息を吐くと、仕方なく待ってやる。
「どうした、ルーク。後少しで任務に出る時間だぞ」
「隊長! 王が俺のこと、弱そうとか言うんですよ。俺だって影の一員なのに」
「はあ? ヘルレアからしたら、皆、弱そうだろ。そんなことか、まったく。じゃあな」
「確かに、確かにそうなんですけど……待ってくださいよ。このままでは悔しいです」
「ルーク、ヘルレアに入れ込むなよ。いいか、お前はからかわれただけだ。痛い目を見るぞ」
ルークの顔が赤く染まった。真に分かり易い。
「それは関係ありません。とにかく、俺が正式な影である事を示したいのです」
ジェイドは眉根を寄せる。
ルークは良くも悪くも若い。美しいヘルレアへ、直ぐに心を動かすのはよく分かる。しかし、ヘルレアとカイムの間に、横槍を入れられるのは困るのだ。ルークの若さは有利に働く可能性も無いとはいえない。ヘルレアは通説では十五才以下――ジェイドとしては、十三、四に見える――であるから、ルークの二十三才という年齢はけして悪くはない。むしろ、三十代半ばのカイムより魅力的に映るかもしれない。よりによって、ルークが王の番にでもなったら、ステルスハウンドは大混乱に陥るだろう。苦労が増えるのは簡単に想像出来る。
だから、必要以上にルークとヘルレアを関わらせたくないのが本音だ。
「正式な影である事を示すとは、何をする気だ」
「それは勿論、王に相手をしてもらうんです」
「お前殺されるぞ。せめて誰かとの手合わせを見せるとか、そういう方向には考えがいかないのか」
「でも、今いる顔触れだと俺、まともにアピール出来ないと思うんです。そもそも隊長は強過ぎて無理だし、チェスカル副隊長は後が怖いし、ハルヒコはゴリラだし、俺の長所を殺しに来る人達ばかりなんです。見せ場を奪われるんですよ。王に直接打つかってみたら早いのではないかなと」
「手合わせは力量差前提で成り立つものだぞ。チェスカルはともかく」
「加減した手合わせで、王が俺の事を認めてくれるとは思えないんです。相手も本気になる程、拮抗した強さでないと。これは、悔しいですけれどハルヒコにまで劣っていると、言っているようなものですが」
遠くから、少しだけ低い子供の様な笑い声が上がった。ジェイドとルークがそれに気を取られていると、ヘルレアがいつの間にか背後に立っていた。
ジェイドは全くヘルレアの気配に気が付かなかった。
二頭の猟犬は反射的に後退っていた。二人の手は腰のホルスターへ無意識に添えられている。
「王よ、無駄に気配を消すな。風穴を開けているところだ。まあ、寧ろ開けたいところだが」
「驚きました。こんなことが出来るなんて」
「ルーク、弱そうとかどうとか気にしているのか」
「気にするに決まっています。俺に取っては死活問題です。猟犬が弱いなどと言われて、プライドが傷付かないはずがありません。ですから王、俺と手合わせしてください。そうしたら俺が如何に優秀な影か分かる筈です。もう、弱そうとは言わせません」
「面白い。いいだろう、相手をしてやる。どこか人目がなくて広い場所はないか」
「訓練場があります。あそこなら人払い出来ますし、そもそもが早朝なので誰も居ません」
「待て、このどアホ共。何を勝手に決めている。ヘルレア、綺紋はどうなった。戻ってないならそのような状態で闘ってどうする。相手はルークだが、この小僧も一応猟犬の端くれだ。怪我でもされたら迷惑だ」
「綺紋など関係ない。ルークに怪我させられるわけがないだろう」
「王は俺を侮り過ぎです。カイム様に許可を頂ければいいですよね」
ジェイドは頭を抱えた。
猟犬の棲家にある訓練場は地下にある。訓練場の広さは館の三分の一程度という中々に広い面積がある。主に音を伴う武器類の練習場所に使われて、射撃訓練専用の階層も設けられている。
訓練場の地下一階は多目的な運動場になっており、上層部には観覧席が設けられ、そこには耐防弾衝撃ガラスが張られているので、安全に観覧可能となっている。
運動場の壁や床は灰白色をしている。特注品で耐久、耐刃、耐火に優れており特殊な訓練を行っても、褪せる事なく施工したばかりの状態に長期間保てる。
更に気密性が高く外部へは一切音を漏らさない。
ヘルレアとルークが訓練場の中心で、距離を置いて向き合っていた。ジェイドとカイム、チェスカルにハルヒコと、結局、ヘルレアを知る顔触れが集まって、二人を取り巻いている。
ジェイドが隠し切れない溜息を一つ。
カイムは弱い。押しに弱い。
ヘルレアと交渉事で渡り合ったというのに、半端などうでもいい件だと、尽く負けていく。
カイムは王の声に折れた。ジェイドはこうなる事が分かっていた。完全に悪ノリしている王にカイムが勝てるとは思えなかった。
他愛ない我儘や、甘えて来る相手を、カイムは甘やかしてしまう。また、ジェイドもそれをつい、諫められないのだから同罪なのだが。
