もうお別れしましょう!これであなたとはもう二度と会うこともないでしょう!

睡蓮

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第2話

「聞いた?エリアス様、ガーフ様から婚約破棄されたんですって」
「ほらやっぱり!私、絶対怪しいと思ってたのよね!」
「ガーフ様もお可哀そうに、あんなろくでもない女に騙されるなんて…」

あえて私に聞こえるかのような口調で、私の周りの人々がそう言葉を発する。
このお屋敷は男爵様のものだから、当然ここには男爵様の味方しかない。
だけれど、ここまで束になって私の事をいじめてくるものかと、私は驚きさえ感じていた。
使用人の彼女たちには、関係のない話なのかもしれないけれど。

「(男爵様の私に対する不信感、あなたたちもそれを形成するのに役立っていたみたいですね…。この婚約破棄は、あなたたちがもたらしてきたものだと考えてもよさそう…)」

私はもう婚約破棄を決定された身、だからここから出て行く準備をこっそりとすすめているのだけれど、彼女たちはそんな私の近くまでわざわざ現れて、そう言葉を口にしていた。

「そもそも男爵様と釣り合っていないものね。あれで婚約者を名乗ろうだなんて、よっぽど容姿に優れる人でないと許されるものではないわ」
「大きな声で言ったら、本人に聞こえるかもしれないわよ?」
「あらごめんなさい、悪気はないのだけれど」

誰がどう見たってわざとでしょうに…。

「あれで男爵様の事を誘惑しにかかるだなんて、身の程知らずもいい所よねぇ。一体どんな環境で育ったらあんな自意識過剰な性格が出来上がるのかしら、不思議だわぁ」
「それ、私も全く同じことを思ってたわ。男爵様に付け入ろうだなんて、相当に優れた人間でないとね」

彼女たちは知っているのか、それとも知らないのか。
私と男爵様の関係は男爵様の方から誘われて出来上がったもので、そこに私の意思なんてかけらも存在していないという事に…。

「それで男爵様、これからどうされるのでしょうね?」
「これからって?」
「新しい婚約者候補がもういるって話でしょ?それくらい決めてないとこんな事にはならないわよ♪」
「ええ!?誰誰誰!?」

それもまた私に聞かせたくて仕方がない話題なのか、彼女たちは色めき立ちながらそう言葉を続けていく。
男爵様から切り捨てられた私に対して、男爵様と男爵様に仕える自分たちがこれからどれほど明るい未来に向かって進んでいくのかという事を、見せたくて仕方がないのだろう。

「男爵様、幼馴染のルミナ様と良い雰囲気にあるらしいわ。この間一緒にお食事に言っているところを見た人がいるの」
「ええ、それ本当!?それじゃあ男爵様にしてみれば、エリアス様との関係はただの暇つぶしだったってことになるんじゃない??」
「それどういうこと??」
「だって、最初から本命の人がいたって事じゃない!それなのにエリアス様との時間を作っていたって事は、それはもう最初から婚約破棄すること前提で関係を作ってたってことじゃない??」
「まぁ、エリアス様もかわいそうねぇ。自分は本気で男爵様の事を誘惑できていると思っていたのに、まさか男爵様は幼馴染の方に気が合っただなんて。哀れすぎて目も当てられないわ」

私が知らない前提でその話をしているようだけれど、私はルミナという名前はだいぶ前から知っている。
そして男爵様がルミナに気があるであることも、察しがついていた。
その時からだったのだろう、男爵様が最初に私に言ってくれた言葉が、嘘なんじゃないかと私が疑い始めたのは。

「何も知らないって可哀そうよねぇ。黙っていた男爵様は優しさから言わなかったんでしょうけど、気づけないのって女として失格じゃないかしら?」
「そもそも、そうならないように男爵様の心をつなぎとめておかないといけないものね。それができてない時点で、婚約者としては失格なわけだけれど♪」

彼女たちは一体なにがしたいのだろう?
私に攻撃をしたいのなら直接やればいいだけだし、私を追い出したいのならもう出て行くことは決まっているのだから、こんな面倒な事をする必要もない。
私は彼女たちとはあまり面識もないし、なにか特別な話をしたという仲でもない。
ましてや彼女たちから恨みを買うような事をした覚えもないし、そうなる理由もない。
もっとも、私の事を逆恨みしているというのならその限りではないのだろうけど。

「自業自得って事よね。男爵様の心の中に取り入ろうとしたんですもの。こうなって当然よ」
「これでやっと汚れてた男爵家の空気が浄化されるわね。ここまで我慢してきた思いがやっと報われたわぁ」
「最後くらい、きちんと見届けてあげましょうねぇ。きっと一生忘れられないくらい、気持ちいい思いができるはずよ」

彼女たちはそこまで言葉を発したのち、私の近くから姿を消していった。
結局何を言いたかったのかは最後まで分からなかったけれど、少なくとも私にとって何ら意味のある時間にはならなかったことだけは確かだ。

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