ヘルレアが手で、来るようにと軽く振る。
「ルーク来い。武器は何でも使っていいぞ。勿論、実弾入りの銃もだ。制限は設けない、設けなくていい環境のようだからな」
「本当にいいんですか」ルークがベルトからダガーを抜いて、カイムとチェスカルを見る。
「やり過ぎない様に」カイムは苦笑いしている。
「殺す気で行け」チェスカルは腕を組む。
「お前も言うようになったな」
ヘルレアは半眼でチェスカルへ笑うと、ルークへ大きく手招きした。構わない、来いという合図のようだ。
ルークはダガーを構えるとヘルレアへ躍り掛かった。突き刺す形で頸動脈を狙う。ヘルレアは危ういところで首を反らすと、刃が引き切る前に首を戻した。
ように、見えた――。
ルークは瞬時に諸刃で切り付ける角度に変えて、削ぐように風切る速度で執拗に首を狙っていく。だが、ヘルレアはその度に首を僅かに振らせているようで、当たった様に見えて触れてさえいなかった。
焦れたのかルークはダガーに角度をつけて、肋骨の間から肝臓を狙い始めた。
ダガーは正確に致命傷を狙っているが、ヘルレアの身体を皮一枚で滑り抜けて行く。敢えて王は危うい距離間を保っているようで、実のところ何の苦もなくルークの諸刃を避けている様だった。
王は明らかに遊んでいるが、その遊びようはジェイド等観戦者には冷や汗ものだ。少しでも刃から視線がずれれば、ダガーがヘルレアを切り裂いて見える。ルークの腕で王が殺せるとは、当たり前だが思っていない。しかし、それをジェイド達が認識しているのを分かっていて、ヘルレアは危うい動きで動揺させているのだ。ルークではなくジェイド達を弄んでいる。
「あのガキ……、」
ルークの動きは鈍らない。その刃は連撃も正確だった。王は刃を避けて、踊るようにステップを踏む。ルークは空かさず攻め込んで、何度も何度も致命傷を与えられる場所へ切り込んだ。
だが、一掠りもしない。
「……まだやるつもりか」
「王が俺を、猟犬と認めて下さるまで」
ヘルレアがルークの背後に滑り込む。
「お前、なかなか呼吸が乱れないな」
「こんなの動いた内にも入りません!」
「妙だな、」
ルークが身を返そうとした瞬間、王は微動作で彼を投げ飛ばした。ルークは床に叩き付けられる前に、猫よろしく、身を翻して直ぐに体勢を立て直す。
「なるほど……少しやってやるか」
王が言うが早いか、瞬く間にルークへ迫って大きく張り飛ばした。まるで壁に引力が生まれたかのように、王からルークが遠ざかって行く。飛ぶ勢いが弱まると、直ぐに受身を取って起き上がった。かなり遠くまで飛ばされた。
王も王だが、ルークも大概だ。
ルークは自分の体の状態など一切感知せず、ヘルレアへ突っ走って戻っていく。王はそれを見ると、にんまり笑い、ルークの正面目掛けて突進する。
ルークはそれでも速度を落とさなかった――生身の度胸試し。
勿論ヘルレアが怯むわけもない。
そして王は、おそらく打つかっても気にしない。トラック、電車、戦車、何でもいい――ルークは馬鹿だ。
ジェイドは笑うしかなかった。
「ルークの奴、吹っ飛ぶかもな」
「これから任務なんですから、困ります」
「二人共、少しはルークの身を心配してあげなさい」カイムは肩を落とす。
ルークは早かった。ヘルレアへ近づく程、加速して行くようだ。一瞬、踏み出す一歩が異常な滑らかさを見せる。彼の足元に、金の砂が絡まるようにして漂い始めて尾を引いた。ヘルレアは素早く反応して、遠く飛び退るようにして立ち止まっていた。
「止めるんだ、中止だ!」チェスカルは何の躊躇もなく、ヘルレアの前へ飛び出した。
ジェイドは肩を怒らせて突っ走り、ルークへとラリアットを決めて、無理やり捕らえた。そのまま頭へ重い拳を落す。ルークはその強烈な一発で崩折れてしまい、頭を抱えて転がった。
「だから、言っただろう! 馬鹿野郎が。自分を律せない未熟者に、ヨルムンガンドと闘う資格はない。反省しろ。カイム、ぼけっと見ていないで叱れ」
カイムが見かねたのか、ルークの手を取り起こしてやっている。
「確かにジェイドは間違っていないね。ヘルレアへ謝って来なさい。お赦しをいただけたら、僕もルークを赦そう」
ヘルレアは面白そうにニヤつく。
「お前、人狼か。躾のなっていない獣だな。あのままやり合ってたら、お前は挽肉になってるぞ」
ルークは頭を抱えて屈み込んだままだ。
「すみません、ごめんなさい。もう、しません。ヘルレア、赦してください」
「まあ、ガキのやることだ、赦してやろう――結論、カイムよりは強いな。任務に行って来い、猟犬。骨は拾ってやる」
「――僕を巻き込まないでください」カイムは肩を落としていた。
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